第17話 お家へお誘い
本編に戻ります。
よろしくお願いいたします。
時は夕暮れ。
期末テストも終え、迫る夏休みを皆が心待ちにする、そんな時期の休日。
バイトの帰り道。
現場から直帰して良いと言う理沙の好意に甘え、帰路に着いていた。
場所は御崎高校がある地区の駅前商店街だ。
夕飯前だからか、買い物客で商店街は賑わっていた。
電車に乗るため駅を目指していると、不意に声がかかった。
「沢良木君?」
最近ではずいぶんと聞き慣れた、鈴を転がす様な声が俺を呼んだ。
振り向き、声の主を見る。
「斉藤さん」
金髪の天使(俺命名)こと、クラスメイトの斉藤愛奈さんが可愛らしく首を傾げていた。斉藤さんの金髪が夕陽に照らされ、これでもかと言うくらい綺麗だった。
ぐぁ……癒されるなぁ。
休日のバイトと言う殊更疲れる労働を終えた体が回復されていく、かのような錯覚を覚える程だ。
……割かし本当にあるかもしれない。
回復云々は冗談だとしても、気が軽くなるのは本当だ。
学校で数少ない友人の一人だからな。
斉藤さんと友達になってからは早くも1ヶ月が経っていた。
その後は順調に斉藤さんとはお友達している。
先日までのテスト勉強では更に斉藤さんと仲良くなれたと感じている。
その後も一緒に勉強や中庭の昼食だったり楽しい日々を過ごさせて貰っていた。
「こんな所で会うなんて珍しいね?」
お聞き頂けただろうか。
そう。
敬語じゃないのだ。
同級生相手にいつまでも敬語と言うのも疲れるだろうとテスト明けに提案してみた。
敬語をやめて数日経つがこれが中々嬉しかったりする。
敬語使いの同級生と言うポジションも良いかもしれないが、俺はタメ口の方がよかった。
可愛い女の子の後輩とかに敬われつつタメ口ってのが俺の理想なんだ。
そういうの無い?
無い、あ、そうですか。
まあ、俺の好みなんてどうでも良いが。
斉藤さんも斉藤さんで切り替えるタイミングを図り損ねていたと言うので、ちょうど良かったのかもしれない。
「俺はバイトの帰りだよ。この近くでバイトがあってね」
「そうなんだぁ、お疲れ様!」
斉藤さんは納得したように頷くと、俺を労ってくれた。
この笑顔やっぱり癒されます。
「そう言う斉藤さんは?」
「あ、わたしは家のお使いで少しね」
そう言うと手に提げていた袋を上げた。
「そっか。家はこの辺りなの?」
あ、しまった。
俺は自分の発言を後悔する。
このご時世だ、不躾に家なんて聞くもんじゃないよな……。
「うん、そうだよー」
ニコニコと笑う天使。
俺の発言を気にした素振りもない。
無警戒さに逆に俺が心配してしまう。
今度から気をつけようと俺は心に決めた。
「へえ。そうすると、学校は結構近いんだね」
「それもあるから御崎高選んだんだけどね」
えへへ、と少し照れたような笑みを溢す。
再びその可愛い笑みに癒される。
癒されるが……。
そろそろ俺の疲労がピークだった。
名残惜しいが、お暇させて頂こう。
今日は日曜日。
昨日、今日と土日立て続けにバイトが入っていた。
今回の現場は2日掛かりの仕事だった上に、雑居ビル内の荷運びと言う、肉体労働が主だった。
朝から動きっぱなし。
さすがに体力に自信があっても疲労は溜まっていた。
正直寝たい。
「そっか……それじゃ、そろそろ俺は行くね」
「あ、うん。それじゃあ……」
ちょっと強引な別れの告げかたにも関わらず、少し名残惜しそうな顔をしてくれた。
う……心が痛い……。
でも嬉しい。
どうしよう。
後ろ髪を引かれながらも俺は踵を返した。
駅へ向けて歩を進めるが。
「さ、沢良木君!」
おおう、呼び止められてしまったぞ。
何かと振り返ると。
「あ、え、ええと……」
何故に呼んでおきながら言葉に詰まるんです?
心なしか顔が赤く………………あ、はい、夕陽ですね。
斉藤さんの金髪がキラキラと夕日に照らされる。
俺、斉藤さんの金髪好きだわ。
すごくキレイ。
金髪好きになってしまったかもしれない。
ポニーテールとかツインテールとか見てみたいなー。
などと取り留めのない事を考えていると。
「さ、沢良木君、わたしの家に、来ませんか!?」
俺の思考は停止した。
―――――
「さ、沢良木君、わたしの家に、来ませんか!?」
気がつけばわたしはそんなことを口走っていた。
え!? 何言ってんのわたし!?
目の前の宗君も固まっちゃってるよ!!
どうしよう!? どうしよう!?
「あ、えっと……、どうしてか聞いても?」
固まっていた宗君が再起動した。
そりゃあ、急にそんなこと言われたら困りますよね……。
どうしてか、か。
どうしてだろうか?
わたしはなんであんな事を……。
……宗君が帰るって言ったら、胸の奥がぎゅうって。
……なんだろう?
初めての友達だから帰っちゃうのが悲しかったのかな?
せっかく会えたのに……。
あ、そう言うことか。
せっかく会えた友達が帰っちゃうのが嫌だったんだ。
恥ずかしいや……。
「斉藤さん?」
いつまでも喋らないわたしを宗君が不思議そうに見つめていました。
かといってなんと説明したらいいのでしょう。
そのまま説明するのは恥ずかし過ぎますよ。
「あー、あの、そうっ! お礼! お礼だよ!」
閃いた言葉をそのまま口にします。
「お、おう? ……お礼? なんの?」
「そ、それは、テスト勉強もそうだけど、学校で勉強教えて貰ったり、一緒にご飯食べてくれたり、沢良木君にはいつもお世話になっるから……」
わたしが口にした言葉はいつも心の中で思っていることです。
いつも宗君には感謝しています。
日頃口に出来なかった分、すらすらと言葉が出ました。
なのに……。
「それは……友達なら当たり前だろう?」
宗君はそう微笑みました。
うぐぅ……。
胸が苦しいよっ!
なんなのこれっ!?
「そ、それでもだよ! お礼したいから、ね?」
宗君は逡巡するが、直ぐに返事をくれました。
「あ、ああ。分かったよ。それじゃ、お邪魔しようかな?」
言い募るわたしに宗君は根負けしたみたいです。
宗君はなんだか恥ずかしそうに頬を掻きました。
「うんっ!」
気が付けばわたしは笑っていました。
宗君を先導し家へ案内します。
が、そこで問題に気がつきました。
あれ?
家に招待するって事は家を見せるんですよね?
……当然ですね。
うわぁぁあ!
どうしよう!
え! 家見せるの!?
考えなしに発言した自分を叩きたいです……。
さっきとは打って変わって重くなった気分で帰路に着いたのでした。




