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第27話 ぶっこわれた!

「足りない」


「藪から棒になによ?」


理沙が俺に向け怪訝な視線を寄越す。

俺と理沙は今、現場で片付けも終わり撤収するところだ。

今日の仕事は亡くなった老人の遺品整理だった。

規模もさほどでは無かったため、午後に理沙が一人で現場入りして、俺が合流した形だ。


仕事が片付き撤収作業も終わろうと言う頃、冒頭の俺の言葉だ。



何が足りないって?


そんなもん一つしかないだろ。


「天使成分だ!」


「……」


理沙が胡乱げな視線を俺に向ける。

ジト目とか理沙みたいな美人にやられると癖になりそうだ。


いや、そんなことより。


足りない。

足りないんだ。

癒しの天使、金髪の天使が!


あの照れて赤くした顔に、あの天使の微笑みに、あのなついてくる愛らしい小動物感に!

癒されたいんだ!


俺が心中で語っている間も理沙のジト目は変わらない。

よせよ、照れるぜ。


「で、つまりどゆこと? まあ、素晴らしく意味不明よ」


「天使成分が足りないんだ! 金髪の天使が!」


「だから天使がってところが分からないんだってば!?」


何故分からない!

この俺の悲壮感をっ!!

断腸の念をっ!!


「火曜日から来てないんだよ! 斉藤さんが!」


俺は両手で顔を覆った。


「誰よ斉藤!?」


「俺の天使がぁ!!」


俺はあまりの悲しみに地に膝を着けてしまう。


「宗がぶっこわれたぁ!!」



つまり、金髪の天使こと斉藤愛奈さんが例の月曜日以降、学校へ登校していないのだ。

教師曰く風邪と言うことだが、今日は金曜日。

すでに4日も欠席している。

これが心配せずにいられるだろうか、否いられない。


万が一風邪と言うのが嘘で俺に会いたくないと言う理由ならば、自主退学すら辞さない構えだ。


4日間このような事を考え続け、頭の中は鬱々たる様相。

遂に爆発してしまったようだ。



「ほらっ、とりあえずここは終わりだから撤収するよ!! 後で聞いてあげるから!」


「ああ……」


俺は理沙に引き摺られるように現場を後にした。




「それで? 何があったのよ?」


現場の帰り道、バンタイプの営業車の中で理沙が運転しながら俺に問いかける。


「と言うかいい加減教えてよ。月曜からあんたおかし過ぎる。こっちも良い迷惑よ」


理沙の言う事ももっともだ。

仕事はしているが、俺の異常な様子が皆に心配をかけている状態だ。

それだけ斉藤さんの癒しは絶大と言う訳か。


金髪の天使を知らなければ知らないで生きていけただろう。

今まで通り俺はなにも知らず学校と言う箱庭で過ごしていたはずだ。

だけど、俺は見つけてしまった。

有象無象が跋扈する箱庭で、ただ一輪の輝く花を!金髪の天使を!

俺は知ってしまったのだから!



「そう言うことだ!」


俺は拳を握りしめ突き上げる。


「どういうことよ!」


うごっーー


右からストレートが飛んできて、俺の右頬が歪む。

痛い。


「すまん、脳内完結してしまったようだ」


「なんでも良いから早くして」


なんでもは、酷い。



俺はポツリポツリと理沙に語った。

特にこの一週間の事を。

話すのは気恥ずかしかったが、一人では溜め込んでしまうため聞いて貰えるのは正直助かった。

相手が理沙だったことも話せた一因だろう。

途中から、俺の話がいかに斉藤さんの天使度合いが素晴らしいかに変わっていったところ、再びストレートが俺の頬に突き刺さった。


「はぁ……。つまり何? 仲良くなった女の子が学校に最近来なくて、もしかしたら自分がその原因かもしれないって?」


「概ね間違いない」


理沙は溜め息を漏らしながらこめかみを揉んだ。


「しっかし、宗にそんな娘が出来るとはねー」


感慨深いわ、と言うと頷いた。

いまいち理沙の態度が飲み込めない。


「どういうこと?」


「好き、なんでしょ?」


横目にこちらを見やる理沙と目が合う。

好き?

俺が斉藤さんを?


理沙の言い分に呆けてしまう。


「そんな訳あるか。斉藤さんは愛でる対象だ。その愛らしさ、美しさ、素晴らしさを尊ぶ存在だ!」


「あー、はいはい。その斉藤さんも大変ね……」


ヒラヒラと片手を振り俺の話を遮る。


「?」


「ま、あんたが嫌われてるってのは無いだろうから、安心なさい」


「ほ、ホントか!?」


「この惚気話されて、どうしたら嫌いって出てくんのよ」


先程から理沙の溜め息が止まらない。

幸せが抜けないか心配になってしまう。

適齢期過ぎちまうぞ。


再びストレートが以下略。

痛い。


しかし。


「……そうか、嫌われてないのか」


そうなると、風邪で休んでいる事が気掛かりだ。

すぐさまお見舞いに馳せ参じたい。


「こうしちゃおれん。お見舞い申し上げなければ!理沙、向かってくれっ!」


「あんたバカなの? 時間見なさい、時間を」


時間?

なんと、既に19時ですと。

さすがに遅いな。

ぐぬぬ、仕方ない今日は諦めよう。


「……あんたホントに宗?」


信号で停まると、理沙が俺の目を見つめてきた。


「何言ってんだ? 正真正銘の沢良木宗だが」


俺の答えに少し目を細め理沙は言う。


「だよねぇ。なんか昔の、口開けば文句か減らず口たたく宗に戻ったみたいで懐かしいよ、ふふ」


どこか懐かしむ笑い声だった。

俺が退行しているとでも言うのか?

なにそれ嬉しくない。


「ま、その斉藤さんには嫌われないよう頑張んなさい」


「ああ」


俺は胸のつかえが取れた様な快哉とした気持ちになれた。

やっぱり人に聞いて貰えるのはありがたいな。

今回の話は身内みたいな理沙くらいにしか話せないような内容だったけどさ。


「あ、そう言えば明日は買い出し手伝いなさい、宗は荷物持ちね」


「わかった」


今なら俺は何でも言うこと聞いちゃうぜ。

そんぐらい晴れ晴れとした気分ってことで。


この日家に帰ると俺は久しぶりにぐっすりと眠った。










沢良木君がバカです。

キャラ崩壊してきました。

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