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第57話 思うこと

すいません昨日は投稿出来ませんでした。

最近忙しく、一日一話が難しくなっております……。


今回もよろしくお願いいたします。





皆さんこんにちは。

ご機嫌いかがでしょうか。

初めまして。わたくし、菅野真澄と申します。


今日は貴重な完全オフの日です。

少しでも日々の疲れを癒やそうとこの新しい自宅でまったりする予定でございます。


たまにはのんびりテレビ観賞とかしてみましょうか。


ソファーへ腰掛け、何気なくテレビを点けると、そこには見慣れた顔が。

毎日鏡で対面しています。


あたしですね。


直ぐにチャンネルを変えます。

自分の映っているテレビは基本的に見ない主義です。




……自分の事を少し紹介でもしましょうか。


職業としましては、アイドルで歌手やグラビアなんてものをやらせてもらっています。容姿だって悪くはないと思います。

しかし、誰より可愛いとかは間違っても言えません。

そのくらいは弁えてます。


さっき映ってたように、テレビにもよく出させて貰っていて、それなりに人気あるんですよ。これでも。

天使だとか言って下さるファンの方が居たりしますね。

中々忙しい日々を過ごさせて貰っています。



アイドルになったのは今から3年程前。


ウチの両親は娘のあたしから見ても、それはもう親バカだ。

事の始まりは両親の何気ない会話からだと言う。

「ウチの娘ならアイドルになれるんじゃね?」

「確かに! あんなに可愛いんだもの! 当然よね!」

「お、これ良いんじゃないか?」

「そうね、応募しましょ!」

なんでそんな話になったかはあたしは知らない。

あたしの預かり知らぬ所で話は進んでいたのだ。


「オーディション?」


「そうなのー、ちょっと受けてみない?」


あまり深く考えずに頷いたあたしだったが、この時ほど後先考えない行動を後悔したことはない。

まさに後悔先に立たずである。




「へ? 合格?」


「やったな真澄! 流石俺の娘だ!」


「すごいね真澄ちゃん!」


あたしが受けたオーディションは既に書類審査等を通過した後のものだったのだ。

それも知らずにあたしはオーディションを受けた。

元より歌好きだった事が良い方向に転じたのか、そんなに苦もせずに歌のテストは通過。セリフテストやカメラテストなんかも実際にしてみると思いの外楽しくて、気が付けば通過していた。

トントン拍子でオーディションをクリアしてしまっていたのだ。


それがあたしがアイドルに、旭芸能プロダクションに所属する事になった発端だ。



あたしが所属する旭芸能プロダクションは、規模としてはそれなりに大きい部類と言って間違いない。

当然、あたしの他のアイドル歌手やアイドル女優なども多数所属している。

中には、お茶の間では知らない人が居ない、とまで言える様な人も少なくないのだ。

局との繋がりもあるため、弱小事務所なんかとは雲泥の差と言って問題ないレベルにある。


あたしがアイドルとして颯とデビュー出来たのは、ひとえに運とタイミングと事務所と、色々な要素がうまい具合に噛み合って成り立ったんだと思う。




正直な話をすると、あたし自身には明確な目標も無ければ夢も無いのだ。

仕事に対してそれなりにやりがいは感じているけどね。


そもそもが親の応募で始まった事だ。

そこにはあたしの意思は介入していない。

あ、両親が嫌いって事はないよ?

むしろ大好き。大切にしてもらってるのは分かるし。

ちょっとオーバーな所はあるけど。


仕事をしていて感じるのはネガティブなモノが多い。

あたしは自信家でも無いから何時だってやっていることに不安もあるし、正しいかも分からない。

芸能界って入ってみると分かるけど本当に味方が居ない。周りは敵しかいない、本当にそんな感じ。

同業者の同世代とは友達になんてなれないし、そんな空気はどこにもない。そもそもあたしと妬みこそすれ、仲良くしようなんて人は居ないのだ。なんの苦もなくこの立ち位置に歩を進めたあたしには。

何回辞めようかと思ったか分からない。


でも、その度にあたしを支えてくれたのが、マネージャーの堤さんだ。

あたしを含め、数人のアイドルのマネージャー業務を兼任しているが、一人一人に一生懸命だし親身になって接してくれる。

見た目はパッとしないし何時も草臥れてるけどさ。

恋愛の対象には絶対ならない感じ。

だけど。


真澄ちゃんなら大丈夫だ、真澄ちゃんの可愛さなら通用する、さっきの撮影の○○が良かった、今日の収録は良いコメントが出来ていた……とか。

そんななんて事無い、取り方を変えれば気休めであったり、陳腐に感じてしまう言葉の数々だが、それにあたしは何度も救われているのだ。

彼がいたから辞めずに居られたんだと思う。




「んー、あんまり面白い番組ないなぁ」


テレビを見るのを止めてスマホを取り出し、スケジュールアプリを立ち上げて予定を確認する。

仕事を把握するために見るのだが、殆ど癖の様なものだ。


そこでふと思い出す。


「あ、宗君に明日の予定送らないと」


今度はトークアプリを立ち上げると、沢良木宗の名前をタップして開く。

ここ最近では日課になりつつある行動だ。


予定を打ち込み送信すると、程無くして返信が返ってくる。


――了解――


「相変わらずそっけないね」


分かりきっているので、慣れたものではある。


沢良木宗。


アイドルであるあたしが隣に居ても顔色一つ変えない男の人。

あの素振りから、あたしに対して興味が無いとわかっているから安心出来る部分もあるけども。

しかし、あそこまで無関心を貫かれると女としては自信を無くすよね。あたしは容姿だってそれなりに良いんだけどな。

髪切ったらやたらとカッコいいしやっぱり彼女が居るのだろうか。

……もしくはホモなのか。

どっちにしろ、少しぐらい見返してやりたい気持ちにもなると言うものだ。


でも、凄い気さくで文句を言いつつも何だかんだ言って優しいところもあって、芸能人だからと言って気負いせず接してくれる存在は思いの外有難いものだった。

気が付けば素の自分も彼の前では出てしまうことも度々あった。

最近は宗君のおかげで例の件を頭の隅に追いやる事が出来ていると思う。


だが、つい連想してしまい苦い顔になる。


事の始まりは、1ヵ月と少し前に遡る。

最近では仕事が問題も無くこなせるようになり、仕事の量や種類、後は人気も増えて、アイドルとして軌道に乗れたと思えてきた。

そんな中、事件は起こった。


最初は些細な事だった。

三回程続いた頃だろうか、その異変に気が付いたのは。

郵便受けに入っているハガキや封筒がいやに綺麗に並んでいたのだ。

最初はそんなもの気が付かなかった。

二回目になり、あれ?と違和感を感じ、三回目では明確な不自然さを感じた。

封筒の角が揃っていたり、表裏を綺麗に揃えられ、郵便受けの底に並んだり。

当然、何度が自分で試したりもした。

しかし、何度試しても同じ状況にはなりえなかった。

開けた後で並べて閉めている。

そう決定付けざるをえなかった。


直ぐ様マネージャーの堤さんに報告をして、ダイヤル錠の番号を変更した。

変更後はとりあえず異変は収まった。

だけど、それは始まりに過ぎなかった。



後日、帰り道で後をつけられている事に気付いたのだ。

芸能事務所からの帰り道は基本的には送り迎えをマネージャーの堤さんが行ってくれる。

しかし、その時はあたしの気紛れで徒歩で家まで帰ってしまったのだ。

その時はふと、自分の背後に気配を感じた。

気のせいと言うには、あまりに距離が変わらず、そして道が被りすぎていた。


しばらく歩いた後、あたしは隙を見てカーブミラーでさりげなく後方を確認した。すると、確かに人の姿があった。夜の暗さではっきりとは見えなかったが黒ずくめの男に見えた。

スーツの様にも見えたし、そうでなかったかもしれない。

得体の知れないモノに対する、途方もない恐怖が体を支配していた。

思い出すと今も身震いがしてくる。


あたしはなんとか家にたどり着き家中の戸締まりを確認すると直ぐ様寝室に籠った。

あの時はとにかく家に帰る事だけを考えていたから、家がバレるとかそういったことに一切頭が回らなかった。後からその事に考えが至り更に怖くなった。



その二件が起きた後、続いては盗撮の被害だった。

その被害は明らかに盗撮と思われる写真がポストに投函されると言うものだった。

仕事中やプライベート、撮られているタイミングはバラバラで場所も共通性は無いように思えた。

何時でも見ている。そう言われているようで目の前が真っ暗になった。



事務所や海外にいる親と相談を重ねて、結果的に引っ越す事を決めた。

色々と候補はあったが、都心にも通え両親の故郷だと言う御崎市と言う町に決まった。


名前と新幹線が通っているくらいしか知らない町で、今まで住んでいた都心と比べると凄い田舎だった。

最初はこんな町に住むのか、と少し嫌だったが、ストーカーの件を思えば些細な事だった。



御崎へ来るにあたって両親から紹介された人物がいた。

大友理沙さん。

この御崎で万屋という何でも屋を営んでいる方が居ると教えられた。

両親曰く信頼出来る人物と言うことで、ストーカーの件もこの人に頼んだと言うのだ。

両親が勝手に突っ走る性格なのはアイドルの件で重々承知してはいたが、こんなデリケートな事を自分に相談無しで決めてしまうのはどうなのかとあの時は憤りを感じてしまった。


まあ、実際に会ってみると納得と驚きがあった。

両親の友達だと言うし、その上昔アメリカに居た時期に会っていると言うではないか。


そう言われると不思議と思い出してくるのだ。

子供の時に一時よく面倒を見てもらったお姉ちゃんみたいに感じていた人物を。8年ぐらい前の事だと思うから記憶は朧気だけど理沙ちゃん、とか呼んでいた気もする。今では呼べないけど。


あたしは両親が信頼していたことと、昔の記憶、それから実際に話した理沙さんの人柄に任せてみようと考えた。


それからは、心配性な両親がまた勝手に万屋さんへマンションと駅間の送迎を依頼したりしたけど、仕事も順調だしストーカーの被害も今のところ止んでいる。

とりあえず平穏な日常を過ごす事が出来ているのだ。




あたしは一言しか返信を寄越さないボディーガードに何時ものように嫌味を返す。


「もっと気の効いた返事寄越しなよーっと」


――最近絵文字を覚えたんだぜ : )――


「ぷっ……」


なんで海外仕様なの……。

しかも返事になってないし。


ワケわかんない所とか、ホント宗君って面白いや。

一緒に居ても飽きないね。


「それじゃ海外仕様じゃない」


――バイリンガルなんだ : . ――


それなにっ、なんの表情よ!

え、無表情でいいの?

こんな読む側が試される絵文字は始めてよ。

て言うか、無いからそんなの。


普段の会話でもそうだけど、よくもまあ減らず口がポンポン出るもんだ。

面白いから、あたしは嫌いじゃないけどね。


あ、そういえばまた宗君と買い物行きたいな。

この前は日用品だけだったし、どうせならちゃんとしたショッピングとかしてみたい。

宗君と居ると暇しないし、荷物係にもうってつけだしね。


あたしは如何にして宗君の首を縦に振らせるか、考えを巡らすのだった。


「ふふっ、どうしようかなー」





しかし、あたしはまだ知らない。

この平穏が泡沫のように儚く脆い物だと。

魔の手は既にあたしを絡め取ろうとしていることを。











お読み頂きありがとうございました。

真澄ちゃん回でした。

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