第4話 好感度
「え、沢良木が自分から喋ったぞ……?」
クラスの数人がそんな言葉を呟いた。
ざわめき出すクラス。隣の少女も驚いた様子でこちらを見ている。
俺だって人間だ。普通に喋るわ。学校で喋ったことほとんど無いけど。
「沢良木君? 質問って?」
女性教師が少しそわそわした様子で俺に問いかけた。
そんなに俺が質問することが珍しいかね。
「先程、不正解と仰った最後の問題です」
「んー、斉藤さんが回答した問題かな?」
「ええ。どこが間違いなのか教えて頂きたく思いまして」
「あー、それね! んーと、ね」
そう言いながら金髪少女の回答の横に先生の回答を書いていく。書き進める先生を見ながらタイミングを図る。
「……そこです」
「え?」
「この問題なのですが、次章の解き方が組み込まれている応用問題のようです。なので、普通に解こうとしても恐らく間違うような、引っかけ問題なのでは無いでしょうか?」
俺の話を黙って聞いていた先生は黒板に向き直り、じっと問題を見つめた。
少しすると、はっとした表情で振り返った。
「あっ、ほんとだ! 沢良木君の言う通りだよ!」
ぱっと顔を輝かせると、次の瞬間には申し訳なさそうな表情になった。
「斉藤さんごめんなさい、彼の言う通りわたしの回答が間違っていたわ。正解だよ!」
「い、いえ、大丈夫です」
「沢良木君も指摘してくれてありがとうね」
「いえ」
そう言うと俺は席に着いた。
引っかけ問題に躓くなんて教師失格だね、と先生は苦笑いした。
そんな教師の様子に、男子生徒が。
やっぱり桜子ちゃん可愛いなー。
普通にお付き合いしたいわー。
お前じゃ無理だろ。
そんなんチャレンジしないとわかんねぇだろ!
etc.
などと関係無い事で、半数近い男子が騒ぎ立てた。それを冷めた表情で女子生徒が見ている。
「あ、ぁはは…」
担任教師もとい桜子ちゃんが乾いた笑いを浮かべていると。
――キーンコーンカーンコーン――
授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「それじゃ、授業はここまで! 今日沢良木君が指摘してくれた所ちゃんと復習予習しておいてね!」
そう言うと荷物をまとめ教室を後にした。
俺が言ったことを復習って、教師としてどうなのかね?
「ふぅ」
俺は一息つくと隣へ視線を向けた。
やはりと言うか、こちらに視線を向けていた金髪少女と目が合う。すると。
――ニコリ――
金髪少女が少し恥ずかしそうに頬を染め、可憐な笑みを浮かべた。
「…………………」
……ぐぁ。
ヤバい。
柄にもなく、ドキッとしてしまった。
相手は16才の少女なのに。
その笑顔に思わず見とれてしまった俺は咄嗟に言葉を返せなかった。
「……?」
そういえば、初めてこの子の笑った顔を見た気がするな。いつも沈んだ表情ばかりしている彼女だから。
この子には笑っている顔がとても似合うと思った。今までは翳りのある表情しか見れなかったが、これからは少しでもこの笑顔が見れればと思う。
「……これは、癒しだな」
俺の貴重な癒しの源かもしれない。俺はそんなことを感じていた。
「え?」
「いや、正解して良かったね」
「はいっ、ありがとうございます!」
ニコニコとする少女。
や、やっぱり癒されるわ。
俺までもが無意識に頬を緩ませていた。
あれ? 今思ったけど、この子とちゃんと会話するの初めてじゃないか?不思議なメモのやり取りはしていたが、会話はしていなかった。会話と言えるか分からないが、通学路でのやり取りが少々か。
「でも、教えてくれたのは沢良木君ですから」
そう恥ずかしそうにはにかんだ。
……俺の好感度がストップ高を記録しそうだ。