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第171話 衣装完成!



 文化祭までの日数も少なくなってきた今日この頃。


「か、完成……っ!!」


 そう言って机に突っ伏したのは手芸部の太田さんです。

 その手には一着のメイド服。

 

 そう、今日は放課後の教室で、クラスの出し物である喫茶店の衣装作成をしていたのです。男女合わせて十数着になるそれがようやく今日全数揃ったのです。


 途中からは手芸部の皆から乞われ参加したわたしですが、ちゃんと戦力になれていたでしょうか? なれていたら嬉しいな……。


 しかし、数が数だけに中々大変でした! それだけに完成したこの瞬間はひとしおです。


「お疲れ様!」


「皆もお疲れー!」


「やったー!」


「つかれたぁー!」


 皆がそれぞれを労い笑いあいます。

 太田さんに誘われる様に他の皆が、机を沢山集めて作った作業台へと突っ伏して伸びています。わたしもおずおずと真似して机に顔を伏せてみます。


「……ふふっ」


 何だか可笑しくて、思わず笑みが溢れます。

 皆で何かを成し遂げる達成感、連帯感。その中にわたしが居ることの、幸せ? と言いますか、胸の奥がきゅっとなるような不思議な気持ちに戸惑いつつも笑ってしまうのです。嬉しい笑みです。


「やったねー斉藤さん」


「えへへ、そうだねー」


 隣でだらけ切った太田さんに、わたしもだらけた姿勢で応えます。


「いやー、しかしホントに助かったよ愛奈ちゃん。クラスの皆にあんだけ大見得を切っておいてなんだけど、愛奈ちゃんの協力が無ければちょっと危うかったよ」


「ホントにね! 当初の予定ではもう少し簡略化する予定だったしー。なのに満足出来るクオリティに仕上がったもんね!」


「ありがとー! 斉藤さん!」


 口々に伝えられるお礼に、わたしは上体を起こして狼狽えてしまいます。


「い、いや、わたしなんか大したことやってないよぉ! ……ちゃんと役に立てた、かな?」


 自信の無いわたしの言葉に、皆は顔を見合わせると笑い出した。


「何言ってんだこの娘はー! 手芸部のプライドを折る勢いで仕事してたくせにー! 完璧な手縫いだからねコレ!」


「そうそう! 斉藤さん多分私より縫うの早いし! 自信あったのにー!」


「手芸部なら即戦力だって!」


「だから、自信もって良いのよ。証人は私達だ!」


 手放しで誉め出す皆にわたしは顔が熱くなってしまって、つい机に突っ伏してしまいました。


「そ、そんなに誉めないでよぉ。 …………で、でも」


 わたしは顔を上げます。


「ありがとう!」


 わたしを仲間に入れてくれて、頼ってくれて、誉めてくれて……。そんな気持ちを込めて、お礼の言葉を。


「「「「…………」」」」


 あ、あれ……? なんで皆固まってるんです? なんでわたしの顔見て固まってるんです!?


「あ、あのー?」


「確かに、正にそうだわ……」


「……そりゃイケメンもイチコロよね」


「女子ですらドキドキさせるってどゆこと」


「あぁ……これが噂の……」


「「「「天使の笑顔」」」」


 ふぇっ!? な、何ですかその恥ずかしい名前!? て、天使? 笑っただけでなんで天使が出てくるんですか!? 噂!? 意味がわからないんですけど!?


「ど、どういう意味かなぁー?」


 色々と!


「ううん、何でも?」


「うんうん、きにしないでー」


 そんな事言って納得すると思ってるんでしょうかね!?


「あ、そうだ。好きな人に聞いてみなよー」


 とニヤニヤ顔の太田さん。


 びくぅっ。太田さんの言葉に思わず体が反応してしまいます。


「な、何でそうなるのかな?」


 宗くんに聞いたら分かるってことでしょうか? あっ、いや、でも! 太田さん達は別に宗くんの名前出して無いですし、もしや引っかけ……? そうです! 宗くんの名前を出したらからかわれる、的な! だ、騙されませんよー!


「うんうん、沢良木君に聞いてみようよ!」


 太田さんの言葉に頷く皆。わたしは再び机に突っ伏しです。


 うわーんっ。バレバレじゃないですかーっ! やっぱりですか! そうだと思いましたよ! 多分皆知ってるんでしょうね! 宗くんもですかっ!? そうなんですかっ!?


「あー、良いね。沢良木君に笑顔見せて、『天使の笑顔ー』って言ってみたら?」


「えー自分で言っちゃうの!? あ、でも沢良木君どんな反応するだろうね?」


「楽しみ! その現場ちゃんと見させてね!」


「ぜ、ぜーったいやらないからっ!!!」


 顔を熱くさせながら言うわたしに、皆は笑うばかりで。そのうちわたしも可笑しくて、笑ってしまうのでした。


 ホントにやりませんよ!?






 わたし達は改めて完成した衣装を並べて確認します。


「「「「「おおー」」」」」


 思わずわたしを含めた皆から感嘆の声が上がります。完成した十数着が並ぶ姿は圧巻です。


 並ぶ衣装は基本的な形は同じなのですが、細部の装飾や丈など細々した部分は違います。着用する個々人の体格に合わせたオーダーメイドっていうのは勿論のこと、他にも希望、要望などがこだわりが詰まった形なのです。


 ……そこまで手を掛けるから時間が掛かったんじゃ、と言われると返答に困ってしまいますね。

 でも、少しでも凝り始めると、皆の歯止めが効かなくなってしまったんですもん。……わたしも含め、ですが。


 こんなに衣装作成が楽しいとは思いもしませんでした。何事もチャレンジですね!


「うんうん! 良いね良いね!」


「ぅ、うぅ……やっと完成! 完成品を前にしたら涙腺がっ」


「そういうこと言われると、わたしまで……」


「二人とも、まだ本番すら始まって無いってのー」


「そうそう、泣くなら本番以降にとっておかないとねー!」


 緩んだ涙腺をなんとか押し留め、自分の衣装を手に取ります。


「……えへへっ」


 思わず笑みが溢れます。


 かなり良い出来なのではないでしょうか!


 衣装の色は、その……宗くんが選んでくれた……濃紺とほのかに青みがかった白の組み合わせです。

 なおのこと満足度は格別ですよね!


 胸元はフリルの付いた白シャツで、淡いピンク色のリボンが可愛いです。濃紺のエプロンドレスはシンプルながら、スカート部分はしっかりとプリーツが入っていて裾には白のフリルがついています。

 丈は、頑張って! 膝上くらいまで上げています! 皆はもっと上げろと言いますが、わたしにはこれが限界なのです! 恥ずかしいもん!

 ちなみに制服と同じくらいですね。クラスの皆は制服だと膝上10センチ以上な勢いなんですが、わたしにはぜったい無理ですね。うん。


 わたしは衣装を身体に当てて、左右に身体を捻って眺めます。


 可愛いです! 可愛いです! ふわっふわのキラっキラです! こんな服一度は着てみたかったです! ホントに着れるなんてすごいですよね!


「……」


 ……でも、服は可愛いですが……わたしが着ても大丈夫でしょうか?


 な、なんか急に不安になってきました。

 宗くんは可愛いって言ってくれるでしょうか?

 極端な話、宗くんが可愛いと言ってくれたのなら、それだけで満足なんです。

 勿論接客を疎かにするつもりは無いのですが、結局はそこに行き着くのです。


 だって、もともとは宗くんに撫でて貰いたい、なんて想いがきっかけですからね。


 ……そうですよね。


 今となっては中々思いきった事をしたとは思いますが、ここまで来てしまったのなら、後には引けません。

 真澄とあの日誓った、宗くんをメロメロにしちゃおう共同戦線を全うするしか無いのです!


 不安になってる暇があるなら、自分を磨くのです! 宗くんにちゃんと可愛いって思われて、宗くんが思わず頭を撫でてしまう、そんなメイドさんを目指すのです!


 わたしは決意を新たに、掲げる衣装に頷くのでした。


 がんばるぞ、わたし!







「それにしても……」


 わたしは視線を自分の衣装から隣の衣装へと移します。その"真澄の衣装"へと。

 明らかにある部分のサイズの違う、その衣装に。


「……うぅっ」


 この差は、圧倒的なこの差は一体何なのですかぁっ。


 何故この世はこんなにも理不尽なのですかっ。

 神さまはわたしを見放したのですかっ。

 ひどいですっ。


 事コレに関しては、思わず口汚くこの世を呪ってしまいそうです……。


「……はぁ」


 ため息を吐いてから、慌てて気を取り直します。


 そうです、嘆いたって腐っていたってどうにもなりませんよ。はい。わかってますとも。


 何せ、わたしはまだまだまだ発展途上。わたしの時代はこれからです。きっと近い将来、毎日飲んでる牛乳さんが背やらお胸を育ててくれるでしょう。

 わたしはそれを楽しみに待つだけなのです。


 楽しみです!


「……はぁ」


 がんばれ、わたしっ!
















がんばれ斉藤さん!


なお、噂の出どころは勿論あの男d=(^o^)=b


※亜希ちゃんの登場に矛盾があったので修正しました。

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