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第166話 私はアリで



 俺は以前夏休みの時も貸して貰った猫エプロンを再び装着する。斉藤さんも脱いだばかりだったが、俺と揃って着けた。仕事上がりの癖で脱いじゃったとか。


「ふふ、沢良木君かわいー」


「からかわないでよ……」


「ホントだよ?」


「余計に反応に困るわ」


 斉藤さんとそんなやり取りをしながら、ケーキ作りの準備をする。


 準備をしながら、俺はふと思った事を口にする。


「……そういや、またお揃いだな。このエプロン」


「あ……その、嫌だった? 前もだけど、沢良木君の意見全然聞いてないよね……」


「いや、全然? 男として可愛いと言われるのは少し複雑だけどな」


 少し気まずげな表情を見せた斉藤さんに、気にするなと意味を込めたイタズラっぽい笑みで答える。俺が嘘を言ってないのが分かったからか斉藤さんは表情を綻ばせた。


「まあ? この猫エプロンだって斉藤さんみたいな可愛い女の子に着けて貰う方が嬉しいだろうさ」


「そんなこと無いよねー? エプロン猫さんも沢良木君に着けて貰って嬉しいもんねー? 『にゃ、そうだにゃー!』……ほら!」


 斉藤さんは一人で二役、猫エプロン役も演じる一人芝居を始めた。ほら! で見上げる表情はほんのりドヤ顔。


「……」


 ……何なんだ、この天使は!!!


 無邪気過ぎてツラい。声とか仕草とか可愛すぎてツラい。こんな一面を見せてくれるのが嬉し過ぎてツラい。生きるのツラたん。


「む、無視しないでよー!!! は、恥ずかしいでしょー!?」


 か わ ゆ い。


「ちょっとー!? なんで笑うのー!?」

 

 今日は斉恵亭のホールを借りて実施する予定だ。じゃれるのもそこそこに斉藤さんと俺は二人で引き続き、横に並べて面積を大きく取ったテーブルに材料や機材を揃えていった。






「お、これが例のオーブンか。まだだいぶキレイだね?」


「そうなんだよー。少し使ってたんだけど、使い勝手が良くなくて直ぐに大きいヤツに替えちゃったの」


 ホールの準備が終わった後、オーブンの置いてある中庭の物置に案内してもらい現物をみた。しっかりと梱包された形で保管されていたからか、全く痛んでいる様子もないし、問題は無さそうだ。


 業務用にしては小さなモデルだからか、斉藤さんの言っていた通り電源は100Vで間違いなかった。容量を見てもコイツ単体で使うなら教室のコンセントでなんとか間に合いそうだ。

 試しに手近のコンセントに接続してみたが、しっかりと起動した。


「ん、問題ないな。バッチリ使えるよ斉藤さん」


「そっか! よかったぁ……」


 安堵した表情で息を吐く斉藤さんに笑いかける。

 なんでも、言い出したは良いが本当に使えるかどうか心配になってきていたそうだ。


「それじゃ、運んじゃうな」


「うんっ、お願いします!」


 業務用にしては小さくとも、家庭用にしてはデカイ。そんな微妙なサイズのオーブンを運ぶ。中々の重量があり、斉藤さんの細腕では少しも動かなかったんじゃなかろうか。女子複数人で、と言っても結構危ない。斉藤さんが怪我でもしていたらと思うと、手伝いに来て本当に良かったと心底思った。


 え、過保護? うるせぇ、知ってるよ。


「サンキュー」


「いえいえー。どぞどぞー」


 ニコニコの斉藤さんに戸など開けてもらいつつ、二人でホールへと戻る。


 ホールまで戻ると、ちょうど待ち人達が到着したようだ。


「こんにちは斉藤さん。お邪魔します」


 がらがらと戸が開けられ、まず最初に佐伯さんが顔を出した。続けて残りのメンバーも口々に挨拶を交わし、ぞろぞろと入って来た。


 因みに今日のメンバーは裏方で作業するメンバーを適当に選んだ人員、それと運営委員の佐伯さんと横山である。俺と斉藤さんを除くと6名だ。松井はあれだけ張り切っていたのに、ホール担当である事と、メンバーの人数制限で弾かれてしまっていた。残念無念松井ちゃん。


「いらっしゃい皆! どうぞー! ここと、ここら辺かな! 適当に座ってね! あ、でも恥ずかしいからあんまりお店見ないでね!」


 クラスメイトが大勢来て張り切る天使が実に微笑ましい。テーブルにオーブンを置いた俺は、和みながらパタパタと忙しない天使を眺めるのであった。


「やっほ、沢良木君。生暖かい視線を斉藤さんに送ってる所悪いんだけど……」


「いや、もう堪能したから大丈夫だ佐伯さん」


「言ってる事は変態だけど……イケメンってだけで許されるなんてズルいわよね? 人類等しくイケメン死ね」


 意外と佐伯さんの口からバイオレンスなワードが飛び出すのね。

 この子俺んこと嫌いなんかな? それとも何かイケメンに因縁でも? まあいいや。


「そんで、どうかしたのか?」


「オーブンの話よ。結局見てみてどう?」


 そう言うことね。俺のことディスりたいだけなのかと。


「ああ、問題ないぞ。教室でも使える仕様なのを確認した」


「それはなにより」


「……おう、いらっしゃい!」


 そこにかかった声は厨房からだった。自ずと声の主は限られてくる。

 厨房の暖簾をくぐり、ずいっと出てきたのは隆々たる鋼の肉体を拵えた筋肉ダルマこと、斉藤俊夫その人である。

 鈍く輝くスキンヘッドがチャームポイントだ。


「ひっ」


「ーっ!?」


「ご、ごめんなさいっ」


 俺にとっては見慣れた顔でも、高校生の子供には少々ショッキングな面だったようだ。ましてや今日のメンバーは殆どが女子だし。

 かけられた言葉に歓迎する意味があっても、視覚情報がそれを拒んだか。


「ぶはっ、怖がられてやんの!」


 俺は我慢も早々に諦め、盛大に吹き出してしまう。確かに筋肉ダルマの面はおっかないからね。髭面のスキンヘッド+マッスルだもんね。カタギには見えないもんね。仕方ないね!


「んだとゴラァ!? 宗! 表出やがれ!」


「「「ひぃっ!?」」」


「や、やめてよパパっ!?」


「「「「パパっ!?」」」」


「わはははっ!」


「よく笑っていられるわね……?」


 筋肉ダルマの登場を期に、カオスな状況が瞬く間に出来上がったのであった。






「くっそ、マジで殴りやがったな筋肉ダルマめ……。身長が縮むかと思ったぜ」


 脳天に食らった拳骨の痛みに頭をさする。

 まあ、流石に笑いすぎたから大人しく食らったんだけどさ。


「ず、随分仲良さそうね?」


「んあ? ああ、拳で語り合う仲だな。マブダチだ」


 隣で飽きれとドン引き半々な表情の佐伯さんに答える。


「なんで友達の父親とそんな殺伐とした仲なの……? マブダチってそう言うのだっけ……?」


「いつか地面に膝を着かせてやるんだ!」


「キラッキラの表情で言うのね!?」


 佐伯さん、中々ツッコミのセンスあるね。



 肝心の筋肉ダルマと言えば、先ほどまでいつも通り斉藤さんに怒られて縮こまっていた。そんな姿にクラスメイト達も恐怖心は殆ど消えたようだった。

 父親の威厳とか底辺まで落ちていたけど、良いのだろうか? え、半分は俺のせい? 正直すんませんでした。あ、斉藤さんにはちゃんと謝ったぞ! 俊夫さんには謝んなかったけどな! たからぶたれた。そして激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなマイエンジェルと丁度そこに現れたママさんエンジェルに連れていかれた。正直ごめん。いろいろごめん。


「ねぇねぇ、沢良木君!」


「ん?」


 ようやく痛みの引いた頭から手を離した所で、今度は他の女子に声をかけられた。

 確か、亜希ちゃん、だったと思う。逆に名字が分からないわ。佐々木? 佐藤? 斉藤さんや絵理ちゃんと話してるのを聞いたことがある。絵理ちゃんと仲が良かったんじゃないかな。絵理ちゃん繋がりで最近は松井とも仲良いみたい。


「あのさ、愛奈ちゃんのお父さんとあれだけ仲良いってのは……やっぱり?」


「あー! 確かに! 気になるよねー!」


「きゃー!!!」


 亜希ちゃんのはぐらかした言い方に便乗する形で、他のメンバーも黄色い声を上げた。


「……そうよね、普通はそうよね? そう言う風に考えられるわよね? ってことで吐きなさい沢良木君!」


 お前さんもか佐伯さん。


「やっぱり……?」


 て言うと? これはどういう解釈だ?


 つまり……。


 俊夫さんと仲良い→黄色い声が上がる→皆さん実は腐ってる→やっぱり俺たちおホモ達?


「や、やめろぉっ!? 俺はいたってノーマルだ! 普通に女の子が好きなんだぁ! 後生だ! お願いだからそんな噂は広めないでくれぇ!」 


「えっ、そっち!?」


「っ!? そ、それはそれで……」


「ふぁ!? わ、私はアリで」


「やめろぉ……!!! やめてくれぇ!!!」


「なにこれカオス」


 佐伯さんのツッコミは俺の耳に届かなかった。













お読み頂きありがとうございました。


亜希ちゃん再登場( ^ω^)

覚えている人は居るのだろうかw

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