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第19話 斉恵亭

投稿が遅くなり大変申し訳ありません。

19話です。よろしくお願いいたします。




俺、ここ来たことあるわ。


斉藤さんの指す、自宅だと言う店を見ながら思い出す。


斉恵亭。

古くからこの商店街で営まれている、町食堂だ。

確か創業60年くらいだったか。そんな感じだったと思う。


ここへは以前バイトで訪れた。

記憶が確かなら2年程前だ。

店内の家具や厨房が老朽化により限界を迎え、交換作業の要員としてお邪魔したのだ。


しかし、あの二人が斉藤さんのご両親だったとは。

いろいろと特徴的な人達だったので、未だに覚えている。

そしてある意味合点がいった。


俺が物思いに耽っていると斉藤に呼び戻された。


「どうかした?」


「あ、いや、大丈夫」


「そう?それじゃ、入って!」


未だに恥ずかしそうにしている斉藤さんへ連れられ、俺は暖簾の外された入口をくぐった。



「ただいまー」


「……お邪魔します」


斉藤さんのかける声にすぐさま反応があった。


「おかえり、愛奈ちゃん!!買い物大丈夫だったかい!?」


厨房から顔を出したのは筋肉ダルマ……もとい、筋骨隆々の厳つい男。

エプロンはまさかの猫柄。

こんなに嬉しくないギャップも珍しい。

口元には髭を蓄えるが、頭には一本も毛がない。

記憶の中に残る、恐らく彼が斉藤さんのパパさん……。


マジかよ。


「大丈夫だって!わたし子供じゃないよっ!」


「だ、だって!愛奈ちゃん可愛いから心配で……誰だてめぇ?」


子供を前にしたふにゃけた親バカの顔から一変して、本来の持ち味を最大限に活かしたお顔に変貌した。

その視線は俺を貫かんばかりである。


「あ、ぱ、パパ! 彼は沢良木君! クラスメイトなの。そ、それでね、そこでバッタリ会ったからちょっと家に誘ったの!」


斉藤さんへ紹介されて俺は前へ歩み出た。


「沢良木宗です。愛奈さんとはクラスメイトで、いつもお世話になっております」


ま、愛奈さんっ!?と横で斉藤さんが色めき立っているみたいだが、とりあえずスルー。


「お、おう、なんだぁ、愛奈ちゃんの友達かよ。しかし、愛奈ちゃんが友達連れて来るなんてなぁ、男連れて来るなんて彼氏を連れて来る時かと……………って男じゃねぇか!!」


戦く斉藤パパ。

か、彼氏!?と横で、以下略……。


「今頃かよっ!」


思わず突っ込んでしまった。


「う、ウチの愛奈ちゃんに手ぇ出しやがったなぁ!?てめぇ、表出ろやぁ!?」


いきり立つ斉藤パパは手にもった包丁をそのままに俺に詰め寄ろうとした。

普通に怖いからやめてくれ。


「パパっ!!何言ってんの!?ちょっとやめてよ!恥ずかしいからっ!!」


斉藤パパを遮るように斉藤さんが立ちはだかり、止めようとする。

が、斉藤さんにたどり着く前に斉藤パパはピタリと動作を止めた。


「は、は、恥ずかしい……?」


「そうだよ!せ、せっかくお友達連れて来たのに……、もうパパって呼ばないっ!!」


俺は初めて見る斉藤さんの剣幕に少し驚きながら様子を見ていた。


「な、なんだってっ!?ご、ごめんよ?愛奈ちゃん悪かったって!この通りだ、な?」


小柄な金髪の美少女に謝り倒す、大柄な筋肉ダルマ。

凄まじい構図を特等席で見てしまった。


「ふ、ふーんだ。知らないよー」


プンプン怒る斉藤さんぐう可愛いい。

なでなでしたい。

思わず頬が緩んでしまう。

が、そこを筋肉ダルマに見咎められてしまう。


「お、おいてめぇ!おめえもこっち来て謝れ!」


と小声で俺を呼ぶ。

しかし何故に俺が謝るのか全く理解出来ない。


「断る!」


俺はきっぱりNOが言える日本人を目指しているのだ。


「てめぇ……!!」


恨めしそうな視線を寄越すが、そんなもんで俺は怯まない。

しっかりと娘にお灸を据えられるが良い。


「こーら。そこまでにしなさい、二人とも」


少しおっとりとした口調でこの修羅場に現れたのは、一人の美人。

小柄な斉藤さんより少しだけ高いであろう背。

背は低くとも大人の雰囲気を醸し出し、可愛い顔立ちながらも美人と言えるものだ。

筋肉ダルマ同様に猫柄のエプロンを身につけ、その髪の毛は後ろで一つに結われている。


そう、金髪を。


つまり、合点がいったのはこう言うこと。


斉藤さんは地毛なんだ。


俺は本当に思う。

斉藤さん、お母さん似で本当に良かった、と。


しかし、筋肉ダルマの遺伝子はどこに行ったのだろうか?

まあ、実際天使だから問題ないな。


「あら?」


己の中で納得していると、斉藤ママは俺に気が付いた。

先手を打って自己紹介しておこう。


「俺は沢良木宗といいます。愛奈さんとはクラスメイトでいつも仲良くしてもらっています」


まあ、こんなもんだろ。

同級生の親にあまり固すぎてもな。


「あらあら!あなたが宗君?」


おや?

なんか既にご存じ?


「わたしは愛奈の母親のアイシャと言います。よろしくね?」


斉藤さんによく似た可愛らしい笑顔を湛えそう言った。

流石、斉藤さんのママだ。

天使度が素晴らしい。


こちらこそ、とアイシャさんと挨拶を交わしていると、揉めていた二人も戻ってきた。


「ま、ママ!だってパパが沢良木君にひどいこと言うから」


「ぱ、パパっ!?」


筋肉ダルマは何やら感動しているようだ。

またパパって呼ばれて良かったな。


「あら、そうなの?」


と筋肉ダルマに視線を向けるアイシャさん。

筋肉ダルマは途端にばつの悪そうな顔になった。


「あ、い、いやぁ、それはだな」


この家の序列が分かってしまう一幕だな。

これは様々な家庭で言えることなのかもしれない。

世の中のお父さん、頑張れ。


「ほら、パパ、ちゃんと沢良木君に謝ってよ!」


嫁と娘に言い寄られ、狼狽えた筋肉ダルマは遂に折れたように俺に向き直った。


「……いきなり怒鳴ってすまんかったな。俺は愛奈ちゃんの父親で俊夫だ」


「いや、気にしてませんよ。可愛い娘が友達とは言え、男を連れてきたら驚くでしょうから。改めて、宗です」


そう言って俺たちは握手を交わした。


「しかし、愛奈ちゃんの可愛さに気付くとは。見所あるじゃねぇか」


筋肉ダルマ改め、俊夫さんは小声でそう言うと握った手に力を込めた。

やっぱり筋肉ダルマで良いんじゃないだろうか。

手が潰れるわ。


「逆に気付かないヤツらの顔を拝んでやりたいね。斉藤、いや愛奈さんは……天使だ」


同じく小声で口にし、負けじと手を握り返してやる。


もうね、ぶっ潰す勢いで握ってやりましたよ。

こう見えても右手握力80あるのよ?

リンゴなら余裕ですわ。


しかし……。



なん、だと?


筋肉ダルマは怯むどころか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

俺の方が驚愕の表情を浮かべてしまう。


「天使……か。良い言葉だ。ウチの娘にぴったりじゃねえか。いや、これほどふさわしい言葉は無い」


そう言うと、ふっと力が弱まった。


「よろしくな、宗。気に入ったぜ」


「……こちらこそ」


やはり筋肉ダルマ改め俊夫さんはニカリと良い笑みを浮かべた。

対して俺は愛想笑いだ。



負けた……。


俺は負けを悟った。

この人の前に俺の斉藤さんを天使と褒め称えるその志は脆くも崩れ去ったのだ。

たった今、この瞬間、天使と言う言葉を知った俊夫さんに。

どれ程の愛が在ると言うのか。

俺はこの人を越えられる日が来るのだろうか……。



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― 新着の感想 ―
[一言] おい、握力80は強すぎだろ笑
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