第130話 お手合わせ
長らくお待たせ致しました。
間が空いてしまったので、あらすじをば
本多率いるチンピラグループに連れ去られた愛奈と真澄は、作業着の王子様の活躍により助け出された。元凶であった松井だったが、何故かチンピラグループを裏切り愛奈達の助けになる事を選んだ。それにより酷く痛め付けられた松井は愛奈達の手を借り病院へと向かったのだった。
俺はテーブルに置かれたよく冷えた麦茶をもう一度味わう。未だに夏が色濃く残る夕刻、それと少し運動した身体に染み渡り心地好い。
「……ふぅ。人心地つきました。ありがとうございます」
「そう、良かったわー」
ニコリと微笑む金髪の美少女……もとい美女。
金髪の天使斉藤愛奈さんのお母様、アイシャさんであらせられる。
久しぶりに会ったが、相変わらず親御さんの方も天使している。これで一児の母だぜ? 若くして斉藤さんを産んだとしても30中盤か? 見えねぇわ……。まだまだイケる。うん。
「おう、たっぷり感謝しろよ? 俺が丹精込めて作った麦茶だ!」
そう胸を張るのはここ、斉恵亭の店主で天使斉藤さんのぱぴー、俊夫さんだ。
今日も磨きあげられたスキンヘッドがとってもチャーミング。スキンヘッドに無精髭のコーデがキマッテルぜ。相変わらず天使の親には見えない筋肉ダルマ。
俺は今、一人で斉藤さんの家にお邪魔していた。
チンピラ共との小競り合いを終えた俺は斉藤さん達三人と連絡を取った。無事向こうも松井を病院へと連れて行けた様で、向こうの親御さんも来てくれたそうだ。
もう少しで帰れると言う事で、一度合流しようと話が纏まり、場所はココ、斉恵亭となったのだ。
斉藤さん達が帰って来るまで、もう少しだろう。因みに今回の件について、この二人にはまだ詳しくは話していない。それも帰って来てからの話だと判断したからだ。
「あ、居たのか俊夫さん」
「最初から居るわっ! つかお前が店で最初に会ったの俺! もう何回も会話してる!」
「ごめん、図体がデカ過ぎて気づかなかったんだ」
「むしろ逆だろ! デカかったら余計気付くわ! うるせぇよ! そんなにデカくねぇよ! つかお前も似たような背丈だろうが! そもそも店に入って来て最初に会ったの俺だって言ったよな!?」
「麦茶ってパック以外にあんのか?」
「悠々と会話の流れぶったぎるのな、お前! なんか俺に恨みでもあんの!? なあ!?」
「あ、すいませんアイシャさん、お代わり良いですか?」
「はーい、どうぞー?」
「ありがとうございます」
「ふぅ、旨い」
「何人心地ついてんだよ! 俺との会話は!? 会話はキャッチボールだろ!? なんで俺だけ投げ続けてんの!? ストラックアウトかよ!」
「あなたウルサイ」
「あ、はい、すいません……」
「久しぶりに沢良木君が来たからってはしゃぎすぎよ?」
「い、いや、はしゃいでなんてないぞ! これはな、舐めた事言う宗に、ガツンと一発……」
「がつん……?」
どこが? と、アイシャさんの表情はあからさまに物語っている。
相変わらず弱い俊夫さんの様子に、俺は思わず笑う。
「はは、すいません俺もふざけが過ぎました。ところで俊夫さん、少し時間貰えませんか? 斉藤さん達が戻ってくるまで時間あるようだし」
「おう? どうかしたか?」
「ちょっと手合わせをお願い出来ないかな、と」
「おぉ!? 良いぜ! もう少しで暗くなっちまう! 急いでやろうぜ! 庭で良いか!?」
「ああ。お願いします」
俺は俊夫さんに連れられて、早速庭へと移動した。
「ふふふっ、やっぱりはしゃいでるじゃない」
後ろではアイシャさんの笑う声が聞こえていたが、前を意気揚々と進む俊夫さんには聞こえていないようだった。
「こ、これ、何がどうなってるの……?」
「あ、あたしだって分からないわよ……」
「ナンダコレ……」
松井を見送って帰って来た斉藤さん、真澄、高畠さんの言葉である。
まあ、帰ったのを横目に俺は動き続けていたのだが。これが止まれようか。否だ。
斉藤家の庭では未だに俺と俊夫さんの組み手が行われていた。俺は日拳ベースの喧嘩拳法、片や俊夫さんは俺もよく分からない格闘技の複合型、っぽいナニか。俺は一人で異種格闘技をやっている気分だ。
ただ、凄く楽しい。
先程の喧嘩では、鬱憤は晴らせたが、格闘技的な視点ではまるで満足出来るモノでは無かった。そこで、自身より格上と分かっている俊夫さんの胸を借りようと思い至った訳だ。
その考えは大いに当たった。
「やっぱり、全然、堪えないなっ!」
先程のチンピラ勢であれば、一発一発が致命打に成りうる俺の拳、蹴りも俊夫さんはまるで歯牙に掛けない。相変わらず硬い筋肉と技量にて受け流される。
むしろ俺が追い詰められる一方だ。
「はっ! まだまだぁ! ほら、甘いぞっ! おらぁっ、そこっ!」
「くっ……!」
「「宗君!?」」
「うわっ!」
「あらあらー」
俊夫さんに攻撃をいなされ、俺はそのまま宙を舞う。
その姿を目にした斉藤さん達は悲鳴じみた声を上げた。
「こ、のっ!」
俺は無理矢理身体を捻ると、勢いを殺しながら着地した。そして、地面に着いた瞬間には地面を蹴り、俊夫さんへと突っ込む。
「……ひゅう~」
感心した様に口笛を吹く俊夫さん。その余裕は一向に崩れない。
こんにゃろう! 一発だけ。せめて一発入れてやらぁ!
突っ込みながら、俺はその一発を入れる為に、ある行動を起こした。
「むっ?」
俺の動きを見た俊夫さんが眉を動かしたのを見逃さなかった。
これだけで気付くのかよっ。でもっ!
「……っ、はっ!」
俺の動きは、今までの日拳ではないトリッキーな型。俺は脳裏に思い描くある人物の動きをトレースしていく。それと、ちょっとのスパイスをば。
「なっ、うがっ……!?」
今まで悉くいなされてきた俺の掌底打ちが、ついに俊夫さんの腹に突き刺さった。
手応えはあった。始めて納得のいく有効打だった。
しかし、それだけで満足する俺では無い。むしろ、これでもけろっとしている筋肉ダルマの姿が容易に想像出来てしまうのだ。
よって、直ぐ様追撃を加えるべく逆の手を突き出した、が……。
「……ふはっ、甘い甘いぃ!!!」
「げっ!? ちょ、まっ、おわあぁぁあっ!?」
呆気なく突き出した拳は掴まれ、技量とも呼べない力任せの放り投げを食らってしまった。
無我夢中で着地しようともがいた結果、無様に落ちる事は無かったが、その格好はどこぞのスーパーヒーロー着地然としている。勢いを殺しながら芝生を滑る滑る。ごめんよ芝生ちゃん達。コレ全然勢い殺せねぇ。くっそ、結構ダメージ来るわ……。
ようやく止まったそこで俺は白旗を振る。両手を上げて降参のポーズ。
「負けだ、負け。降参だ俊夫さん。ちくしょう、キレイに入ったのになぁ」
「はっはっはっ! 最後のヤツは面白かったなあ、宗!」
「うるせー筋肉ダルマ」
「ははは、強者にはその程度の侮蔑痒くもないね! しっかし、動きが急に変わったから驚いたぞ。まあ、その動きの原型が俺だと気付きゃ対処もされやすいだろうが」
「俊夫さん以外なら何とかなるんだが……。でも面白いだろ?」
「ああ。俺の体捌きを自分に最適化してこなしちまう。かといって付け焼き刃にしちゃ出来が良い。一種の才能だな」
「うぉ、俊夫さんに素直に褒められると鳥肌立つなおい……」
「失礼なヤツだなおい。……ちょうど愛奈ちゃん達が帰って来た見たいだし、上がるか」
「うい」
丁度夜の帳も落ち、辺りは真っ暗になっていた。
俺と俊夫さんはいつの間にか全員集合していた縁側へ向かった。
「お帰り皆。悪いな待たせて」
「お帰り愛奈ちゃぁん! 待ってたよー……って、あれ?」
俺と俊夫さんが帰って来た皆に声をかけるが、どこか上の空で反応が返って来なかった。
「あ、あはは、なんかとんでも無いの見ちゃったなぁ」
唯一、顔をひきつらせながらも反応を返してくれたのは高畠さんだった。
「高畠さん、二人共どうした?」
「うーん、まあ直に戻ると思うよ? 具合悪い訳じゃないから。ん? むしろ患っている、というか? まあ、大丈夫さ!」
「そうか? あ、アイシャさん、すいません洗面所お借りしても良いですか? 手とか洗いたいので」
「良いわよー。場所は大丈夫よね?」
「ええ、ちょっとお借りします」
俺は固まる少女達を横目に家の中へ先に入るのだった。
「「か、かっこいぃ……」」
ふと、固まっていた少女達が呟いた。その視線は家の中に向いている。
「え? なんだい愛奈ちゃん? 何か言ったかい?」
その呟きを拾ったのは、一人の筋肉ダルマ。聞き返す筋肉ダルマ。しかし、少女達は耳に入っていないのか、唐突にお互いに手を握り合うと声を合わせた。
「「かっこいいねー!!!」」
「え!? そうかい!? いやぁ、愛奈ちゃんテレるなぁ。んーでもそうかぁ、うんうん。愛奈ちゃんもパパのカッコ良さを理解してくれたのかあ。愛奈ちゃんのお友達にまで分かられちゃうか! はっはっはっ! カッコ良いパパは辛いぜ!」
「ん? あ、パパ。ただいま! パパ居たんだ?」
「あれぇっ? なんかデジャビュー!? え!? 今パパの事カッコいいって言ってくれたじゃないか! え、あれ!? そうだよね!?」
「?」
「マジの疑問顔がツライ! え、それじゃ何がカッコいいの……?」
「えっ、そ、それは……そのぅ……」
「ハイその反応でパパ知りたく無くなっちゃったー!! 宗てめぇ殺すぞおらぁ!!!」
そんな会話があったとか無かったとか。
知るか。
いつもお待たせして申し訳ないです。
プライベート、仕事と中々忙しく執筆が思うように進んでおりませんでした。
今後も引き続き、暇潰しに軽く読んで頂ければ幸いです。