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第42話 声にならないと言う現象が存在することを、俺は今日初めて理解した。(挿絵)

本日もよろしくお願いいたします。

※この話には挿絵が挿入されておりますのでご注意ください。見たくない方がいらっしゃいましたら非表示にてご覧ください。






斉藤さんが指定したであろう、バスロータリーに到着した。


時間は8時30分。

少し早いが、楽しみでつい足が早く向いてしまった。


だって、久しぶりの斉藤さんだもの。

久しぶりの天使だもの。

そりゃ、期待も高まるってもんですよ。


しかも今日は恐らくデート。

斉藤さんもお洒落して来てくれるのではなかろうか。

普段の制服の天使だって十分過ぎる程可愛い。

しかし、普段着でお洒落をした天使がいかほどの物なのか。

想像するだけで胸が高鳴る。

モールの時だって私服だった?

バカ言っちゃいけないよ。

今回はデート(恐らく)ですよ?

と言うことは、だ。今回のお洒落ってのはデートの相手、つまり俺だが、その相手のためにするものってことだろ?

天使が俺のためにしてくれたお洒落。

これ程嬉しい物は無いでしょうっ!!

違いますか!?


これから俺には至福の一時が待っている訳だ!


「さーて、斉藤さんはどこかなー、……ん?」


ラブリーエンジェルを探して視線を巡らせていると、ちょっとした人の集まりを発見。


三人ではあるが、誰かを囲んでいるように見える。


「うん、なんか嫌な予感がひしひしと……」


見つめる先、三人の男の間から、探し求めていた金色の煌めきが。


次の瞬間には走り出す。


「……あの子、絡まれる体質なんだろうか」


斉藤さんの元へ俺は駆け抜けた。






「ほら、このままキャンセルの連絡入れちまおうぜ?」


近くまで行くと、そんな下衆男の声が聞こえてきた。


「や、やめっ……!!」


斉藤さんの悲痛な声も耳に入ってくる。


この野郎、俺が昨日デートのお誘いを受けて、どれだけ楽しみにしてたと思っている。

今朝なんて4時起きだぞ?

シャワー浴びて、服の選び方から、髪の毛のセット!

上手く斉藤さんをエスコート出来るように、脳内シミュレーションすること20回!

それをキャンセルだ?

マジ切れしちゃうぞこら!?


ふつふつと湧き上がる怒りを抑え、下衆男の持つ斉藤さんのスマホを取り上げる。

天使のスマホを汚い手で触らないで欲しい。


「そのキャンセルは必要ない」


俺は男達を押し退け、固まる斉藤さんの横に立ち、おもむろに肩を抱く。

一瞬ピクリと肩を震わせたが、それ以上の動きは無かった。

これくらいご褒美として、許して欲しい。


「待ち人の到着だ」


怒りをそのまま視線に乗せ、それはもう殺す勢いで睨んでやった。

多分、人生で一二を争う睨みっぷり。


斉藤さんとのデートに水を差した恨みはデカイよ?


「なんだてめぇ……っ!?」


「っ!?」


「お、おぃ……」


そして、俺の視線とぶつかった下衆男どもは、ビクリと震えると息を飲んだ。


早くどっか行きやがれ。


「い、いくぞっ!」


リーダー格っぽい一人が声をかけると、残りの二人もリーダー格に着いていくように逃げていった。

しかし、こんな朝っぱらから暇な奴等だな。


名残惜しいが抱いていた肩を離す。


斉藤さんの肩、凄いすべすべだった。

思わずドキドキしてしまう。

童貞か。


俺が肩を離すと斉藤さんも顔を上げた。

そして、目が合う。


「斉藤さん、待たせてごめんね」


俺を見る斉藤さんは、きょとんとしていた。


……あ、そうだ。

一つ問題があったんだ。

髪切って素顔を見せるのはこれが初めて。

夏休み前とは大分印象が変わってしまっている。

斉藤さんは俺だと分かってくれるのか。


今日はメガネもしていない。

少しでもヒントになるアイテムが有ればとも思ったが、無くても斉藤さんなら気付いてくれると、いや、気付いて欲しかった。

素顔でも沢良木宗だと、認めて欲しかったんだ。



斉藤さん! 気付いてくださいっ!!








「……さ、沢良木、君?」



よっしゃあぁぁぁっ!!!

気付いてくれた!

凄く嬉しい!

心の中でガッツポーズ。


「ああ、お待たせ」


もう、頬が緩むのを我慢するつもりも無かった。

実にだらしない笑顔を、斉藤さんには見せてしまったと思う。






「……あ、う、ううん! わたしが早く来すぎちゃったのっ! ま、まだ8時半だもん!」


5秒程固まっていた斉藤さんが再起動した。

何故かその顔は真っ赤だ。


「そ、それよりありがとう! また沢良木君には助けられちゃった」


ありがとう、と恥ずかしそうに笑う斉藤さん。

そこで、俺は初めて斉藤さんの服装に目をやった。







「……っ!?」


声にならないと言う現象が存在することを、俺は今日初めて理解した。




そこには、紛れもない、正真正銘の天使が存在したのだ。


白を基調としたワンピースは青のアクセントが入っていてとても可愛い。

それに合わせられるのは麦わら帽子。

天辺が平らでつばと平行になっているタイプの麦わら帽子だ。


その一つ一つのアイテムはそれ単体でも確かに可愛いだろう。


しかし、だ。

それを身につけるのが天使であったらどうだ?


それは既に言葉で顕せる域を通り越していると言っても過言ではないのだ。


最早言語と言う概念を超越した領域。

この目の前にいる天使はそう言う存在なのだ。



俺は膝を着くのを必死に堪えていた。

この愛らしさの前に崩れ落ちてしまいそうだった。

俺にはその背に天使の羽が見えるっ!

地上に天使が舞い降りたっ!


「ん?」


何も言葉を発っさない俺に、小首を傾げる天使。


もうやめてっ!!

俺の耐力値はもう限界なの!!


目を合わせられず、右手で顔覆う。


「……可愛い」


俺の口は勝手にそんなことを口走っていた。

なんだかんだ、心中で理屈を捏ねて斉藤さんを是認しようとも、つまりそう言うことなのである。


つまり可愛い。

結局可愛い。


言葉に出来るじゃん。




「えっ!?」


次に言葉に詰まったのは斉藤さんだった。

一瞬で顔は沸騰。

真っ赤っか。

わたわたと手を振ると、頬を両手で押さえた。


上目遣いでこちらにチラリチラリと視線を寄越す。


これがまた可愛いのなんの。


「……ありがとぅ」


上目遣いのままそんな言葉を吐く。


「ぃ、いや……」


上手く言葉が返せず、どもってしまう。

俺がキモい。

恥ずかしさに思わず頭を掻いた。


斉藤さんは頬を押さえていた手を離すと、後ろに組んだ。


「沢良木君、凄くカッコいいよ……」


眩しい笑顔ではにかんだ。




挿絵(By みてみん)




……ごめん、もう限界。


俺はくるりと斉藤さんに背を向けた。


「……ありがとう」


もう斉藤さんの顔見れないっ!!

可愛いっ!!

恥ずかしいっ!!

マジ天使!!


「えっ、え? なんで後ろ向いちゃうの?」


「あ、いや、これは、その」


俺の正面に回り込もうと、斉藤さんがパタパタと歩み寄る。

しかし俺は斉藤さんから逃げる様に合わせて回る。


くるくると回る不思議な二人組の完成だ。


2、3周した辺りで俺がくるくるダンスに終止符を打つ。


「あー、今日お誘い頂き、大変嬉しく思っております……」


「ほぇ?」


突然止まり、姿勢を正し斉藤さんへお礼を言った。

そんな俺の様子に斉藤さんは一瞬呆気にとられる。


「いや、……誘ってくれてありがとう」


「ぁ……うん! こちらこそ来てくれてありがとう!」


お互いに頭を下げ合う。

俺らはいったい何をしているのだろうか。

何だか可笑しくなる。


「ふっ、ははは……」


「ぷっ、あはは……何してるんだろ、ふふふ」


斉藤さんも俺に釣られてか笑いだした。


うん……笑った姿も最高に天使だ。





ひとしきり笑い合うと、返しそびれていたスマホをハンカチで拭うと斉藤さんへ返した。

下衆男が触った物を斉藤さんへそのまま返す訳にはいかない。


ありがとう、と笑顔でスマホを受けとると斉藤さんは時間を確認した。


「9時10分にシャトルバスが来るんだよー。もう少し時間があるね」


なるほど、やはりバスで水族館へ向かうようだ。

時間はまだ8時40分程。


「ロータリーの何番に来るか分かる?」


「うん! 4番だよ! ちゃんと調べたんだ!」


えっへんとでも言うように誇らしげに胸を張る。


おおう。

なんて可愛いんだ。

しかも、俺とのデートの為に調べてくれたって所が殊更嬉しい。


「ありがとう。早いけど、乗り場で待っていようか?」


「うん、そうだね」


俺たちは並んで4番乗り場へ向かった。


乗り場へ向かう俺と斉藤さんは、あの通学路の様に寄り添っていた。










お読みいただきありがとうございました。

沢良木君でれでれです。

あ、いつもでしたね。

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