第33話 無意識って怖いっ!!
本日もよろしくお願いいたします。
ママにこっぴどく叱られてしまいました。
パパが止めに入ってくれましたが、自分が悪い事は分かっているので反省しています。
心配してくれているからこそのお叱りなので、申し訳ない気持ちと有難い気持ちでいっぱいです。
「沢良木君が助けてくれたから良かったけれど、今度からは気を付けてね?」
「はい、ごめんなさい……」
ママは叱責を締め括ると、項垂れて謝るわたしを最後には抱き締めてくれました。
そのまま優しく頭を撫でてくれます。
その感触に思わず涙が溢れそうになりました。
「……愛奈ちゃんが無事で良かったわ」
わたしを気遣う優しいママの声と撫でられる頭の感触に、もう我慢出来ませんでした。
「……っ、ぅう、ぅぇぇんっ……っ」
「よしよし……」
「ごめん、ごめん、なさぃ……」
「うん、うん」
宗君が助け出してくれたことで最悪の事態は免れましたが、恐怖が消えてくれる訳じゃありません。
今もあの瞬間を思い出して身体が震えてしまいます。
だけど、宗君に撫でてもらって、ママにも撫でてもらって、甘えていることを自覚しながらも慰めてくれる存在に沢山の感謝を感じるのです。
わたしは優しい人に囲まれています。
わたしはしばらくの間、頭を撫でてくれる感触に身を委ねました。
「今日はパパ作ってくれたの!?」
居間のちゃぶ台に広げられた料理を見て驚く。
この家では夕飯はわたしとママの分担になっている。
しかし、今日はモールの一件で帰りが遅くなってしまったため、パパが代わりに作ってくれたらしい。
こんな所でも迷惑をかけていたのかと、重ねて申し訳なく思った。
「おう、二人が遅くなるって言うからな。作っておいたぜ」
ニカリとサムズアップするパパ。
パパは笑ってくれるけど、申し訳ない気持ちが消えない。
「パパごめんなさい」
「そんなこと言うなよ愛奈ちゃん! たまにはパパの飯も食ってくれよ。店では出すが家では中々食べて貰える機会がないからな、ははは」
パパはそんな風におどけて見せた。
これ以上はパパに失礼だ。
言うのはお礼だよね。
「……うん、ありがとうパパ」
「おう。さ、冷めない内に食べようぜ」
「うん!」
パパはとても優しい笑みを湛えるとわたしを撫でてくれた。
確かに店では料理を作るが、家ではまず作らない。
久しぶりのパパの手料理はとても美味しかった。
夕飯を食べ終え、お風呂に入った。歯も磨いた。
今は家族皆が居間に揃って、テレビを見ている。
一家団欒のとても落ち着く時間だ。
テレビではわたしの好きなバラエティー番組が放送されていた。わたしが好きだからとパパがかけてくれている。
だけど。
「………」
わたしの視線はある場所をいったり来たり。
うぅー。
そわそわしちゃうなぁ……。
「……愛奈ちゃんどうかしたのかい? これ、愛奈ちゃんの好きな番組じゃなかったか?」
「あ、うん、そうだね……」
パパが様子の変なわたしを気にかけるが、そのパパへの返事も上の空。
悪いとは思いつつも気になっちゃう。
「あらあら」
ふふふ、とわたしを見てママが笑った。
ママは一部始終を見ているから全部知っている。
わたしが気になってしょうがない物を。
ちょっと恥ずかしいです。
「え、なんだよ? ママも笑ったりして。え、何? 教えてよ!」
パパが仲間外れにされたと騒ぎ始めました。
でも、わたしはそれどころじゃありません!
この際パパは無視です!
もう少しで9時かぁ。
何回目でしょうか?
わたしの視線が時計とあるものを行き来します。
あるもの。
それは。
ーーピロン♪ーー
「っ!!」
わたしがずっと手に持っていたスマートフォンが通知音を奏でました。
宗君っ!!
そう。
わたしがずっと待っていたのは宗君からの連絡でした。
今日の帰り際、宗君がわたしにくれた一言。
ーー後で連絡するねーー
その一言を聞いてから、頭を片時も離れませんでした。
ママには散々からかわれたけれど、そんなのどうってことありません!
わたしは出し抜けに立ち上がりました。
なんだか、初めての宗君とのやりとりをここでしてしまうのはもったいない気がするのです。
と言うか、絶対にニヤニヤしてしまいます。
既にしそうです。
頬が勝手に上がってしまいそうです。
まだ内容を見ていないのにこれです。
流石に恥ずかし過ぎます。
と言うわけで、これは自分の部屋で見ることにしましょう!
それが良いです!
そうと決まればお部屋にゴーですっ!
「パパっ、ママっ、おやすみなさいっ! それではっ!」
パパとママに頭を下げ挨拶を済ませると、早々に部屋へ退散しました。
「えっ、愛奈ちゃん!? えっ? 何っ!? どゆことっ!?」
「まあまあ、あなた。今日は嬉しい事もあったみたいよ?」
パパとママの声が後ろでは聞こえていたけれど、耳には入って来ませんでした。
バタン。
後ろ手にドアを閉めると、そのままベッドへダイブです。
うつ伏せに携帯を構えます。
さぁ! 待ちに待った記念すべき宗君との初めてのやりとりです!
わたしはRINEを立ち上げました。
『こんばんわ 送れてるかな?』
「……」
なんと言いましょうか。
こんな短い言葉ですけれど。
嬉しいんです。
宗君が可愛いんです。
大好きなんです。
この言い表しようの無い感情が胸の奥でぎゅぅっとなります。
スマホを抱き締めるように小さくうずくまります。
嬉しさなのかときめきなのか、堪えようの無い気持ちに眦には涙が浮かんでしまいました。
「……はぁ」
幸せな溜め息ですよ?
まだ、やりとりも始まって無いのに幸せだなんて。
わたしって簡単な性格なのかなぁ。
ーーピロン♪ーー
「っ!?」
あっ、まずいです!
感動のあまり返信を忘れてましたぁっ!!
『あれ? 間違ったかな?』
間違ってたらここに送っても意味無いです!
可愛いなもうっ!!
急いで返信です!
「返信、遅くなって、ごめんなさい!、大丈夫、ちゃんと、届いてるよ!……っと」
いけない、いけない。
せっかく宗君が連絡くれたんだから、ちゃんと返さなくては!
ーーピロン♪ーー
『良かった』
「スマホは、慣れた? っと」
ーーピロン♪ーー
『全然だな この入力方法が訳わからん』
「すぐに慣れるよー、パパも出来るし!」
『なんだと……俊夫さんが?』
「沢良木君も頑張ってね!」
『めっちゃ頑張る』
えへへへ。
こんな何気ないやり取りが嬉しいです。
もうニヤニヤが止まりません。
部屋にはわたし一人なので、我慢する必要は無いのですが、ちょっと自分が恥ずかしいです。
頬をむにむにと揉んでみますが、意味がありませんでした。
えへへ。
このまま、宗君とのやりとりがしばらく続きました。
夕飯はなんだった、とか。一週間の授業に関してだとか。スマホの操作に関してだとか。
殆どは取り留めの無い内容ばかりでしたが、わたしにとっては、それはもう充実した時間でした!
殆ど休むことくなくRINEのやりとりをしていると、気が付くと夜も更け、時計も0時を指そうとしています。
あ、もうこんな時間?
あっという間だなぁ。
わたしはいつもなら寝ちゃう時間だけど……。
宗君っていつも何時に寝てるのかな?
あ、そっか。
そんなちょっとしたことも、これからはこうやって聞けるんだ……。
会って話す事には敵わないけれど。
それでも宗君との小さい繋がりが出来たんだ。
「沢良木君はいつも何時に寝てるの?っと」
疑問に思った事を聞いてみた。
もしかしていつもなら寝てる時間とかなのかな?
それとももっと起きてる?
どうなんだろうなー。
「……」
あれ?
なんか遅いかな?
さっきまではもっと早かったような……。
「……」
ん、んー、おかしいなー?
返信来ないぞー?
「…………」
えっ、えっ!
し、しつこいとか思われちゃったかな……!?
いつまで続けるんだとか思われちゃったかな!?
どうしよう!!
楽しくて宗君の都合考えてなかったよぉ!!
嫌われたらどうしよう……。
どうしたらいいんだろう!!
全て自分の想像でしか無かったけれど、返事が返って来ない時間が増えていくたびに泣きそうになってしまう。
「どうしよう……」
ーープルル、プルルーー
「……っえ?」
RINEのトーク通知音じゃない音が部屋に響いた。
あ、これ通話だっ!
画面には……宗君の名前!!
「も、もしもしっ」
「あ、もしもし斉藤さん? 急に電話かけてごめんね」
急いで通話ボタンを押し、スマホを耳に押し当て集中すると、宗君の声が聞こえてきました。
その声が聞こえるとなんだか安心してしまい、泣きそうになってしまいました。
「ぅ、ううん、大丈夫、だよ……ぐすん」
「……どうかした?」
わたしを気遣うような言葉に、余計泣きそうになります。
「なんでもないの。……それより、急に電話来ちゃってびっくりしたよー」
「う、ごめんね。このアプリの通話ってボタンが気になってさ、押すか迷って結局押してしまったんだ」
そう言うことだったのか。
それがさっきの間だったという訳だ。
事実が分かればなんて事ない。
その事実に拍子抜けしていまい、つい溜め息が出る。
と言っても宗君には気付かれない程度だけれど。
「もー、それならRINEで聞いてくれれば良いじゃないのー」
わたしが気を揉んだ分なのか、いささかトゲのある言い方になってしまった。
わたしだって少しは怒るんです。
「あ、その手があったな。ごめんね」
「あ、その、悪くなんてないです。わたしも、その……」
宗君の申し訳なさそうな声につい折れてしまいます。
そもそもそんなに怒って無かったかもしれません。
宗君の声を聞いたら段々と薄れてしまったのですから。
「本当は声が、聞けて、嬉しいです……」
これが本音なのです。
恥ずかし過ぎて殆ど声になってませんけどねっ!
「わたしも?」
「なんでもないよー」
「え? え?」
「ぷっ、ふふっ」
訳が分からず、少し狼狽える宗君にしてやったり、といった具合ですね!
思わず笑ってしまいました。
「え、どういう事?」
「だから、なんでもないですー。あ、そう言えばさっき送ったの見てくれた?」
追及されても恥ずかしいので、サクッと話題変えちゃいます!
「ん? ああ、何時に寝るってヤツね」
「うん、せっかく電話してるし、教え欲しいなーって」
「んー、大体この時間には寝てるかな。11時には布団入るね」
「そ、そうなんだ。……それじゃ迷惑だった、よね?」
うわあぁぁ!失敗です!
やってしまいました。
楽しくて夢中になりすぎました。
「いや、大丈夫だよ。斉藤さんとのやり取りが凄く楽しくてさ、恥ずかしながら時間も気が付かなくて」
「……」
あはは、と恥ずかしそうな宗君の声がなんだか遠くに感じます。
わたしは言葉を返せませんでした。
多分。
今、わたし真っ赤です。
顔が凄く熱いですから。
先までの不安な気持ちはどこへやら。
宗君の言葉が胸にしみわたり、それと同時に胸が高鳴ります。
凄く嬉しい。
宗君がわたしとのやり取りを楽しいと、言ってくれた。わたしと同じ思いを抱いてくれた。
その事が。
それに、昼間のあの言葉も追想されてしまいました。
ーー斉藤さんは俺にとって大事だからなーー
思い出すだけで、顔が熱くなるのは当然として、胸の鼓動が激しくなります。
過去最高かと思われます。
自分が自分でない様なほど取り乱してしまうため、思い出さないように必死でした。
あの言葉はーー
「斉藤さん? 聞こえてる?」
「ひゃいっ!?」
宗君の声にハッとなり、声が裏返ってしまいました。
恥ずかしいです。
宗君の普段通りの反応からすると、あんまり意味がないのかなぁ……。
それはそれで、ちょっとショックだよ……。
「あはは、どうかした?」
「な、なんでもないの! なんでも! ……でも、そうするとそろそろお休みの時間かな」
名残惜しいですが、宗君に迷惑をかけては意味がありません。ここは大人な対応です!
「ん、そうだな。明日もバイトがあるから、悪いけど休ませてもらおうかな」
そう言う宗君に自分から言ったにも関わらず、しょぼんとしてしまいます。
先程の自分の言い分を撤回しそうな勢いです。
「そっか。明日もバイトなんだね、頑張ってね!」
「ああ、ありがとう。それじゃ……」
「あ、うん……」
この電話を切りたくない。
ずっとお喋りしていたい。
だけど、わがままを言って嫌われたくありませんから、おやすみなさいです。
大人な対応です!
「斉藤さん、おやすみ。また明日」
おやすみ、かぁ。えへへ……。
ベッドに入りながらこのセリフを言ってもらえるとは、なんて幸せなんだろう……。
このまま溶けてしまいそうな気さえしてしまう。
「うん、おやすみなさい宗君」
わたしは終話ボタンを押しました。
「……」
ん?
んっ、んー?
「…………あぁぁぁぁあっ!?」
宗君て……。
どうしよう。
再びわたしは顔を真っ赤に身もだえるのだった。
無意識って怖いっ!!
お読み頂きありがとうございました。
今回は愛奈ちゃんがひたすらでれでれするお話でした。
初めて携帯持ったときのメールって時間忘れちゃいますよね。
あ、無い。そうですか。




