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第3話 手助け

 俺がカンペを渡した翌日。

 俺の隣人はまたもや指名されていた。

 しかし、良くあたるもんだな。俺はこの数日指名されてないしな。


「あ、ぇと、○○です……」


「はい、正解ですね」


 お、今日は正解したな。

 その調子で頑張ってほしいね。


「……♪」


 当たって嬉しそうだな。

 なんか可愛いねぇ。

 俺が隣人を観察し和んでいると、ふと目が合ってしまった。

 見られていることに気付いた彼女はみるみる顔を赤くしていった。終いには俯いてしまった。


 ……なんか悪いことした気になってくるな。


 俺は謝るべく、再びノートの切れ端を作った。


 ――不躾に見ててごめんね――


 ノートの切れ端を受け取った彼女は、ふるふると小さく首を振るとノートの切れ端を返してきた。


 ――大丈夫ですよ。……ちょっと恥ずかしかったですけど――


 気になるのかチラチラとこちらに目線を寄越している。


 あー、うん。

 この子見てると和むね。なんだか小動物を見てるみたい。


 ふむ、お詫びに少しでもお手伝いできるかね。俺は今一度ノートの切れ端を作った。


 ――お詫びと言ってはなんだけど、授業で分からないところあったら聞いてね――


 不干渉を貫いている自分(自称)が何故か、そんな言葉を俺は書いていた。

 俺の渡したノートの切れ端を見た彼女はぱっと顔をあげると少し驚いた様子でこちらを見た。

 すると急いでノートに返事を書き込んでいく。

 今度は目線は逸らしていたがこちらを向いて渡してくれた。


 ――本当ですか!? すごく嬉しいです!

 でも、ずるは良くないので解き方を教えてくれると嬉しいです――


 すごく良い子や……。

 俺の好感度急上昇だよ。

 いやまあ、上がっても意味ないけども。


 ――わかった――


 簡単に返事を書いて授業に集中することにした。

 すると、隣からは微かに鼻歌が聞こえていた。そんなに嬉しかったのかね。

 彼女の鼻歌が聞こえたのか周りの何人かの生徒が訝しげな目で見ていた。

 気付いたら顔を真っ赤にするんだろうな。

 それも見てみたい、なんてちょっとした意地悪を考えたりして過ごした。


 この日は後何度かメモのやり取りをこっそり行った。


 平坦で何も無かった俺の学校生活に、ほんの少しのスパイスが足された。そんな気がした。

 案外、それを楽しんでいる自分に可笑しくもあった。




 手助けをすると言う俺の提案は翌日すぐに行われることになった。


 この日の授業はウチのクラス担任も受け持つ女性教師が担当だった。新任の二十歳くらいで生徒とも歳が近いため人気があるようだ。その上とても可愛らしい容姿も相まって男子からの人気は高かった。


 この女性教師が指示した内容が、壇上に上がり板書にて解答すると言うものだった。

 指定された人数に隣の金髪少女に加え俺も入っていた。

 まだ解答が終わってない内容に金髪少女がプルプルしてきた。


 ……可愛い。


 しかし、回答までに時間はある。

 彼女はなんとか解くしかないと、ノートに向かうが躓いているのか一向にペンが進まない。

 その様子を見た俺はノートの半分程に急いで書き始めた。


 彼女が躓いている問題の、()()を。


 ……よし。


 俺は解説を書いたノートを1ページ音もなく切り離す。

 それをすぐさま周りの気配を探りながら金髪少女の机へ滑らせた。


 まだ板書までは5分ある。解説を読んでも十分間に合うはずだ。


 俺はやりきった表情で椅子の背もたれに身を預けた。

 あ、俺? もう解き終わってますよ。

 嫌味に聞こえたらごめん。


 時間が無いことを分かっているからか、彼女は返事は寄越さず集中して問題を解いたようだ。

 そして5分後、教師の号令がかかる。


「それじゃさっき指名した皆は黒板に解答を書いてね」


 俺は立ち上がり、隣の少女を見た。

 彼女も緊張した面持ちながらしっかりとこちらを見てきた。そして小さく頷いた。


 金髪少女と並び解答を板書していく。

 俺は早々に書き終えそうになったので、少しスピードを落として隣を見た。


 ……うん。大丈夫そうだな。

 少女の板書見て安心した俺は自分の解答を書き終えた。


 俺が席に着く頃、金髪少女も書き終えたようで、チョークを置きこちらに戻ってきた。

 その表情は少し嬉しそうな、ほんのりと達成感を漂わせるものだった。



「……よし、皆書いたね。それじゃ、答え合わせしようか!」


 いよいよである。

 緊張した面持ちで黒板を見つめる隣の少女。何故だろう、答えが合っていると知っているにも関わらず、こちらまで緊張するようだ。


 今回、板書は4人の生徒が行った。俺らの前に二人いる形だ。

 早速、回答が始まった。


「んー、……残念。一問目は答えが間違ってるねー。解き方は良いんだけど、どこかで間違ったか考えてね」


 ぺけ、と教師がばつを書き込んだ。

 うぉー、まじかー! と不正解だった男子生徒がオーバーに喚く。


「じゃあ、次。……これもハズレ。って、さっきと同じ間違い方してるんだけど、スゴい偶然だね…。はい、ちゃんと考えてね」

 

 俺と同じ答えとは、さては俺を! 等と前問不正解者が再び喚く、辺りからは「ホモかよっ」とヤジが飛んだ。

 どうでも良いから早く回答して欲しい。


「はい、静かにね。んじゃ次ね。……うん、これは正解。訂正箇所は無いよ」


 俺の解答は特にコメントもなく、つつがなく終了した。


 さあ、これからが本番だ。

 隣の少女は固唾を飲んで見守っている。


「……んー、……残念。間違いだねー」


 ……は?


「惜しかったね斉藤さん。もう一度解いてみてね」


「だってよー、斉藤さん?もう一度解いてみてねだってさ。解けると良いね!きゃははっ」


 クスクス。


 名前は知らないが、以前同様に女生徒がヤジを飛ばしていた。先日のリプレイ。

 周りから失笑が漏れだす。


 驚きの表情を張り付け、少女の顔が蒼白になっていた。

 少女はチラリと一瞬視線をこちらに向けると俯き目を瞑った。


 その眦には光るものが見えていた。





「……」


 俺は目立つのが嫌いだ。


 目立ったって良いことなんて何もない。

 今までの人生で十分学んだ。目立たず、波風立てず、この高校生活3年間を過ごし、食うに困らない無難な企業に就職する。

 それが唯一無二の目標だ。


 つまらない人生?

 もう十分過ぎるほど波乱万丈な人生は楽しんださ。


 たった20年ぽっちの人生だけど、さ。


 だけど。


 周りの喧騒は耳に入らなかった。


 ガタッ。


 俺は勢い良く立ち上がった。

 わざと上げた椅子を引く音は、周囲の注意をこちらへと向けさせた。


「先生、質問よろしいでしょうか?」


 まあ、この子の為なら少し目立つのだって悪くない、かな。


 俺は少し笑ってたかもしれない。


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