第145話 プール回 前編
プール回( ゜∀゜)
「え、この学校プールの授業あったんだ?」
体育の授業内容を聞いた真澄の台詞である。
俺も真澄と同じく無いもんだと思っていたし、プールなんてお飾りかと思ってたわ。
「それは、ほら。体育の担当、バスケ馬鹿だから……」
と高畠さん。
「「「ああ、なるほど」」」
皆の声がハモった。
確かに体育の授業では延々とバスケをやっている気がする。それで良いのか体育の授業。
「え、でも、随分と夏過ぎたよな。もう少しで秋だぞ?」
「うん、今回がプール納めだって」
俺の疑問に答えてくれるのは斉藤さん。
「「「いいのかそれで」」」
再び皆の声がハモった。
「てなわけでプールだ!」
「説明省くなよ高畠さん」
着替えを終え、プールサイドに集まった2組の生徒達。
高畠さんは着くなり両手を広げて叫んだ。
空は快晴。空を見上げれば気持ち良いくらいの青が視界を埋め尽くす。ジリジリと肌を焼く感覚に、夏の色がまだまだ健在だと思わせられる。
「固いこと言うなよ沢良木君!」
どこまでも元気なポンコツ少女に力が抜ける。
俺はふと思った疑問を口にした。
「つか、今時の高校で男女合同プール授業ってP○Aに問題視されないか?」
普通、別々だと思った。中退したバカ高校ですらそうだったし。
「良いじゃんプール納めだし!」
と我らがアイドル真澄さん。俺の直ぐ脇から顔を覗かせ、眩しい笑顔を見せてくれる。
「そうそうプール納めだしな!」
と高畠さん。両手を腰に当て、ウンウンと頷いている。
「いや、女子が良いなら良いんだけどさ」
そこまで言われれば、そう言うしかないが……。
そこで、喧騒が耳に届いた。
『男子こっち見んなー!!!』
『うるせー! 誰が見るか! 自意識過剰だろ!』
『ほらそこのサル! ガン見してんじゃん!』
『お、おおお、おおおおお俺にもっと見せておくれー!!!』
『お、おいっ、山崎どうしたんだよ!? なんで、ここに来てはっちゃけたんだよ!? さっきまでお前そんなキャラじゃ無かっただろ!?』
『俺は自分に素直になったのさー! 我慢はヤメだぁ!』
『キャーっ!!! こっち見んな男子!!!』
『嫌よ嫌よも好きの内ってかーっ!!!』
『『『こいつと一緒にするな!!!』』』
と、遠くでは女子と男子の攻防が繰り広げられていた。山崎ナントカって言う坊主頭が欲望をさらけ出したらしい。面識はほぼ無い。
俺と同じく騒動に目を向けていた真澄に俺は向き直る。
「……らしいぞ?」
「あっちはあっちだよー。こっちに文句言う人居ないし?」
「あー、いやまぁ……」
真澄の言葉に俺はこの場に居る面々を見回す。まあ、代わり映えの無いいつものメンバーではあるが。確かにこの気心の知れている数少ないメンバーであれば、騒ぐ事もないか。
真澄、高畠さん、藤島、俺、そして斉藤さん。
「……斉藤さん?」
俺の視線は、皆の後ろに隠れる様に小さくなっている斉藤さんの位置で止まった。と言うのもその格好に疑問を覚えたのだ。
「な、ななな何かなっ!?」
何故かとても慌てた様子で返事をする斉藤さん。俺は一つ首を傾げると疑問を口にした。
「いや、ずっとタオル巻いてるからどうしたのかと思って」
「そ、それは……」
俯き口ごもる斉藤さん。更に小さくなるその姿に、なんともいたたまれない気持ちになってくる。
「はぁぁ、宗君は本当に女の子の気持ち分かって無いなぁ」
「真澄……」
俺の言葉に隣の真澄からため息と呆れた声が聞こえてきた。斉藤さんは何故か真澄の言葉に感銘を受けている。
随分と仲良くなったもんだなぁ。お兄さんは嬉しいよ。
俺は真澄に向き直り問う。
「……どういう事だ?」
「そりゃ、水着姿見せるのが恥ずかしいに決まってるでしょ!? 分からない!? 宗君の舐め回すような視線に晒されると考えると震えが止まらないんだよ!」
ズビシッ、と俺の鼻先へ指を突きつける真澄。鼻先に指持ってくるとつい寄り目になっちゃうよね。
「え、俺の視線そんなにヤバいの? マジで? ごめん斉藤さん、目潰しておくから」
この目か? この目が悪いんか!? 天使が望むのならば、たかが目の一つや二つや三つや四つ。あ? 俺だけだと思った? 周りの野郎も道連れじゃい。天使を見せてたまるかこのやろう。
「ち、ちょっと真澄!? な、何言ってんの!? 前半しか合ってないからぁっ!! 沢良木でも真に受けないでっ!? て言うかそんなことされたら普通に怖いよ! 望んでないよ!」
顔を赤くしながらもフォロー、というかボケを拾ってツッコミをくれる斉藤さん。
こんなやり取りが出来るようになったのが地味に嬉しい。親しくなると俺は無意識に減らず口叩く事が多いのでツッコミは結構有難い。
え、普通に引いてるって? うそん。
「あぅあぅあぅ」
更に縮こまった天使に、思わず頬が緩む。
しかし、本当に斉藤さんは天使可愛いし、天使優しい。
俺の中では天使は既に形容詞として成立しているのである。名詞であり動詞であり形容詞。なんでも使える万能言語、それが天使。しかし、使えるのは斉藤さんに対してのみである。悪しからず。
目は潰さなくて良いと天使に許可を頂いたので、その姿を俺は改めて堂々と視界に納める。
「……」
……おおう。
てるてる天使である。あのプール用のタオルに包まれた天使だった。
まだプールに入らないからか、髪を下ろしたままの金髪天使ちゃんである。言っちゃあ悪いが、なんだかチビッ子具合が強調されるようである。
これはこれで可愛い。てるてる天使斉藤さん可愛い。超絶可愛い。撫で回したい可愛さでいらっしゃる。どこをって、頭だよ? あと俺はロリコンじゃない。多分。
「……お前はどうなんだよ?」
いつまでも斉藤さんを視姦していても申し訳ないし、何よりニヤケてしまいそうだ。それに真澄の言動にも疑問を感じたので俺は真澄に向き直る。
「あたしは見せてるんだぞ☆ だって、またとないアピールポイントじゃない! スクール水着なのが残念だけどねー。ねねっ、どう? どう? 見て見てー! はいっ、感想ぷりーず!」
俺の間近に立つと、妙にハイテンションで胸を強調するようにポーズを取る真澄。遠巻きに盗み見ていた男共がざわめき出す。筆頭は先ほど騒動を起こしていた山崎だ。
周囲の女子の視線が大層冷たく見える。俺悪くない。
俺は然り気無く移動した。目ぇ潰したろか?
「どうって言われてもなぁ。うん……相変わらずプロポーションが良いな。さすがは元アイドルなだけあるよ。顔立ちは可愛く幼さを残しながらもスタイルは抜群という、アンバランスさも魅力を引き立ててるんだろうな。スクール水着っていうのも案外一つの要因かもしれん。だが、当然普通の水着も見てみたいな。まあ、総評としてはグッドだ。文句なし可愛いぞ真澄!」
そう締め括るとニッコリ笑ってサムズアップする。ニヤリじゃないぞ、ニッコリだ。間違えるなよ。
溢れんばかりのお胸様がスクール水着にかろうじて収まっている感じだ。非常にエロいが、果たしてこんなんで泳げるのだろうか。
泳ぐ姿も見てみたい、とエロスへの探求心が燻る。だって男の子だもん。仕方ないじゃんね。
「……」
返事が無いな、と真澄を見れば黙りこくってこちらを見たまま顔を真っ赤にしていた。
なんだかこんな反応も珍しい。自分からぐいぐい来る癖に変なところで恥ずかしがるというか。
しかし、流石に明け透けだっただろうか。魅力的なお姿についつい正直な感想が出てしまった。もしかして引かれただろうか?
「……どうした?」
恥ずかしがっているのだろうとは分かってはいたが、とりあえず聞いてみるが返事はない。視線は合っているんだけどね。
染まる頬に潤む瞳。視線は自然と惹き付けられる。
「……むぅ」
真澄から視線を離せないでいると、何やら隣で唸り声が聞こえてきた。後ろ髪を引かれながらもそちらへ視線を向けると、先程まで恥ずかしがっていたてるてる天使がこちらを見ていた。
その口は心なしか尖っており、少しジト目な気も……。
「……っとおわっ!?」
「……って、ええぇっ!? ま、真澄っ、な、何やって!?」
「わおっ! 真澄ちゃん大胆ー!!」
「はぁ、人の居ないとこでやれよな沢良木」
斉藤さんに視線を移した俺に、何を思ったか真澄は抱き付いてきた。周りの皆さんも一様に驚いている。当然遠巻きの男子共も。藤島は一人やれやれ感を漂わせていた。やれやれ系主人公ですか?
「お、おおぉぉいいっ!? 何やってんだよ!」
真澄と俺の身体が密着してあんな所やこんな所がそんなんで。とにかく大変である。
俺のポーズは勿論お手上げ君だ。
「う、うう、うるさいっ! 宗君が悪いんだよ!? は、恥ずかしいこと言うからっ! ……それに、余所見するし」
「いやいやっ! 今の状況の方が恥ずかしくね!? え? 意見の相違? 俺だけ?」
「そうだよ真澄! 早く離れて!! はーやーくっ!!!」
やけに必死に真澄を剥がそうする、てるてる斉藤さん。
斉藤さんのお陰か、うー、と真澄は唸りながらようやく離れた。真澄は、そのまま斉藤さんの後ろに隠れてしまった。
「……?」
隠れる際、まだ赤くなっている真澄の横顔がニヤリと歪められた気がしたのだが、気のせいだろうか?
「ふむ、今のは沢良木君が悪いぞ!」
突然、静かだった高畠さんが声高らかに真澄を援護した。
このように高畠さんが突然なにかを言い出す時はろくなことがない。俺の言葉に呆れの色が混じる。
「なんでだよ高畠さん」
「なんでって、それはだな……これだぁっ!」
そう言うと高畠さんは、隣の斉藤さんのタオルを驚異の早業で一瞬の間に剥ぎ取ってしまった。
本当に唐突過ぎた。
俺は何故か咄嗟に視線を逸らしてしまった。
「きゃあっ!?」
後ろでニヤニヤとしている真澄を見るに、こっそりとボタンを外して準備していたんだろう。
真澄ちゃんは切り替え早いのね。つうか、あのニヤケはそう言う意味なのね。
前後の真澄の様子を含め、どこまでが本気か俺には分からないよ。
「愛奈ちゃんの水着姿へコメントせずに済むと思っているのか!!」
ババン、と手を広げ高畠さんは斉藤さんを指す。
期待を裏切らず、相変わらず話題がぶっ飛ぶポンコツ少女である。俺はそんな高畠さんを呆れながら見下ろした。
もちろん高畠さんもスクール水着だ。バスケ馬鹿で動きまくっている為か女子としてはかなり引き締まった身体つきだ。実に健康的だ。まあ、別に高畠さんはどうでも良いんだけど。
正直な話、未だに斉藤さんを直視出来てい無いだけで、斉藤さんから視線を逸らすとその先に高畠さんが居るだけなんだけども。
なんだか後ろめたい様な、気恥ずかしい様な。不思議な気分だ。
「……沢良木。ヒトの彼女をガン見して、なんのつもりだ?」
「うるせぇ。これは仕方ないだろ。天使がいるんだよ!」
「……お前も相変わらずな。つか俺に失礼だろ」
こっそりと藤島とやり取りしつつ平常心を保つ。
「ほらほらっ、愛奈も行っておいで!」
「っ、つつかないでよぉ……」
声から判断するに、斉藤さんの後ろに周り込んだ真澄はツンツンと斉藤さんの背中を突いて、俺の方へと斉藤さんを促している模様。
「観念したらどうだ沢良木君!! ちゃんと愛奈ちゃんを見るんだぁ!!!」
何故か偉そうなポンコツさんだった。
「ぁぅ、うぅー……」
彼女から視線を外すと、俺は意を決して目の前までやって来たスク水天使へと視線を向ける。
そう、高畠さんが言うからでは無いのだ。そうだ、俺はそんなヘタレじゃないぞ。高畠さんがノリノリでやってるから、それに乗れば斉藤さんを見ても少しも変じゃないとかそんな言い訳じみた事を考えたりはこれっぽっちも思っちゃいな…………。
「……」
俺は言葉を失った。
「……さ、沢良木、君?」
言葉を掛けない俺に、斉藤さんは心配そうな声色と視線をこちらへ向けて来た。
もじもじとする彼女の両手は落ち着きなくさ迷っていて、右手は胸元と口元を隠すように、左手は裾の食い込みを気にしてか何度も位置を調整するように動いていた。
チラリチラリと視線をこちらに向けるそのいじらしい姿に、俺はもうノックアウト寸前だった。
真澄も決して悪い訳じゃないのだが、いや寧ろ男としては見たくて仕方ない姿だろうが、アイツはアイドル時代に撮影なんかで見せ慣れている所があるからだろうか。こういった恥じらう姿は拝めなかった。いや、俺の言葉で照れてたけどさ。
「ぅぅ……ふぇぇ……へ、変、かなぁ……?」
あまりにだんまりを決め込む俺に堪えかねたのか、斉藤さんの声に涙声になってきた。
俺は慌て訂正する。
「いやっ! ち、違うよ。その、なんて言ったら良いのか上手く浮かばなくて!」
確かに真澄に比べると、いや、比べるのも可哀想なぐらいのなだらかな身体付きである。
しかし、それはまだ蕾か咲きかけの花を思わせる可憐さが、儚さがあった。成熟とは程遠い、だけどその過程を確かに感じられる少女の美しく線の細い身体にアンモラルな香りが……。
って、オヤジか俺はっ。
こんなの言える訳ねえよ!
言ったら皆ドン引きだよ!
自分を殴りてぇー!!!
「や、やっぱり、変なんだぁー!!」
「違うって!」
「それじゃぁ、なんで言葉が浮かばないってぇ!」
「だ、だから! どういう風にこの可愛らしさを伝えようか迷ったってことで! とにかく可愛いよ!」
「ぅぅ……………………ほ、ホント?」
「ああ! 本当本当! めっちゃ可愛い! うん、可愛い!」
「そっかぁ、良かったぁ……」
胸に手を当て安心した様に笑顔を溢す天使に、再びドキリとするのだった。
「はぇ? うぅ……、なんか釈然としないんですけどー!?」
「まあまあ真澄ちゃん」
「なんであたしの時は平然としていて愛奈の時はどぎまぎするのよー!! 不公平だー! って言うか、元はと言えば唯が余計なこと言うからじゃない!」
「やぶ蛇!? いやいや、真澄ちゃんだってノリノリだったからな!?」
「うわーんっ!!」
「……スクール水着だよな? なんでそんなに盛り上がれるんだ?」
藤島の呟きは誰の耳にも届く事は無かった。
お読み頂きありがとうございました。
明日あたり続きを投稿予定です。




