第154話 クラスの話し合いとか
お待たせしました。
俺がぼんやりしている間に、文化祭の話し合いは思いの外進んでいたようだった。
猫耳メイド喫茶店……。
まともに話し合いに参加していなかった俺が言うのもなんだが……。
良いのか? こんなので。
桜子ちゃんは……ニコニコしてるな。
まあ、皆楽しそうにしているし良いのか。こういう行事は楽しんだ者勝ちだしな。
俺の経験してきた文化祭に大して良い思い出は無かったが、今回はどうなることやら。
中坊の頃は文化祭と言う名の体育館での集会だったし(軽い飲食)、バカ校では夏に実施でクソ暑いわそもそも不良どもが真面目にするはずもない。したがって名ばかり文化祭に成り果てていた。……俺も教室で漫画読んでいたし。
なんにせよ、楽しい文化祭になることを祈ろう。
文化祭。
その言葉から脳裏には、遠く過ぎ去ったいつかの会話が想起される。
「……………………」
……アイツも、文化祭楽しみにしてたっけ。
御崎校の文化祭、話だけは沢山聞いていたからね、なんとなくは想像出来てしまう。
アイツなんて言ってたっけ……。
『えっとねー、たこ焼き、わたあめ、焼きそば、焼き鳥、かき氷、りんご飴……あとはクレープ!』
全部食べ物じゃねえか! 縁日かよ! 文化祭だよ! まあ、出店はあるかも知れないけどさ。なんかそんな感じでツッコミを入れた気がする。
回想まで食い意地張っていて笑えてくる。
そんなに食えないのにさ。
あとは、俺と回るんだっけ?
『うんっ。お化け屋敷行ってーきゃーって言いながら兄さんに抱き着いて、美術部や写真部の展示見て素敵だねー綺麗だねーって。あとは、演劇部の発表を見て感動して……ね? デートだよ!』
「……」
……まだ、引き摺ってんのかな。
時々、キーワードが引っ掛かる度にセンチメンタルになる俺がいる。
それとも、時間が経てば忘れられるのだろうか。
胸の痛みも、みんな全て。
「……」
ところでさ。
「「……!!!」」
このキラキラした目の子猫ちゃん達は一体全体何したんだろうか?
「……」
とりあえず無視することにした。
先送りとも言う。
「さぁて、出店内容が決まったわけだけど、ここからは申請するに当たっての詳細を詰めていかなければならないんだよ」
それまで成り行きを見守っていた桜子ちゃんがタイミングを見計らってそう声を上げた。
「今日決まったばかりだし、色々決めるのも大変だろうけど。とりあえず必要事項をあげていくね?」
桜子ちゃんは黒板へその必要事項とやらを書き出した。店舗規模に関すること、業種、コンセプト等々。
「もちろん、決めてしまっても問題ないよ? はい、またお任せー」
そう言うと桜子ちゃんは再び引っ込んで行った。その際、俺と目が合ったのは気のせいだろうか。
……それに、なんだか良い笑顔だったのは気のせいだろうか。
とりあえず、今度は真面目に参加するとしようか。
「……」
……二人とも、前見ようね?
文化祭について話し合ったホームルームの数日後、出店の申請が通ったと桜子ちゃんから皆に伝えられた。
結局あの日、はりきったクラス連中によって必要な部分は全て網羅された。お祭り好きが集まったのか思った以上に皆やる気に満ちていた。
「……まあ、真澄の言う通り俺は仕事柄色々な事やって来たからな。俺に答えられる事なら」
クラスの話し合いの中、真澄が大声で俺に振るもんだから答えざるをえなかった。絶対わざとだと思うわ。
ワイワイと、クラスはフリーに発言し合う空気になっていた。
「へーそうなんだ?」
「それなら沢良木、喫茶店とかの接客業は?」
最早俺に話し掛けるのも慣れた様子のクラスメイト達。俺は掛けられた問いに答える。
「もちろんあるぞ。下手な仕事は出来ないからな。ノウハウから学んでいるぞ」
「そりゃすげえな?」
「そんな大したもんじゃないよ。それこそバイトで接客業に就いている人だっているだろ? 皆がアイデアを出し合えばいいさ。な?」
俺はそう言いながら、隣の斉藤さんへ視線を送った。視線が合うと斉藤さんは恥ずかしそうにはにかみながらも頷いた。
「う、うん、わたし、普段接客してるよ!」
きゅっ、と目を瞑りながら斉藤さんは手を上げた。
「え!? 斉藤さんそうなんだ! 知らなかったよ!」
「へえ、斉藤が接客か! 詳しいのか?」
「え、えっと……少しは分かる、かも……?」
クラスメイトの発言に、途端に恥ずかしそうに自信が萎れていく斉藤さん。そんな様子がまた可愛い。
「あ、それならあたしは演技指導とかかなー? 喫茶店って言っても、メイドカフェでしょ? パフォーマンスしてこそでしょ! 伊達にアイドルやってなかったからねー。任せてよ!」
真澄はえっへん、と胸を張り自信ありげに斉藤さんに続いた。
「ふぁっ!? ますみん直々に演技指導!? なにそれ凄い!」
「ヤバいな!」
真澄の発言に教室は大いに盛り上がる。
そんな空気に当てられてか、その後も俺は柄にもなく発言してみたり。先程述べたように無駄に経験だけは積んでいるため、助言はそれなりに出来た、と思う。普段、必要以上に喋らない俺が発言した事には周りも驚いていたが、その後呆気なく受け入れられていた。
それはむず痒く不思議な気分だった。
両隣の少女達はなんだか嬉しそうに笑っていた。それがまた、気恥ずかしく、むず痒かった。
「よっしゃああぁ! これで夢への第一歩がぁ!」
桜子ちゃんの発表を聞いた瞬間の山崎の雄叫びである。この山崎の野郎、打ち合わせの時異様にしゃべるもんだから、さすがの俺も名前を覚えちまった。己の欲望に忠実に生きる潔い坊主である。しかし、驚いたのは山崎のその発言がかなり的確でクラスの催しの計画に大いに役立っていたことだ。そんな事もあり、俺はこの男が思いの外気に入っていた。
「あ、猿は裏方だからね」
「え」
そんな、計画立案に貢献した山崎であったが、女子からは無情な言葉がかけられた。いかに貢献しようと、邪な考えを口にする時点で結果はこの通りだ。
まあ、特にフォローするつもりも無いけどな。
何故って?
ウチの子猫ちゃん達に変な目ぇ向けたらブチコロス。以上。
まるでお父さんの気分だぜ! 俊夫さん、茂さん任せとけ! え、違う? ぼくわからない。
それから更に数日後のホームルームのこと。運営委員によりもたらされた一等地獲得の知らせにクラスは大いに湧いた。
その場所は、メイン昇降口の直近にある多目的ホールであった。通常の教室の2倍も面積が大きく、尚且つ入口からのアクセスが良好と言う立地から出店場所の最有力箇所となっていた。当然のようにどこのクラスもこの場所を希望するため、毎年抽選による決定がなされていた。まさに激戦区である。
実際、過去の文化祭でもここに店を構えたクラスが売上部門で一位をもぎ取っていくらしい。後は、ウチのクラスのクオリティが試されると言うわけだ。
上級生を差し置いての高立地。バカにされないためにも立派な喫茶店が求められると言うものだ。
クラス一同は一段と気合いを入れたのだった。




