第51話 送迎の始まり
本日もよろしくお願いいたします。
残念ながら今回から斉藤さんが暫く出ませんので甘口にはなりません。
まとめて読まれるのも良いかもしれません。
「宗君おはよう! 今日からよろしくー」
「……」
ついに来てしまった仕事の時間。
再び馬車馬のように労働力を供給し続ける日々が始まるのだ。
昨日の大変素晴らしい一日を思い出す。
天使と共に過ごした一日は極めて心安らぐ物だった。
天使の笑顔と過ごしたあの時間は俺の糧となる。
日々の活力になるのだ。
しかし、人間とは贅沢なもので自身の元に無ければ求めてしまう。再び、いやいつでもあの笑顔を見たいと望むのだ。
つまり、何が言いたいかというと。
斉藤さんに会いたい。
こんなところである。
「ねぇ、聞いてんのー?」
「はぁ……」
なんだこの女。
なんでこんなに馴れ馴れしいの?
会うのはまだ3回目だぞ。
もっと斉藤さんのような奥ゆかしさを持てばいいのに。煌めく金髪にくりくりとした愛らしい瞳、照れて赤くなったり、花咲く笑顔とかもう最高。
「アイドルを目の前に溜め息つく男とか初めてなんですけど……。あたし結構可愛いと思うんだけど?」
先日と同じ様な変装をした出で立ちで真澄は溜め息をつく。
自分で可愛いとか言うのか。
まあ、アイドルやってるくらいだからそうなんだろうけど。
「あ、おはようございます。今日もとても可愛いですね。それでは行きましょうか」
「なんでそんな棒読みなのっ!? そんな社交辞令いらないんだけど!?」
「ささ、こちらへ」
「ぐぬぬ……。今に見てろよぉ……あたしの魅力を前に膝まづかせてやるんだから。真澄は本当に可愛いなーってつい言っちゃうくらいまで骨抜きにしてやる」
なんかよく分からないことを仰っているが。
俺を靡かせたければ金髪になって出直してこい。
あ、純正でね。
俺は先日追加依頼された、菅野真澄を駅まで送迎すると言う任を果たすために、朝から真澄のマンションへ出向いていた。マンションのロビー前で真澄を迎える。
ここまでは会社の営業車を転がしてここまで迎えに来た次第だ。
会社には荷物が沢山乗るバンタイプと小回り効くように小さい軽の二台を所有している。
今回は軽自動車を運転してきた。
マンションの来客用スペースに駐車しているので、そこまで向かう。
さて、いい加減真面目に仕事しよう。
「改めておはよう真澄。席は後ろで構わないか?」
車に着き、振り返って真澄へ声をかける。
真澄はきょとんとしながら俺に返事をした。
「あ、うん、おはよう。席に関しては大丈夫」
「そっか、それじゃ乗って。狭いのは申し訳ないけど我慢してくれ」
俺はそう言うと後部座席のドアを開け真澄を促した。
後部座席の窓には透過率10%程度のフィルムが貼ってあるので、今回みたく目立ちたくない場合にはうってつけだ。よく見ないと顔とか判別出来ないからな。
このフィルムは俺が理沙に命令されて貼ったものだ。
仕事でも車に限らずフィルム貼りをしているので、腕は大したもんなんだぜ。
サクサクと貼っちゃう。
運転席の水玉模様のファンシーなセミバケットシートに座りイグニッションキーを回す。
セルが回りエンジンに火が入った。
ダッシュボードを上手く加工して取り付けられた追加のタコ、ブースト、油圧メーターのステッピングモーターがオープニングの初動作とメロディを響かせる。
機関良好。
ふへへ、何回見てもいつ見てもテンションあがるね。
男の子ってメーター大好きだよね。
そう言うこと無い?
無い、あ、そうですか。
若者の車離れが深刻だって、じっちゃが言ってた。
「……なんでこんな軽自動車弄ってんの?」
「んー、基本的に社長の、理沙の趣味だな。外観はノーマルで中身は別物みたいなのが良いんだと。巻き込まれて俺も今では好きだけど」
「ふぅん?」
俺はクラッチを切るとギアを入れ発進する。
この社外の強化クラッチが硬いのなんの。
こいつで半クラまじ鬼畜だわ。
だがそれがいい。
「しかし、改造してるか見て分かるの?」
「そりゃわかるでしょ。それにお父さんが車好きだから、小さい時から見慣れてる」
「はー、なるほどね。しかし、真澄のパパさんの車ではすごそうだな。社長は社長でもうちの社長とは別物だろうしな」
外車とか外車とか外車とか。
「そうでもないよ? 旧車が好きとか言って昭和くらいのおんぼろがいっぱいある感じ」
「へえ、もしかしたら理沙とはその方面でも仲良いのかもな」
真澄のマンションがある住宅街から走ること数分。
幹線道路に出ると、駅まではほとんど一本道だ。
「しかし、今さらだけど本当にこんな喋り方で良いのか? 俺は楽で良いけど」
「いいのいいの。なんか宗君に敬語使われるとムズムズして仕方ないの」
「なんだそれ。まあ、皆の前では我慢してくれよ?」
「わかってるよ。あたしだって使い分けるし」
その会話を最後に自然と会話が途切れた。
沈黙が降りた車内には、時折ガコっガコっと俺の操るギアシフトの音だけが響く。
お客様が乗っているので、超安全運転。
ギアチェンのショックも最低限に。
俺の運転は眠るのに最適って社内では評判なんだぜ。
何の自慢にもならんが。
ちなみに車の免許は1、2年前に理沙に取らせられた。
運転出来る人数が増えれば動き易いし役に立つって。
バイトにやらせないで社員を増やせと俺は言いたい。
まあ、結果して今の時代必須の普通自動車免許を手に入れられたのは幸運だった。
30万ぐらいだったと思うがそんな大金、貧乏な俺では出せないもの。
理沙への借金と言うことで毎月給料天引きですけどね。
そうこうしているうちに駅までたどり着き、10分程度の送迎ドライブが終了する。
駅直結のコインパーキングに車を入れるとそこへ駐車した。
「あとは駅のホームまで送るよ」
「別に良いのに、って言っても無駄なんでしょ?」
真澄は車を降りると、溜め息をついてそんなことを言う。
当然依頼に含まれる内容なので遂行させてもらう。
「そうだな」
「ぷぇーい」
なんだその気の抜けた返事は。
あ、でも斉藤さんのならば見てみたい。
絶対可愛いと思うんだ。
ぷぇーい斉藤さん。
グッジョブ。
改札の駅員に見送りだと言って通してもらい、ホームへ出る。
時間を合わせて来たので10分も待つと新幹線がホームへ到着した。
「それじゃ、帰りも同じ様な流れになる。時間が決まり次第俺に連絡をくれればいい」
「りょーかい。……よろしくお願いします」
軽く頭を下げる真澄を新幹線に乗るまで見送ると、俺は駅を後にした。
この日はその後、夜に連絡を受け駅へ迎えに出向き、マンションへと送った。
特に変わった事もなくこの日は終了した。
犯人はまだこの町まで把握してないのだろうか。
お読み頂きありがとうございました。
今後は沢良木君のバックグラウンドも徐々に明かしていきます。
賛否両論あるかと思いますが、温かく見守って頂けると幸いです。
あと、車に興味ない人は申し訳ないです。
軽く流してもらって大丈夫です。
ちなみにアルトやらミラなんかの小さな軽をイメージしております。




