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第137話 身の上話2

本日もよろしくお願いいたします。

松井さんの過去話。※暗いです










 話が飛ぶが、私の家庭事情を説明しようと思う。


 私の家は端的に言って、冷えきっていた。


 気付くと家では両親同士の会話は無くなっていた。一人っ子の私は父と母それぞれとはまだ会話があった。そんな私は仲を取り持とうと、小学生の子供ながら懸命に話かけた。

 結果してそれが実を結ぶ事は無かったが。


 終いには私と両親の間ですら会話は無くなっていた。


 共働きの両親は仕事で夜まで家を空ける事が多かったが、遅くなったとしても家には帰って来ていた。

 しかし、それも次第に変わっていった。


 母は、泊まり掛けの仕事と言い、帰って来なくなった。最初の内は週に一度だったものが、徐々に増え、週に二度、三度とその数を増やしていった。


 すれば自ずと気付くものもある。


 母は外に男を作っていた。


 よくある話だ。


 元より寡黙で仕事一辺倒な父は、特に言及するでも無く。両親の離婚と言うのは当然の帰結であった。


 私は母に引き取られる事になった。


 父の住むマンションを出て、あるアパートへと引っ越した。


 そのアパートには既に住人が居た。


 母の愛人である。いや、既に結婚を決めていたらしいから、二番目の父、と言うことだった。


 両親の離婚から数年経ち、私は中学へと上がった。


 良い子で居よう。静かにしていよう。波風立てず。そう意識し続けた数年だった。


 新しい父が出来、母も変わっていった。


 服が変わり、化粧が変わり、今まで嗜まなかった酒やタバコに手をつけた。

 それも全ては、新しい父の影響だった。

 母よりも若い二番目の父の為か、母なりに頑張ったのかも知れない。


 終いには、私の知る母の姿はもうどこにも無くなっていた。


 不思議とそれを悲しく思う私は居なかった。そんな私は親不孝者だったのかも知れない。





 ある事件が起きたのは、中学の一年も終わりに近付いたある日の事だった。


「……っが、ぅぐ、くる、しぃ……!」


 私が寝ていると、首を強く締め付けられている感覚と共に突如呼吸が出来なくなった。突然の事に私は飛び起きた。

 もがき、上に乗る誰かを振りほどく。私の力でも、上に乗る誰かをすんなりと退ける事が出来た。


「……げほっ、けほっけほっ……お、お母さん……何、が……どうして……?」


 起き上がり、痛む喉を押さえ、私の首を締めた本人を見つめる。

 当の本人は力無く腕を下げ、茫然自失といった様相だった。力無くその唇が動く。


「……あんたが」


「え?」


「……あんたが、居なければ……っ」


 呟く母は私の顔を見ると、ハッとして顔を上げた。


「ご、ごめんね、美里ちゃんっ」


「……え?」


 母はそう言うと寝室を出ていった。


 残された私の胸には言い様の無い感情が渦巻いていた。




 夜の一件があってからと言うものの、母の態度はあからさまによそよそしくなっていった。


 そこまで会話があった訳では無かったが、ついには殆ど口をきかなくなっていた。




 その頃だろうか。二人目の父親の視線に気付いたのは。


 それまでお互いに必要最低限の会話だけ、と言う干渉の無かった私と義父であったのだが、その頃から義父の視線に粘つくモノを感じる様になっていた。

 子供の私でも、日々当てられるその感情の色を理解するまでに時間はかからなかった。


 色情の視線、まさしくソレだった。


 そうなると、憶測の域を出ないが母の反応も分かってくると言うものだった。


 私は自分の男を誘惑する邪魔な女だったのだろう。



 私が母の心情に気付いた事は、母も分かった様だった。

 時折視線が鋭くなるのも、分かった。と言うのも、義父の視線があからさまになってきていた、と言うのもあっただろう。

 私は中学の時点で発育が良く、背も殆ど伸びきっていたし、身体つきも同級生と比べれば大人びていた。


 そして、事は悪い方向へと進んでいく。


 一年生最後の日。終業式を終え、街で友達と遊んでから帰宅した私を待っていたのは義父だった。

 義父は仕事が休みだったのか家に居り、居間で酒を飲んでいた。リビングのテーブルには酒の瓶が数本転がっていた。

 部屋は酒の臭いが充満し、本人も大分酔っている様で私を見て立ち上がるも、覚束ない足取りだ。


「おう、美里ー、帰ったかぁー。 ちょっとこっち来いよ。一緒に飲もうぜ?」


「……」


 この男は中学生に一体何を言っているのか。

 呆れと嫌悪感を胸中に満たしながら、私は義父を無視して自室へと向かった。


「なぁ、おいっ……」


 後ろから聞こえる呼ぶ声も無視をした。


 本当に付き合ってられない。

 その一言だった。


 部屋で春休みの宿題等済ませていると、こちらに向かってくる気配を感じた。

 母はまだ仕事で帰って来ていない為、一人しか考えられない。


 またちょっかいを掛けに来たのか、ため息混じりにそう思った。

 しばらく音も聞こえて無かったので、寝てたと思ったが、起きてきた様だった。


 部屋の前まで来る義父。ノックでもするのかと意識を向けた次の瞬間、部屋を隔てる襖が蹴破られた。


「っきゃっ!」


 何が起きたか、訳がわからなかった。

 確かなのは、義父が何らかの理由で襖を蹴り破った事だけ。理由が何であろうと、良い意味ではどうしたって捉えられない。


「なぁ、美里ぉ? なんで無視すんだよ? 俺は父親だぞ? もっと敬えよなぁ。俺はこんなに美里を実の子のように思ってるってのによぉ?」


「……ひ、っ、な、なによ……」


 何をどう捉えれば、その視線が実子に向けるモノなのだろうか。

 濁り据わった目に私は心底怯えた。


 にじり寄る義父に私はその分後退る。


 狭いアパートだ。

 逃げるスペースなんてたかが知れている。


 あっという間に部屋の角へと追い詰められた私は、なんとか逃げ道は無いか、と必死に視線を巡らした。


「やっ、やめっ……っ!」


 しかし、その甲斐も無くあっさりと捕まってしまった。


「おらぁっ、大人しくしろって!!!」


「ひっ、っぐ、ぁ……」


 頬へ熱い衝撃。

 私は畳に拉がれ、両手も掴まれる。私に馬乗りになる義父は、拘束を抜け出そうとする私の頬を強く打った。

 酔いからか、加減の効かない一発はかなり痛かった。


「ぁ、ぅ……」


「ふぅ……ようやく大人しくなったか」


 頬に走る鋭い痛みに、組敷かれ身動きの取れない状況に、私の心は既に折れかけていた。

 こんなに状況だ。この男が何を望んでいるかなんて誰でも分かる。


「さて……と」


「……っ」


 義父は粘着質な笑みを浮かべると、腕を伸ばした。


 私の胸へと。


「っく、ぅく……っぐ……!」


 最後の抵抗とばかりに身を捩るも、その拘束は抜け出せなかった。


「悪あがきはやめろってのー。……なぁに、大丈夫だ。直ぐ良くなるさ。はははっ」


 ドロドロと澱んだ瞳を私に向けた義父は、私の耳元で囁いた。

 その声、言葉に背中が粟立った。


 最早嫌悪感しかない。それと恐怖。


 眦に浮かぶ涙の粒が落ちないよう、必死に歯を食いしばった。


 しかし、状況が打破される訳でも、改善される訳でも無い。


「へっ、へへへ……」


 未だに制服だった私の胸に義父の手が添えられ、乱暴に揉みしだかれる。


「いっ、痛いっ!! や、やめっ、てっ!」


「やめる訳ねぇだろぅが?」


 そう言いながらも、手を離す義父。


「今度は直接だなぁ」


「ひっ! や、やめて! やめ、ろっ! やめろっ! 触るなぁ!!!」


「ひひひ……」


 リボンへと手を伸ばした義父はリボンを握りしめ、一気に取り去ろうと───


 ドサッ。


「……なに、やってんの?」


 そこには荷物を取り落とした、母の姿があった。

 



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