第52話 買い物付き合って
すいません。昨日は投稿ページを開きながら寝ていました。
短いですが本日もよろしくお願いいたします。
菅野真澄の送迎が始まり1週間が経過した。
その間は何も変化がなく護衛を伴う同行に関してだけ言えば良好な状態だろう。
一方、大次郎と杏理ちゃんのバカップルコンビが請け負っていた調査に関してだが、残念ながらこれといった進展はなかった。
証拠の品を調べるも特に怪しい点も無くあまり参考にならなかった。
以前に真澄が住んでいたと言うマンションへ出向き、例のダイヤル錠付きポストも実際に調べて来たと言う。
ポストにも取り立てて変わった所もなくイタズラ出来るような細工も無い、ごく普通のポストであった。
ダイヤル錠は主流の2桁のもの。二つの数字を順番に回して指定するようなタイプだ。2桁と少し心許ない気もするが、番号を暴こうと長時間粘るのも怪しいし、目立つだろう。
盗撮に関しても現地に赴いて確認したようだが、結果は芳しくなかったらしい。
盗撮と言えば俊夫さんの腕が良かったよな、と水族館の一件を思い出す。
こちらに気取られること無くあれだけの写真を撮影したのだ。あの巨体を巧みに隠しターゲットに近づくとか並大抵な事ではないだろう。
今回程度の盗撮なら余裕に違いない。
参考に聞いてみるか?
……なんか殴られそうだな。
そう言えば斉藤さんには許して貰えたのだろうか。
ダークエンジェル斉藤さんの怒り具合を見ると大変そうだったけども。
恐ろしくてその後斉藤さんに聞くことも出来ていない。
俺は今日も変わらず、真澄の送迎を行っていた。
あ、一応これ以外にもいろいろ仕事はしてるんだよ?
送迎しかしてないとか思われたら癪だから明言しておく。
休日に関してだが。
この間の天使との至福の一時は、真澄の予定が上手く合致したお陰で実現したのだ。
あの日は仕事に関係する事があるとかで一日家から出ないという言質が取れたので休みを頂戴した訳だ。
斉藤さんのお誘いタイミングが神がかってるとしか言いようがない。
さすが超絶天使斉藤さんだ。
「宗君おはよ! 今日もよろしくね!」
「おはよう真澄。それじゃ行こうか」
真澄を車に乗せ、いつも通り駅へ向かって走り出した。
「しかし、真澄っていっつも元気な。よくテンション保てるわ」
車を操りながら俺は後部座席に座る真澄に話しかける。
これも最近では見慣れた光景。
最初は真澄から話しかけられる事が多かったが、最近は俺からも話すことも多くなった。
「そっかな? あ、でも、あたしテレビではこんなに喋らないし。テレビのあたし見たことないの?」
「そうなのか? 何回かは見たことある気がするけど、記憶に無いな」
依頼を受けた時に理沙に見ろと言われたから見た事があった。
それ以来注意しては見ていなかったが。
「はぁ……。こうやって毎日のように一緒に居るアイドルが普段どんな番組に出てるかとかどんな仕事ぶりなのかとか興味無いわけ?」
「取り立てては」
別に興味は無い。
逆になんで毎日顔合わせるヤツをテレビでまで見なきゃならんのだ。
「まあ、分かってたけどさぁ。一応清楚系で推してるんだよ、これでも」
「ぶっ……ほうほう、なるほどね」
「おいこら笑ったな!?」
清楚って。
普段の様子から予想も付かなかった答えに思わず吹いてしまった。
全く想像出来ない。
いや、言われてみればウチの事務所へ来たときは、そんな感じだったかもしれないな。
「このぉー!!」
当然、俺のそんな物言いに真澄が突っかかる。
俺の座るファンシーセミバケの背もたれを掴むと前後にグラグラ揺らしてきた。
これでも清楚言うか。
「シート揺らすなっ、事故る! 悪かったから!」
この車潰したら理沙に殺されるから!
「ったく、もう。……まあ、その反動とかあるのかもね。心休まると言うか、さらけ出せる場所がないんだよ」
「ふぅん?」
「ふぅんって……。まあ良いけどさ」
「?」
その言葉を境に暫しの沈黙が降り、シフトノブを動かす音だけが響く。
まもなく駅に着こうかという距離まで来たところで真澄が再び口を開いた。
「あ、そう言えば今日は早くあがるよ。収録が短いみたいだから多分午後にはこっちに着くと思う」
「へぇ、本当に早いな。まあ、具体的に時間が分かれば連絡くれ」
普段で遅い時は新幹線の最終とか、その前だとか。
とりあえず夕方は過ぎてから新幹線で戻って来ることが多いのだが。
「ん、わかった。あ、それと帰って来たら買い物付き合ってよ」
「買い物?」
「うん、買い物。買いたい物あるからモールまで行こうかなって」
「なんで俺が……」
買い物に付き合わせるとか、荷物持ちになれとでも言う気だろうか。
勘弁してほしい。俺はタクシーでも、雑用を押し付ける下男でもない。
俺が胸中で悪態をついていると、真澄が続けた。
「勝手に行っても良いなら行っちゃうけど?」
「ぐ……」
そう言われると二の句を繋げられない。
確かに真澄の言う通り、勝手に出歩かれてはこちらが困ってしまう。
身辺警護と言いながら勝手に出歩くのを放置した挙げ句の果てにストーカーに見つかって被害を受けた、なんて言ったら責任問題甚だしい。
ウチの存在意義が無くなってしまう。
「ほれほれ、どうなのー?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、運転席と助手席の間から顔を覗かせる真澄。
頷くしか無いだろうが。
俺はそうそうに諦めるのだった。
「わかった。連れていくよ」
「ふふっ、よろしくー」
真澄はポンポンとシートを叩いて笑った。
その無邪気な笑みは癇に障ると同時に可愛らしさも感じられるものだった。
さらけ出せる場所ねぇ。
アイドルも大変なのかね。
お読み頂きありがとうございました。




