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第178話 よろこんで!

お待たせしましたヽ(´A`)ノ











 涙を飲んだ翌朝。

 決意をあらたにわたしは学校へ向かいます。

 どんな顔をして宗君に会えば良いんだろう、という考えはあるけれど、そんなことで悩んでいたら一歩も前には進めません。


 前向きに行きますよ! 前向きに!


 ……じゃないと、萎れちゃいます。


「おはよー」


 わたしは皆に挨拶しながらクラスに入ると、真っ先に宗君の席に目を向けました。


「まだ、来てないのかな……」


 そうポツリと呟きます。

 先程まで、通学路でも宗君の大きな背中を探して来たのですが、結局見つけられませんでした。


 時間帯的には来てもおかしくは無いのですが。


 RINEで連絡を取ろうとも考えましたが、すぐに会えると思い直し、スマホをしまいました。


「……来ないな」


 予鈴が鳴り、皆も席に着き始めますが宗君は姿を現しません。


「愛奈、何か聞いてた?」


 宗君の席を挟んだ隣で真澄も首を傾げます。昨日の今日なので少しドキリとしつつも、来ない理由は本当に知らないので、首を振って答えます。


「RINEで聞いてみよっかー」


「う、うん、そうだね」


 真澄に習い、わたしも再びスマホを取り出します。


「……あれ?」


 そこには一件の通知が知らないうちに来ていました。

 通知には宗君の名前。わたしはすぐさまタップしRINEを開きます。


「……っえ!?」


「ん、愛奈どうしたの?」


 真澄にも見えるように画面を向けます。


「沢良木君、風邪ひいたって……」


「え、風邪かー! どうしたんだろうね?」


 もしかしたら、昨日の雨で? 

 そう考えると、サァと血の気が引くようでした。


 あの時、もっと強く引き留めてたら、もしかしたら宗君が風邪をひくことも無かったのでしょうか?

 でも、ずっと夜通し雨は降っていましたし。いつまでも止まなかったと思います。

 でも、ちゃんと傘も貸していたし……。でも、もし……。


 高橋先生が来るまで、悶々とわたしは考え続けるのでした。





 休み時間。


「沢良木君が文化祭間に合わなかったらどうする?」


「あと三日だもんなー」


「風邪だろ? 三日もあれば十分治るだろ」


「それもそっかー」


 何気なく聞こえて来た話題にわたしは振り向きます。


「ん? あ、斉藤さん。沢良木君の様子聞いてた? 大丈夫そう?」


「え? あ、さ、沢良木君?」


 急に振られ話に狼狽えながらも、わたしは今朝軽くやり取りしたRINEを思い出していました。


『ごめん、今日休むよ。今起きたんだけど凄くダルくて。多分風邪』


 昨日の別れ際を思い出し、少しだけ気まずく思いながらわたしは先程返事を返しました。


『風邪? 大丈夫?』


『うん。軽い風邪かな。ひどく無いから今日寝てれば治ると思う。文化祭も近いし、念のため休むよ』


 それでも、わたしに連絡してきてくれたのは、素直に嬉しくて。


『そっか! お大事にね。何か欲しい物とかあるかな?』


 わたしは妙に緊張しながら、そんな文章を送りました。

 宗君がわたしを必要としてくれるなら、宗君の許へ直ぐにでも駆けつけたいのです。宗君が弱っている所に卑怯にもつけこんでいるみたいで心苦しいですが、それでもわたしは宗君に必要とされたい。求めて欲しいのです。昨日の一件から、より強く思うようになりました。


 それに、未だお邪魔したことの無い宗君のお家……。


 正直……興味が尽きませんっ。


『今のところは大丈夫。ありがとう』


 ……ぁう。


 そんなわたしの願いは届かずか、そんな素っ気ない一言でやり取りは終わってしまいました。


 沈みそうになった気持ちを思い出しながら、クラスメイトに頷きます。


「うん、軽い風邪だって話だったよ。念のため休むって」


「そっか! それなら安心だな! なにせ沢良木はウチの男子の稼ぎ頭だからな」


「良かったね!」


「そ、そうだね」


 クラスメイトの言葉に頷きながらも、わたしの心の中は全然良くなさそうなのです。




 気付けば放課後。


 何度か宗君にRINEを送ろうかとスマホでアプリを開いて、迷惑かもと再び閉じて。そんなことを繰り返しているうちに放課後になっていました。


 皆が文化祭の準備の大詰めを迎えている最中ではありますが、わたしは心ここに在らず、といった感じです。


「やっぱり宗君心配なの?」


 隣に来たのは真澄でした。わたしは素直に真澄の言葉に頷きます。


「……うん」


「ただの風邪でしょ? 愛奈は心配し過ぎだって」


「そ、そうかもしれないけど……」


 結局昨日のことは真澄に打ち明けられていません。

 何故か言いたくないような、曖昧な感情が胸にあるのです。


「はい! それじゃ愛奈はコレ多目的室に持っていってね! 今は出来ることやろう?」


 真澄にもう一度頷くと、わたしは教室を出ました。


 ハッキリとしない胸中を抱えたまま多目的室の準備で廊下を一人歩いていると。


「あ、斉藤さん良いところに!」


「先生? どうかしました?」


 担任の高橋先生が廊下の先からこちらへ向かって来ました。

 なにやらわたしに用事があるようです。


「今日のホームルームで渡したプリント明日までじゃない?」


「プリント? ……ああ」


 確かに先程貰ったプリントの提出期限は先生が言う通り明日だったはずです。

 でも、それがどうしたんでしょう?


「実は、沢良木君の家には私が届けるつもりでいたんだけど、これから急に職員会議が入っちゃってね。行けなくなっちゃったの。遅くなり過ぎてもあれだし」


 その先生の話を聞いて、もしや? と、わたしの卑しい心が首をもたげます。


 でも……そういうこと、ですよね?


「もし良かったら沢良木君の家まで届けて貰えないかな?」


 き、来ましたぁ! 大義名分ですよ!?


「よ、よろこんでっ!!!」


「ひゃっ!? え、え? ず、随分張りきってるね?」


「あ、ぁ! あ、ご、ごめんなさいっ」


 わー! わー! わー!


 恥ずかしいっ!!!


 意気込むあまり変な掛け声出ちゃいましたよ……。


「ふふっ、それじゃよろしくね?」


「はいっ」


 先生からクリアファイルに入った書類を受け取ると、わたしは頷きます。


 逸る心は、早く宗君のお家へ向かおうと歩を進めますが、高橋先生に、聞かなければいけない事が一つ。立ち止まり先生に呼び掛けます。


「せ、先生!」


「ん? どうかした?」


「さ、沢良木君のお家って、どこですか!?」


 

 だ、だって知らないんだもん!

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