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第24話 星空

本日2話目。

よろしくお願いいたします。








「宗には悪いことしたな……」


そう言って髪の剃りあげた頭を掻く。


俺は居間のちゃぶ台で向かい合わせに座る最愛の妻と、先程あった出来事について言葉を交わしていた。


「そうねぇ。メガネ掛けられないと大変だものね」


アイシャがおっとりした口調で頷く。

俺の不注意で宗のメガネを壊してしまったのだ。

愛奈ちゃんの事で浮かれていた自分が恥ずかしい。


「気にしないとは言ってたが、今度弁償しねえとな。……よし、ついでに飲みにでも誘うか」


「あらあら。あなた、沢良木君のこと随分気に入ったみたいね?」


先程までの事を思い出してか、楽しそうに微笑むとそう言った。


「ああ。久しぶりに会えば、あん時のガキが随分立派になったもんだ」


「あら? 知り合いだったの?」


それなら言ってくれれば良かったのに、と首を傾げた。

この様子だと2年前に一度宗がここへ来ていた事に気が付いていなかったみたいだな。

いや、そもそもあの時の宗と今の宗が合致していないというか。


「気付かなかったか? あいつ、2年前にもここに来たぜ?」


二年前?と考え込むと、少ししてパッと顔を上げた。

その顔には驚きと納得が現れている。


「……もしかして、改装の時の?」


「ああ。最初は全然分からなかったが、顔をよーく見たらすぐに分かったぜ。厨房の片付けん時に少し話ししたんだ」


「まぁ、あの子が……」


アイシャはそう言って眩しそうに目を細めた。

あの時の事を思い出しているのだろう。


改装をした2年前。

その最中ちょっとしたトラブルがあった。

その際、活躍した小僧がいた。


それが宗。

俺らは宗と宗のいる万屋にちょっとした恩があった。


まあ、アイツがウチの愛奈ちゃんと縁があったんだ。

愛奈ちゃんにも詳しく語る時が来るかもしれん。


と言うより、アイツもしかしたら愛奈ちゃんと会ったことあるんじゃないか?


俺が物思いに耽っているところにアイシャが口を開く。


「ふふ……あの子ならウチの愛奈ちゃんを任せられそうね?」


「……んぶっぉ!?」


妻の言葉に飲んでいたお茶を吹き出しかけた。

必死に飲み込む。


おいおい……!


「じ、冗談言うなよ! お、俺はやらんぞ、あんなヤツに!! そ、それに愛奈ちゃんはまだ子供でっ!!」


愛奈ちゃんを嫁に出す?

考えられるかぁ!!


「もう、さっきあなたが自分で言ったばかりじゃない。愛奈ちゃんももう子供じゃない、って」


アイシャはハンカチを取り出すと俺に手渡した。


「ぐ……」


口を拭いながら、俺は言葉に詰まってしまう。


確かに先程言ったばかりだ。

その事を認めながらも、やはり認めたくない。

複雑な男親の性だ。


「だ、だかな、だが……」


上手く二の句が繋げない。


「ふふ、何も今すぐに嫁ぐ訳じゃないわ。近い将来そうなるってだけよ」


それでも複雑ってもんだろ?


「わたしは愛奈ちゃんがその気なら沢良木君には息子になって欲しいなぁ」


「あ、アイちゃん、本気かよっ!」


動揺のあまり昔の呼び方が出てしまった。

アイシャはそれが嬉しいのか、上機嫌に続けた。


「だって、あの子、俊君の若い頃に似てるんですもの」


満面の眩しい笑みを咲かすが、俺はそれどころではない。


やめてくれっ!!



寒気がするわっ!!!



先程帰った宗を思い出して逆恨みした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……へっくしょぃっ!」


うおぉ。

急に寒気した。

なんなんだ。


「沢良木君大丈夫?」


斉藤さんが俺の顔を覗くように首を傾げる。


俺は見送りに出てくれた斉藤さんと二人、商店街を並んで歩いていた。

夜の帳が降りた商店街は不思議と誰一人歩いて居なかった。


「ああ。なんか急に来たな」


「くしゃみだから、誰か噂してるかな?」


少し楽しそうな歩調。

微笑む横顔に思わずこちらも釣られてしまう。


「俊夫さんあたりが俺の悪口を言っていると見た」


「ふふ、案外当たってるかもね?」


斉藤さんと交わす何気無い会話に心が和む。

きっとアロマテラピー的リラックス効果があるに違いない。

最早研究論文を書くことも辞さない所存だ。

天使と癒し。

うん、題名はこれで決まったな。


斉藤さんのブロンドが街灯で照らされる。

夜になっても変わらない斉藤さんの天使度が素晴らしい。


「ね、ねえ沢良木君?」


「ん?」


ぼーっと、とりとめの無い事を考えていると、斉藤さんが少し思い詰めた様な表情で口を開いた。


「えっと……メガネのことなんだけどね」


「ああ、これ?」


俺は胸ポケットに入れた、砕け散った相棒を指す。

俺は今、メガネを掛けないで歩いている。


「う、うん。その、掛けなくても歩くの大丈夫なのかなーって、それでね、その、もし歩くの大変なら、わ、わたしが、その…沢…木…の手………握って……い…よ?」


斉藤さんは目を合わせず何故かそっぽを向きながら喋る。

しかし、その声は段々と小さくなっていき、終いには聞こえなくなってしまった。


むむ?

んー。

あ、そうか。

聞こえた情報を鑑みるに、メガネが無いのに歩けてるから不思議に思ったのか。

なるほどなるほど。


それに自分の父親が壊してしまった罪悪感もあるのかもしれない。


「あー、実はこれ無くても問題ないんだ」


特に秘密にしていた訳ではないが、今まで言った事の無い事実を伝えた。


「え?」


「これ、伊達だから」


メガネの残骸をぷらぷらと振る。


「……え、えぇぇぇえっ!?」


もの凄く驚かれた。

その驚いた声にこちらが驚いてしまうわ。


「そんなに驚くこと?」


と問いかけるが、斉藤さんは俯いてしまっている。


「ええ!?そ、それじゃ、わたし、勘違いして手握ろうとして……って恥ずかしいって!?」


頬に手を当て、何やらぶつぶつと独り言を言っている。


……何か怒らせる様なこと言っただろうか?

ちょっと心配になってくる。


伊達メガネだって黙ってたこと怒っているのだろうか?

だとしたらかなり手遅れな気がする。


……どうしよう。


「あの。……怒ってる?」


聞かねば分からぬ!

はっきり聞いてこそ男の子!


「え?」


ぱっと顔を上げた斉藤さんには怒気は微塵もなかった。

むしろ。


ちょうど街灯の下に差し掛かり、その顔が照らされる。



その顔は真っ赤だった。



「……あ」


俺の間抜けた声が漏れた。


こちらを見上げる目と見下ろす目が合う。

二人の歩みも自然と止まった。

気がつけば、先程まで杞憂していた事なんてすっぽり抜け落ちてしまっている。




斉藤さんの、その上気した頬が夜空の下では妙に色っぽく見えた。


段々と心臓の自己主張が激しくなる。

顔が熱い。

多分真っ赤だ。斉藤さんからも分かるだろうな。


何故だろうか。目の前の子がいつも以上に可愛く見えて仕方ない。

俺はどうしたのだろう。


お互い、無意識に体を向かい合わせていた。


自制心。


心の中では繰り返す言葉も頭は理解しない。してくれない。



「……斉藤さん」


気がつけばその名前を口にしていた。


「沢良木君……?」


見上げる斉藤さんも俺の言葉に返すように口にする。


お互い目は離さなかった。



俺たちの距離は1メートル。一歩進めば届く距離。

その1メートルが長く感じた

俺は踏み出せない。


俺が動けないでいる時、踏み出したのは彼女だった。

その小さな歩幅が徐々に二人の距離を減らす。


気がつけば二人の距離はほとんど無くなっていた。


見上げたままの彼女は小さく微笑んだ。



やっぱり天使だよ君は。


俺は右手を彼女の頬に伸ばし……。


















フッ、と。


町の明かりが落ちた。










「きゃぁっ!?」


「うおっ!?」


二人で驚きに声をあげると、その距離は半歩ずつ空く。

だけど、それ以上は開かない。


何故なら。



俺の伸ばした右手を彼女が両手で掴んでいたから。


手と手が触れる、それだけなのに心臓がうるさかった。


「あっ……」


彼女は咄嗟に掴んでいたのであろう。

しかし、それに気付いても離そうとはしなかった。


俺と目が合うと、顔を真っ赤にしながらも微笑んだ。


俺もさっきと変わらず真っ赤だと思う。

彼女から俺の方が目を背けてしまった。


もうこの天使には敵わない気がする。




俺は恥ずかしさを紛らわす様に空を見上げた。


「……あ」


俺の声に釣られて斉藤さんも空を見上げる。


「わぁ、すごい……」



先程、彼女の微笑む顔が見えた理由が分かった。


満天の星。



都会と言うには田舎臭い、だけど住む分には不自由しない。

そんな中途半端な町。

そんな町が光を落とせば空にはこんなにも星が瞬いていた。


あまりに多い輝く星は、お互いの顔をうっすらと見せる程の光を放つ。


「綺麗だね……」


「ああ」


洒落たセリフも言えず、頷き返す。


これだけの大規模停電だ。

町の至るところでは、てんやわんやだろう。

多くの人々が大変な迷惑を被っているかもしれない。


だけど、それでも、こんな時間をくれた停電に不謹慎にも感謝したくなったのだった。





俺達は停電が復旧するまで星空を見続けていた。


お互い手を握って。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ただいま!」


玄関を開けて家へ駆け込む。

高揚した気持ちが抑えられず、思わず駆け足になってしまった。


「あっ! 愛奈ちゃん大丈夫だったかい! 停電あっただろ!?」


「愛奈ちゃんおかえりなさい」


わたしの帰りを待っていたのか、パパが玄関近くで待ち構えていた。

隣には微笑むママの姿もある。


「大丈夫だよ。結局沢良木君にそこまで送ってもらっちゃった、えへへ」


送りに行ったのに、逆に送られて来るとは中々珍しい体験だと思う。


「はぁ、それなら良いんだ……。宗の事だから大丈夫だとは思ったけどよ」


なんだかパパが宗君を信頼してる様な口振り。

本当に仲良くなったのかも。


「やっぱりそうでしょ?」


ママも同じ様な口振りだ。


我が家の宗君の信頼度妙に高いね!


「それじゃ、わたしお風呂入って来るね!」


両親との会話もそこそこに風呂場へ向かった。


「え!? ま、愛奈ちゃん!?」


後ろではパパの声が聞こえていたが無視をする。

パパごめんなさい!


今はとにかく一人になりたいの!


わたし、今凄くニヤけちゃってるから!!




わたしは身体を流すのもそうそうに、湯船に浸かった。


ざぶん。


鼻から上だけを湯から出して、口からブクブクと息を吐く。

口元が無意識に緩んでしまう。


えへへ。


湯から左手を出し見つめる。


「えへへー」


その左手をにぎにぎと動かす。


宗君と手繋いじゃったー!!

きゃー!!


どうしよー!!

どうしよー!!


嬉しいよー!!


バシャバシャと湯船の中で身悶える。

胸中のときめきが抑えられない。

この気持ちはなんと例えたらいいんだろう?


胸の奥が、ぎゅって……。

嬉しいんだけど、切なくて。



ーー沢良木君のどこが好きなの?ーー




ふと、ママが言ってた言葉を思い出した。



「ぁ……」




好き。



……好き。



…………好き。



………………そっか。



わたしは。



宗君が。







「好きなんだ」









愛奈ちゃん回でした。

明日もよろしくお願いいたします。

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