第34話 何なんだよっ!?天使だよっ!!
本日もよろしくお願いいたします。
通学路。
高校へ向かう坂道を登る。
登校には少しだけ早い時間。
だからか周りには友人と語り合う生徒がちらほらと見受けられる程度。
歩みの遅い俺は、他の登校する生徒に追い越されて行く。
いつも通りの朝だ。
俺はのんびり歩くのが好きなんだ。
そう言えば昨晩もスマホのアプリにてお話していた。
気を使ってくれたのか、俺が先日言った11時頃には寝ると言う言葉通り10時過ぎに切り上げた。
おやすみ、また明日。そんなやり取りに心が和んだ。
特に土曜の夜の、おやすみなさい宗君、は破壊力抜群でありました。
悶えて布団を殴りまくってたら、本家壁ドンされたわ。壁薄いんだよウチのアパート。
それに昨日はもう呼んでくれなかったけどさ。
ふと、1ヶ月程前のあの日を思い出す。
こんな時だったな。
あの子がぶつかって来たのは。
「沢良木君!」
良すぎるタイミングに思わず笑ってしまう。
名前を呼ばれたので振り返る。
「おはよう!」
満面の笑みが咲く。
ちょうど脳裏に思い浮かべていた姿があった。
一人の少女が少し駆け足でこちらにやってくる。
いつもの帽子を被り横から溢れた綺麗な金髪は朝日をキラキラと反射させる。
帽子を被った姿も最高に愛くるしい。
「おはよう、斉藤さん」
俺も微笑み返す。
この笑みを見て今日が始まった気がする。
先週の俺は停滞していたからな。ようやく一週間を始められるのだ。
今日も最高に天使だぜ。
「あ、メガネ! 違うやつなんだね?」
斉藤さんは俺に歩幅を合わせると、隣に並んだ。
俺の顔を見るとメガネに気が付いたのか声を上げた。
俺は今、前と違うメガネをかけていた。
今、と言うか例の筋肉ダルマ下敷き事件の翌日には変わっていたのだけども。
翌日の学校で斉藤さんは体調が優れず、俺とまともに言葉を交わしていなかったため、気付かなかったのだろう。
モールの一件も実に慌ただしかったしな。
それを指摘するほど野暮ではない。
今までは黒縁のプラスチックフレームだったが、今掛けている物はメタルフレーム。色は前と違わず黒だ。
もちろん、伊達だけど。
「そそ。後はこれしか無いから壊されない様にしないとな」
俺は壊された時を思いだし苦笑いする。
「その節はウチの父親がごめんね。でも、前のも良いけど、そう言う形も似合うね!」
無邪気な笑みで俺のメガネを誉めてくださる天使。
興味津々たるご様子で顔を見つめられる。
屈託の無い笑みにこっちが恥ずかしくなってきたわ。
「疑問なんだけど、なんで伊達メガネ掛けてるの?」
俺が二の句を繋げられずにいると、不思議そうに斉藤さんは問うてきた。
小首を傾げる可愛さは安定だ。
打算無しでこんな仕草が出てくるのがこの子の魅力なのだ。
「キャラ作り」
先程の恥ずかしさをかき消すように真顔を努めて語る。
「へ?」
「頭良さそうに見えるだろ?」
わざとらしく俺はメガネをくいっと上げる。
そして渾身のキメ顔だ。
まあ、髪で殆ど隠れて見えないのだけども。
しかし、本格的に髪を切らないとダメなレベルになってきたな。
ウチの学校は染髪を除く髪に関する校則がないからこれでいけているが、限度があるだろう。
目立たず根暗に見えるよう野暮ったいメガネと長髪にしていたが、かえって目立ちそうだわ。
「……っぷ、ふふふ、なにそれ。ふふっ、あははっ」
俺のキメ顔がなにやらツボに嵌まったご様子。
中々笑いが止まらなかった。
……そんなに俺の顔って面白い?
これは案外ダメージくるな……。
しかし。
自分をすすんでネタにしようとは思わないが、斉藤さんの笑顔が見れるのなら道化になることも吝かではない。プロの道化を目指そうではないか。
俺は暫しその微笑ましいご様子を特等席で観賞させて頂いた。
うん、可愛い。
朝から天使成分をがっつり頂戴出来たので、今日も頑張れそうだ。
二人並び歩き、学校まで程近い場所まで来た。
道の先には学校も見える頃。
……そう、俺は気付いていたんだ。
そうだな。
先程、今日最初に会った時には気付いていたと言ってもいい。
最初は勘違いかと思っていたんだが、どうも違うらしい。
俺だって散々悩んださ。
だけど、どう考えたって答えは一つ。
ここまで来れば、嫌でも分かる。
いや、全然嫌じゃ無いんだけどさ。
むしろようこそっ、歓迎っ、ウェルカムさっ!!
何って?
距離だよ!
なんかめっちゃ近いんだわ。
先日以前とは比べ物になんないのよ。
何の距離かって?
言わせんなよ。
天使との距離に決まってるだろ……。
今二人の距離が肩と肩がふれ合う程に近いんだよ!
正確には俺の腕と天使の肩だけど。
そんな説明はどうでもいい。
さらに本題はここからだ。
ちょっと気になるから横にいらっしゃる天使を横目に拝見するだろ?
天使もなんだかチラチラと俺を見てるわけよ。
お互いそんなんだからたまに目が合うだろ?
それでさ……。
そのまま目を合わせてニコーって笑うんだよ。
そりゃもう、とろけそうな笑顔だ。
何なんだよっ!? 天使だよっ!!
何なんだよっ!? 天使だよっ!!
こんちくしょうっ!!
壁殴りたい。
興奮するから内心二回も叫んでしまったぞ。
俺はいったいどうしたらいいの?
このまま続けられたら萌え死ぬわ。確実に。
本当に可愛さ満点なのよ。
本当に天使なのよ。
なんかもうね、心のポイント的な何かがガリガリ削れてる気がするんだわ、これ。
幸せな筈なのに、何故か俺は妙に疲れながら学校に着いた訳ですわ。
しかし、ここにも心労が待っていようとは。
たどり着いた教室。
二人揃って1年2組のドアをくぐる。
すると、おはようと数人の女生徒から斉藤さんへ挨拶が投げ掛けられる。
そうなのだ。
実に少数ではあるが、斉藤さんが言葉を交わせるクラスメイトが現れ始めたのだ。
「お、おはよう」
そのクラスの挨拶に恥ずかしそうながらも微笑み挨拶を返す斉藤さん。
その笑みは実にプリちーだ。
周りの連中も斉藤さんの魅力に少しずつ気付き始めたのかもしれない。
そりゃ、当然と言うものだろうさ。
天使だもの。
しかし、己の手から、手塩にかけて育ててきた雛鳥が巣立つような嬉しさと寂しさ。
俺は斉藤さんの様子を見ると、身勝手ながらそんなことを考えるのだ。
……正直言えば、嫉妬もあるな。
こんな可愛い斉藤さんが俺だけと友達で居ればいい、とか。
そんな情けない独占欲も少なからず感じる今日この頃だった。
1時限目休み時間。
「沢良木君!」
授業が終了すると、直ぐ様斉藤さんが俺に話かけて来た。
俺の名を呼ぶ斉藤さんはニコニコとしている。
うむ、実に眩しい笑顔である。
「どうした?」
「さっきの授業のねーー」
この休み時間は斉藤さんとお話をして楽しく過ごさせて頂いた。
2時限目休み時間。
「ね、沢良木君!」
トイレから戻ると再び俺は斉藤さんに話しかけられた。
「うん? 何?」
「次の授業体育でしょ? その体育が合同らしいよー。それで、場所が体育館に変更だってさ」
「あ、そうなんだ? 俺が居ないときに連絡来た?」
「うん!」
「そっか、教えてくれてありがとうね」
「えへへ、どういたしまして! それでね、体育館まで一緒に行こう?」
可愛らしくお願いする姿にドキリとする。
マジ天使。
周りの目が無ければナデナデしたい。
いや、無くとも出来ないけれども。
「あ、ああ良いよ」
「やった! それじゃ、また後でね!」
斉藤さんは嬉しそうに微笑むと更衣室へ向かっていった。
ふと、気が付くと周りの視線が少し集まってる気がした。
斉藤さん、天使だもんなぁ。
3時限目の体育が終わり、教室に戻ってきた。
「ね、ね、沢良木君!」
おう。何かな?
また斉藤さんが俺の元へやってくる。
「さっきの体育の測定はどれくらいだったー?」
「俺は平均だな。斉藤さんは?」
目立たないために意図して平均くらいに合わせてる訳だけど。
俺の答えを聞くと斉藤さんは少し得意げに笑う。
「……実はねー、わたし女子で上位になっちゃいましたー!」
得意げドヤ顔斉藤さんめっちゃ可愛い。
頭を唐突に撫でて赤面させたい。
こんな表情も見せてくれる様になったことが、先日も感じたがとても嬉しい。
「すごいじゃないか。斉藤さんって運動神経いいんだね?」
「どうなのかなー、たまたまかも。えへへ」
さっきまでドヤ顔だったのに途端に恥ずかしそうに頭をかく。
謙虚な斉藤さんもやっぱり可愛い。
次の授業が始まるまで、楽しくお喋りさせてもらった。
やはり、周りからの視線を少なからず感じた。
昼休み。
「沢良木君! お昼食べよ?」
わ、わぁい、嬉しいなぁ。
例の中庭へ二人で向かい、斉藤さんのお弁当に舌鼓を打った。
相も変わらず斉藤さんのお弁当は素晴らしかった。
先日のだし巻きが入っていた事も地味に嬉しい。
しかし、俺とばかり居ても良いのだろうか?
俺は嬉しいけどさ。
5時限目休み時間。
「沢良木君、ここ教えてぇ……」
……ま、任せなさい!
泣きつく斉藤さんにそれはもう丁寧に教えましたとも。
放課後。
斉藤さんは顔を少し赤らめて、自信無さそうな視線をチラチラと俺に寄越す。
「沢良木君、今日の、夜もRINE、出来るかな?」
あー、うん。
なんだ、その。
「ああ、大丈夫だよ」
全然巣立つ気配無いね!
「ホント!? やったぁ、えへへー」
「ふふっ」
その最高に愛らしい笑みにへらへらしてしまう俺も俺だよなぁ。
俺に向けてくれる笑みが堪らなく嬉しいのだ。
……そりゃそうだよな。
俺だってこの子の友達であると自負している。
そして、この子が友人を蔑ろにするような子でないことくらい分かっていた筈なのに。
俺の方こそ巣立つだのなんだのと自分勝手で懐疑的な見方をしていたのかもしれないな。
反省だ。
「それじゃ、また後で、だね!」
「ああ」
「バイト頑張ってね!」
「おう」
金髪の天使は相も変わらず、愛らしい笑顔を咲かせる。
この笑顔を目に焼き付け、今日もバイトに勤しむ事にしようか。
「……」
……友達が増えないのは俺が原因ですかね!?
だってクラスの視線をずっと感じてるんだもんっ!
もしかしたら、斉藤さんに話しかけたい生徒も居るのかもしれないな。
今後は少し考えようか。
男子は許さんがなっ!!!
そのくらいの独占欲は許してねっ!!
「さ、バイト行くかー」
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最早夏本番。
今週を学校で過ごせば、生徒が待ちに待った夏休みだ。
俺にとっても高校生として迎える初めての夏休み。
この休みを期に俺の周りは一層騒がしくなっていく事を、俺は知らない。
せめて、金髪の天使。
斉藤さんとの関係が変わらなければ。
この時はそんな事を思うのだった。
今回もお読み頂きありがとうございました。
一応、1章的な区切りがここでついたつもりです。
次回からキャラが少し増える予定です。
斉藤さんの出番が少し減るかもしれませんが、出てくれば甘甘ってな具合で書きたいので、今後もよろしくお願いいたします。




