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第23話 喧嘩

本日もよろしくお願いいたします。







食事後の一時。

アイシャさんに出して頂いたお茶を皆で飲んでいた。


いつの間にか金髪の天使が隣に座っていたので、天使と会話している。

あ、愛奈ちゃんの方ね。


「あのだし巻きも斉藤さんが作ったんだ?」


「うん、そうなんだー。味は大丈夫だったかな?」


少し心配そうに首を傾げる天使。


「全くもって問題ない! 大変旨かった!」


あの美味しさを思い出して、つい声が大きくなってしまった。

恥ずかしい。


少し驚いた斉藤さんだが、すぐに相好を崩した。


「ぷっ、ふふふ………良かった。喜んで貰えて」


思わずと言った様子で吹き出した斉藤さんは笑った後、嬉しそうに微笑んだ。


今までとはちょっと違う趣の笑みに心臓が跳ねる。


「……ぁ、あ、あー、そう!いつもの甘いヤツも美味しいけど、だし巻きも良いもんだね」


顔が熱くなるのを自覚しながら、話題を探し思い付いた事を口にする。


「……おい、今聞き捨てならねぇことを耳にしたんだが」


筋肉ダルマがずいっとこちらに身を寄せる。


あ、やべ。

学校の事喋っちまった。

隠している訳ではないが、娘溺愛の筋肉ダルマに知られたら面倒そうこの上ない。


この様子だと斉藤さんも言って無いんだろうな。


「あ、それはーー」


「えへへ……それじゃたまには、だし巻きも作ってお弁当に入れてみるね!」


おおう。

俺が誤魔化そうと試みるも、筋肉ダルマの話が耳に入っていなかった斉藤さんはご機嫌に続けてしまう。


ふっ、笑顔が眩しいぜ。


「な、な、ななんで、愛奈ちゃんが宗のお弁当の話してんだ!?」


戦慄く筋肉ダルマ。

その身を更にこちらにに寄せて、俺らの間に割り込む。


「わっ!? ぱ、パパ! びっくりするじゃない!」


「だ、だってよ、パパ学校の事あんまり聞かせて貰ってないしさ!」


「な、なんでパパになんでも話さなくちゃいけないの!?」


「パパは愛奈ちゃんの父親だぞ!? それくらい聞いてもーー」


売り言葉に買い言葉。

親子が言葉の応酬を始める。

あれよこれよと言葉が飛び交う。


おおう。

語気の強い斉藤さんにお兄さんちょっとびっくり。

こんな喋りもするんだね。

新たな一面を見れて感慨深い。

何か鬱憤が溜まっていたのだろうか?


俊夫さんも何やらヒートアップ。

子供相手に子供っぽくなっている。


しかし。


俺の前ではやめて欲しいわ。

超隣だよ。

居づらいわ。


「も、もうっ! ………パパ大嫌いっ!!」


愛娘がついにトドメを刺した。


「……!!」


声無く慟哭を顔面で表現する筋肉ダルマ。


確かに年頃の娘だ。

お父さんにはキツく当たるかもしれない。


だが、お互い様とは言え(責任の一端俺)、流石に俊夫さんが可哀想に見えてしまう。

掃除中の世間話でポロっと口にしていた、娘が冷たいと言う話を思い出す。


そこで俺の変なスイッチが入ってしまった。



ここは心を鬼にして天使の言葉を諫めよう。


お父さんは大事にな。




「斉藤さん、その言い方は少しひどいんじゃないか?」


「えっ……?」


斉藤さんの顔が驚愕に彩られる。


それはそうだろう。

これが俺からの初めての叱責だ。


俺だって出来れば言いたくない。

ぬるま湯のように心地良い斉藤さんとの友人関係に浸っていたい。

だけど、そんな馴れ合いの関係ではどこかで綻びが生まれる。

どこかで生まれた歪みが、せっかく築き上げた信頼を壊すかもしれない。


「友人の家族事情に首を突っ込むのが差し出がましいし、余計な事だってことは重々承知している。けど聞いてくれないか」


心のどこかで怯えながら付き合う友人関係になんの価値があるのか。

本当の友人と言えるのか。

俺はこの子と心から向き合いたい。


「斉藤さんも年頃の女の子だ。もしかしたらお父さんの事を鬱陶しく思うかもしれない。それは仕方ないと思う」


俺はこの子の事を信じている。


「でも、俊夫さんが君の事を大事に思っていることを忘れてはダメだ。その想いが世界で一番、誰よりも大きいことを。君はいつもお父さんの愛情を一身に受けているんだ。自分でも気付いているだろう?」


俺の言葉を受け止め、受け入れ、理解する。

そんな純粋さと心優しさを持っているんだから。


「気が付いていても受け入れることは難しい事なのかもしれない。だから、すぐに理解してほしいとは言わない。いずれで構わないんだ」


だから。


「……でも、でもな。謝れる相手がいつまでも居るとは、限らないんだ」


伝えたい。


「斉藤さんには俺と同じ想いはして欲しくない。大げさに聞こえるかもしれないが心の片隅に置いていて欲しいんだ」


これは斉藤さんに宛てた言葉だが、昔の俺自身に向けた言葉でもあった。

俺は一呼吸すると、最後に伝えたい言葉を口にする。


「後悔は先に出来ないからな。お父さんは大事にしてくれ」


後に悔いるから後悔なんだぜ。

そのまんまだけどね!


「「…………」」


静寂が居間を包む。


「……」


おおう。


くそ、変なスイッチが入っちまった。

友達の家で何を語っているのか。

くさすぎる。

普通ならドン引きだよ。

マジなトーンで喋っちまった。

むちゃくちゃ恥ずかしい。

死にたい程恥ずかしい。



死にたい。




こんなこと言う予定じゃ全然無かった。

適当に茶化して、話題を逸らすのが目的だったのに。


穴があったら入りたい。

そして埋めてくれ。



俺はいろいろ諦めて、全く言葉を発っさない二人を見た。


「……うぉっ!?」


びっくりした。


「ぅっ、うぅ……うわぁぁぁあんっ!」


金髪の天使がお顔をぐしゃぐしゃにしてお泣きになっていた。

泣き顔もキュートだぜ。


「さ、さわらぎぐん、ごべんなさいぃ~!!」


いや、俺に謝るなよ。

謝るの父ちゃんだよ。


「宗っ、お前も辛かったんだな……!?」


……お前もかよ。


娘と同様顔がぐしゃぐしゃになっている俊夫さんに背中をバシバシと力強く叩かれる。


痛い。

普通に痛い。

いや、マジ痛いって!!


「辛い時はいつでも俺に言えよなっ!!」


そのまま今度は頭をガシガシ撫でられる。


髪抜ける。

普通に抜ける。

マジ抜けるからっ!!


メガネまでぶっ飛ぶ。


俺どうすればいいのよ。


とりあえず斉藤さんから方向修正を試みよう。


「俺は大丈夫だよ。……俊夫さんに言うことあるんじゃない?」


優しげスマイルで斉藤さんを促す。


「……ふぇ……」


斉藤さんは俺を見たまま、目を点にする。


「……どうしたの斉藤さん?」


あ、メガネなくなった上に髪もぐちゃぐちゃ。

ナリに拘りは無いけど、これはみっともないな。

確かにびっくりするか。


カッコ悪りぃぜ……。


「う、ううん」


首を振ると斉藤さんは俊夫さんに向き直った。

そして、少し姿勢を正す。


「……パパ、さっきは言い過ぎてごめんなさい」


そう言い深く頭を下げた。

その姿に俊夫さんは恥ずかしげに頬を掻いている。


「ま、愛奈ちゃん。パパも言い過ぎた。ごめんな?」


「うん。……いつもパパがわたしを心配してくれてる事は分かってるの。だけど、その、なんだか気恥ずかしくて。むきになって乱暴な言葉吐いちゃったりして、ごめんなさい」


「いや、パパも心配し過ぎだったのかもしれん。夕方も言われちまったけど。そうだよな、愛奈ちゃんももう子供じゃないんだよな」


親子が静かに視線を交わす。

俊夫さんは少し寂しそうな、だけど父親の顔で微笑んだ。


「パパっ!」


斉藤さんは感極まった様に俊夫さんへ抱きついた。


「ま、愛奈ちゃん?」


久しい娘との抱擁からか、驚きに固まった俊夫さん。


「……大好き!」


「………!?」


先ほどの慟哭とは打って変わって驚喜の表情を浮かべる。

瞬く間にデレデレとしただらしない顔になった。



またしても特等席で親子の感動ドラマを見させて頂いた。

仲直り出来て良かった良かった。


……斉藤さん、めっちゃ良い子だからこんなお節介要らなかったかもな。


とりあえずめでたし、めでたしだな。



弁当から話題を逸らすことも成功だぜ!





バキッ。


思わぬ収穫に浮かれている俺の耳に何か割れる音が木霊した。



俊夫さんの尻の下には無惨に砕けた、俺のメガネがあった。





「メガネぇぇぇえっ!!」











次話、遂に愛奈ちゃん回!?

夕方過ぎに投稿予定です。

良ければお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] そーいうのも1種の反抗期な訳で。成長のプロセスにおいて特に重要なことを他人が、しかも家族でもないやつが口出しするとか少し頭がおかしいとしか思えない。いくら親が死んでるとは言え斎藤さんは死んで…
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