第31話 一番最初の
本日もよろしくお願いいたします。
駆けつけた警官に事情を説明し、事情調書の作成に協力した。
警官に聞いたところによると、例の4人組には既に目星がついているとか。
このモールや駅周辺ではよく問題を起こしていたようだ。
何度かの厳重注意は受けているらしい。
とっとと捕まっちまえ。
斉藤さんへの精神的苦痛と言う俺的絶許事案だが、客観的に見て未遂に終わったので起訴やら面倒なことはノーセンキュー。
もし斉藤さんへの実害があったとしたら国家権力が出てくる前に俺が奴らを再起不能にしてしまっていた自信がある。違いない。
俺の天使に害を成したら極刑だ。
そんなこんなで俺達は解放された。
「終わったー」
「終わったねー」
ショッピングモール内にある警察立寄所から出た俺達は揃ってため息をついた。
チンピラどもとの一件から既に1時間以上経っている。
少し休みたい気持ちもあってモール内にある休憩スペース内のベンチに腰かけた。
「もう夕方だな。……悪いね、斉藤さんまで巻き込んで俺一人で良ければだったんだけど」
「だからっ、そう言うこと言わないで? わたしが沢良木君に助けて貰ったから、こうなってるの……ってもう何回もこれやってるよ?」
「ぷっ、はは、そうだね」
「ふふ、わざとなの?」
二人で顔を見合せ笑い合う。
あんなショックな出来事があったばかりだ。
それでも俺の前で笑ってくれている。
心の中にある恐怖心は簡単には消えてくれないだろう。
だから、少しでもこの子の支えに俺がなれればと心から思うのだ。
この子には笑顔が一番似合うんだから。
あれ?
斉藤さんの笑った顔久しぶりに見るな。
日曜日以来……。
「斉藤さん! そう言えば月曜日なんで俺を無視したの!?」
「ええっ!? 今蒸し返す!?」
「一日斉藤さんと話してなかったし、次の日から休んでしまったし俺……」
「えっ、あっ、……それはっ!」
「風邪が酷いなら言ってくれれば良かったのに! 一週間心配したんだぞ?」
「……え? ぁ、あー。……そう言う風に捉えられたのか……はぁ」
「ん?」
一瞬慌てた斉藤さんだが、肩を落とすと俯いて小声になってしまった。
まだ具合が良くないのだろうか。
「ううん。その事についてもごめんなさい。心配してくれてありがとう。もう体調は大丈夫だよ」
かぶりを振るとにこりと微笑んだ。
「そっか、それなら良かった」
俺も斉藤さんに微笑みかける。
目と目が合うと斉藤さんは顔を赤くしてしまう。
「ぁう……」
息を吐くような声を漏らすと、そのまま俯いてしまった。
もしかしてやっぱり体調が芳しくないのでは?
「さ、斉藤さんやっぱり体調が……」
「それはもう大丈夫ですぅっ!」
尚も心配する俺にぷいっと顔を背けてしまった。
「? ? ?」
おおう。
何故だかいじけられて、しまったぞ。
しかし初めてこういう仕草を見たかもしれない。
お友達として心を開いてくれている感じがして非常に感慨無量である。
つまり可愛い。
結局可愛い。
グッドだぜ。
そこで俺はふと一つ大事なことを思い出した。
「あ、斉藤さんに一つ言いたい事があるんだ」
「……なに?」
ジト目で俺を横目に見てくる斉藤さん可愛い。
一応聞いてくれる姿勢を取ってくれた斉藤さん。
俺的一大ニュースだし、是非とも斉藤さんが一番がいい。
「実は俺さ……」
「……うん」
こう言う時はなんて言えば良いんだ?
初めてだから全然分からないぞ?
ううむ。
悩んでも仕方ないか。
シンプルに行こう。
考え込み中々喋り出さない俺に斉藤さんがなんだか焦れてきた。
そわそわしてる感じ。
「斉藤さんの……」
「わ、わたしの?」
お互いに生唾を飲み込む。
言うぞ!言うぞ俺!
「斉藤さんの電話番号教えてくれ!」
「……」
ふぅ、言ってやったぜ。
友達の番号を聞くなんて初めてだからね。
超緊張。
あれ、でもこれ断られたらどうすんだ?
間違いなく死ねるわ。
「……え?」
暫しの間を置いて斉藤さんの頭に疑問符が浮かんだ。
「じ、実は今日スマホを買ったんだ。それで、斉藤さんの番号とか教えて欲しくてさ。ダメかな?」
だめ押しで追い討ちをかけてみる。
これでダメなら素直に諦めよう。
そしてこの世に別れを告げよう。
「………………はぁぁ」
俺が返事を待っていると斉藤さんは盛大なため息をお見舞いしてくれた。
やはりダメだったか。
さよなら現世。
「うん、良いよ交換しよう?…………ぁーぁ、わたし何ドキドキしてるんだろ」
なにっ!?
良いのか!?
やったぜ。
小躍りしたい気分。
斉藤さんの後の呟きは俺の耳に届かなかった。
「ありがとう! それでっ、どうやるの!?」
交換にオッケーは頂いたが、いかんせん弄りかたなんて皆目検討付かん。
早く登録してみたい。
前のめりに問う俺に少し驚いた様子の斉藤さんだったが。
「ぷっ、ふふふ、沢良木君なんだか子供みたいだね?」
目を細めると可笑しそうに笑った。
おおう。
斉藤さんに子供扱いされたぜ。
なんてこったい、これはこれでなかなかどうして。
なんだか最近俺の変態度が増していくわ。
並んでベンチへかけていたが、斉藤さんは俺のスマホ操作説明のためにこちらへ詰めてきた。
ぴったりとくっつく程に。
なんて役得だ。
斉藤さんが気付いたら絶対赤面ものやね。
「んーとね、まずは番号の登録しちゃおっか?」
流石は女子高生。スマホの操作は慣れたもので、あっという間にお互いの登録が終わった。
斉藤さんに聞いたところによると今は殆どメール機能を使わないんだとか。
RINE?なるトークアプリ?だかがあってそれで済ませてしまうとかなんとか。
それも入れて貰った。
「はい! これで登録終わりだよ! かけて確認してみよっか? わたしがかけるよ?」
そう言うと早速電話をかけ始めた。
「ああ」
頷く俺の手に収まるスマホが着信音と共に震えた。
「おおっ!!」
画面には、斉藤愛奈の文字。
なんだか感動に胸がいっぱいになる。
俺はゆっくりと通話ボタンに触れた。
『もしもし、聞こえるかな?』
おおお!
天使の愛らしいお声がスマホからっ!
『ああ、大丈夫だ』
頬が緩むのを止められなかった。
それくらい嬉しい。
俺の様子を確認すると斉藤さんは通話を切った。
「そ、そんなに嬉しいの?」
「ああ、斉藤さんは俺にとって大事(な友達)だからな。一番最初に登録したかったんだ」
「ふぇ?」
「これでいつでも連絡取れるな?」
俺はそう言うと斉藤さんへ微笑みかけた。が。
しかし、斉藤さんは俯いてこちらを見ていなかった。
流れ落ちる髪の毛から覗く耳はなんだか真っ赤になっている。
やはり、まだ具合が悪かったのか!?
「さ、斉藤さん、やっぱり具合がっ」
俯く斉藤さんの様子を伺おうと肩に手をかけ、顔を近づけた。
すると、置かれた手に驚いたのかぱっと顔を上げた。
俺も顔を寄せていた所に斉藤さんも顔を上げたものだから、至近距離で顔を付き合わしてしまう。
こちらを見た斉藤さんの顔は、それはもう真っ赤だった。
リンゴみたい。
と言うか照れてね?
……何故?
「だっ、だだだ、だ、大丈夫っ、だってば!」
ぴょんっと跳ねるような動きで俺から距離を取る斉藤さん。
せっかく近くに来てくれたのに。
残念です。
俺から離れた斉藤さんは赤くなっている頬を手で覆うと、横目にチラチラと俺を見てくる。
「?」
「こっち見ないでよぉ……」
俺どないしたらええん?
「わ、わかった」
とりあえず頷いておこう。
可愛いので、頼まれたらホイホイ聞いちゃうもんね。
……しかし、いつまで向かなければ良いんだ?
俺がそんな疑問を持った時だ。
「……あんたたち何してんの?」
理沙の呆れきった声が俺の耳に届いたのだった。
警察関連は詳しい事がわかりませんので、殆ど想像です。
おかしな所があってもスルーしてくれると嬉しいです。