第40話 デートのお誘い
遅くなり大変申し訳ありません。
場面が度々飛ぶため、読みづらいかもしれません。
本日もよろしくお願いいたします。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまいました。
わたしは今、昼下がりの部屋でゴロゴロと夏休みを満喫中です。
夏休みに入り1週間程経ちました。
宿題も毎日ちゃんとやっています。
家の手伝いもしています。
することが無くなって部屋でゴロゴロタイムです。
実に夏休み満喫中です。
満喫中、なのですが……。
「……はぁ」
夏休みに入って気が付きました。
大変な事実です。
……宗君に会えません。
この事実に思い当たり初めて学校の大切さに気付かされました。
学校に行けば宗君の会えるんだもの。
凄く会いたいです。
宗君が足りません。
けれど遊びに誘う勇気なんてあるはずもなく。
RINEを立ち上げては閉じる。なんて、よく分からない行動をしばし継続中です。
「うー。こんなに楽しくない夏休みなんて初めてだよ」
こんなとき都合よく宗君から連絡来ないかな、なんて。
RINEの画面とにらめっこをしばらく続けます。
「……」
来ませんね。
……それはそうでしょう。
確かバイトの時間だったはずです。
昨日の夜にRINEしたので、知っています。
夜にしたのにまた連絡とりたいのかって?
それはとりたいです。
大好きな人とはいつでも繋がっていたいです。
しかし、あまり連絡をし過ぎてしつこい女とか思われたら生きていけません。
なので、夜とか宗君が空いてる時に少しだけ時間を貰うんです。自分の課したルールなのです。
適度な距離感。それが大人の対応です。
……大人ってツラいですね。
……そもそも、コレ合ってるんですかね?
こんな具合に頭の中は宗君でいっぱいな上とりとめの無い事ばかり考えて過ごしているわけです。
夏休みの無駄遣いです。
「宗君とお出かけとか、憧れるなぁ……」
わたしだって女子高生です。好きな人とお出かけなんて憧れです、夢なんです。
でも、現実味が無いので今は妄想で我慢しましょう。
夜にはライン出来ますし。
今日は思いきって通話とかしてみましょう!
愛奈、頑張ります!
「愛奈ちゃんー? ちょっと良いかしらー?」
悶々としていると、耳に届いたのはママの声。
その声はなんだか少し弾んでいるような。
「はーい、今行くー!」
とにかく行ってみましょう。
「え、え? えっ、ええっ!? い、良い、の貰って?」
「ええ、勿論。頑張ってね愛奈ちゃん!」
パチリと可愛くウインクをするママ。
わたしの目線はそんなママと自分の手元を行ったり来たり。
「……うん」
わたしはママに頷きます。
「うん! 頑張るっ!! わたし頑張って宗君誘うよ!」
ママはわたしの返事を聞くと、優しく微笑んでくれます。
いつもわたしを応援してくれるのでとても心強くて、とても嬉しいのです。
これはママがくれた大切なチャンスです。
何がなんでも行きたいです。
夢にまで見た……。
……宗君との、初デートっ!!!
まだ見ぬ素敵な未来を思い浮かべ、わたしは強く拳を握りました。
「水族館……かぁ」
ベッドにそれを並べ、その隣にはスマホ。
真正面にそれらを見つめるわたしはベッドに正座です。
夕飯を食べ、お風呂も入りました。
準備万端です。
昼間ママから貰ったもの、それは。
水族館のチケットだったのです。
この水族館は今年オープンしたての御崎市の目玉テーマパークです。海が隣接している訳ではない御崎ではありますが、ついに水族館がオープンしたのです。
テレビでも取り上げられたり、CMなんかもよく見ます。それなりに人気があるみたい。
御崎モールが隣接する駅から定期シャトルバスが出ており、20分程の距離にあるということです。
……水族館とかデートの超定番じゃないですか?
もう、想像するだけでドキドキしてきました。
水族館を並んで歩く、宗君とわたし。
宗君がわたしに笑いかけてくれて。
わたしも笑い返して。
それで手なんか握っちゃって……。
「~っ!!!」
自分の妄想でお腹一杯です……。
恥ずかしさに堪えられず、ベッドに倒れ込み顔を布団に埋めました。
じたばたと悶えます。
「…ふぅ」
落ち着きました。
今、わたしが何をしているかと言うと、決して妄想に悶えたい訳ではないのです。
一番最初の難関。
つまり、お誘いするってこと。
RINEを送る事もできず、この体勢で小一時間おります。
初めてのデートのお誘いです。
せっかくだから、電話が良いなって思ったりするけど、RINEの文章以上に難易度が高い。
結局どちらもままならないまま時間だけが過ぎて行きます。
「どうしよう……」
ふと、時計を見るとその針は10時を指していました。
じ、10時!? うわっ、もうこんな時間!!
宗君が寝ちゃう!!
もうここは腹をくくるしかありません。
大きく一度深呼吸です。
「すぅー、はぁー……よしっ!!」
宗君がオッケーしてくれますように!!
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「お?」
なぜだか、通話が繋がらない。
コール音が鳴らず、そのまま終了してしまう。
一回目は間違いかと思い、もう一回かけてみたところだ。
斉藤さんの声が聞きたくて、思い切って電話をかけてみたんだが。
夏休みに入ってからは一度もそのエンジェルフェイスを拝見していないし、電話もしていない。
RINEでトークはしているが、それも毎日ではない。
今日菅野さ……真澄の家に行ったり、駅へ送ったりしている間もつい斉藤さんの事に頭が行ってしまい、集中出来なかった。
今夜は電話をかけてみよう、そう昼間に思いつき、ようやく実施といったところなのだが。
「……もう一度かけてみるか」
RINEの通話ボタンを押す……が、やはり直ぐに終了してしまった。
「?」
も、もしや、これは噂に聞く、着信拒否と言う物なのではなかろうか?
実際どのような物なのか名前から推察するしかないが、この繋がらない状況、そう判断しても……いや、それは早計と言うものだ。
早まるな俺。
もう一度、もう一度だ。
今一度かけてみようじゃないか。
「……いざ」
通話終了、だと……。
なんと言う事だ。
これは、そう言う事なのか……。
俺は唯一無二の友人を無くしてしまったというのだろうか。
これからは何を糧に生きていけば良いのか……。
俺はその現実に類を見ない絶望を味わっていた。
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ここにもう一人絶望を味わっている者がひとり。
「……え、なんで?」
既に数回のコールをした。
しかし、この度に通話が終了する。
デートのお誘いをしたくて電話をかけているのだが、4度この状況になっている。
も、もしかしたら、わたし、宗君に着信拒否されてるの……?
どうしよう。
宗君に嫌われたら生きていけない!
「な、なんで? どうして?」
理由が全く分からない。
だからこそ、余計に混乱する。
なにか、宗君の怒るような事をしてしまったのだろうか。
なにか、変な事をしてしまったのだろうか。
なにか。
なにか。
「ぅ、ふぇぇ……」
堪えきれず、嗚咽が声に混ざってしまう。
混乱するわたしは冷静に考える事が出来なくなっていた。
二人は気が付かなかった。
未だ慣れないスマホと、友達の少なさから来るアプリの使用経験の少なさ故に。
お互いに同時に電話をかけた際に生じるエラーを。
その通信環境が磐石ではなく、ある一定のタイムラグを抱えていることを。
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「……ん?」
絶望にうちひしがれる俺の目が見慣れないアイコンを捉えた。
さっきまでは何も無かったが……。
……不在着信?
「は?」
いやいやいや。
一回も携帯鳴って無いじゃないか!
って、おおっ!?
「不在着信4件っ!?」
いったいどういうことだっ!?
何故増えたしっ!?
「……」
仮定なんだが。
……もしかしたら斉藤さんからの連絡は来ていたのだろうか?
それがタイミング悪く俺の通話と被ったとしたら。
着信数から見ても辻褄が合う。
こう言う事も、あり得るのか?
くそっ!確証が持てない!
この方面に知識を伸ばさなかった事が悔やまれる。
もし。
この仮定が正しかった場合、斉藤さんには大変不快な思いをさせてしまっていることになる。
急がねばっ!!
急ぎ俺は通話ボタンを押した。
「もう、被るなよっ!!」
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ーープルル、プルルーー
「……ふぇ?」
絶望にうちひしがれ泣くわたしの耳に携帯が発する音が届いた。
誰だろう。
わたしは涙で霞む目を擦り、名前を確認しないままボタンを押すと耳に当てた。
『斉藤さんっ、ごめん!』
「……宗君?」
『っ!? あ、ああ。そうだよ、宗だ。何回も電話貰ってたみたいでごめん! 俺もちょうどかけていて、タイミング悪く電話が被ったみたいなんだ。それで繋がらなかったみたい』
「え?」
宗君もかけてくれていた?
電話が、被った?
それで繋がらなかった?
宗からもたらされた情報が徐々に理解されていく。
『本当にごめんね。俺も斉藤さんと話したくてさ……』
連絡をくれていた嬉しさと偶然を恨む気持ちと、宗君の声を聞いた安心感と。
宗君の最後の言葉が引き金となった。
「ぅう、うぁぁぁあんっ、よかっ、た、よかった、よぅ……っ」
『ぅええっ!? さ、斉藤さんっ!? な、なななんで泣いてるの!?』
「な、なんでも、……っく、ないのっ、ごめ、ごべんなさぃ、泣き虫でぇ……ふぇぇっ、きらわないでぇっ」
『な、泣かないで、ね? 大丈夫だから! そんなことで嫌いになんてなれないから!!』
「あ、ありがどぅ……ぅえぇぇんっ」
『な、なんでっ!? 泣かないでくれ!!』
死ぬほど恥ずかしかったので、絶対に思い出さないで欲しいです。
この時ほど泣き虫な自分が嫌だと感じた事は無かったですね。
だけど。
よくよく考えてみると、宗君の言葉には何か重要な言葉が含まれていた気がするのです。
いまいち思い出せないのですけどね。
泣いてわたし自身めちゃくちゃ言ってましたので。
「ううう……。ごめんなさい」
電話越しにわたしは宗君に頭を下げた。
『ふふ、もう大丈夫? 落ち着いた?』
笑われてしまった事がとんでもなく恥ずかしく、顔が熱くなる。
「は、はぃぃ……」
『……しかし、こんなことあるんだね。初めてだよ』
「そうだね」
わたしだって初めてだ。
そもそもRINEをする友達も居なかったので、そんな状況に陥る訳もない。
そもそも相手が宗君で無ければ、なんか調子わるいのかな?くらいで普通に流していたと思う。宗君だからこそあんな早とちりとしてしまい、パニックになってしまった。
そう考えると自分がどれだけ宗君の事が好きなのかと呆れ半分、恥ずかしさ半分で笑いが込み上げてきた。
『俺、斉藤さんに着信拒否されたのかと、凄い焦ってさ』
宗君の言葉に驚いた。
え?
宗君も?
「わ、わたしも! 沢良木君に拒否されたと思って慌てちゃって」
『ふふ、俺たち似てるね』
「えへへ、そうだね……」
なんてことでしょう。
宗君と同じことを考えていたと思うとそれだけで胸が温かく締め付けられます。
それに先程取り乱したわたしを咎める訳でもなく、慰めてくれましたし。
好きな気持ちが更に増えました。
しばらくとりとめの無い話をしていました。
なんて事ないわたしの1日の話だとかですが、宗君は優しく笑いながら聞いてくれます。宗君ってとても聞き上手だと思います。
気が付けば時計は11時を指していました。
「あ、もう11時だ。……そろそろ沢良木君寝るよね?」
『ん、あぁ、もうそんな時間か』
「も、もう、おしまい、かな?」
まだ電話を終えたくない、そんな見苦しい思いでちょっと卑怯な聞き方になってしまいました。
宗君がNOと言いづらいような言い方です。
少し自己嫌悪です……。
『んー、明日はバイトも無くてさ、早く寝る必要も無いんだよね。……斉藤さんさえ良ければもう少し話せるかな?』
こんな風に頷いてくれるのです。
わたしが言わせたと分かっていても、宗君の優しさに頬が緩んでしまうのです。
「本当っ? やったぁ!」
『はは、そんなに嬉しいの?』
「うん!……っ!?」
な、何をわたしはっ!?
コレじゃ遠回しに好きと言ってるような物ではないか。
自分の失言に顔が熱くなる。
頭の中が沸騰するような錯覚に陥ってしまう。
混乱から言い訳しようにも、口が開くも二の句を繋げない。
『そっか、それじゃ斉藤さんを退屈させないようにしないとね』
そう宗君は何気無く笑います。
「ぅぅ……」
……やっぱり、わたしって何も意識されて無いのかなぁ。
前もそうだったけど。
ちょっとへこむなぁ。
もっと宗君と一緒に居られれば、意識してくれるのかな……。
あれ?
何か忘れて……。
「あぁっ!?」
『うぉっ!? ど、どうかした?』
「ご、ごめんっ! なんでもないの!」
忘れていました……。
わたし、デートに誘いたくて電話したんですよ……。
しかし、どう切り出しましょうか。
電話をかける前に何やかんや考えてはいたのですが、もはや記憶から飛んでおります。
どうしましょうっ!?
段々と焦ってきました。
『斉藤さん、どうかした?』
中々喋らないわたしに宗君が気にかけてくれます。
よ、よよ、よしっ!!
最早、勢いに任せて聞きます!
頑張れ、愛奈っ!!
「さ、さ、さ沢良木君っ!? あのっ! あ、明日って空いてますか!?」
『お、おう? あー、うん。休みだから大丈夫だけど?』
さあ、一世一代の勝負です!
「す、水族館行きませんか!!」
つ、遂に言ってしまいましたぁ!!
もう、後戻りは出来ません。
宗君は頷いてくれるでしょうか……。
『……うん、いいよ?』
「ほんとっ!? ありがとう!!!」
やりました!
斉藤愛奈、過去最大のハードルを乗り越えました!
『い、いやお礼言われるような事じゃないけど。……確か御崎に新しく出来たんだよね』
「うん、そうなの! ママからチケット貰ってね! 沢良木君と行きたくて!」
もう、天にも昇るような気分です!
『お、お、おう、そうか』
「うん! それじゃ、明日の9時に御崎の駅で待ち合わせとかどうかな!?」
『あ、ああ、分かった』
「それじゃ、また明日ねっ!!」
『う、うん。また明日』
宗君の返事を聞き、終話ボタンを押しました。
「~っ!!!」
やりました!
デートのお誘い出来ました!!
宗君との初デートです!
嬉し過ぎます!
どうしましょうっ!?
幸せでも頭の中がごちゃごちゃなっちゃうんですね!
何を考えないといけないのかもう分かりませんっ!
「えへへへ……」
わたしはおもむろに寝せていた体を起こします。
「何着ていこう?」
初めてのデートです。
気合いが入ると言うものです。
宗君に可愛いって思ってもらえるように頑張ります!!
斉藤さんって沢良木君と似てますよね。
今回はプライベートが多忙で投稿出来ませんでした。頑張って書いていきたいと思います。




