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第188話 理沙さんのお迎え

いつもお読み頂きありがとうございます。

投稿再開したところ、おかげさまで閲覧数が結構上がっているみたいです。ありがとうございます!

宜しければご感想とブクマ、いいねボタンを押して頂ければ幸いです。












 宗くんが眠った後、わたしは居間の片付けをしていました。先程洗い終えた食器の拭き上げとか、作ったお粥を冷蔵庫に仕舞ったり。


 でも、それもあっという間に終わってしまって、やることが無くなってしまいました。


 わたしは所在無げに居間をふらふらと見て回ります。


 しっかりとしたお兄さんだったからでしょうか? 掃除も行き届いていて、部屋も整理整頓されています。こう言っちゃ何ですが、世話のし甲斐がありませんね。もうっ。そんなところも素敵ですけどっ。

 部屋は本当に質素と言いますか、飾り気も無く必要最低限の家具しか無いような形です。

 寝室には衣類用の箪笥と戸棚があるだけでしたし、居間に至ってはテレビを置くためのテレビボード、カラーボックスを利用した収納が一つ、それとお仏壇。以上です。……物、少な過ぎません?


 勝手に漁るわけにもいかないので、探索は早々に終了してしまいます。


 ふと外を見れば既に真っ暗です。時計も18時30分を指しています。

 ママには正直に、宗くんの家で看病している旨を連絡しています。パパに伝わったら大変なのは分かりきっているので、ママが上手く言ってくれている事でしょう。


 でも、これ以上長居するわけにもいかないし、帰りはどうしようかな?


 ぼんやりとそんな事を考えていると。


 ───ピンポーン───


「ひゃうっ!?」


 突如、玄関のチャイムがなりました。

 思わずビクッとしてしまったのは内緒です。


 ……出ても良いものなのでしょうか?


 わたしはこの家の主ではありませんし、"まだ!"お友達ですし? いや、でもこれは、ある意味『きせいじじつ』を作るチャンスなのでは? いつか唯ちゃんと真澄が言ってました。作ってしまえばこちらの勝ちだとか?


 ここでわたしが出ていって、彼女と勘違いして貰ったり、とか! とか!


 ……えーと、誰に?


 ───ピンポーン───


「って!!!」


 ボーッとしている場合じゃありませんでした!


 とにかく出ないと! とわたしは玄関へと向かいます。

 念のため、そっとドアのレンズから外を窺うと。


「あっ、理沙さん!?」


 わたしの見知った顔でした。

 わたしは鍵を開けて、理沙さんを招き入れます。


「あれっ、愛奈ちゃん? 久しぶりねー!」


「お久しぶりです! 直接会うのはバーベキューぶりですね!」


「そうだねー。あ、もしかしてお邪魔だった……?」


 口元を手で隠しムフフ、とワザとらしい笑い声と目線をこちらに寄越す理沙さん。


「っ……な、にを言ってるんですか理沙さん!」


 わたしは努めて忘れていた、先程までの自分のしたことを思い出してしまい、顔が熱くなるのを感じました。


 さっきまでわたしは、この胸に宗くんを抱き締めて、ずっとなでなでして、そして、終いには宗くんのおでこに……、おでこに、ち、ちゅー、を……!!!


 わたしは何て事をしてしまったのでしょうか!?


 いや! むしろ、よくやったね愛奈! と言いたいです! わたしスゴイ! スゴイよ! でも! 死んじゃうくらい恥ずかしい!


「……え、マジで?」


「ひゃっ、ち、ちち違いますよっ! なんもありませんから!」


 思わず口ごもってしまった所を勘違いされそうになりました。

 あれ? これは『きせいじじつ』のチャンスだったのでは?


「怪しいわねぇ……? ……と言うか、愛奈ちゃん、目、腫れてない? もしかして、泣いてた……?」


「えっ?」


 泣き止んでしばらく経ったので大丈夫かと思いましたが、気付かれてしまったようです。わたしは咄嗟に目を擦ります。


「……本当に、宗になんかされてない?」


「さ、されてないですよ!?」


 むしろしてしまったと言いますか……。


「あいつを庇う必要なんてないのよ? てか、あいつは何してんのよ、わざわざ来てやったのに!?」


 家に入った理沙さんはずかずかと奥に進もうとします。まるで宗くんが悪者かのような物言いです。


「り、理沙さん! ちょっとまって! 宗くん今寝てて! 寝てるんです!」


 わたしはそんな理沙さんを必死に止めます。


「寝てる?」


「は、はい」


「まだ治ってない感じ?」


「ええ、まだ熱がありますね」


「そっか、まあそれならしょうがないわよね」


 理沙さんはなんとか納得してくれたみたいです。

 わたしはホッと胸を撫で下ろします。


「それより……愛奈ちゃんがこの家に居るのはなんで?」


 今さらですか! 内心ツッコミを入れつつ、わたしはここにいる事情を、風邪で休んだ宗くんにプリントを持ってきた事、勝手に世話を焼いていた事を理沙さんに説明しました。


 その後、詳しく聞くと宗くんから理沙さんへRINEが入ったそうな。ただ、端的に家に来てほしいとだけだったようで、理沙さんも状況が分からなかったみたいです。


 ただ、宗くんと付き合いの長い理沙さんは何か分かったようで、わたしに視線を寄越すと納得したように頷きました。


「あー、なるほどね。宗の頼みは理解出来たわ。愛奈ちゃんを送ってくれって事ねこれは」


「そうなんですか?」


「ええ。こんな時間にアイツが愛奈ちゃんを一人で帰す訳が無いもの」


「……そ、そうですかね?」


 自信たっぷりに言い切る理沙さんに、少し恥ずかしく感じながら目線を逸らします。


「ええ。愛奈ちゃんはそれくらいアイツに大切に思われてるわよ」


「……大切に」


 わたしの視線は自然と宗くんの眠る寝室の襖に向かいます。


「ふふっ。……取り敢えず帰りましょうか」





 帰り支度を済ませると、二人で宗くんのアパートを後にします。

 鍵は理沙さんが合鍵を持っていたので、それで戸締まりは完了です。先程チャイムを鳴らしていたのは、一応宗くんに気を遣っての事、らしいです。


 宗くんはまだぐっすりと眠っていたので、そのまま寝かせてあげることにしました。居間のテーブルにはわたしの置き手紙があるので、宗くんが起きても大丈夫だと思います。RINEでも良かったのですが、わたしが宗くんのアパートに居たという証、みたいなモノを残しておきたかったのかもしれませんね。


 下に停めてあった理沙さんの車に乗り込み、出発します。


 わたしの家のある御崎の商店街までは、今の時間帯で20分程の道のりらしいです。帰宅時間帯もあり、少しかかるみたい。でも、あまり車で出歩かないわたしには、とても新鮮でした。わたしと宗くんのおうちを繋ぐのがこの道なんだ。そんな事を考えたりしました。


「そう言えば、よく宗が家に来るのを許したわね? 一人で来たんでしょ? アイツなら絶対反対しそうなんだけれど」


「えっ!? あ、あの、わたし宗くんの家に行ったら、なんかマズかったですか!? わ、わたし宗くんに嫌われちゃうんですか!? ど、どうしたらぁ!」


 そんな! 宗くんの家に行ったらダメだったなんて! わたしは何て事をしてしまったのでしょうか!? どうしましょう! 後で謝れば良いのでしょうか!? あの優しかった宗くんは!? 優しいから何も言わなかったのですか!?


 理沙さんの言葉にわたしはもうパニックです。


「あっ、別に家に招くのを反対してるとかそう言うことじゃなくてね!? ……落ち着いてね?」


「嫌われないでしょうかぁ……?」


 先程とは打って変わって、混乱と後悔に涙が滲みます。


「大丈夫! 大丈夫だから! そう言う意味じゃないの! ああっ、どんだけ宗の事好きなのよ!?」


 好きだから嫌われていないか心配なんですよ!





「落ち着いたかしら?」


「……はぃ、面目ないです……」


 ようやく落ち着いたわたしは、恥ずかしさに縮こまります。


「まあ、愛奈ちゃんが宗くん好き好きー、なのは分かってたから良いんだけどね」


「………………ぅぐぅ」


 わたしは更に縮こまります。これでもかってぐらい縮こまります。恥ずか死にそうです。


「それで話、戻るんだけど」


「はい……」


「実は、宗の住んでるアパート周辺って、この辺りでは治安が良くないのよ。不良ばっかの高校とか、チンピラの溜まり場とか、そう言うのが本当に多いのよ。それで、宗の事だから愛奈ちゃんを一人で家に呼ぶなんて事は絶対無いと思ってたのよ」


「え……」


 理沙さんの説明に、わたしは玄関前で会った宗くんの様子に合点がいきました。


 あれ程慌ててわたしの無事を確めたのには、そんな理由があったのですね。その考えに至り、宗くんがわたしを心配してくれた事実を嬉しく思う反面、心配させてしまった事への後悔が胸に募ります。


「実は、宗くんへの連絡を忘れたまま、家まで行ってしまったんです……」


「あら、そうなの?」


「先生に住所教えてもらって浮かれちゃって……。玄関に着いてから連絡していない事に気付いたんです。そしたら直ぐに宗くんが来て……」


「あー、それじゃ仕方がないわねー。ま、何も無かったし、過ぎた事でくよくよしても無駄よ無駄。女の子を心配するのは男の仕事だから良いのよ」


「あ、はは……そう言うモノですかね?」


「そういうもんよー」


 理沙さんのあっけらかんと笑う姿に、少し心が軽くなります。


 それからは再び他愛の無い会話が続きました。


 最近の学校での出来事や、万屋さんの事。


 それに、文化祭のこと……。


 文化祭。


 そのワードに、宗くんの話が甦ります。


 文化祭を楽しみにしていた澪さん……。


 記憶に新しいそのエピソードはわたしの口を閉ざすのには十分な重みがあって。


「……どうかしたの愛奈ちゃん?」


「……」


 わたしの口は思った様に動きませんでした。


 何を言えば良いのか、それも分からなくて。

 気付けば、わたしの瞳には涙が溜まっていて。


「ち、ちょっと、どうしたの? 何かあった? や、やっぱり宗と何か……」


 宗くんが再び悪者にされそうになったので、わたしは慌てて首を振ります。


「ぃ、いえ、違うんです。文化祭、で思い出してしまって……」


「思い出す……?」


「………………澪さん、が……」


「っ!?」


 ハッキリと、理沙さんが息を飲んだのが分かりました。


 周りの景色は見覚えのある道。

 間もなく車は家に到着するでしょう。

 しかし、車は徐々にスピードを落とすと、路肩に停められました。


「理沙さん?」


「……愛奈ちゃん、少し時間良いかしら? アイシャさん達には私から連絡しておくから」


「え? は、はい。大丈夫ですけど」


「良かった。……少し、話さない?」


 そう言う理沙さんの表情は笑顔なのに、初めて見る寂しげなものでした。



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