第151話 れっつらBBBQ 4
※本日二話目
「さあ、食べようぜ!!! 宗君の愛情たっぷりのバーベキューだぞ!」
今日のバーベキューは食材をステンレス製の串に刺した、いかにもなスタイルである。ある程度の数が焼き上がった事から、皆に声をかける。
因みに斉藤さん含めたメンバーは席に着き、大人はアルコール、この場には斉藤さんのみだが、未成年はノンアルコールドリンク片手に談笑中だ。因みに俺も一応ノンアルコールで。
周りのフレンドリーさもあってか、斉藤さんもすっかり打ち解けた様子だ。誘った俺としても一安心だ。斉藤さんは理沙と杏理ちゃんに挟まれて大層可愛がられていた。
実に和やかで楽しそうな風景だった。俺が含まれて居ないけどな!
羨ましくなんてないぞ? 嘘、ちょっと寂しいですはい。
実はね、寂しさを誤魔化す様に俺は声を張っているんだ。うふふ。
「なんでそんなにテンション高いのよ? 鬱陶しいわね。ね、愛奈ちゃん?」
「えっ!? いや、そんなこと……」
「辛辣だなっ!?」
逆効果! もっと寂しくなった!
「そうだ! ウザイぞ宗君! 今、愛奈ちゃんを愛でてるんだから! それにね妖怪独り身の小言を延々と聞かされる身にもなってみろあだだだだぁっ!?」
「杏、何か言ったかしら?」
杏理ちゃんの言葉は瞬時に背後へと回った妖か……理沙の攻撃によって遮られた。
「いっででででなあああぁぁいっ!?」
某しんのすけも真っ青なこめかみへの攻撃に杏理ちゃんは絶叫する。
ノッポは巻添えを喰らわないよう、我関せずといった感じでビール片手に風景を見ていた。
薄情な恋人だなおい。
「杏理ちゃんまで辛辣だ! 斉藤さんだけだ、俺の味方は!」
「え、ええっ!? わたし!?」
隣ではしゃぐ大人に苦笑いしていた天使は俺の言葉に肩を跳ねさせた。
「おれ、斉藤さんに励ましてもらわないと、お肉焼けないよ」
「さ、沢良木君がなんだか凹んで……! が、頑張って沢良木君! わたし、沢良木君のあっ、あいじょう、たっぷりのバーベキュー食べたいよっ! あと、わたしも手伝わせて!」
斉藤さんは拳を握ると、たどたどしくも俺を応援してくれた。挙句の果てには、立ち上がりこちらに手伝いに来てくれた。
なんて優しく可愛い天使なんだ! 愛してる!
「俺、斉藤さんのそう言うところ好きだ!」
「すっ!?!? ~~~~~っ!!!! わっ……わたしも、宗くんのこと……そのね……す、すき……っ(ゴニョゴニョ)」
突然俯くと両頬を手で押さえ、身体をくねらせる天使。
「どした? よし、じゃあお言葉に甘えてコレ運んで貰っていいかな?」
俺は焼き上がった串を皿に乗せると、斉藤さんな差し出した。
「え? あ、うん」
「ふふ、斉藤さんは謂わば配膳のプロだからな。これ程最適な人材は居ないな!」
「あ、ありがと……」
斉藤さんは先程より明らかに覚束ない足取りでテーブルに向かっていった。
階段で疲れちゃったかな? それに火起こしもして貰ったし。だとしたら申し訳ない事したなぁ。どうしよう。
「斉藤さん、疲れたなら休んでても大丈夫だよ?」
テーブルに皿を置いて戻ってきた斉藤さんに伝えるが。
「っ……大丈夫だよ! ちゃんと出来るもん! 沢良木君は焼くのに集中してて!」
声を少し荒らげる斉藤さんに俺は目を丸くする。
さ、斉藤さんのご機嫌を損ねてしまったぞ!?
どうしよう!?
何がいけなかった!?
教えてド○えもん!!
「わ、わかった……」
脳内パニックな俺は、次の皿を持っていく斉藤さんの背中に、そう頷くしか出来なかった。
「バカ」
「バカだねぇ」
「え? 何が!?」
理沙と杏理ちゃんの呆れた視線に、俺は余計分からなくなる。
「知らないわよ」
「知らなーい。あ、愛奈ちゃん配膳なんて良いからお姉さん達と座ってましょ! 大ちゃん、配膳よろー」
「あいよ」
斉藤さんは杏理ちゃんと理沙に捕まると、テーブルに連れていかれてしまった。そして、大次郎が斉藤さん代わりにこちらへ来た。
俺はどうやら何かミスをしてしまったようだ。
「まあ、なんだ。頑張れよ?」
こちらに来た大次郎にポンポンと肩を叩かれる。
「どういう事だってばよ」
「……ぶふっ、結構堪えてんな宗!」
「あ、何が!?」
俺は大次郎を無視して、再び焼き方に専念することにした。
……斉藤さんに言われたしな。
「へー、ほー、ふーん?」
「ウザいノッポめ」
「テメーも似たようなもんだろ! ったく、せっかく人生の先輩が有難い助言をくれてやろうと思ったのによ」
「何っ、本当か!?」
「おおう、随分と食い付き良いな?」
「当たり前だろ! 俺は天使に嫌われたら生きていく意味がないんだよ! 高校なんて再び中退じゃボケ!!!」
「そ、そうか。そんなに入れ込んでるのか……」
「なんでも良いから教えてくれよ!」
「まあまあ、そう焦るな。向こうでもフォローしてくれてんだろ。……多分」
多分てなんだ、多分って!!!
「まずはな……男が最初に折れろ。向こうの非が明らかだとしても自分から謝るんだ。まあ、今回のは違うから参考までにな」
「それは、なんというか……そういうもんなの?」
「ああ、色々思う事は分かる。だが大切なんだ」
切実さが滲み出る大次郎に俺は頷くだけだ。これが人生の先輩としての威厳、だろうか。……違うと思う。
「しかしな、ただ謝るだけじゃダメなんだ」
「なんだと? 土下座か?」
「……思い出させるな」
「なんかゴメン」
「違う! そうじゃなくてだな! 要は怒っている理由も分からず謝るな、ってことだ。そんなことしてみろ。土下座じゃ済まなくなるからな?」
「わ、わかった」
一体何があったんだろう大次郎。
「だ、だけどそれだと俺謝れないぞ? 怒ってる理由が分からない……」
「そりゃあ、お前……」
「?」
「……自分で考えな」
「ご無体な!」
大次郎の助言役に立たなかった!
「お前なら大丈夫だろうさ。……ただ、そうだなぁ、端から見てる俺の感想だけどな」
「……うん」
「友達と一緒に何かをするのって楽しいよな。一緒に火起こししてたのスゲー楽しそうにしてたじゃん二人とも」
「そりゃ、勿論」
「それを休んでろって言われても、な?」
「……」
大次郎は柔らかい笑顔を浮かべてそう言った。
何となくは、分かる気がする。確かに友達と一緒が良い、ってのは当然だ。
俺は斉藤さんを気遣い過ぎてたんだろうか。確かにそのきらいがある気はする。年下の女の子だから、ってオーバー過ぎたかね。
斉藤さんを気遣っていたのか、軽んじていたのか、自分でもよく分からなくなる。
「……よく分からなくなるのも恋ってもんさ」
「うん?」
「いいや?」
大次郎は何か呟くと首を振った。
「そういや、宗は愛奈ちゃんに告白しないのか?」
「……は?」
人が色々と考えていると言うのに、コイツはとんでもない話題をぶっ込んで来た。
「だって付き合って無いんだろ? 仲良いんだし、どう見たって好きだろ? 告白しないのか?」
「つ、付き合って無いよ。いや、それに斉藤さんは俺なんかには勿体ないぐらいの良い子だし。歳の差もあるし……。何より、俺は……」
「俺、杏と7歳差だぞ?」
「ロリコン」
「うるせえよ。しっかしなぁ……ふーん?」
「なんだよ」
「お前の事情も分かっているけどさ。……愛奈ちゃん、他の男に取られても良いのか?」
その言葉を聞いた瞬間、言い様のない不快感が胸中を満たす。そんな男が目の前に居れば思わず殴りかかってしまいそうな、そんな不快感。
そんな独占欲が俺にあったのか。あったのだろう。それがまた不快だった。
「……」
「……すっげぇ顔してんぞ? ぶはっ、それじゃ答えてる様なもんだろ」
「うるせえよ」
「ま、頑張れ若人よ! コレ持っていくからなー。あっはっはー! 宗を言い負かせられる機会なんて滅多に無いからな! 気持ちいいぜ!」
「くたばれノッポ。殆ど答え言ってんじゃねーか」
再び焼き上がった串をテーブルに運ぶノッポの背中に罵声を浴びせるも、俺の言葉に勢いは無かった。
あの野郎、余計に俺の心を乱していきやがった。
「……沢良木君」
「えっ、あ、斉藤さん?」
人が近付く気配に大次郎だと思っていたら、まさかの斉藤さんだった。
俺の心臓は一つ大きく跳ねた。心なしか、顔も熱い気がする。
「? 顔赤くなってるよ? どうしたの?」
「あー、炭熱っいからねー。それでかなー。あはは」
「……無理、しないでね?」
うぅ、斉藤さんの優しさが辛い。
「あ、ありがとう。それで、どうかした? 食べたいのあった?」
「……その、さっきは大きな声出してごめんね? それに乱暴な言い方して」
「う、ううん。気にしてないよ。それより、こっちこそ…………」
「?」
あ、ヤバい。
どう話すべきか、何も考えて無かった。ただ謝るのは違うと思うんだ。
大次郎の役立たず! 俺のバカ! 土下座か!? 土下座なのか!? 違うダメだ!
だけど、さっきみたいなギクシャクしたのは絶対に嫌だ。
「さ、斉藤さん!」
「は、はい!」
俺の張り上げた声に斉藤さんの声も固くなる。
「お、俺さ、斉藤さんと一緒にバーベキュー焼きたいんだ。手伝ってくれないかな? 俺、料理って上手くないし、斉藤さんが教えてくれると嬉しいな、って」
すんげー今さらなお願いだと思うわ。けど何も思い付かんよ。
「…………ぷ、ふふふっ」
「斉藤さん?」
堪えきれず、と言った様子で吹き出す斉藤さんに、俺は困惑する。
「ううん。ごめんね」
「い、いや、大丈夫」
困惑はするが、何やら許してくれたようだった。未だにハッキリと言えないのは情けない限りだったが。
「……うん」
斉藤さんは一つ頷くと、優しげな笑みを浮かべた。
「……わたしも一緒にしたいな。……宗くんと」
「え……?」
いま、俺の……って……………………え?
「ほ、ほら沢良木君! コレひっくり返さないと! こっちも!」
「あっ、本当だ!」
しばし呆然としていた俺に斉藤さんの声がかかる。俺は慌てて指差す肉を裏返した。
「ありがとう斉藤さん」
俺は隣の斉藤さんを改めて見つめる。斉藤さんは網の方を向き、横顔しか見えない。しかし、頬には朱が差しているのは分かった。
まあ、自分の頬が熱いのも分かるんだけどな。
「コレ、もう食べ頃だね」
「おう、皿に取るか」
「はい、これ使って?」
「お、ありがとう」
「えへ、どういたしまして」
斉藤さんと短いやり取りを繰り返す。
まただ。またむず痒い、あの感情。
「それじゃあっちに運ぶか。お願いしていいか?」
「うんっ、もちろん!」
俺が盛った皿を斉藤さんはテーブルへと持って行こうとするが。
「宗ーっ、こっちはまだあるからあんた達も食べちゃいなさいよ!」
「おう、了解!」
理沙の言葉に二人揃って頷いた。
「愛奈ちゃんもねー! がんば!」
「は、はいっ」
杏理ちゃんの謎の声援を受け、斉藤さんも意気込んでいる。
「なんの事?」
「え? あ、あはは、なんだろうね? 分かんないや!」
「そっか。まあ、杏理ちゃんの言うことは身内でも分からない事あるしなぁ」
「そ、そうなんだ? ……ほっ」
なんだか安心したような斉藤さんだった。
許可を頂いたので、早速俺達も食べる事にする。勿論焼きつつ、だけどな。アイツら無くなれば文句を言うに違いないんだ。
「斉藤さんはもう食べた? 焼き加減とかどうだった?」
俺は斉藤さんへ串焼きの感想を聞いてみるが。
「あ、わたしもまだ食べてないよ? その……沢良木君と食べたかったから……」
斉藤さんは視線を明後日の方向へ向けると、指先を金糸の毛先に絡ませながらそんな事を言った。
「……」
その健気な言葉に、俺は目の前の少女を抱き締めたい衝動に駆られる。先程怒らせてしまったと焦った心情の揺り返しも大きかった。
なんでこんなに可愛いんだよぅ。ちくしょう。
「ありがとう。俺も斉藤さんと一緒に食べたかったんだ」
俺は精一杯の自制心で笑顔を作ると、斉藤さんへと返した。笑顔には溢れる心も盛り込んでおりますゆえ、きっと眩しいでしょうよ!
「はうっ……」
「……そ、それじゃ、食べようぜ。これとか焼け具合バッチリだと思う。最初にどうぞ。味付けは塩とコショウだけだから好みで調整してね?」
「あ、ありがとう!」
俺は斉藤さんへ焼き上がった串を差し出した。俺も自分の分を身繕い、焼き加減を見る。あと少しかな。
「……」
串を渡した斉藤さんはと言うと、口には運ばず手に持つ串を見つめて止まっていた。
「はは、俺のも今焼き上がるから食べても良いぞ? 斉藤さんって猫舌だっけ?」
「ううん? 大丈夫だよ。沢良木君は?」
「実は熱いのは少し苦手でね」
お恥ずかしながら、小生猫舌でござる。俺は串を持ち上げ苦笑い。ちょうど焼き上がったのだがまだ食べれないんだな、これが。
「そっか、それじゃ……ふぅー、ふぅー……」
……おう?
手に持つ串に息を吹き掛け、冷ます仕草を見せる天使。その姿にキュンとくるが。
「熱いの平気なんじゃ……」
「……うん、もう大丈夫かな? さ、沢良木君、はい。あーん……」
え?
なに?
どういう……。
「……だめ?」
いや、ちょっと落ち着こう? なんで急にこんな事に? 確かに猫舌とは言ったけど? それがあーんとどんな関係が? それにここでは他の連中が。居なければいいのかと言われると何とも答え辛いと言うか、そもそも学校ではなんか日常化しているような気もしなくもないと言うかあああっ、そんな顔しないでくれ! だめじゃないです全然! むしろ幸せです! こんな美少女天使に手ずから戴けるなんて!
「……あー、ん。うん、ありがと」
「えへへ、美味しい?」
「……最高です」
向こうからのニヤニヤした視線が無ければなぁ!!! だから気が進まなかったんだよ! 躊躇したんだよ! 二人だったら素直に口を開いたのかって? 多分してただろうさ!
「……」
「……さ、斉藤さんも食べる?」
コクコク。
頬を染めながらも満面の笑みを見せられちゃ、どうしようもないよね?
「はい、あーん」
「あむ」
ああああああああああああ。
「えへ、おいしい……」
可愛いなこんちくしょう。死んでしまうわ。
おいそこ! 指差すなや! 写真撮るな! あ、いや、むしろ後で頂戴ね! 天使のところだけ! グッジョブ杏理ちゃん!
「沢良木君、はい、あーん?」
「あむ」
あはは。もう吹っ切れたよ、うん。ここでウジウジしててもしょうがないじゃんね。こう言うのはさ、楽しんだ者勝ちだよね?
「美味しいね」
「うん!」
「斉藤さんが食べさせてくれるから、余計にね」
全力で天使との一時を楽しんでいこうと思います!
「あぅ……」
「次は斉藤さんだよ? はい」
「ぁ、あーん…………美味しいです」
俺達はお互いに食べさせあい、お腹と心を満たしたのだった。
それにしても、……宗くん、か。
ルート確定ですかねー( ´,_ゝ`)?




