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第141話 ふたりの呼び名は

「あたしは思うのよ! なんか不公平!」


 モールでファミレスを出たわたし達は、ウィンドウショッピングをしよう、と言うことでテナント区域に向かって歩いていました。

 そんなとき、唐突に声を上げたのは菅野さん。


「菅野さん急にどうしたの?」


 わたしは笑いながら問いかけます。


「それよソレ、斉藤さん! これも!」


「え、どういう事だい菅野ちゃん?」


「どうしたの菅野さん?」


 唯ちゃんに続いて、美里ちゃんも首を傾げます。


「だから"ソレ"よ、それ! 何であたしだけ"菅野さん"なのー!?」


 皆、どういう事? と固まり、次第に。


「「「あぁ、そう言う事」」」


 と納得したのです。


「そうよ! なんで皆は名前で呼びあったりしてるのに、あたしだけ名字なのよ! なんか寂しいよぉ!」


 そんな菅野さんの様子に、わたし達は揃って笑ってしまうのでした。


「はははっ、そう言う事なら私は真澄ちゃんと呼ばせて貰っても良いかい?」


「私も、真澄ちゃん、と呼んで良いかしら?」


「うんっ、勿論! あたしは呼び捨てで呼ばせて貰うけどね!」


「ああ。問題ないぞ!」


「ふふ、よろしく」


 二人が早々に呼び方を決め、笑い合います。わたしも、と菅野さんを呼びます。


「それじゃあわたしも、ま、真澄ちゃん、で良いかな?」


 慣れない呼び方に、若干緊張しながら、恥ずかしくなりながら口にします。

 最初の出会いでこそ、いがみ合う様な形になってしまいましたが、今回の一件では力になると言ってくれて、わたしを助けてくれて。菅野さんの優しい所とか負けず嫌いな所とか色々な所を見てきましたし、わたしも同じく見せてきました。

 だから、菅野さんとはとても仲良くなれたと思っているんです。それにこれからもずっと続いて欲しいと思うくらいに。


「ダメよ」


「ええぇぇぇえっ!? なんで! 今の流れはっ!?」


 それがバッサリと切られてしまいました!


 なんか泣きそうですっ!!!


「あー! あー! 違うの! そんな泣きそうにならないでよ!」


「なきそうに、なっで、ないもんっ」


 なってないったらなってないです。うううう。


「ごめん、言い方悪かった。ごめんってば! だから睨まないで!」


「どういうこと?」


 わたしは眦を擦りながら聞き返します。


 ……泣いてないですって。ちょっとゴミが入っただけです。


「うーん、とね? あたしと斉……ごほんっ。……愛奈は、ライバルなの! そうでしょ?」


「あ……」


 とくん、と胸が一つ跳ねます。菅野さんがわたしを、"愛奈"って。

 顔を少し赤くして、そっぽを向いた少女に。わたしは無性に嬉しさが込み上げて。

 その意味が、分かったから。


「うん。………………真澄」


 噛み締める様に、そう、ライバルの名前を紡ぐのです。


「ふふっ、愛奈! そう来なくっちゃ! あたしと愛奈はフェアなの! 対等でいなくちゃねー!」


「うんっ!」


 嬉しそうに頬を綻ばせる真澄に、わたしも満面の笑みをお返ししたのです。



 その後は皆で、時間ギリギリまでモールを歩き通しました。


「凄く楽しかったね!」


「ええ! また、来たいわね!」


「ふふ、そうだな!」


「……うん、楽しかった」


「えへへー!」


 少しだけ関係の変わった友達達に、これからもずっとこんな時間が続けば良いのに、なんて心から思うのでした。







─────








 週末の金曜日。昨日の松井が謝罪をした一件から一日経った。今日はまだ松井は来ていない。話によれば来週から登校を再開するとのことだ。

 斉藤さんは松井からその事を聞いて少し寂しそうだったが、それでも松井が再び学校に来ると言う事が嬉しいようだ。今日は朝からご機嫌だった。

 ご機嫌な天使はすこぶる可愛い。ホント可愛い。今日も"えへへー"をいっぱい聞いて耳が幸せ。


 昼休みになり、俺は昼食を調達に購買へと足を運んだ。今日は人気株の明太子と鮭が手に入ったので俺もご機嫌である。今日は色々ツイてる日だね。

 俺はルンルン気分で教室へ戻った。


 既に机をくっ付けて集まる皆の元へと戻る。いつものメンバーである、斉藤さん、真澄、高畠さん、藤島だ。


「あ、沢良木君おかえりー」


「うん、ただいま斉藤さん」


 俺は微笑む斉藤さんへと笑顔で返事をしながら自分の席に座ろうとする。


 ……が。


「ん? 今日はそう言う趣向なの?」


 俺の席には既に先客の姿が。斉藤さんの隣には真澄の姿があった。


「そうだよー。だから宗君はこっち」


 そう言い自分の席を指すのは、ますみんさん。


「ふーん?」


 特に気にしないので、俺は言われた通りに腰かけた。机の配置は普段であれば、真澄、俺、斉藤さんと並ぶのだが、今日は普段と違い、真澄の席が所謂お誕生日席になっていた。俺はそこに座らせられたのだ。


 あ、そう言えば、今日は朝からちょっとビックリしたことがあったんだよ。それが何かと言うと……。


「よーし、皆揃ったし食べようか!」


「待たせて悪いな」


 高畠さんの言葉に謝罪すると皆笑顔を返してくれた。


 いただきます! 皆の声が重なった。


「あ、真澄のお弁当今日も美味しそう!」


「いや、愛奈には敵わないってば」


「えー、そんなことないよ? 真澄のはわたしのよりなんだかお洒落? な感じがするもん」


「ふふっ、何それ。愛奈のは間違い無いっ、て感じだよ?」


「あはは、何それー? あ、おかず交換しようよ!」


「うんっ、勿論!」


「「……」」


「あはは! 仲が良くて結構!」


 そう。

 これなのだ。朝、登校した時からこの調子なのだ。


 いつの間に、呼び捨て合う仲に?


 男の俺らは未だに目が点である。高畠さんは可笑しそうに笑っているが。


 いや、問題など全く無いし、好ましい状況であるが昨日の今日でここまで変わると驚きの方が勝ってしまった。

 俺的には呼び捨てる斉藤さんがイメージ湧かないと言いますか。ちゃん付けぐらいしか想像つかない。


 しかし……。


『宗~、この問題教えて?』※涙目で。


『宗、お昼ご飯一緒に食べよう?』※お弁当の巾着を両手で持って。


『宗っ、一緒に帰ろ?』※小首を傾げて。


 ……ぐぁっ。


 脳内で置換妄想が暴走してしまった。


 これはこれで、良いっ。

 普段言われる様なセリフであるが、呼び方でこうも変わるとは、お兄さん超ビックリ。

 なんだか幼馴染みチックである。うん。


 妄想を堪能した俺は、余韻に浸りながら明太子おにぎりにかぶり付き頷く。


 まあ、実際に斉藤さんに呼んでくれとも何も言わないけどさ。

 急に言われたって斉藤さんビックリするからね。うん。


 ヘタレじゃねぇよ? うん?


 ……脱線したな。俺の話はどうでも良いんだ。


 ……あ、でも君付けも嬉しいでっす。

 年下に君付けって、ちょっと萌えるんだよ。そう言うのない? え、無い? あ、そうですか。


 あれ、そういや真澄にいつも呼ばれてーら。


 閑話休題。


「ん? どうしたの宗君? あ。うんうん、分かってるって! はい、あーんっ!」


「へ? あぐ…………んく、うん旨い」


 早口で捲し立てる真澄。俺は突然目の前に突き出されたおかずに、思考が停止するが、反射的に口にしてしまった。


「へへへー、良かったー」


「あ、うん。ありがとう真澄」


「うんっ」


 思考停止した俺は生返事を返す。うん。今日も真澄のおかずは旨いね。


「あーっ! 真澄ずるいよ!」


 そこに声を荒げた天使が身を乗り出す。


「席を変えたのもそう言う事だったの!?」


「愛奈の隣が良かったのも本当だけど……バレたのならしょうがないね! さ、宗君もう一回どうぞーっ!」


「……もがっ!?」


「あー、あーっ! ダメだよ! わたしだって! はい、宗くん、あーんっ!」


「だ、だめ、まだ入っ──てもがっ!?!?」


 真澄に引き続き、斉藤さんにも口内シュートを決められる。俺は必死に、必死に咀嚼する。つい先ほど考えた、君付けにも気付かないくらいに。


「やるなー愛奈!」


「真澄こそ!」


 楽しそうに火花を散らす美少女達と必死な俺。


「はははっ、幸せ者だな沢良木君!」


「相変わらずだな……」


 笑う高畠さんに呆れる藤島。当然助けてくれる気配は無い。


 どうしてこうなった。と考えずにはいられない。


 うん、まあ俺に言えるのは2つだけ。


 女の子の心は摩訶不思議。


 それと。


「行儀悪いから、止めような……」


 溜め息混じりのお小言だった。


「「はーい、ごめんなさい!」」




 ……ねえ、反省してる?


「「はい、あーん?」」


 どうやら天使と元アイドルは、親友への階段を登り始めたらしい。

















でっす。


お読み頂きありがとうございました。

このパートは今話で終わりです。

次回からは日常パート入る予定であります。

今後も暇潰しに読んで頂ければ幸いでっす。




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