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第173話 衣装御披露目!

申し訳ありません。また更新が空いてしまった……











 文化祭まで残り1週間を切った。

 クラスの準備は大詰めを迎えていた。この頃になると放課後まで大忙しである。

 今、この多目的室に集まっているのは28名程。この時期になると部活動も、直近に試合でも控えていない限り休みになるようだから、それなりの人数が集まっていた。



 俺のバイト事情であるが、理沙に相談したところ拍子抜けするほどあっさり勤務配慮の約束を貰ってしまった。せっかくの思い出作りの機会を俺にちゃんと楽しんで欲しいんだとか。理沙には頭が上がらない。

 しばらくは少し遅い時間に書類整理をすることになりそうだ。


 クラスの状況だが、接客班は斉藤さんや真澄、他にも接客系のバイトを今年になって始めた生徒達の監修の元練習を繰り返し、接客スキルを上げていた。クラスメイトを相手にした接客は最初と比べると恐ろしく見違えるようだ。皆そのまま接客系のバイトでも平気でこなせると思う。少なくとも接客に限って言えば問題は全く無い。

 斉藤さんは効率的なホールの回し方を。真澄はメイドとしての演技を中心に。

 立役者とも言える二人は流石と言ったところか。伊達に定食屋のアイドルを片や本物アイドルをやってきてない。


 会場となる多目的室も着々と準備が進んでいた。

 俺を含めた接客班は粗方の準備、練習を終えた為、装飾班に加わることになった。

 一応程度ではあるが、多目的室のドアには外からあまり見られないよう暗幕をガラスに張り室内を隠していた。オープンまで見せないようにして、当日のインパクトを大きくするとかなんとか。佐伯さんとか楽しそうに指示出していたな。


 テーブルや椅子を並べたホールブース、先日運び込んだパーティションで区切ったキッチンエリア、会計用のカウンターなど、おおよその配置は終わっている状況だ。

 あの日斉藤さんの家で練習したケーキ作りの経験も活かしてキッチン周りは整備済みだ。

 因みにドリンクに関してだが、理沙と文化祭準備の話をしていたところ(聞かせろとせがまれた)、ドリンクバーのサーバー、所謂ディスペンサーという機械が使えるから貸してやる、と言うお言葉を頂いたのだ。なぜ使えるのかは理沙だしな……と思うことにした。

 高校文化祭では些かオーバースペックな気もしないが有難いので、理沙には甘える事にした。


 そして、本当に……本当に甘えさせられたのだ。一週間『お姉ちゃん』呼び強制は中々に手強かった。そして数日理沙のマンションへ帰省させられた。

 現場で不意に『お姉ちゃん』が口をついて出てしまったときの気まずさといったら……。思い出すだけで胃が……。理沙はニマニマするだけだし。



 残りは細々とした装飾品やメニュー表など当日配置するものばかりである。



「ねえねえ、宗君っ!」


「沢良木くん!」


 キリの良いところまで作業が進み、全体で小休止かと言うところで真澄と斉藤さんの二人に声をかけられた。


「おう、二人ともお疲れ。どうした?」


「ふっふっふー」


 振り向き問いかける俺に真澄は不思議な笑い声を上げた。


「沢良木くん作業は進んでる?」


「ん? ああ。こっちもキリが良かったから休もうかと思ってたところだよ」


「そっか! それならちょうど良いねー! あたし達に着いてきて!」


「いい? 沢良木くん?」


 真澄に片手を引っ張られ、斉藤さんは首を傾げ俺を見上げてくる。


「良いけど、どこ行くんだ?」


「それはお楽しみー!」


「ふふっ、うん。お楽しみだよー? いこっ!」


「あ、おいっ」


 結局俺は二人に両腕を引かれ、教室を連れ出された。


 主に女子から生暖かい視線が集まっていたのは気のせいだと思いたい。


 ホントに何あるん?



 道中結局教えて貰えず、たどり着いたのは校舎の一階端の方に位置する空き教室だった。

 迷う素振りも見せず中に入る二人。鍵は? とも思ったが二人に続き俺も入った。そして、部屋の様子に首を傾げる。


「この部屋何?」


 俺の視線の先では、教室の半分ぐらいを保健室なんかでよく見るカーテンタイプのパーテーションが並べられしきられていた。


「更衣室だよ!」


 更衣室? 俺は真澄の言葉に首を再び傾げた。


「俺入っちゃ不味いんじゃね?」


「あーあ、宗君慌てないんだー。つまんなーい」


「あはは……。沢良木くん大丈夫だよ、今誰も使って無いから」


 あんまりな真澄の物言いに斉藤さんは苦笑いだ。


「そっか。それでここに何があるんだ?」


 真澄に聞くとまたはぐらかされそうだから、斉藤さんに聞いてみる。と言うか真澄はパーテーションの裏に行ってしまった。


「んー、お、お楽しみ、かなっ!」


 少し頬を染めた天使ははにかみながらそう言って、自身もパーテーションの奥に駆けていった。


「お、おう」


 その後ろ姿に抜けた返事しか出来なかった。


 今日も天使が可愛い、まる







 ぼーっと立ち尽くすこと一分程。こそこそと二人の話し声が聞こえたかと思うと……突然、衣擦れの音に変わった。


 ………………へ?


「ちょっぉおいっ!? 二人とも何してんの!? ねえ!?」


 俺は突然の出来事にツッコミをいれてしまう。


「無視よ愛奈! 無視!」


「う、うんっ」


「聞こえてる聞こえてるからぁ! ちょっと酷くね!? 取り敢えず俺出てるからな!?」


「ちょっとで良いから待ってて宗君!」


「わたしからもお願い!」


 うぐ……。


 二人に弱い事に定評のある俺である。そう言われてしまったら無理に出ていけないじゃないか。


 うー、あーあーあーあー……。


「……わかった」


 結局俺は隅に置いてあった椅子を持ち出し、ドカリと腰かけるのであった。




 衣擦れの音と二人の楽しそうな声に悶々と過ごす事5分程。

 正直、俺が室内で待つ理由は何も無かったと思っている。勝手に帰るとでも思われていたのだろうか? それともからかいたいだけ?


「準備完了ー! 宗君覚悟は良いー!?」


 何のだ、何の。


 ……とはいえ、ここまで条件が揃えば自ずと予想は出来てくる。

 文化祭準備中、特設の更衣室、昨日聞こえた衣装完成の話と来れば……むふふ。まさかここであの衣装の御披露目じゃない、なんてことは無いだろうしな! 内心ウッキウキの沢良木君なのである。

 間違ってたら恥ずかしいから言わなかったけど。


「ああ。大丈夫だ」


「よしっ、いっくよー! せーのっ」


 真澄の元気な掛け声と共にパーテーションが払いのけられた。


「じゃーん!!!」


「じ、じゃーん……!」


 そんな掛け声と共に現れたのは二人のメイドさんであった。

 

 否、メイド服を纏った二人のネコミミ天使であった!!!


「………………」


 ……ヤバい。


 正に、絶句であるヤバい。


 ホントに何も言葉が浮かばないヤバい。


 二人は可愛らしいメイド服を身に纏い、両手を広げて満面の笑みを浮かべている。……いやっ、斉藤さんは頑張って笑顔を作ってる! だってお顔が赤くなってきたし! 恥ずかしそうにしてるし! 超絶天使可愛い! それでも笑顔を見せてくれているのが愛らしい! サラサラと肩口を流れる金糸の如きプラチナブロンドから生えているのは、御髪と同色の猫耳。お耳の内側はほんのりピンク色だ。ピンと立ったお耳は警戒心の強い小動物感を醸し出していて非常に可愛い。しかし、俺ぐらい天使フリークともなれば、心を許してくれた時にはふにゃふにゃに甘えてきてくれる様子まで脳裏に浮かんできそうだ。そんな猫耳と金髪の天使との組み合わせはあまりにも凶悪と言えた。俺を萌え殺す最終兵器と成りうるポテンシャルを秘めていた。いや、むしろ今現在殺されかけていた。風前の灯火である。あと一歩、この猫耳天使に何かアクションを起こされた日には俺の命は吹き消されてしまうであろう。とにかく何がなんでもグッジョブだ!

 一方、真澄は流石のアイドルスマイルだ! キラッキラの笑顔が眩しいぜ! 文句無しに可愛い! これならどんな野郎もイチコロだ! むしろ落ちないヤツを見てみたいね! あ、やべ、ウィンク可愛い……。 斉藤さんと同様に、真澄も焦げ茶色の髪色に合わせたネコミミがセレクトされていた。しかし、二人のお耳は対照的であった。ピンと立ったお耳の斉藤さんとは違い、真澄の焦げ茶色のお耳はほんのり垂れ耳なのだ! 意思の強いツリ目の瞳とは相反し、その内に秘める自信の無さ、甘えたがりな一面が体現しているかのようだ。そのギャップは非常に庇護欲をかられるモノだった。もしこれが計算ずくのチョイスだとすれば男の子の心を擽る小悪魔猫耳メイドさんである。あざとい、実にあざといとますみん! 勿論、名は体を表す真澄の猫っ毛との組み合わせも抜群である。可愛い、ひたすらに可愛い。



 死にそう。



 ……しかし、これが猫耳メイドさんか……。想像以上にヤバいな。

 企画が決まった当初はこんなんで大丈夫か? と思っていたがこれは想像以上にヤバい。逆にヤバい。語彙力が崩壊する程ヤバい。何がヤバいって、ヤバいのがヤバいほどヤバいんだよ!

 ヤバいぞ、ヤバいがゲシュタルト崩壊してきた……。


 コレ、ホントに出店で使うの……?


「し、宗君、そろそろ何か言ってほしーなー、なんて……」


「ぁぅ……や、やっぱり、似合わなかった……?」


 俺はいつの間にか変わっていた二人の不安そうな表情にハッとした。たっぷり10秒以上はフリーズしてたからね。多分。


「ご、ゴメン……あの、一つだけ良い?」


「「?」」


 俺の言葉に首を傾げる二人。シンクロした動きがとってもキュートである、じゃなくて。

 俺は至極真面目な表情を作ると、二人を見つめた。


「………………二人の店番、取り止めに出来ないかな?」


「へ?」


「ふぇ?」


 たっぷりと溜めを作って放った俺の言葉に、二人はますます不可解そうにきょとんとした。

 言葉足らずで伝わらなかった思いを、俺は改めて伝える。


「いや、だからさ。二人が凄く、めっちゃくちゃ、言葉で表すのも困難な程可愛いから。可愛すぎるから。……この格好で店番なんてしたら、悪い虫が集まりすぎると言うか、二人目当ての客が大勢集まるだろうし、そしたら絶対! ぜぇーったい不埒な輩が出てくるし、俺はそれが心配でならないし……ああ、そうしたらずっと店番か俺? あ、いや、それはそれでずっと二人が見れるし、逆に良いのか? いや、逆に? 逆に」


「ち、ちょ、ちょっと宗君ストップ、ストーップ!!!」


「あ、わ、わ、ぁ、あの……沢良木くん!?」


 ん?


 お?


 ……おおう。


 目の前でワタワタと慌てる二人に、俺は正気を取り戻した。


 俺としたことが、我を忘れて捲し立ててしまったようだ。

 真面目腐った顔でこんな事言われちゃ、おっかないよな。


「すまん」


 簡潔に謝罪する俺に真澄は視線を逸らし気まずそうに頬を掻いている。斉藤さんは両手で頭の上の猫耳を弄って気を紛らわそうとしていた。


「あ、あのっ、わたし達、可愛い、ってことで良い、のかな……?」


「……」


 意を決したように顔を上げる斉藤さんと、こちらを伺う真澄。

 俺は二人に歩を進ませると、少し腰を曲げ二人の視線に近づいた。二人は少し身構えるものの俺の目を見てくれている。


「凄く可愛い……」


「「っ!!!」」


 二人の目を交互に見つめ、笑みを作りながら頷いた。二人は俺の言葉にパアッと表情を輝かせた。


 だが、俺の言葉はまだ終わらない。


「……だから、他のヤツに見せたくない」


「「……っ!?!?!?」」


 ぼんっ、と二人の顔が瞬く間に赤く染まった。


 みっともない男の独占欲と笑うか?

 でも、しょうがないだろ? こんなに可愛い姿を見せられちゃ、一人占めしたくなっちまう。他の野郎になんて見せたくない。気が気でなくなってしまう。


 そんなことは無理だって、俺のわがままだって分かっていても。


 それでも自分に正直になるとこうなっちまう。困ったもんだ。


 俺は天井を仰ぐ。


「あー、マジでどうしようか! やっぱり難しいよなぁ!」


「「……」」


 最早常識ではあるが、二人はご覧の通り、素晴らしく可愛らしい。その可愛らしさは集客に大いに貢献するだろう。そもそも、それは大前提として出店の計画が進んでいた。

 そんな中、俺の我が儘で二人を接客班から下ろしてはブーイング必至だ。


 俺の独占欲を露呈させた発言に黙り込んでしまった二人に視線を移す。


 二人とも俺の視線に気付いたのかこちらを見上げてきた。

 ピコピコと今にも動き出しそうな猫耳が二人の頭で揺れる。


「ぐぁ……」


 あああああああああああああああ。


 な、なんだこの可愛い生き物は……!?

 俺だけのメイドさんになってください!!!


 再び思考が暴走気味になる俺。


「やっぱり接客班に居させられないっ」


 俺は頭を抱えてしゃがみこむ。


「俺が二人の分まで働けばイケるか? 二人を働かせない為ならフルで働いたって大したこと無いし、そもそもこんくらいの仕事量なら余裕だし……。愛想振り撒いて、二人以上に貢献すれば……どうだ!?」


「ストップ! 宗君ストップ! なんかまた暴走してる!」


「お、落ち着いて沢良木くん!」


 俺の両肩が揺さぶられる。子猫ちゃん二人だ。

 二人は膝立ちで、顔を赤く染めながら俺の両肩を揺さぶっていた。


「……」


 至近距離で見る二人は凶悪に可愛すぎる。お陰で俺は絶句するしかない。


 これ、慣れる事ってあるんかな……?


 一周回って冷静になった気がする俺は頷いた。のんびりしてると再びトチ狂った発言をばら撒きかねないので、俺のせいで進まない話を進める。


「……ごめん、多分、落ち着いた」


 しゃがんでいた俺はその場に腰を下ろし胡座をかいた。

 二人もその場にペタンと座ってしまう。そのスカートが床に大きく広がる。


 可愛いかよ! 内心叫ぶ。


 汚れないかと心配になったが、二人に気にした様子は無い。


「あは、宗君がそんなに気に入ってくれるとは思わなかったなぁー……」


「あぅぅ、沢良木くん、恥ずかしぃよ……」


 ごめん、落ち着いてきたら、さっきまでの自分に再びドン引きだよ。


 俺はこの姿の二人を前にすると正気を失うらしい。危険だ。


「……でも、沢良木くんでも、そう言うこと、言うんだね?」


「ん?」


 たどたどしい斉藤さんの言葉に俺は首を傾げる。そう言うこと?


「あはは、確かに。宗君あんまり感情表現を表に出さないと言うか、たまに突然キュンとするような台詞言ってくれたりするけど、基本穏やか~に見守ってくれる感じ多いしね!」


 ……すんません、内心いつもエキサイティングしてます。


 てことは俺って実はムッツリ? え、そうなの? 新事実にビックリ!


「ははは、そうかな?」


 とりあえず様々な羞恥心に蓋をして、笑って誤魔化すしかないよね。


「ふふっ、男の子っぽい、かな?」


「まあ、山崎みたいなのは勘弁してほしいけどねー。……いや、待てよ? 宗君ならむしろウェルカムと言うか、どんどん来てほしいと言うか、少し強引なくらいの方が良いと言うか!」


 俺の前に座る真澄は徐々に身を乗り出して来る。

 なにやら今度は真澄が暴走してきた。


 矛先を変えるべく、俺は口を開く。


「と、とりあえず、二人は俺にこの衣装を見せたかったってことで、この教室に?」


「あ、うん。そうだよー! プロトタイプはこの前の練習で着たけど、完成品は宗君に一番に見て欲しかったからさー」


「えへへっ」


 可愛いかよ!


 にへら、と笑う真澄と、どこか嬉しそうに笑う斉藤さん。健気な二人に俺は身悶えする。


「あ、ありがとうな……」


 無意識かどうかは知らないが、逸らした矛先は見事に俺のハートを抉ったのであった。


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