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第15話 あなたの名前は

引き続きよろしくお願いします。

隣の男の子とメモのやり取りをした翌日のこと。


授業中わたしは指名を受けていた。

最近ずいぶん当てられる気がする。


しかし今日は昨日と違うのだ。

なんたって数少ない得意教科!

むしろ当ててって感じなの!


「あ、ぇと、○○です……」


ハキハキと喋れないのは癖みたいなモノ。

直したいな。


「はい、正解ですね」


やった……♪

当たった!

当たるのは嬉しいなぁ!


「……♪」


思わず頬が緩む。

そこで、不意に視線を感じた。

視線の方を見ると、隣の男の子と目が合った。


見られてたっ!?

少しニヤけちゃってたかな!?

変な子って思われてないかな!?

恥ずかしよ!!


恥ずかしさに思わず俯いてしまった。

すると、わたしの机にノートの切れ端が置かれた。

昨日見た、わたしを救ってくれた物。

不意に胸が熱くなる。


ーー不躾に見ててごめんねーー


そんな言葉が綴られていた。

わたしは返事の様に、首をふるふると振った。

そしてノートの切れ端に返事を書いた。


ーー大丈夫ですよ。……ちょっと恥ずかしかったですけどーー


反応が気になり、チラチラと目線を送ってしまう。

彼もわたしを見ていて、何だか視線が暖かい気がするのは、気のせいだろうか?

え、なんの視線だろう?


ーーお詫びと言ってはなんだけど、授業で分からないところあったら聞いてねーー


次の返事にはこんな言葉。

え!?なんで!?

でも嬉しい。

わからない所を聞ける友達も居ない。

八方塞がりな状況でこの助言はとても嬉しかった。


ーー本当ですか!? すごく嬉しいです!

 でも、ずるは良くないので解き方を教えてくれると嬉しいですーー


彼の気持ちが変わらない内に。とばかりに手早く返事を書いた。

ちゃんと自分で考えたい。頭は悪くても、考えることを放棄したくなかった。


ーーわかったーー


簡単な言葉の返事だったけど、わたしの嬉しさは最高潮だった。

無意識に鼻歌を歌ってしまうほどに。


鼻歌に気付いて、周りが訝しげな視線を投げ掛けられていることをわたしは知るよしもない。


せっかくだからわからない所を聞いてみよう!

今はまだ得意科目だ。

次の時間から聞いて見ることにした。



早速わたしは簡単な質問に答えて貰っていた。

そこでわたしはふと思う。


この男の子の名前ってなんだろう?


なんとも失礼極まりないが、この男の子の名前をわたしは知らなかった。

今までそこまで気が回らなかったのだ。


自身では気が付いていないが、そこまで気持ちの余裕がなかったとも言える。

そしてその余裕が生まれたとも。


一度気になり出したら気になってしょうがなかった。


答えはすぐそばにあった。

彼の机に置かれた教科書。

その裏には名前が書かれている。


しかし問題はここからだった。

よ、読めない……!


沢良木宗。


なんかカッコいい。

でも読めない。


さわ、りょう、き、……しゅう?

どうしよう、全然合ってる気がしない……。


名前はしゅう?で合ってると思う。なんとなくだけどそんな気がする。

問題は名字だ。


中々珍しい名字だと思う。

少なくとも過去には見たことがない。


うむむ……。

知りたいが本人に聞くのは憚られる。

失礼だろうし。


周りの呼ぶ名前を聞くってのはどうだろう?

……会話しているところを見たことがないや。


うむむ、どうしよう?

授業とは関係のない、変な所で悩みながら1日は過ぎていった。




翌日。

授業はウチのクラス担任も受け持つ先生が担当だった。

この先生は名前がわかる。

高橋桜子先生。

女の子のわたしから見てもとても可愛らしい先生だ。

生徒への接し方も優しくて人気があるみたい。

わたしもこの先生なら質問出来るかな。



だけど高橋先生が提案した内容に思わず固まってしまう。

その内容は壇上に上がり板書にて解答すると言うものだった。しかも運悪くわたしが指名された問題は。


まだ、解き終わってない所だよぉ!


なんとか解くしかないと、ノートに向かうが解き方がわからない。

一番最後の問題で難易度は高いみたいだ。


ど、どうしよう!どうしよう!

後5分。焦りばかり募っていく。

だからわたしは忘れていた。

隣の男の子を。

こんなわたしを助けてくれる救世主を。


わたしの机にそれは滑ってきた。

今度はノートの切れ端じゃない。

ノートの1ページだった。


少し驚きながら内容に目を通し、さらに驚く。

今、わたしが躓いている問題の解説だった。

驚いたわたしは彼を見るが、背もたれに身を預け前を向いていた。


心の中でお礼を言い、ノートに向き合う。

その解説はとても丁寧で、頭の悪いわたしでも分かった。嬉しくて胸が一杯になった。

少し涙の滲みそうな目を擦り、わたしは問題を解いた。


5分後、教師の号令がかかる。


「それじゃさっき指名した皆は黒板に解答を書いてね」


無事解くことが出来た。

彼の、宗君お陰で。


立ち上がった彼と目が合う。

わたしはちゃんと解けた、と言う事と、ありがとうの気持ちを込めると小さく頷いた。


宗君と並び解答を板書していく。

慣れない板書に心臓がバクバクする。心臓に呼応するように指先が微かに震えてしまう。

それに比べ隣の宗君はすらすらとキレイな文字を書いていく。

すごい……。

思わず見いっていた。

そんな彼はふとチョークを止めるとわたしの解答を見た。

そして小さく頷くと自分の解答に戻っていった。


わたしはその何気無い仕草に勇気を貰ったんだと思う。

再びチョークを動かす。今度は指先が震える事もなかった。



「……よし、皆書いたね。それじゃ、答え合わせしようか」


緊張する……。

わたしは黒板をじっと見つめる。

4人の解答者の中でわたしは最後の解答だ。

緊張で気が付かなかったのだが、わたしの前の解答者が宗君。

黒板で並びながらも気付かないとは、なんとも恥ずかしい。

高橋先生の回答が始まる。


一人二人と回答を間違った。

間違った彼らは特に気にした様子もなくおどけていた。

……わたしには無理だな。


「はい、静かにね。んじゃ次ね。…うん、これは正解。訂正箇所は無いよ」


宗君の解答は見事だった。

あの解説を見て思ったが、とても頭が良い人みたい。

素直にすごいと思った。


そして遂にわたしの回答が始まった。


「…んー、…残念。間違いだねー」


……え。


「惜しかったね斉藤さん。もう一度解いてみてね」


頭の中が真っ白だった。

何も思考出来なかった。


呆気ないものだった。


「だってよー、斉藤さん?もう一度解いてみてねだってさ。解けると良いね!きゃははっ」


クスクス


わたしの耳にはヤジを飛ばす声もクラスの喧騒も聞こえてはいなかった。

わたしの頭にあったのは後悔だ。


せっかく教えて貰ったのに。

せっかく頑張って解いたのに。

せっかく、宗君が解説を作ってくれたのに。


罪悪感で胸が一杯だった。


彼の解説が間違っていた、なんて考えは1ミリもなかった。


わたしは一瞬視線を彼に送った。

彼がわたしを見ていた。

彼の視線に侮蔑した物は一切感じられない。わたしの解答を疑っていなかった。

それが、なおさら悔しかった。

目を瞑ると涙が眦から溢れてしまった。



打ちひしがれるわたしの耳が、その声を捉えた。


強く、芯の籠った、優しい声だった。



「先生、質問よろしいでしょうか?」


解答と回答の使い方が間違っていました。

申し訳ありません。

今後注意いたします。

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