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第163話 久しぶりの中庭で。

しれっと更新(。-ω-)

いつも不定期で申し訳ありません











 とある昼休み。


「真澄は今日は他の人達と昼飯で、バスケ部は昼の集まりか」


「そうみたいだね」


 隣の斉藤さんは俺の言葉に頷いた。


 言葉の通り、最近は毎日欠かさず昼を一緒に取っているメンバーが、俺と斉藤さんを除いて都合が悪いときた。


 二人だけで昼休みを過ごす事になるなんて、いつぶりだろうか。二人だけで過ごす事を自然と考えている辺り、改めて考えると不思議な気持ちになる。

 流石にここで別々に過ごそうだの、斉藤さんへ言う気なんて更々無い。


 他の連中には悪いが、二人だけの昼休み、と言う久しぶりな場面に少なからず心踊る自分が居るのも確かなのだ。


 それなら、と俺は口を開いた。


「沢良木君───」「斉藤さん───」


 が、俺と斉藤さんの声が重なってしまう。

 きょとんとした斉藤さんの表情が俺は可笑しくて笑った。


「ははっ」


「えへへ、沢良木君どうしたの?」


 斉藤さんははにかみながら首を傾げた。斉藤さんに勧められたので、俺から話題を振らせて貰うことにした。

 前にも被った事あったな……なんて頭の片隅に思い出しながら。


「二人だけだしさ、久しぶりに中庭で食べない?」


 俺の言葉を聞くなり、天使は溢れんばかりの笑顔を浮かべた。ほんのり頬を上気させ、上目遣いで見上げてくる。


「わたしも、言おうと思ってたんだ……」


「そ、そうか……」


 臆面無く見詰められながら、そんなこと言われたら普通に照れちゃうじゃんね。

 頬を掻いて俺は誤魔化す。


「それじゃ、行こうか?」


「うんっ!」


 斉藤さんは弁当の入った巾着を手に持つと、弾むような足取りで俺の隣に並んだ。俺を見上げる顔には、花咲くような笑み。


 ……ああああ、今日も可愛いな、おい。






 肩を並べ廊下を喋りながら歩く。


「今日も購買でおにぎりを買おうと思います」


「そうなんですか沢良木君! わたしも付いていきますね!」


 ふざけて敬語で話したり。

 あっという間に食堂棟に到着し、購買の列に並ぶ。


 ぼんやりとピョコピョコ跳ねる斉藤さんのアホ毛を見下ろしていると思い出した。


 そういや、まだ敬語だった頃……いや、それこそ確かあの日は初めて昼を一緒に取ろうとなったあの日の事だ。今日と同じくこんな風に列に並んでいた。


 ちょっとイタズラ心が疼いた。


 ちょんちょん、と斉藤さんの肩を叩いた。


 確か、こんな感じだっかな。


「……この列を待っている間、斉藤さんが俺の話相手になってくれるってのは?」


 こちらを見上げてきた斉藤さんに、俺はそんな言葉をかけた。次の瞬間。


 ……ぼんっ。


「………………」


 そんな効果音が付きそうなぐらい、斉藤さんの顔が赤くなった。


 あ、あれぇえ? え?


 何故、赤面?


「は、はぃ……」


 俯いた斉藤さんは、そう返事をくれた。


 ……あれ? 確かあの時もこんな感じに俯かれて。


 もしかして……いや、俺の思い込みかも知れないけれど。


 ……斉藤さんもあの時を思い出していた……?


 いやいやいやいや。


「……えへ」


 再び顔を上げた斉藤さんは恥ずかしそうにしながらも、優しげに目を細めて笑った。


「あ……」


 ……え、うわっ、なんだこれ、恥ずかしっ!?

 自分でもよくわからないが、とにかく恥ずかしいぞ!?


 ちょ、顔熱い。


 なんでだぁあああああ。


 結局お互い、おにぎり買うまで何も喋れませんでした、まる。






 中庭に着く頃には、二人の間の空気もいつものように戻ってきた。


 俺達はお互い言葉を交わさずとも、いつもの"あの場所"へ足を向ける。


「……なんか、ここも久しぶりだなぁ」


「ふふ、そうだね? 最近はずっと教室だもんね」


 自然と以前のように、定位置へと二人腰掛ける。


「だな。しかし、空いてて良かったよ。他の生徒が居たらどうしようかと思った」


「あ……」


 斉藤さんは今気付いた様に目を丸くさせた。俺はそんな様子に頬を緩ませながら、ベンチを叩いた。


「俺も今さっき思い至ったんだけどさ。だけどまあ、あの時から俺達の専用みたいなもんだったけどな。相変わらずの様で嬉しいよ」


「……そうだね」


 斉藤さんは俺の真似をするように、反対側でベンチを優しくポンポンと叩いた。その表情はとても優しげだ。


「とりあえず食べようか」


「うん!」


 お互いに、昼飯を広げる。まあ、俺はビニールから出すだけだがね。


「「いただきます」」


 二人の声が重なった。


 今日は運良く明太子が買えたので、ちょっと嬉しいね。もう一つは高菜だけども。


「えへへ、わたしも今日はおにぎりなのです」


 斉藤さんはニコニコしながら、小さな俵形のおにぎりを両手で持っていた。可愛い。


「お揃いだな」


「そうだねー! お揃いだねー! 具は塩鮭だよー」


 楽しそうにおにぎりを頬張る斉藤さんを横目に、俺も自分のおにぎりにかぶり付く。

 皮付きのまま包まれた明太子は大ぶりで実に食べごたえがある。まあ、おにぎり自体がかなり大ぶりな訳だけども。

 あと、明太子の皮は好き嫌いが別れる部分だとは思うが、俺は断然食べる派だ。皮こそ旨い。どうでもいいか。

 まあ、好きなおにぎりにありつけて、宗くんご機嫌って感じだ。


「ふふ、明太子買えて良かったね?」


 嬉しそうに食ってたのが分かったのか、斉藤さんは笑った。

 以前に明太子おにぎりが好きな話はしたことがあるので、覚えていてくれたんだろう。


「ああ」


 俺は素直に頷く。


「もう一個は、高菜だっけ?」


「ああ、そうだよ」


 胡麻油と唐辛子で香ばしく炒められた高菜炒めおにぎりだが、残念ながら購買のおにぎりランキングでは下位を独走中である。確かに他のおにぎりと比べれば華がないというか、ね。美味しいんだけどね? ただ、ある程度の売れ行きはあるようで、ラインナップから外される様子もない。


 斉藤さんは、あ、と声を上げ手に持つおにぎりを軽く掲げた。


「高菜明太子だねー!」


 無邪気に笑う斉藤さんを微笑ましく思ったが、それと同時に俺に電流が走った。


「斉藤さん天才!」


 俺はおもむろに未開封の高菜おにぎりを取り出すと封を切った。


 そして、右手に明太子、左手に高菜を装備して笑った。


「同時に食えば高菜明太じゃないか!」


 かぶり付く、かぶり付く。


 うむ、まさしく高菜明太! あ、個人的にはマヨネーズがちょいと欲しい。とりあえず実験は大成功。旨い。


「ぷっ、ふふっ、あははっ!」


 口いっぱいに頬張る俺を見る斉藤さんは、堪えきれずといった様子で笑いだした。


「さ、沢良木君、ぷっ……それ、だめだよ、ふふふっ! あー、ダメ! 笑っちゃう、あはははっ!」


 ツボに入ったのか、中々斉藤さんの笑いは止まらない。


「も、ももう(お、おおう)」


「や、やめ、あははははは……!」


 ここまで笑い転げる斉藤さんは初めて見る。新しい1ページを俺は心のアルバムに保存し続けた。口いっぱいの高菜明太と共に。


「あははははは!」


 笑い転げる天使も素敵です。ぐっ。






 少しして落ち着いた斉藤さん。

 俺もさすがに口の中のおにぎりを飲み込んだ。しかし、こいつは意外な発見だな。おにぎり同士を組み合わせる事で新境地にたどり着けるとは。


「もう、ひどいよ沢良木君ー」


 はい、俺のせいで全然問題無いです! 全て悪いのは私です! はい。でへへ。


 再びお弁当を食べ始めた斉藤さんは、未だに可笑しそうに俺をチラチラと見ている。

 おかずの唐揚げを小さなお口に放り込んで美味しそうに表情を綻ばせた。

 すると、何か思い付いた様に顔を上げた。


 斉藤さんには珍しく、イタズラっぽい色の瞳と笑みだった。


 見慣れない表情に俺は少しドキリとする。


「ふふ、沢良木君食いしん坊さんだねー? 両手塞がってるなら、しょうがないもんねー?」


 そう言うと斉藤さんは、おかずの唐揚げを箸で持上げると笑った。


「えへへっ、はい沢良木君。……あーん」


「……え、あ、おう」


 斉藤さんの表情に見とれていた俺は、言葉が詰まってしまう。


「いらなかった?」


 あああああああ。


 そんな悲しそうな顔をしないでおくれ。


「いや、もちろん貰うよ」


「……! はいっ、どーぞ!」


 打って変わって、表情を綻ばせた斉藤さん。


 最早慣れたと言っても過言では無い動作。差し出された唐揚げを頂く。


 ……慣れた、とか自分が嫌になるなぁ。なんとも自分が軽薄に感じてしまう。


 でも、唐揚げは文句なしに美味しくて。

 

「うん。旨い」


「えへへ、良かった!」


 その笑顔も可愛かった。













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[良い点] ぐはっ…。(糖死)
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