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第159話 執事沢良木君



 真澄の主導で動きのポイント等女子が一通りの接客を練習し、一巡した辺り。最初こそ恥ずかしがる子も居たが、次第にそれも無くなり皆集中していた。

 男子もノってきたのか、女子の動きに色々と意見を出し合いレッスンに加わっていた。かくいう俺も意見を求められ何かと発言させられていた。


 そんな時。


「それじゃ、沢良木君」


「なに佐伯さん?」


 俺は出し抜けに佐伯さんから声をかけられた。


「演技は得意?」


「演技……? いや、考えたことも無いが……」


「まあ、頑張って」


「え、何が……」


「それじゃ、執事長の接客相手をしてくれる人はー!?」


「「「はーい!」」」


「……えぇ」


 一斉に上げられた沢山の手に、俺は引いてしまう。楽しそうな真澄、斉藤さんを筆頭に女子達が手を上げていた。


 執事長って俺だろ? てことは俺が接客のデモンストレーションをしろと? ほら、男子凄い顔してこっち見てんぞ。俺悪くない。藤島何とかしてくれ。え、知るか? 頑張れ? そんな御無体な。


「んー、じゃ全員にして貰おうかしら?」


「俺のターン、重すぎね?」


 俺のツッコミは佐伯さんに事も無げに黙殺せれて終わる。ひどい。


 そもそも、そんなことやるの? マジで? 主に男子の視線がツラいんだけど。お前らも後でやるんだぞ? 分かってんの?


 え、いや、そんな目で見ないでよ子猫ちゃん達よ。え、いいから早くやれ? 佐伯さん段々俺の扱い雑になってね?


「ねね、宗君! あの眼鏡、今持ってないの?」


 佐伯さんに揉み立てられる俺に真澄がそんなことを言ってきた。真澄の隣では斉藤さんがワクワクした様子で頷いている。


「めがね……? あー、伊達メガネか?」


「うんうん!」


「確か、メタルフレームのヤツならバッグに入れたままだったと思うけど……」


「!!! なら持ってきて!」


「え? いま?」


「そう、はやくー!」


 真澄にせがまれ、素直に持ってきた俺。直ぐに真澄に取り上げられ、腕を引かれ接客班から離れた位置に連れていかれた。何故か真澄の隣には斉藤さんも居て、ニコニコしている。

 離れた位置に連れてこられた俺は真澄に促され、空いている席に着席した。そして、真澄は俺から奪い取った伊達メガネを手にすると、恐る恐るといった様子で俺に掛けるのだった。


「「ーーーっ!?」」


 斉藤さんと真澄は俺の顔を見や否や、両の手をお互いに叩いて跳び跳ねていた。楽しそうで何よりだよ。うん。


「沢良木君の眼鏡姿久しぶりだよー!」


「うんうん、学校では初めて!」


 そりゃ、髪切ってイメチェンしたから眼鏡の意味なくなっちゃったしさ。俺の地味な根暗イメージの為だったんだけどさ。まあ、むしろキモロン毛のイメージに拍車を掛けてたらしいけどね!


 何より、あの水族館デートで斉藤さんに眼鏡無しでも認知されたのが嬉しくて、それ以来着ける気も起きなかったんだけどね。


「久々に掛けたが、変じゃ無いか?」


 眼鏡の位置を指で直しながら聞く。


「バッチリ似合ってる! 宗君眼鏡も似合うんだねー!」


「全然! 髪型変わってから初めて見るけど、凄くカッコいいよ! うー、良いなー!」


「インテリって感じ! IT関係で働いてるねコレは。イメージだけど!」


「そんな感じ! えへへー」


「……そ、そうか」


 手放しで褒めちぎる二人に俺は気後れしてしまう。

 つか普通に恥ずかしい。


 あと、斉藤さんが結構テンション高い。今なんて両手で頬を押さえながらくねくねしてる。お兄さんちょっとびっくり。


「あは、宗君可愛いー」


「ふふ、沢良木君照れてる?」


 羞恥に苛まれる俺の様子が分かりやすかったのか、二人にからかわれてしまう。それがまた、余計恥ずかしさに拍車をかける。


「うるさいぞ」


 そんな憎まれ口を叩くも、気にも留めずニコニコしている二人の前には形無しです。はい。

 俺は誤魔化すように口を開く。


「つか、コレで練習しろってことで良いのか?」


「「うんっ」」


 二人とも仲良いよねー。


「由香には許可貰ってるしねー。むしろやれってさ」


「あはは、佐伯さんノリノリだねー」


 新情報。佐伯さんの名前は由香らしい。どうでも良いけど。


「そんじゃ、とっととやろうか」


「あ、ちょっと待って!」


 俺は真澄に引き留められると、おもむろに髪を触られた。そして、そのまま手櫛で整えられる。

 軽く今朝にセットはしたが、どこか変だったろうか。


「全然おかしくは無いんだけど、せっかくだからイメージ変えようよ!」


「良いね!」


 二人は楽しそうにはしゃぐが、俺の意見は? え、発言権は無い? そうですか。まあ、好きにしてください。


「あ、そうだ。せっかくだから皆は外出ててよ! 来店シチュエーションだよ!」


 そんな真澄の呼び掛けに女子達は楽しそうに廊下へと出ていった。

 ハードル上がってね?

 真澄は引き続き俺の髪の毛を弄り出す。


「襟足はこんな感じでー」


「うんうん」


「ここを敢えて跳ねさせて」


「あ、可愛い!」


 真澄の言葉に相づちを打つように笑う斉藤さん。


「前髪はー……」


「ま、真澄真澄! ちょっと!」


 斉藤さんは真澄を止めると耳打ちした。斉藤さんの言葉を聞いた真澄は顔を輝かせると頷いた。


「それ採用!」


「うんうん!」


 俺聞いてない。


「それじゃ失礼しまーす」


 真澄は謎の掛け声を共に、俺の前髪手を添えて、かき上げた。


「……オールバックか?」


 夏に髪を切ってから少し伸びた前髪。オールバックにするのも難しくはない。もちろんそんな髪型、自分ではやったことも無いが。


「……」


 真澄は途中かき上げていた手を何故か離してしまった。

 そのせいで中途半端に髪が落ちてきてしまう。


 俺は落ちてきた前髪を無意識に右手でかき上げ、真澄を見る。俺の前に立つ真澄を自然と見上げる形になった。


「真澄? どうした?」


「……ご、ごごごめん宗君! あ、あたしギブアップ! もうだめぇ!」


「あ、おい!?」


 よく分からないことを言いながら脱兎のごとく廊下へと消えていった真澄。

 首を傾げながらも俺はまだ隣にいる斉藤さんへ視線を向けた。


「斉藤さん?」


「……」


 呼び掛けるが、まるで反応が無い。ぼー、っと俺の顔を見つめてくるだけだ。


「おーい?」


 顔の前で手を振り、それでも反応が無く肩を叩いた所でようやく目が合った。


「っ!?!?!?」


 びっくりしたり赤面したり、百面相を見せる斉藤さんは結局何も言わずに駆け足で出ていってしまった。


「なんなんだ……」


 悪い意味で無いことだけを祈ろう。


「結局どうすればいいん?」


 一人取り残された俺はとぼとぼ、他のメンバーの居る場所まで戻ってきた。


「……おぉう。お前、マジか」


 戻ってきた俺を見た佐々木は何やら驚いているのか引いているのか微妙な表情。隣の藤島はどこか訝しげな視線を向けてくる。


「沢良木、お前本当に高校生か?」


 はい。年齢的には微妙だけどな!

 藤島に俺は笑顔でサムズアップを向ける。

 

「そっ、それじゃ、コレ着てね沢良木君」


 そう言いながら俺に衣装を差し出すのは唯一残っていた女子の佐伯さん。衣装はこちらに出されているが、肝心の佐伯さんはそっぽ向いている。


「ありがとう佐伯さん。……どうした?」


「んな、何でもないわよっ!?」


「そうか?」


 何やら睨む様に言い返す佐伯さんに俺は頷くしかない。


「佐伯が照れてーら」


「うるさい猿っ!」


 何故か除け者にされ別班に行ったエロ崎に囃し立てられる佐伯さん。がるるっ、と睨み付けていた。

 よくよく周りを見ればウチの班は大分視線を集めていたようで、殆どの班が俺達を見ていた。まあ、あれだけ騒いでいれは当然もと言えるが。


「……ほら沢良木手振られてんぞ? 振り返したらどうよ?」


「ん?」


 ニヤニヤした佐々木に肘でつつかれながらそちらを見れば、女子数人のグループが手を振っていた。確か絵理ちゃんと仲の良かった子たちだったか。


「ほれほれ」


「……」 


 催促する佐々木に辟易しながらも、俺は渋々手を振り返した。もちろんそんな雰囲気はおくびにも出さないが。

 こういうのは苦手だ。


 俺が手を振り返せば、きゃっきゃとはしゃいで楽しそうにしていた。楽しそうで何よりだよ。

 ……一人男子が混ざってたのは見間違いだと信じたい。


 女子の見ていない隙にそそくさと着替えた俺は藤島に可笑しな所が無いか確認して貰う。

 あ、俺はパンツを見られようが気にしない質です。はい。流石に女子に見せてはセクハラになるので、もちろん物陰で着替えたが。


「沢良木。俺、こう言うの全然分からねえんだが……」


「鏡ねぇから俺も見れねぇし。お前ら分かる?」


 周りの男子に聞くも皆首を振るばかり。佐伯さんは知らない間に居なくなっていた。


「あははー、ごめんね沢良木君。私居なくなったらフォローできないよねー」


 そう言いながら戻ってきたのは、この服の製作者でもある太田さんだった。


「悪い、助かる。男連中では正解が分からなくてさ」


「ふふ、それじゃ早速見るね……」


「ああ、頼む」


 太田さんは俺の姿におかしな部分が無いか確認してくれた。


「……はぁ、良い……尊い……役得役得」


「ん? 何か言った?」


「……なんにも? ……うん、問題無いんじゃないかな?」


 何かぼそぼそと言った様に聞こえた気がしたけど、気のせいか。


 太田さんのオッケーも貰ったので、早速始めるとする。こんな恥ずかしい事は早々に終わらせるに限る。

 それに、どうせ本番は不特定多数の人に見られる訳だ。羞恥心も早々に捨てないとな。


 俺はスイッチを切り替える。

 そんな大それたことでは無いんだが、要は気持ちの話だ。仕事である、と認識させる。そうすれば大抵なんとかなると思う。うん。


 ……この状況では正直難しいが、根性だ根性。ああ、恥ずかしい。


「……ありがとうございます、太田さん。それじゃ、皆さんを呼んで頂いても?」


「え? あ、は、はいっ! ちょっと待ってて下さい!」


「ふふ、それじゃお願いしますね?」


「はいーーーっ!!!」


 ニコリと俺が笑みを向けると、赤面し慌てた様子で太田さんは廊下へと飛び出した。


 ああ、恥ずかしい。


 何かあったのかと、クラスの連中の注目がさっきまで以上に集まっているのが分かる。ちらほらと近寄ってくる連中も。

 こっち見んなよ来んなよ、こんにゃろう。恥ずかしいだろ。


 しかし、当然表情には欠片も滲ませない。澄ました横顔の……筈だ。


「……君達も、しっかりと見ておいて下さいね。次は君達の番ですから」


 訳:ちゃんと見てろよ。次はてめぇらだこの野郎。


「「「……」」」


 後ろの男子どもに釘を刺しておくのも忘れないよ? 俺だけ晒し者とか許せるか。どうせなら完璧に演じて極限までハードル上げたらぁ。


 そう考えると楽しくなってくるじゃんね! ぐへへ。


 無言で頷くグループメンバーを横目に、教室の扉を見据える。


 そして、扉が開かれた。















太田さんは衣装の作成者として、接客班に居ます( ゜A゜ )

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