第150話 れっつらBBQ 3
三本立てで終わらんかった(ヽ´ω`)
適当に書き続けたのが悪かった……
「さて! 自己紹介も終わった事だし、早速準備を始めようか!」
俺は空気を切り替える様に手を叩くと、声を張った。
「そうだ宗! 火が起こらないんだよ! 何が悪いんだ!?」
「いい加減覚えろよ……。まあいいや。それじゃサクッとやりますか。理沙は食材関係と、引き続き会場設営頼むわ」
「ええ、まかしといて」
大次郎がコンロを指差し騒ぎ立てるので、俺は早速火起こしに入る事にした。
「わ、わたしも手伝って良いかな!?」
コンロに向かう俺に斉藤さんが着いてくる。先程の一幕が効いているのか、二人の間にはいつもより少しだけ壁を感じる距離がある。
それでも隣に来てくれたのが、嬉しく感じた。
「あー……うん。一緒にやろうか斉藤さん」
先程の大次郎の言葉のせいか、少しだけ意識してしまう。
「うん! 頑張るよ!」
が、それでも屈託無い笑みにつられて俺も笑う。
まあ、難しく考えても、ね。
かかとを弾ませる天使の姿に、俺は目を細める。
いつも通り。
それが一番さ。
「えへへー。火起こし? とか初めてだよー。わたしに出来るかなー? なんだか難しそうだよね! ねね、沢良木君しっかり教えてね! ……沢良木君?」
「ん?」
「何か良いことあった?」
「どうして?」
「んー、なんか嬉しそう? 優しい顔してた」
「ぷっ、ふふっ。優しい顔ってなんだよ?」
「あ、その顔!」
斉藤さんのセリフに吹き出してしまうが、更に指摘されてしまう。
俺は確かめる様に顔を揉む。
優しい顔ってなんぞ?
「あははっ、今度は変な顔だよ?」
「む、難しいな?」
「なんだか今日の沢良木君おかしいなー」
そう言いながらも、斉藤さんの顔は笑っている。その笑顔と言葉は決して人をバカにする類いではなく、むしろ心から楽しげで。
「そうかな?」
「うん、いつもはもっとクールな感じ? ほら、こう……」
腕を組み、流し目を向けてくる斉藤さん。精一杯のニヒルな笑みが張り付いている。
それが凄まじく、似合わない。
「ぷっ、あははっ! それ俺か!?」
「ふふふっ! そだよー?」
「ないない」
「あるある!」
「うそだー」
「ほんとー!」
「えー?」
「うー?」
取り留めの無い応酬。だけど、どこかこそばゆくてむず痒い。そんなやりとり。
「ほら、優しい顔」
またまた指摘されてしまった。
気が付くと既に俺達の距離はいつもの距離で。俺の腕と斉藤さんの肩が微かに触れて、離れて。
コンロにたどり着き、俺は軍手を嵌めデニムの作業用エプロンを身に付けた。そして、早々に大次郎の努力の結晶を崩す。
ああっ、と後ろから野郎の聞こえた気がしたが無視だ。上からただバーナーで炙ったらどれだけ時間がかかると思ってんのか。
「……楽しい、から。かな?」
炭の塊を手に取り、俺は何気なしに口にする。特に考えてもいない。ふと口をついて出た言葉だ。
「沢良木君、楽しい?」
「うん、楽しいよ」
隣に立ち、小首を傾げる斉藤さんに頷いた。
だが、なるほど。斉藤さんに言われれば素直にそう思える。
「そっか。わたしも楽しいよ!」
「あはは、まだ始まってないけどな? 本当に楽しいのはここからさ」
「ふふ、それもそうだね? あ、そういう風に並べるの?」
早速俺は斉藤さんへ火起こしをレクチャーすることにした。
「ああ。これは炭で筒を作るイメージで組むんだ。この中で種になる火を点けると炭で作った筒の中で上昇気流が発生するんだよ。するとこの筒は下から外気を勝手に取り込んで、その新鮮な空気で勝手に燃えていく。結果して放置してても勝手に火が起こるって訳だ。道具も要らないし簡単だから覚えておいて損は無いよ」
「はぇー、そう言う理屈なんだねー」
うんうんと頷く斉藤さんにハッとする。
「って、こんな事覚えてもしょうがないか」
女の子なら尚更興味無いかも知れない。
しかし、斉藤さんは違うと首を振る。
「ううん、そんなことないよ! 知らない事を聞くのって凄く楽しいよ! でも、それだって元を辿れば沢良木君がわたしに勉強を教えてくれたのがきっかけだと思うよ。…………沢良木君はわたしに色々なモノをくれたんだよ」
「そ、そうか……」
炭を組む俺の手元を覗く斉藤さんの言葉に俺はどぎまぎしていた。当の本人は俺の手元を夢中で見ている。もしかしたら、意識していない言葉だったのだろうか。
「上昇気流……あ、煙突と同じ?」
「おっ、そうそう。その通り。仕上げは中に固く捻った新聞紙入れて。ほら、これで炭の煙突の完成だ」
俺は手際よく組み立てると斉藤さんに見せてやる。
「おー! 完成! やったねー!」
「ああ」
無邪気にピースをする斉藤さんと笑い合うと、俺は場所を譲る。
「斉藤さんもやってみる?」
「え、良いの?」
「勿論。一緒にやろうって言っただろ?」
「あ、うんっ! えへへ、一緒にやろー沢良木君!」
「でもストーップ」
ニコニコ顔で腕捲りを始める斉藤さんに待ったをかける。
「何でー?」
「ほら、せっかくの可愛い服が汚れちゃうぞ。お気に入りだろ?」
「あ……」
素で忘れていた様で、斉藤さんは気まずげにカーディガンを脱いだ。
「そこのタープテントのテーブルに置くと良いよ」
「うん! ちょっと待っててね!」
直ぐに戻ってきた斉藤さんにエプロンと軍手を渡す。エプロンはいつも家で着けているからか、凄く手際よく身に付けていた。
洒落っけの全く無いエプロンなのだが、天使が身に付けると様になるから不思議だ。
「あはっ、軍手ぶかぶかー!」
「まあ、男ものだしな?」
斉藤さんお手てもちっちゃいしな? サイズの合っていない軍手を着けた少女が、頑張ってニギニギしている姿は微笑ましい。
「よしっ、頑張るよー」
「それじゃ早速、炭の煙突作ろうぜ」
俺の作った炭の塊の隣に斉藤さんの作品を作ることにした。
「ハイ先生質問!」
「なんだね斉藤くん?」
元気に挙手する天使が可愛い。俺はノリを合わせて頷いた。
「最初はどうするんですか?」
「ふむ、簡単なやり方だと、長い炭を柱に見立てて円柱状に並べればいいよ。勿論中は開けてね」
「わかりました、やってみます!」
「はは、頑張って。そんなにきっちり作る必要は無いから、好きにするといいよ」
「はーい。…………こう、かな? とりあえず並べました!」
手際よく俺の言葉通りに炭を組み上げる斉藤さん。端々に見える配置のセンスといい、案外器用なのかも知れない。
「お、上手い上手い。これで十分だよ」
「ほんと? やった!」
ニコニコと嬉しそうな天使は再び軍手をニギニギしている。
「よし、あとはこんな風に固く捻った新聞紙とかを中に入れよう。適当でも良いけど井桁の形に組んでも良いよ。まあ今回は筒を既に作っているから適当に入れようか」
「はーい」
俺と斉藤さんで着火材代わりの新聞紙を投入していく。それを詰めすぎないようにして、下の隙間からマッチで火を点けた。
「……よし、点いたな。後はたまに様子見ながら放置で良いよ」
「へぇ、本当に簡単だね?」
「言ったろ?」
「うんっ」
へー、とか、おー、とか言いながら炭の様子を窺う天使に、俺は思わず頭を撫でていた。
つい可愛くて、とか、そこに頭があったから、とかそんな感じ、だと思う。
さらさらの金糸は指の間を滑り落ちていく。
「ぁ……」
斉藤さんは小さな吐息を漏らすも、ゆっくりとこちらに身体を預けてきた。
なんだか、その重さが、距離感が、頭をぼんやり麻痺させていく。
ぐぁ。
なんて可愛い生き物なんだ。
天使かよ!
「……ぇへへ」
こちらを見上げてくる天使は死ぬほど可愛かった。
俺達はその後、炭の様子を見つつバーベキューの用意を進めていくのだった。
─────
「ぐはっ!? な、なんなの、あれは……。さ、砂糖が、砂糖がぁ!」
「胸焼けしてくるわ……」
ここに、心にダメージを受ける女性が二人。二人は寄り添うようにお互いを支え合っていた。
「あの二人付き合ってるんだっけ?」
「いや? 私は聞いては無いんだけど。もしそうなら、宗の事だから普通に言ってくると思うのよね」
コップを回収し戻ってきた杏理と、テーブルなどの準備をしていた理沙はお互いに首を傾げた。その表情は揃ってゲンナリしている。
「はー、それであの空気とか、どうなってんの? 甘いっ、甘いですぞ理沙ちゃん! 付き合っちまえよバーカ!!!」
「珍しく、激しく同意よ」
バンバンとテーブル叩く杏理に同調するように頷いた理沙。
「……しっかし、あの宗くんがねー。確かに、夏当たりから俺の天使がどうこう騒ぎ始めた様な覚えはあるけどさ。写真でもずば抜けて可愛かったけど、本人を目の前にすると凄まじい美少女だもんね。騒ぐのも無理は無いよね」
「ただ、美少女ってだけで宗がのめり込むのって想像出来ないのよね」
「……確かに。言っちゃあなんだけど、宗君ってさ身内のせいで美女、美少女見慣れ過ぎて目はめっちゃ肥えてるよね。ますみんの時だって無反応だったし?」
「……身も蓋もないわね」
「理沙ちゃんだってその筆頭じゃん?」
「……」
答えづらいのか、微妙に頬を赤らめ視線を逸らす理沙。
その実内心では、宗に美人だなんだと言われる場面を想像して照れていた。
「ごほん。それより愛奈ちゃんの話なんだけど……アイシャさんに聞いたんだけどね、実はあの子って虐められてたらしいの」
理沙は咳払いを一つすると、表情を真面目な物にして語った。
「はあっ!? あんな良い子を!? 信じられない!」
性根の真っ直ぐな杏理は分かりやすく理沙の口にする情報に激昂する。
「こら、聞こえるわよ」
「あ、ごめん。……少ししか話してないけどさ、あの子が純粋で優しくて、人に嫌われる様な子じゃないのは分かったよ?」
「子供は時に、純粋に残酷なこともしてしまうわ。人と違うってのは、容易にその餌になり得るんじゃない?」
「それは……だけど納得いかない! ぅぐぐ……」
「まあ続きを聞きなさいよ」
理沙は納得いかない様子の杏理を宥め、話の続きを口にする。
「それももう以前の話なの」
「おぅ? それって……」
「ええ、アイツらしいわ。アイシャさんの話では、宗が娘を救ってくれた。あの子の本当の笑顔を取り戻してくれた、ってね。宗と友達になってからは本当に楽しそうに学校に行くようになったらしいわ。話していた時、最後は涙ぐんでたわよ。何したのかは知らないけどね?」
「そっか……。宗君らしいっちゃ、らしい、のかな?」
「あ、それに宗には是非とも娘と結婚して欲しいって言ってたわね」
「ぶはっ! そりゃ、また……中々凄いお母さんだねぇ?」
「娘思いの優しい方よ。……本人の意思は尊重しないと、って伝えておいたけどね」
「……負けず嫌いめ」
「何かしら?」
「何でもありまてん」
杏理はただただ首を振るだけだ。
「ふふ、でも……あんな、だらしない表情の宗を見るのはいつぶりかしらね」
「……まあ、そうだね」
二人の優しげで懐かしげな視線は、仲良く準備をする二人へと。主に宗へと向かっていた。
「あー……。ああっそっか、理沙ちゃんヤキモチですかにゃぁ?」
「そんなんじゃ無いわよ、バーカ」
空気を変えようと茶化す杏理に、理沙も一つ息を吐くと微笑んだ。
「それにしても、なんか、こう……イラつくわね?」
そして微笑みもそのままに、理沙は毒を吐いた。
「えーーー…………まぁ、そだねぇ」
それをヤキモチと言うんじゃ、と内心苦笑する杏理だったが、宗と愛奈の様子を視界に納めると同調した。
そして黙々と準備に勤しんでいた、旦那となる予定の男にじゃれ付くのだった。
その後、唯一の独り身である理沙に色々と嫌味を聞かされる事になる。
まだ肉を焼かない..._〆(゜▽゜*)




