第30話 勘違い?
本日もよろしくお願いいたします。
幼女に導かれ裏通路。
しばらく歩みを進めるも斉藤さんは一向に見つからない。
そもそも人も見かけていない。
表の喧騒も遠く、それなりに奥に来たと思う。
普段はあまり使われない場所なのだろうか。
幼女には悪いがこれ以上進んでも何もなければ、引き返そうか。
ん?
今、何か聞こえたような……。
話し声か?
「「ぎゃはははっ」」
っ!!
何やら下品な笑い声が通路へと響いた。
声の感じで複数人の物と思われる。
瞬く間に頭の中は最悪の想像に塗り潰される。
無意識に地面を蹴り、俺は今日一の速度で走った。
未だに下品な笑い声は聞こえている。
あの曲がり角か。
斉藤さんに、俺の天使に何かあったら絶対に許さない。
俺の天使に近づくな。
俺の天使に触れるな。
俺の天使を泣かすな。
俺の天使に。
角を曲がると人だかりが出来ていた。
視線を巡らせ一瞬で状況を判断する。
柄の悪そうな男達の、その隙間から斉藤さんを見つける。
泣き腫らした目に心が痛むが、状況を見るに間に合ったか。
その顔は恐怖に染まっている。
一人の男が斉藤さんへと手を伸ばしていた。
怒りに拳が震える。
触らせるか。
俺の天使だ。
「俺の天使に何してる?」
俺の怒気を孕んだ低い声が裏通路に響いた。
俺の声を聞いた一同の視線が一斉にこちらを向いた。
「誰だてめぇ?」
「……宗、くんっ」
なん、だと。
宗君……?
何これ凄く嬉しい。
キュンと来ちゃう。
にやけそうになる頬を必死に抑えて、穏やかさを強調した笑みを浮かべる。
「ごめんね斉藤さん、待たせた」
「ぅ、ぅん、うんっ……ふぇ、ぅえっ、ぅぇぇえんっ……」
安心したのか、斉藤さんはへたり込むと泣き出してしまった。
うん、怖かったね。
斉藤さんの為に一刻も早く終わらせなくては。
しかし、どうしたものか。
斉藤さんへと迫っていた男どもを見る。
声を上げて泣き出してしまった斉藤さんに少なからず動揺しているご様子。
突然現れた俺にも当然警戒しているようだ。
4人か。
普通にやり合うなら特に問題なさそうな人数ではあるが、万が一、億が一にも斉藤さんへ被害が及んではならない。絶対だ。
それに斉藤さんには暴力を見せたくない。
そうなると穏便に済ませたいところ。
「おいっ、てめぇ誰だって聞いてんだよ!」
痺れを切らしたのか、中でも短気そうなヤツが声を荒らげた。
「誰って、その子の反応見たらわかるだろ。と言うか女の子泣かせんなよ。あんたら玉付いてんのか?」
「んだとっ!?」
「男が女の子泣かせてどうすんだ。守ってなんぼだろうが」
俺の言葉に他の男もいきり立つ。
ヤべ、無意識に煽ってしまう。
さっさと終わらせよう。
俺は買ったばかりのスマホをおもむろに取り出す。
急に懐へ手を入れた俺に男どもは一瞬身構えるが、スマホを見て怪訝そうな表情をする。
俺は笑みを崩さない。
俺は堂々と男どもに見えるように、手早く番号を入力した。
買うとき理沙に簡単な使い方教えてもらってて良かったわ。
スマホをスピーカーに切り替える。
見せてやる!
国家権力の力をっ!
「こちら警察です。事故ですか、事件ですか?」
「「「「なっ!?」」」」
警察ってワンコールで出るんだな。速いね。
「どうされました?」
「私沢良木と申します! 御崎のモールで彼女が柄の悪い4人組に囲まれて脅かされてるんです! 今にも暴力を振るわれそうなんです! 今、隙をみて電話しています! 西側裏通路の非常階段近くです! 助けてください!」
俺は切羽詰まった声色で電話に向けて話す。
「わかりました。…調べたところ、ちょうどそのモールに巡回中の警官が居りますので、すぐに向かわせます。出来るだけその場を動かないようにお願いします」
「わかりました」
ーーピーー
なるべく意地の悪そうな笑みを浮かべ男どもを見る。
男どもは一様に呆気にとられた表情をしている。
「あー、ちょうどこのモールに警察が居るみたいだなぁ。逃げた方が良いんじゃない?」
俺の言葉に戦慄き始める一同。
「て、てめえっ!!」
「お、おい、どうするっ!?」
「ど、どうするって……」
「に、逃げるぞ!!」
「あ、おいっ!!!」
「てめえ覚えてろよっ!?」
暫し右往左往するも男達は一人の掛け声で脱兎のごとく立ち去っていった。
逃げていった後、裏通路はすすり泣く斉藤さんの声だけが聞こえていた。
俺は斉藤さんへ駆け寄るとその前に跪く。
「斉藤さん、頑張ったね」
「し、宗くん、ごべんなざいぃ、ぅあぁぁ、ぁんっ」
斉藤さんはそう言うと俺に強く抱きついた。そのまま泣き出してしまう。
突然の事に驚いたが、俺はそっと斉藤さんを抱き締めると頭を撫でた。
「よしよし、もう大丈夫だからね」
俺は斉藤さんが泣き止むまで頭を撫で続けた。
久しぶりに撫でた斉藤さんの頭は以前と変わらず、さらさらと気持ち良かった。
「落ち着いた?」
「う、うん……」
泣き止み落ち着いた斉藤さんと俺は非常階段に腰かけていた。通報したため、警察を待つためにもここから動けなかった。
もう話せると言う斉藤さんに事の顛末を聞かせて貰った。
俺から逃げ出した後この裏通路に迷い混んでしまい、運悪くさっきの連中とぶつかってしまった。
そして襲われかけていたと。
簡単に言えばこうだった。
「……そっか」
事の責任の一端が俺にあるため、斉藤さんには申し訳ない気持ちしかない。罪悪感で押し潰されそうだ。
あの時のすぐに動けていたら。
もっと早く斉藤さんをつかまえられていれば。
頭の中で、たら、れば、が止まらない。
「斉藤さん。本当にごめん。俺のせいで怖い思いをさせてしまった」
「そ、そんなっ、沢良木君は助けてくれたから! 沢良木君が居なければどうなってたか……。感謝こそしても、怒るなんて出来ないよ!」
泣き腫らした目が痛々しい斉藤さんは首を大きく振って否定する。
「だけど……」
「わたしこそ、沢良木君に謝らないといけないの」
俺の言葉を遮るように斉藤さんはこちらへ身体を向け、俺の目を見据えた。
そして、大きく一つ呼吸をする。
「さっきは急に逃げ出してごめんなさい。沢良木君には凄く迷惑をかけてしまいました」
そう言うと深く頭を下げた。
顔を上げると再び俺の目を見つめる。
「それと、ありがとう……」
斉藤さんは先程までの悲壮感漂う表情から一変して頬を赤く染めていた。
「……沢良木君が助けに来てくれて凄く嬉しかった、です」
いつもなら斉藤さんは恥ずかしがり視線を逸らしてしまう。
それがどうだろう。
潤む瞳は俺を見つめているままだ。
普段らしからぬ斉藤さんのその反応に俺が逃げてしまった。
俺の視線は地面へと向かう。
「い、いや、それは当然だ」
「う、ん。……えへへ」
両手を胸に添えるように握ると笑顔が咲いた。
ヤバい。
可愛ええ。
また撫で撫でしたい。
「そ、それで、斉藤さんはなんで俺から逃げたの?」
俺は照れ隠しに疑問に思ったことを考えなしに口にしていた。
俺の言葉に一瞬斉藤さんは固まるが。
「えっ、そ、それは、沢良木君と、彼女さん……が腕を組んでいるところを、見て、その……ってこんなこと聞かないでよっ、ばかぁ!」
ばかぁ、だと?
……斉藤さんから、ばかぁ頂きました。
こんな可愛いばかぁは初めて聞きました。
この初ばかぁは心のボイスレコーダーに永久保存決定ですわ。
脳内再生ヘビロテ不可避だよ。
ばかと言われて癒される日が来ようとは……。
って待てぃ!!
「そこが間違いだっ!!」
斉藤さんへ人差し指を突きつける。
「ふぇっ?」
「俺に彼女はいない」
「え、だって、あの時の、え?」
俺の指摘に斉藤さんがあたふたとし始める。
理沙の事を彼女と勘違いした訳か。
ちょうどふざけて腕を組んできたタイミングだったからな。
なるほどなるほど。
「あれは大友理沙。俺の……姉みたいなもんだな。間違っても彼女とかでは無いよ」
斉藤さんの小さな可愛い口がぱくぱくと言葉を成さない。
「お、お姉、さん? え、え? え? ……か、勘違い……だった?」
「……うん」
次の瞬間、斉藤さんの顔は真っ赤になった。
「ええぇぇぇぇええっ!?」
斉藤さんの叫び声が裏通路に木霊した。
びっくりした。
内容の粗にはご容赦ください!
自分の表現力が追い付かないであります。




