表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/199

第29話 導きの天使

本日もよろしくお願いいたします。







「……斉藤さん」


俺の視線は二人の女性の元に釘付けとなる。


斉藤さんとその母親であるアイシャさん。

二人が並んで歩いていた。


俺へと視線が合うと二人のその歩みは止まった。

アイシャさんはなんだかぎこちない笑みを浮かべていた。


「……」



斉藤さんの目線は俺と理沙の間を何度か行き来しており、その表情は徐々に歪んでいく。

驚きと悲しみ。

それが相交わり色濃くうつろう。



ヤバい。


なんか分からないがヤバい。


なんだかどうしようも無い状況に立たされている気がする!


どうする!?

俺、どうする!?

どうしたらいい!?



「っ!」


斉藤さんは踵を返すと、走りだした。


「ま、愛奈ちゃんっ!」


アイシャさんが呼び止めるが、止まること無く走り去ってしまった。


斉藤さんの姿に俺は呆然としてしまう。

最後に見せたあの表情が脳裏に焼き付いている。

なんであんな顔するんだよ……。


「……」


辛うじて見えていた、金に輝く彼女の髪は瞬く間に雑踏へと消えてしまった。




「宗っ!!!」


「っ!?」


理沙の叫ぶ声で我に帰る。

そして、次の瞬間俺の足は強く地面を蹴った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ったく、何ぼーっとしてんのよ……」


私の呼ぶ声で飛び出した弟分を思い、ため息をついた。

一目見てわかった。

あの金髪の少女が宗の語っていた子だと。


本当に美少女じゃない。

宗も見る目あるわ、ほんと。


はぁ……。



「……あの」


おっと、忘れてた。

斉藤さんと居た人だ。

この人も金髪。

見るに生粋の外国人だ。

そして、恐らくこの方が斉藤さんの母親か。

凄く若く見えるけど。


「すいませんウチの弟が」


「弟?」


金髪の美人が小首を傾げる。


「申し遅れました。私、大友理沙、と申します」


「あ、こちらこそ名乗りもせず申し訳ありません。私、斉藤アイシャ、と申します」


おおぅ。

凄く日本語が上手だわ。日本人とも大差ないわね。

日本にはもう長いのかしらね。

っとそんなことより。


「斉藤さんは愛奈さんのお母さん、で宜しいのでしょうか?」


「ええ、愛奈はわたしの娘です。大友さん?は沢良木君のお姉さんなんですか?」


「あー、少しウチの事情は複雑なんですが、実姉ではありません。保護者の様なものになっていた時期がありまして」


「申し訳ありません、人様の家庭のお話を無神経に……」


「あっ、お気になさらないでください! 宗共々気にしたり等ありませんので!」


「そう、ですか……。では改めて、いつも娘が沢良木君にはお世話になっております」


そう言うとアイシャさんは頭を下げた。


「いえ、こちらこそウチの宗がお世話になっているようで」


お互い頭を下げあう不思議な空間が出来上がっていた。


親同士のあいさつと言うか、アイシャさんってほとんど日本人ね。


「……元はと言えば、私が紛らわしい事をしていたのが原因ですね」


先程の事を思い苦いものが胸中に広がる。

考えなくても分かることだ。

宗と腕を組んでいた所を斉藤さんに見られてしまった。 

そして、彼女に誤解を与えてしまった。


「えっと、あれはスキンシップと言いますか、お恥ずかしながら弟離れ出来ていない所があるんです」


「あら、そうだったんですね」


アイシャさんの呑気な笑顔に、変に体に入っていた力が抜けた。


「あの、娘さんを追いかけたりは?」


「だって、沢良木君が追いかけてくれたじゃないですか。それなら大丈夫だと思うんです」


それに後は若い人達でね?と言うとアイシャさんは器用にウィンクした。

美人の外国人がすると凄く様になっていて、それだけで絵になると思う。

ずるいわぁ。


しかし、宗がずいぶん信頼されている。

一体何をしたのか。


「ずいぶんと宗をかってくれているんですね?」


「ええ、娘が選んだ人ですから」


そう言うと満面の笑みを湛えた。


……あれ?

この顔どこかで……。


アイシャ、アイシャ、斉藤アイシャさん?


斉藤?

んー?

なんか、覚えが……。


「……」


あ……!

思い出したわ。

あれだ。


「……あの、アイシャさん。覚えていらっしゃいますか? 私、2年前に一度お店に、斉恵亭にお邪魔したことがあるんですが」


「え?」


私の言葉の驚いたアイシャさんは私の顔を見て、一瞬考えたと思うとパッと顔を輝かせた。


「理沙さんっ!?」


「アイシャさんお久しぶりです!」


「娘の事があったせいで、全然気が付きませんでした!」


「私もですよ! お元気そうで何よりです! と言うか宗なんで教えてくれなかったのかしら……」


おでこに手を当てため息をつく。

あの時、斉藤さんを語る宗の口から店の話は一切出てこなかった。

話題は終始斉藤さんオンリーだったし……。

思い出すと胸焼けしそうだわ。

うっぷ。


「あらあら。ふふ、本当にお久しぶりです。あの時はお世話になりました」


「いえ、とんでもありません。その後お変わりないですか?」


「ええ、お陰様で。しかし、先日も沢良木君があの時の子だとわかった時も驚いたけど、まさか理沙さんと一緒だったとはね」


「私もですよ。愛奈ちゃんの話は宗から胸焼けするくらい聞いてますから。まさかあの店の子の事だとは思いもしませんでしたよ」


私は二人が走り去った方を見る。


「そうですか」


にこりと笑うと、私の視線に合わせアイシャさんも視線を向ける。


「無事、見つけられると良いけど」


「沢良木君なら大丈夫ですよ。これでも男の子を見る目あるんです」


自信満々のアイシャさんに釣られて笑ってしまう。


「ふふ、そうですね」


ま、頑張りなさい男の子。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「斉藤さんっ……」


どこだっ!?

くそっ、人が多いなっ!


人がごった返す休日のショッピングモールへ胸中で悪態をつく。


「くっ、すいませんっ、通してください!」


周りから怪訝な視線を送られるが、なりふり構っていられない。

斉藤さんの向かったであろう方向にひたすら走る。


小柄な斉藤さんは上手く人の間を縫って走っているのか、一向に捉えられない。

既に追いかけ始めて2、3分程経過している。

あの時居たのは、施設の端の出口付近だったが今は中程まで来ている。

これだけ時間があれば目の届かない所まで走って行けるだろう。


あの一瞬。

驚愕と悲痛がない交ぜになった表情。

斉藤さんの表情に自分でも驚く程心が揺れた。

頭を横から殴られた様な感覚に襲われ、俺は咄嗟に動けなかった。


理沙の声になんとか正気を取り戻し地面を蹴ったが、今の状況だ。

未だに俺の胸中は不安と焦りが渦巻いている。

この感情の出所は分からないが、なんとしても斉藤さんと話がしたい。


「斉藤さん、どこいったんだよ……」


走りながら視線を絶えず巡らす。


ふと、人の波が疎らになり、視界が幾分か広がった。

一度足を止めるとぐるりと周囲を見回した。

この中程に位置する場所には出入口も存在する。

外に出られたとしたら、見つけるのは難しいかもしれない。

中か外か、その判断だけでもしなければと必死に彼女の金髪を探す。


どこだ、どこだ、どこだ?


その時、距離は遠いが尚も巡らす視線が金の髪を捉えた気がした。

更に施設の奥へと、走り出した場所から反対側に位置するエリアへと向かう方向だ。


そっちかっ!


俺は再び地面を蹴った。





「はあっ、はっ、はっ……」


最早この施設の反対側まで到達しようとしていた。

まだ、金髪の彼女は見つからない。


走り通しに加え心の焦りがあるからか、息が切れ始めた。

足を止めると膝にてを当て、呼吸を整えようと努める。


「はぁ、はぁ、はぁっ……どこにいるんだよ?」


ここにいない斉藤さんへ問いかける。


「だれかさがしてるの?」


「へ?」


俺の宛先も無く返事が来ないであろう呟きが、意外にも返ってきた。

気の抜けた声を上げてしまった俺は、顔を上げ声の主を見た。


「?」


つぶらな双眸が俺を見つめていた。


5歳くらいの女の子。

髪を花の髪止めで二つに下げた可愛らしい女の子だった。


「……ああ、そうなんだよ」


そう言えば誰かに聞いたりしなかったな。

今からはその方向でも探してみよう。

ここを通っていれば、見ていた人もいるかもしれない。

焦りで考えが狭まっているな。


「だれ? おかあさん?」


お下げの幼女は可愛らしく首を傾げる。


「違うよ。金色の髪の毛をした、可愛いお姉ちゃんだよ」


「きんいろのおねえちゃん?」


「うん、天使みたいなお姉ちゃんだよ」


俺は子供に何を言ってるんだろうか。

幼女に向かって天使みたいなお姉ちゃんを探しているとか、変質者か。

だが、後悔していない。

事実天使だからな。


「うーん。てんし?は分からないけどないてるきんいろのおねえちゃんならみたよ?」


はい?

ないてるきんいろのおねえちゃんならみたよ。


泣いている、金色のお姉ちゃんなら、見たよ。


「おお! それだ!」


泣き虫なあの子の事だ。

もしかしたら泣いているかも、と苦い想像もしていた。

凄い、一発目で有力情報がきたぞ。


「そうなの?」


「ああ、俺が探しているお姉ちゃんはその泣いているお姉ちゃんだ。どこに行ったか分かるかな?」


「うーんとね、あっちいったよ」


幼女が斉藤さんが向かったと言う方向を指差す。

指差す先を見ると、職員用のバックヤードへ向かう通路のようだった。

この幼女が導きの天使に見えるぜ。


「そっか。ありがとうね、助かったよ! これはご褒美だよ」


俺はポケットからファミレスで貰った口直し用の飴を出すと、導きの天使に手渡した。


「わぁ、ありがとうおにいちゃん!」


「うん、それじゃ行くね」


「ばいばーい」


手を振る導きの天使に別れを告げ、俺は斉藤さんが向かったと言う通路へと歩みを進めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ