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第135話 俺は俺が嫌い

大変申し訳ありません。更新に3カ月も空いてしまいました。仕事が忙しくて忙しくて……。

良ければまた読んで頂ければ幸いです。

投稿再開です。なんとか続けたい……。


※時間が空きすぎたので、ここまでの簡単なあらすじ


中学時代からの因縁により、松井美里に嵌められた愛奈と真澄。しかし、ピンチになったときに助けてくれたのは他でもない松井美里その人だった。

愛奈を庇った事もあり松井はチンピラのリーダー本多に捕まり暴行を受けていた。

一方、愛奈と真澄はチンピラ達に追い詰められるも、宗の登場に窮地を救われる。

愛奈の松井を助けたい、と言う願いを受けた宗は協力を約束する。

宗の活躍により、松井は救出されチンピラグループは壊滅した。

松井を病院へ連れて行った愛奈達は松井の謝罪を受け、再開を約束する。

後日、宗は街で諦めの悪いチンピラに追いかけられる松井を見つけ、これを助けた。←今この辺☆













 はぁ。


 内心溜め息が漏れる。もしかしたら実際に出ているかもしれない。


 つくづく自分が嫌になる。


 小さな公園のベンチに、松井と並んで腰掛ける俺は自己嫌悪の真っ最中だった。


 今回の一連の騒動、ほぼ解決と言っても過言では無いだろう。主犯は改心(おそらく)し、被害はほぼほぼゼロ。精神的苦痛は避けられない所だが、斉藤さんと真澄を見る限り大丈夫そうだった。まあ、安直には判断し難いが。


 チンピラ連中は俺と楽しく遊んだので、そちらも大丈夫だろう。


 じゃあ何に自己嫌悪かって?


 自分の身勝手さに、だな。


 今、俺が松井に語った事もそうだ。


 身勝手な代弁。自己満足の塊。

 反吐が出る。


 何が斉藤さんの意志を尊重だ。笑わせるな。


 今回の事も結局、俺は斉藤さんを理由に好き勝手やっただけに過ぎないんだ。

 

 斉藤さんを言い訳に身勝手な代弁をして、斉藤さんを言い訳に好き勝手暴れて自己満足する。まるで主体性の欠片も無いじゃないか。


 今だってそうだ。

 松井に当たり散らしてみっともないったらありゃしない。


 そんな訳で、俺は俺が、嫌いなんだ。



「それで、結局あんたはなんでケンジだかに捕まってたんだ?」


 それなのに、こんな事聞くんだぜ。

 あー、やだやだ。


 泣き止んだ松井はコクンと頷いた。


「あ、それは……ちょっとコンビニへ買い物に」


「安静にしてなかったのかよ?」


 松井は少し恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「い、一日寝てたし、少しお腹が空いて……。外に出たら、近くで待ち伏せされてて」


「……ついて無いなぁ」


「ほ、ホントに……」


 落ち込んだ様子の松井に俺は声をかける。


「まあ、恐らくもう大丈夫だろ。あれだけ脅せばバカでも覚えるだろ」


「あっ……」


 何か気付いた様に松井は顔を上げた。


「どうした?」


「あ、ありがとうございました。昨日に引き続き今日まで……」


「気にすんな。ついでだ」


「分かってますよ。……それでも、貴方に助けられのは事実です。ありがとうございました」


 松井は俺に向き直ると、深々と頭を下げた。

 その礼儀正しい姿は、今までの松井美里と言う少女に抱いていた印象をぶち壊すくらいに、らしくない行動だった。


「……律儀なもんだ」


 驚きを隠そうと、突き放した様な言い方になってしまう。しかし、松井は気にする素振りも無く。


「ええ」


 そう微笑むのだった。


「まあ、何かあれば俺に言え」


 だから俺もこんな事言っちまう。


「はいっ」


 松井の中で何か吹っ切れたのか、含みの無い純粋な笑みは思いの外綺麗だった。






「さて、帰るか」


「あ、はい」


 俺はベンチを立ち上がると、松井に声をかけた。頷く松井も俺に倣って立ち上がった。痛めた足を庇うように、であったが。


「送るぞ。家はどっちだ?」


「え、わ、悪いですよ! 家、直ぐそこなんで!」


「ついさっきまでチンピラに襲われてたヤツが何言ってんだ。それにまともに歩けないだろ」


「う……」


 俺はジト目で慌てる松井を見下ろす。

 女子にしては長身の松井も、俺からすれば見下げる背丈だ。


 松井は俺の視線から逃れる様に顔を背けた。


 ぐー。


「……」


「……」


 と、その時可愛らしい音が俺の耳に届いた。


 この場には俺と松井しか居ない。

 目の前には、顔を俯かせた松井が一人。


「……コンビニ寄ろうぜ。俺バイト上がりで夕飯まだだから腹へった」


「は、はい……なんか、すいません」


 俺は松井と連れ立って、近くのコンビニへ向かうのだった。






「……はー、お前随分とやられたんだなー」


「え、えっと? 顔、ですか?」


「ああ」


 コンビニの明るい照明に、松井の顔がはっきりとする。俺の視線に気付いたのか、苦笑いを浮かべながら自身を指差した。


 昨日の一件では、松井と正面から話すタイミングが無かったのもあって、松井の状態を俺は知らない。斉藤さん達から、傷が残ったり酷い怪我はない、と聞いていたが実際に見ると中々酷い状態だ。

 先程までは暗がりで街灯頼りな状態だったため、よく解らなかったが、痣や腫れぼったい頬が見るに耐えない。

 女の子だと言うのに可哀想だ。読者モデル? だったか藤島が言っていたのを思い出したが、元は綺麗な顔立ちなんだろう。

 顔には大きなガーゼが当てられ、痣を隠す為か長袖のTシャツにデニムと言う出で立ちだ。スラリとした体型で綺麗に着こなしているだけに顔が目立つ。


「ブサイクだな、あはは」


「っ、よ、余計なお世話ですよ! それ女の子に言うセリフですか!?」


 突然の暴言に顔を赤くして怒っている。……当然だな。


「しかも、なんだその金髪モドキは。似合わないぞ。ははは」


「くっ、好き勝手に言ってぇ……。カラーも安く無かったのに……」


 金髪は純正仕様に限る! これ真理! 金髪の天使マジ天使!


 俺の好き勝手な感想に顔をしかめてぶつぶつと漏らす松井。まあ、松井に嫌われようと痛くもないので、全然構わない。


「元が良さげなだけに尚更な」


「……それ誉めてるんですか?」


 先程とは打って変わって、俺がジト目を向けられる。


「さーて何おにぎりにするかな?」


「む、無視すんな!」


 おう、元気が良いね。


「俺は明太子かな。お前は?」


「っぐむむ…………ぅ、梅干し」


 唸る松井だったが、観念したようにそう呟くのだった。


 俺は手に持つカゴへと二つのおにぎりを入れた。学食のおにぎりと比べると量、値段共に劣ってしまうが仕方ない。質についてはノーコメント。


「……黒髪の方が似合いそうなのにな」


「え?」


 ポツリと漏らした俺の声に反応した松井が振り向く。しかし、俺は努めてスルーする。


「んで、後は何買う予定だったんだ?」


 売り場をぶらつきながら松井に声をかける。


「え?」


「え、じゃなくて。元々コンビニに買い物に出たんだろ?」


「あ、あぁ。はい、そうでした。……少しお菓子とか」


 松井は何故か顔を赤くすると、視線を逸らして呟く。


 お菓子を買うのが恥ずかしいのだろうか。

 やっぱりモデルとかだと体型維持が大変、とか?

 罪悪感ってヤツ?


 知らんし分からん。


「どれ?」


 俺は考えを放置して問いかける。


「えっと、コレとか……」


 丁度差し掛かった陳列棚を指差す松井。

 それはキリンの絵が描いてあるカップ形のアノお菓子。


「へー。確かに旨いよな、コレ。チーズ? サラダ?」


「さ、サラダ…………ってなんで正直に答えてんのよ私!」


 再び俯き、なにやらブツブツと自身にツッコミを入れる松井。

 俺は挙動不審な松井を無視して、サラダ味をカゴに入れる。

 お、新味。コンビニ限定だってさ。日本人は限定に弱いよね。もちろんお買い上げ。たまには贅沢もしないとな。あはは。

 贅沢がお菓子とはこれ如何に。ビンボー舐めんなよ。あはは。


「俺は……コレにしよう。後は飲み物か? お前は何飲む?」


「ち、ちょっと?」


「ん?」


 少し戸惑った様子の松井。俺は首を捻る。


「あ、あの、自分の分は自分で買いますからね?」


「んなこと気にすんな。黙っておにーさんに奢られろ」


「い、いや、その悪いですって。……何から何まで。……何も返せないし」


 なんならカラダで……げふんげふん。冗談っす。


「だから気にすんなって。どうしてもってなら斉藤さんと仲良くやってくれ。お前社交性あんだろ?」


 リーダー格みたいなもんだから大丈夫だろ。多分。

 しかし、まあ今まで苛めてたヤツと仲良くしろとか、結構キツイ事だと思うんだけどね。ちょっとしたイジワルと言うか。


「そんなこと……言われるまでも無いし……」


 ありゃ? 予想とは違う反応? まあ、どちらにしろ悪くはならないか。

 斉藤さんなら上手くやれるさ。


「てことでよろしく。ほら飲み物買うから決めろよ。どれだ?」


 ……なんか誤魔化された気がする、と言う松井の呟きが聞こえたがスルーだ。


「……もう。それならミルクティー下さい。コレ」


 諦めた様な溜め息を吐く松井だったが、微かに笑みを浮かべながら一本手に取ったのだった。呆れた笑みとも言う。


 ソレを受け取りながら、そういや斉藤さんもミルクティー好きだったな、と思い出す。


「ミルクティー好きなのか?」


「ええ、大体買うのはミルクティーですね」


「へえ。ちなみに斉藤さんが好きな飲み物もミルクティーだぞ」


「えっ? そ、そうなんですか?」


 俺の言葉に少し驚いた様子の松井。


「ああ。あの娘も大体ミルクティー選んでるな」


「そっか……そうなんだ」


 手に持つペットボトルに視線を落とした松井は静かに呟くのだった。






「今更なんだが」


「はい?」


 俺はレジで会計を待ちながら、傍らの松井に話しかける。


「今の時間に買っても、お前の家に夕飯あるよな?」


 時は夕刻も過ぎ、夜の帳が降りきった店の外を俺は見る。松井がいつとっ捕まったかは知らないがそれなりには時間が経っているだろう。


「……ホント今更ですね?」


 大して考えがあって誘った訳じゃねぇんだから、仕方ないじゃんね。

 決まりが悪い気持ちに、俺は頬を掻く。


「……まあ、大丈夫ですよ。今日は親が仕事で遅いので、自分で用意する予定でしたから」


「あー、それなら良かった。……まあ、コレを夕飯と呼べるのか、と言われると辛いところがあるけどな」


 おにぎり、お菓子、ドリンク。随分とジャンキーな夕食になりそうだ。ファミレスとかにすれば良かったか?


「ふふ。小腹が空いたと言っても、食欲がそこまである訳じゃないので。コレで良いですよ」


 何か可笑しかったのか、笑みを浮かべながらフォローをくれる松井。


「そりゃ良かった」


 笑われた事がむず痒く、店員の袋詰めを見ながら俺は再び頬を掻くのだった。
















お読み頂きありがとうございました。

明日も投稿したいと思います。

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