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第22話 騒がしい食卓

本日2回目です。

よろしくお願いいたします。






「さ、そろそろ飯も出来ただろう。いくぞ宗」


「ああ」


俊夫さんに続き、居間へ足を踏入れた。

外見の通り、中も旧日本家屋然とした落ち着いた装いであった。

15畳程度だろうか。

畳張りの部屋の真ん中には背の低く目な長方形のちゃぶ台が置かれている。

テレビや家具など一通りあることから、ここが団欒の場所となるのだろう。


「まあ、座れや」


俊夫さんに勧められたので座布団へ失礼する。

座布団が既にひかれていたので、下座へと座ろうとするが、俊夫さんに止められてしまう。


「おいおい、客が何遠慮してんだよ、お前はこっちだ」


そう言って上座に連れられてしまった。

ちょっと恐縮。

昔理沙に教わってから仕事の時は常に意識していたため、ここに来て無意識に身体が動いていたようだ。


「すいません失礼します」


そう言うと俺は座布団に正座した。

既に勧められたため、座布団の下から始めたりしない。

どうせ俊夫さんに止めさせられちまうからな!


「ったく、正座も止めろ止めろ、崩して構わないぞ。堅苦しいのはやめろ。ガキは図々しいくらいが丁度良いんだよ」


おおう。

これも止められちまったぜ。


「いいだろう。そこまで言うなら仕方ない」


それなら見せてやろうじゃないの。

近所でも評判だった俺の傲慢不遜な態度ってやつを。



the胡座だ。




「なんで胡座かいてそんなに背筋伸びんだ?癖か?」


なに?


……こ、これは。



この俺が緊張しているだと?


確かに友人の家、と言うのは小学校以来かもしれない。

久しい体験に俺の身体は無意識にも緊張していると言うのだろうか。



よせやい、そんな目で俺を見ないで。



ふう……。


「そんな訳ないだろ? 俺のチャームポイントを挙げるならば真っ先に思い浮かぶのが、猫背だ」


「全然可愛くねえチャームポイントだな」


「なら、そう言う俊夫さんのチャームポイントはどこだって言うんだ?さぞかし素晴らしいんだろうな?」


俺の言葉を聞くと俊夫さんはニカリと笑う。

その顔がよくぞ聞いた、と物語っている。

余計な事したか?


「俺はここよ!」


そう言うと半袖を捲り上げた。

ご自慢の腕を指差しながら力説する。


「皆さんご存知のココ! 当然ながらこの上腕二頭筋、三頭筋は素晴らしい形状をしていると自負している! 見惚れると言っても過言では無いな!」


口調すら変わってしまった俊夫さんは更に捲し立てる。


「だがな! ここで忘れてはいけない部分があるんだよ! わかるか? そんな宗に特別に教えよう! それがココぉっ!」


聞いてねぇよ。


「上腕筋っ!!」


尚も腕を指差す俊夫さん。

俺には同じ所指してるとしか思えない。


やっぱり筋肉ダルマでいいや。


「そうだろう、そうだろう。上腕筋と聞いて皆思うだろう。え、さっきの二頭金や三頭筋となにが違うの?、と」


ずずい、と顔を寄せるとパチリと器用にウィンクした。

筋肉ダルマがそんなことしたら、ただのホラーだ。

この笑顔、殴りたい。


「悲しいことに、この二の腕は二頭筋と三頭筋で構成されていると思われている。だから俺は声を大にして言いたい! 真の立役者は彼なのだとっ!!!」


「だぁっうるせえ!!声デケェよっ!!そもそもチャームポイントどこいった!?」


いつの間にか掴まれていた腕を振りほどき怒鳴る。

チャームポイントがウルトラC級決めに来ている。


ちなみに俺は平成生まれだ。



「むむっ?」


途端に静かになった筋肉ダルマが俺の腕をじっと見つめていた。


「最初会ったときから思ってたんだが。宗、お前中々良い身体付きしているな?」


「触らせねえよ!!」


熊の様な手をわきわきする筋肉ダルマに俺は思いっきり後ずさった。


筋肉ダルマの前では、絶対にマッスルトークしないことを心に誓った。




「お待たせー」


アイシャさんの声と共に料理が運ばれてきた。

少し遅れて斉藤さんも料理を持ってやってくる。


テーブルに置かれた料理につい目を輝かせてしまう。


旨そうだ……。

思い出した様に腹が空腹を訴えてくる。現金なものだ。

普段、斉藤さんのお弁当をご馳走になっている身としては、作りたてと言うのはそれだけで垂涎の的である。


ふと斉藤さんを見ると、なんだか顔が赤くなっている。

気になったので何気なしに聞いてみた。


「あれ?斉藤さん顔赤いけど大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ!?気にしないで!!」


未だ赤いままそう言うとブンブンと首を振った。

男二人は訳が分からず首を傾げる。


そんな様子にアイシャさんは微笑む様に目を細めるのだった。




「「いただきます!」」


野郎二人の声が重なる。


「はい、召し上がれ」


「い、いっぱい食べてね?」


優しく微笑むアイシャさんと、未だ顔赤くも俺を見る斉藤さん。


二人の天使を見ながらご飯を頂けるとは、至極光栄の極みですね。

普段からこの環境に身を甘んじている筋肉ダルマには軽く殺意が湧く。


いや、筋肉ダルマなんてどうでも良いんだ。

それより目の前のご馳走だ。


彼女らの見た目に反して、献立は純和風だった。


焼き魚、煮っころがし、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、蕪や茄子の漬物、豆腐と野菜の味噌汁。


確かに目新しい物のない、平凡な献立だ。

しかし、だ。

この料理達を見たらその認識は改めさせられる。


ひとつひとつの料理の完成度の高さ。

素材ひとつひとつの良さを殺すことなく、かつその魅力を最大限に視覚で食事を頂く者へを伝えてくるのだ。

これだけの料理を作れる方達だ。味は言わずもがな素晴らしいに決まっているであろう。



早速俺は目を着けていた煮っころがしに手を着けた。

里芋や人参などの根菜の煮っころがしだ。


うん。

見た目に違わず味のしみ具合といい、素晴らしい味付けだ。

良い塩梅のしょっぱさにご飯がすすむ。

このご飯の米も一粒一粒が立っていてとても旨い。


流石は定食屋の夕飯。

クオリティが半端ないな。

いや、この二人の腕か。


「この煮っころがし凄く美味しいです」


「あっ……!」


俺の食べる姿をじっと見ていた斉藤さんが声をあげる。


第1回心中品評会を開いていたことを見透かされそうだ。

恥ずかしいから、そんなに見ないで。


「もしかして、これは斉藤さんが?」


「うんっ! そうだよ!」


満面の笑みを振りまく天使。

その笑顔でご飯10杯は軽いです。


「愛奈ちゃん、良かったね?」


「うん!」


アイシャさんと斉藤さんがお互い微笑み合う。

とても仲の良い親娘だ。


「……っあ! こ、これはね! な、なんでもないの!」


と、急に斉藤さんが慌て出した。

何故慌てるのか俺はよく分からないが。


「?」


「ぁぅ……」


照れる(様に見える)斉藤さんが可愛いので問題ない。


その時俺は気付いた。

隣に居る筋肉ダルマが静か過ぎることに。


最初の、いただきます、しか聞いていない。


そちらに目を向けると惨状が広がっていた。


「っがっつ、あぐっ、んぐっ、あぁぐっ、んぐんぐ……」


必死の形相で飯に食らい付く筋肉ダルマ。

味わうとか食事を楽しむと言った情緒を銀河の果てに置いてきたような姿だった。


「お、おいっ!何やってんだ!?」


俺は堪らず叫んだ。

この芸術と言っても過言ではない、天使達の作品をそんな風に扱われるなんて我慢出来なかった。


「んぐ、んぐぐ、んくっ……っはぁ!」


一心地着いた様に息を吐くと、筋肉ダルマは俺を睨んだ。

天使二人は呆然と見ている。


「なんだかよ、宗に食わせると考えたら許せなくなったんだ……だから、これは俺のもんだっ!」


再び箸を進める筋肉ダルマ。


……俺にはわかるぞ。あんたの気持ち。

今まではこの素晴らしい食事を独り占め出来た。


それが急にやって来た、野郎に食われるなんて確かに許せないだろう。


だけどな……。


俺だって食いたいんだ。

この素晴らしい夕飯を!


「負けるかぁっ!!」





その後は失礼にならない早さで舌鼓を打った。

普通に俺の分も増やした量で作られていたので、何も問題無かった。


大変美味しかったです。


筋肉ダルマはアイシャさんと斉藤さんにこっぴどく叱られていた。



ざまぁ。








ここのところ斉藤さんとのイチャイチャ成分が枯渇してきております。

わたくしめも辛いです。

もう少しだけお付き合いくださいませ。

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