第142話 新しい日常(一部平常)
本編再開です。
イジメ問題も解決し、新しい日常が始まりました。
また見て下さい(・ัω・ั)
朝の通学路。俺は御崎高校に続く坂道に差し掛かった。
未だに夏が抜けきれないこの国は、今日も厳しい暑さになると天気予報は言っていた。涼しくなるのはまだ先の様だ。
坂道の入口まであと50メートル程。視線の先にある坂の入口によく見知った顔を発見した。
キラリと輝く髪色は、今日も綺麗で眩しく煌めいていた。
何を隠そう、金髪の天使様である。ラブリー天使斉藤さんである。あるてぃめっとぷりちーエンジェル斉藤さんである。
今日も暑いからか髪は後ろに結われていた。いつか見た進化系ポニーテールである。その尻尾をあのシュシュで縛ってくれている。そして、流された前髪は青っぽいピンで留めてある。金髪に青の差し色が非常に似合っている。
遠目からでも分かるぷりちーさ、さすがの天使クオリティである。凄まじい可愛さである。毎日可愛い。
ぷりちーエンジェルは坂の入り口で、少し落ち着きの無い様子で佇んでいた。
なんでここまで見えるのかって? 沢良木君だぞ? はい、説明おしまい。
「……!」
そんな斉藤さんだったが、俺の姿を捉えると、ぱぁっ、と笑顔を咲かせて駆け寄ってきた。
「くっ……」
……なんだよこれ、無茶苦茶可愛いんだが。思わずキュンと来たじゃないの。
表情の変化の過程を全部見てた俺には結構クる物があった。俺は無意識にワイシャツの胸元を掴み、挫けそうになる膝には必死に力を入れる。
あの子は天使か!?
……いや、普通に以前から天使だったわ。笑顔で駆け寄る天使がここに居るぞ!!!
煌めくプラチナブロンドの尻尾は駆けるその動きに合わせて、ふわりふわりと舞い躍る。
俺にお迎えが来たのか!? 遂に来たのか!? まってろクソオヤジ! 今いくぞオラっ!?
「……」
……すーはー、すーはー……オーケー、オーケー。落ち着いたよ、うん。
「……っ!?」
駆ける天使は何を思ったのか、続けて俺に向けて手を大きく振り、にぱーっと笑顔を満開に咲かせたのだ。
天使だよ!!! 全くもって天使だよ!!! 無邪気な天使や!!!
尊過ぎて直視が憚られて仕方ないっ!
通学する生徒が漏れなく振り返る煌めきっぷり。主に男子。
「すーーはーー、すーーーー、はーーーー……ふぅ。……おしっ、落ち着け、落ち着け沢良木宗。あの子はただの天使だ。そう、ただの天使。世界にただ一人舞い降りた俺の天使だ。うん。……よし、落ち着いた」
一体自分でも何を言ってるのか分からないが、とりあえず落ち着いたのでヨシとしようじゃんね。
先程までの斉藤さんの様子を思い出す。
落ち着きの無かった斉藤さんだが、彼女は学校へ向かう生徒が必ず通る坂道の入り口に居たのだ。すると、彼女は当然登校中の生徒の視線を浴びる事になる。
殊更、この天使様のお姿である。
つまり、こんな金髪の美少女が居れば視線を浴びるのは当然だろうよ、てこと。不可避。俺も見る。
斉藤さんも以前に比べ最近は大分視線にも慣れたとはいえ、根本的に本人の性格は苦手としているんだろう。居心地の悪そうな表情からすぐに分かった。
それがどうだろうか。
「おはよっ! 沢良木君っ!」
「おう、おはよう斉藤さん」
こんな弾ける笑顔と挨拶に俺は、でへり、と表情と気が緩んでしまう。
「今日もめっちゃ可愛い」
……あ、れ? ……………………あ。
だから、ニヤけ顔ついでにこんな本心が口をついて出てしまうのだ。
「……ふぇっ!? えっ、あぅ!? き、急に何っ、言ってるのー!? かかか、からかわないでよー! わ、わたしなんて!」
案の定、お顔を真っ赤にしたラブリーエンジェルが大いに慌てていた。パタパタと両手を振り回し右往左往する。
ピタリと止まると、そっぽを向きフリフリ揺れる金色尻尾を指先で弄り始めた。
ここで俺も慌てふためくと思ったら大間違い。最近の俺は開き直る事を覚えたのだ。
先程の深呼吸も役に立ったに違いない。そうだ。うん。
それに、斉藤さんはもっと自分に自信を持っても良いと思うの。友達になった当初は自尊心も低かったが、今では長い前髪を分けてお顔を見せてくれる事も増えてきていて、今日だってこんな可愛い髪型してるしな。傾向としては良いんじゃないだろうか。……前はよく髪で顔を隠していたからさ。
これからの俺の方針は胡散臭くならない程度に、誉めて伸ばす方向でいきたいと思う。
照れた顔を見たいだけ、じゃないからな!
……やり過ぎて慣れてしまったら、照れ顔を拝めなくなってしまうしな(小声)。
「本当だよ。斉藤さんの綺麗な金髪にシュシュとピンの青が差し色になって似合ってるし、その髪型も斉藤さんに凄く似合ってる。本当可愛い」
本心だからか、スラスラと言葉が出てくる。くど過ぎる気もするが本心は本心なのだ。
いつの間にか斉藤さんは火照る頬を隠すように、両手で頬を覆っていた。
「……」
「……」
俺と斉藤さんの間に沈黙が降りると、斉藤さんが目線だけを俺に向けて来た。俺はお返しとばかりに笑みを返し、頷く。
イヤらしい笑みに見えない事だけを祈っておこう。
斉藤さんは観念したように……。
「……ぁ、ありがと」
と、たどたどしく口を開いたのだった。
ただ、その表情はとても……その……とても嬉しそうに、ふにゃけていた。
「……あー、いや……うん」
……天使だわ。
結局、見ている俺も恥ずかしくなり、口ごもるのだった。
「……朝から二人の世界作って何をやっているんだ、君たちは?」
その呆れかえった声に振り返ると、そこにいたのは。
「おう、高畠さん」
「あっ、ゆ、唯ちゃん!? いつからそこに!?」
「愛奈ちゃんが嬉しそうに笑ってた所かな」
そう言うと高畠さんはニヤニヤしながら俺を見上げた。
「え、えーと?」
「……?」
斉藤さんは高畠さんの言葉に首を傾げており、俺も内心首を傾げていた。
……だって、斉藤さんずっと笑顔だったやん?
斉藤さんもその答えに行き着いたらしく、苦笑いしていた。
「つまり、そう! 始めっから見ていたのさっ! にも関わらず私に気付かないその没頭ぶり! 恐れ入った! 二人のラブコメフィールドに私はやられたよ、わたしゃぁ!」
熱い熱い、と手でパタパタと顔を仰ぐ高畠さん。
確かに今日も暑いな?
「な、なに? らぶこめ、ふぃーるど?」
「二人の世界に入りきっていたって事さ」
ビシっと指を突きつける高畠さん。
「ふ、ふたりの世界……」
そう呟くなり斉藤さんは何やら明後日の方向を向いてしまった。俺は仕方なく高畠さんに向き直る。
「あんまりからかうなよ高畠さん」
「いや、愛奈ちゃんの反応が面白くてねー?」
「まあ、分からなくも無いけどさ」
「だろっ? 沢良木君もそう言ってくれると思ったよ!」
「斉藤さんはピュアだからな」
「そうそう! 素直だから反応も期待出来るんだよな!」
「……二人とも聞こえてるからね!?」
振り向いた先の、顔を赤くして頬を膨らます斉藤さんに思わず笑みが溢れる。
「そう言う所なんだよなぁ」
「ああ」
「もうっ! 知らない!」
天使は尻尾をふわりと振り回すとそっぽを向いてしまった。ぷんぷんと腕を組み怒りを現す斉藤さんが可愛い。
「はは、ごめんね斉藤さん。許して?」
「……むぅ、良いけど」
両手で拝み謝る俺に、天使はあっさりと振り返って許してくれた。良い子だわー。まだ少し膨れているのがまた可愛い。その頬を突付きたくなる衝動を抑えながら俺は歩き始めた。
「ところで斉藤さん、さっき門の所で何してたの?」
「え? ……あ」
俺は三人で学校へと歩きだしながら、斉藤さんへと問い掛けた。
斉藤さんは俺の問に小首を傾げると、思い出した様にくりくりお目々を見開いた。
「ん、そうなのか愛奈ちゃん? 誰か待ってたり……ああ、そっか。沢良木君を待ってたのか?」
「俺?」
しかし、高畠さんが一人合点したように俺の名を口にして頷くものだから、意識はそちらへと向いた。
「なっ、なななっ!? な、何言ってるの唯ちゃん!?」
「気付かなくてゴメンな愛奈ちゃん!」
斉藤さんは分かりやすく狼狽えると、俺と高畠さんの間を視線を彷徨わせた。
「疑問解決おめでとう沢良木君!」
ニヤニヤとした笑みを貼り付けたまま俺の肩を叩く高畠さんに、ワザとなんだと直ぐ様理解する。
「ちょ、ちょっと唯ちゃんってば! さ、沢良木君も信じないでね!?」
「ん、つまり愛奈ちゃんは沢良木君に会いたく無かったと? さっきまでのは演技だったと?」
「そ、それは……うぅぅぅ! ち、違うけど、違わないと言うか……でも、だけどぉ……!」
「……ぷっ、あはは、そう言う所だってば斉藤さん」
「え?」
「ほら、見てみなよ。この顔」
俺はそう言って隣を指差す。
「……」
そこにはニマニマと、何とも憎たらしい笑顔を振りまく高畠さんの姿。
「むうぅぅぅう!」
「ほら、斉藤さんが怒っちゃったじゃないか。謝れ高畠さん」
「ぶはっ! ゴメンゴメン! 愛奈ちゃんがあまりにからかい甲斐があるもんで、つい!」
「つい、じゃないよ! 唯ちゃんひどい! いじわる!」
「ゴメンってばー!」
ひとしきり追いかけっこをして落ち着いたのか、俺の元に戻って来た斉藤さんに再度問い掛ける。
「それで、さっき何か思い出したようだったけど?」
「あ、うん、実はね美里ちゃんを待ってたの」
入口から離れちゃったけど、と斉藤さんは苦笑いしながら続けた。
「松井?」
松井の名前ってそんな感じだった気がする。松井としか呼んで居なかったから、名前の印象が薄いわ。
「そうだよ! 昨日RAINで今日から学校に来るって言ってたの!」
俺の勘違いに気付かないまま、斉藤さんはニコニコとしていた。セーフだ。
しかし、連絡を取り合うまで仲良くなったのか……。俺と連絡先を交換した頃なんて家族しか登録されてないって言ってたもんな。今となっては十中八九周りの友人達の連絡先だって知っているだろうしな。
うむ、感慨深いモノを感じるね。
俺? ほっとけ。
……斉藤さん、真澄、万屋連中、藤島くらいだよ。
「ほー、そうか美里っちが今日から復帰か!」
「うん、だから入口で待ってようと思ったんだけどね」
「沢良木君のせいで進んでしまったと」
「ほ、掘り返さないでよぉ……」
再び恥ずかしそうに身を捩る斉藤さんだった。
「どうする? それなら、松井が来るまで待ってようか?」
「うーん。昨日の話だと時間的にそろそろ来ると思うんだけどなぁ、美里ちゃん……」
「私がどうかしたの?」
斉藤さんが確認するように振り返ると、俺たちの直ぐ後ろに話題の松井美里が首を傾げ立っていた。
「あ! 美里ちゃん、おはよ!」
「お、おはよう、愛奈ちゃん」
斉藤さんのキラキラの笑顔に、少しはにかみながら松井も応えていた。
「二人も……おはよう」
「ああ! おはよう美里っち!」
「おう、おはよう松井」
高畠さん、俺へと視線を移す松井だったが俺と視線が合うと、ふいっ、と視線を逸らされてしまった。
「……?」
俺は内心首を傾げるだけだったが、高畠さんや斉藤さんは何か合点がいった様子だった。
「おーおー? 美里っちってば、やっぱりぃ?」
「だ、だだだダメだよっ!?」
「ち、違うわよ!!! あなた達がこの間変な事言うからよ!」
「そんな所から恋が……」
「無いわよっ!」
「だめー!」
「二人ともからかい甲斐があるなぁ……」
「「うぅぅぅ……」」
俺から離れて、コソコソとワイワイ?してる女子達に、俺は首を傾げるしかなかった。