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第46話 イルカショー

本日もよろしくお願いいたします。








今回のデートの山場とも言えるイルカショー。

水族館へ来る前から斉藤さんが楽しみだと俺に語っていた。


隣に座る斉藤さんは期待に胸を膨らませて中央の水槽とステージを見つめている。

その視線はキラキラとしていて、無邪気な感じが非常にキュートでいらっしゃる。


「沢良木君、始まるよ!」


「ああ、楽しみだな」


繋がれていた手は非常に残念ながら、座る際に離させて頂いた。

離す際に一瞬見せた天使の残念そうな表情に心がなんとも言えない痛みに襲われたと共に、なでなでしたい衝動に駆られた。

一度離した手前、再度握るにも気恥ずかしく結局は繋げず仕舞いだ。


「あ、見て! イルカさん来たよ!」


「おお、早い!」


ショーの進行をしている飼育員が合図をすると、5匹のイルカが何処からともなく現れた。

1匹につき、一人が指示に当たるようだ。


小手調べとでも言うようにイルカが大きくジャンプした。

5匹のイルカが順番に飛んでいく。


「わあっ!! すごい!!」


お隣の天使は間近でみる大好きなイルカに大いにはしゃいでいる。

かくいう俺もその迫力に圧倒されていたりする。


い、イルカって案外でけぇのな……。


天使さんはそんなこと気にした様子もなく喜んでいる。


軽いウォーミングアップ的に飛び終えると5匹のイルカの自己紹介タイムに突入した。

一匹一匹がひとつ芸をして、担当の飼育員が名前を呼ぶ。

宙返りをするイルカもいれば、尾だけを水面に付け立ち上がるように泳ぐイルカもいる。


――この子はシュウタ君でーす!とっても優しい男の子でーす!――


そんな紹介と共に俺達の間近まで来たイルカは、派手さは皆無だったものの、岸に体を打ち上げヒレを上手に動かして挨拶しているようだった。

鳴き声を上げる姿も挨拶しているように見えた。


「凄く近いよ!! か、カワイイよー!!」


今にも飛び出しそうな勢いで前のめりになる斉藤さん。今まで聞いた中では間違いなく一番大きい声だ。


水族館に到着した際のテンションは軽く越えていらっしゃるハイテンションぶり。

俺の二の腕の辺りを掴まれ揺すられる。

天使のボディタッチ地味に嬉しい。


「シュウタ君だって! カワイイね!」


おおう。

地味に名前が被っているあたりがモヤっとするぜ。

お、俺だってカワイイって言われたんだからなっ。

調子乗るんじゃねぇぞっ。


きゅー、と鳴き声をひとつ上げると水中へとシュウタの野郎は帰っていった。

帰る際、自意識過剰にも俺に対して鳴いた気がして少しイラっとしてしまった。


「あーあ、行っちゃったシュウタ君……カワイイなぁ」


ぐぬぬ。

シュウタの野郎め。

く、悔しくなんてないんだからねっ。



そこから本格的にイルカショーが始まった。

先程も見たが定番のジャンプ類。

さっきまでとは違い高さが倍近くまで上がっていた。

想像以上に高く飛ぶので普通にビックリした。

イルカおっかねぇ。

上部からワイヤーで吊るされたフープをくぐるシュウタ含め5匹のイルカ。

リズミカルにフープをくぐる姿にお隣の天使は元より俺も思わず見いってしまう。

ワイヤーで吊るされているのはフープだけじゃなく、ボールなんかも吊るされていた。

水面を飛びだし、宙返りの要領で回転すると、尾でボールを叩く。

これも中々迫力のある光景だった。


続いての芸は人との共同技のようだ。

指示を出す飼育員が順番に水中へ飛び込んでいく。

一人目は泳いでくるイルカの背ヒレに掴まるとそのまま背に跨がった。そして観客に手を振る。

まるで物語の描写にあるような姿だ。

当然。


「良いなぁ! わたしもやってみたいよー!」


天使は羨ましそうな声をあげていた。

良いな、良いな、と絶えず呟きながらその姿を追っている。

5匹と五人は見事なフォーメーションで自在に泳ぎ回る。観客席からは歓声が飛び交っていた。


泳ぎ終わると次の共同技だ。

次の芸は何かと水槽を泳ぐ一人の飼育員を見ていると突然その人が水面に飛び出した。

そしてそのまま水面を歩くように進んでいく。


「わ! イルカさんが下で押してるよー! 水の上歩ってるみたい!」


すいすいと器用にイルカに押され水面を進む。

水面を進む飼育員はにこやかに観客へと手を振っていた。


「人の方も難しそうだなー」


バランスとか特に。


「そうだねー。でもやってみたいなぁ。イルカさんと泳ぎたい」


斉藤さんどんだけ好きなんだよイルカ。


3周ほど水槽を回ると水面歩行が終了した。

引き続き次の芸に入る。


人との芸だとやっぱり派手さに欠けるな。

人が加わる都合上派手にと言っても限度があるだろうし。


斉藤さんは羨んでいたが、俺はそんな風に一人ごちていた。

だが、そんな見くびっていた事が裏切られることになる。


先程同様に飼育員が水槽に飛び込む。

今度は一人ではなく、再び5匹と五人がまとめてだった。

五人は水槽中央まで泳ぐと横に一列に並んだ。

何が始まるのかと見ていると、突然その体が水面から飛び出した。

先程のような水面で止まるものではなく、文字通り飛び出したのだ。


周囲では悲鳴に似た歓声が上がった。

お隣の天使も今度ばかりは声を失っているようだ。


人があんなに飛んだら驚くわ。

でも驚いた顔も実にぷりちーであります。

驚く傍ら俺はニヤリ。

最近自分がキモい。


五人は同時に水面を割ると、イルカに押されそのまま宙へ踊った。

高さで言えば5メーター近くなっていた。

五人は落下すると飛び込み選手の様に水飛沫を出さない入水を決めていた。


その姿を見て俺はあるバイトでの出来事を思い出していた。

なんやかんやあって4メーター程から飛び降りる事があり、あのときは凄まじいチン寒を味わった。

もうやりたくない。

今のショーの様子を見ているとその時の感覚が思い出され、落ち着く事が出来なかった。

やったことある人しか分からないだろうなぁ。



結果から言えばこんなものは序の口であった。

続いては宙返り。

飼育員が。

またもや三人揃っての飛び技。

宙へ同時に飛び出すと、一回転しながら丸まった状態から体を一気に伸ばす。

タイミングなんかも見事にシンクロしていてとても美しかった。


次のジャンプは更にスゴい。

二回転もする宙返りだった。

あんたらトランポリン選手か。

見た目冴えない中年のおっさんとか女性なんだけど。


クルクルと宙へ舞う飼育員。

二回転の後は綺麗な体の開き。

一糸乱れぬ技は素晴らしいの一言だった。

技を決めた瞬間には観客席では拍手喝采ですよ当然。

スタンディングオベーション。

マジすげえ飼育員。



……飼育員ってなんだっけ。


「あれもやりたいの?」


「あ、あれは、いいかなぁ……あ、あはは」


さすがの天使も苦笑いだった。

なんだかイルカでなく、飼育員のショーだったな。



飼育員ショーが終わると、通常のイルカショーの戻った。

一安心。


次の催しは大きなビーチボールを使った物だった。

斉藤さんがすっぽり入るサイズのビーチボール3つをイルカが観客席へ打ち出してくれる。

観客はそれを観客同士でパスしたりイルカに返したりする、観客参加型の催しだった。

前に詰める俺達にも当然ボールがやって来た。

今は後ろから中央へ向かうボールだ。


「斉藤さん来たぞ! 頑張って!」


「う、うんっ。……それっ!」


斉藤さんがトスしたボールは無事にイルカの元へ届けられた。

一匹のイルカが頭で受けると、再び打ち上げた。


「あっ、やった! シュウタ君に行ったよ!」


やった!とはしゃぐ天使めっちゃカワイイ。

しかし、斉藤さんの目には違いが分かるのか。

俺には全然わからん。

そしてシュウタ、またキサマか。




――今回のイルカショーのプログラムは以上になります――


ビーチボールのイベントが一通りの観客席に行き渡り、斉藤さんも二回ほど触る事が出来た。

ビーチボールが中央に集まり回収されると、終了のアナウンスが俺達の耳に届いた。


「え! もうおしまい!?」


斉藤さんは大層残念そうな声を上げていた。

天使基準では少し足りなかったご様子だ。


なんだかんだで30分はあったし、俺的には結構ボリュームあったと思うんだけどな……。


「でも面白かったね」


「うんっ、凄い楽しかったよ!」


残念そうな表情から打って変わって笑顔がはじける。

凄い良い子だし最高に天使だ。

俺的にはこちらのエンジェルスマイルの方が最高に見ごたえがあるであります。

へらへらしてしまうであります。

でへへ。


「なら良かった」



――さて、観客の皆様! 最後にイルカの皆が見てくれたお礼をしたいそうです! 前の席の皆ー! 気を付けてねー!!――


「え!? まだ何かあるのかな!」


聞こえて来たアナウンスに再び会場が沸き立つ。

斉藤さんもワクワクだ。


終わったって言っていたがまだ何かあんのか?

それに気付けてってどういう……。



俺達が見つめる先でイルカ達が一斉に飛んだ。

観客席の際辺りで。


うわぁ、気付けろってそう言う……。


俺には目の前に落ちるイルカがスローモーションに見えた。

多分こいつシュウタの野郎だ。

こんちくしょう。


――ざっぱあぁぁぁぁあんっ――


「きゃぁーーー!!!」


「ぶはっ!」



俺達は揃って盛大にずぶ濡れになったのだった。


お礼じゃねえよ、これ。












お読み頂きありがとうございました。

ベタですけどね。

定番アクシデント。

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