第128話 決着
すいません、修正しながら寝落ちてました……。
「クソっ、クソっ、クソがぁあっ!!! 舐めやがって! 殺すっ! 絶対殺してやる!!!」
「へぇ? やれるのか? お前らごときに?」
俺はわざと挑発するようなセリフと表情をリーダーに向ける。
斉藤さん達がここを離れて大分経った。上手く行けばそろそろ屋外へ出れる頃だろうか。
「はっ! この数の差がわからねぇのかよ! 粋がっていられるのも今の内だ!」
逆に分かっていないのはそっちだろう、と内心溜め息を吐く。今まで見た動きと、追って戻らない連中の事を考えれば、力の差なんて思い至るだろうに。
リーダーは近くの机を殴りつけながら俺を睨む。
「クソっ、絶対許さねぇからな。俺の楽しみをおじゃんにしやがって! 女共がヤられてる最中に美里も仲間入りさせる予定がよぉ!」
「あれ? お前松井に惚れてんじゃねぇの?」
ペラペラと要らん情報を寄越してくれる、チンピラリーダーに疑問をぶつける。
「ははっ、だからじゃねぇか! お気に入りだから俺の好きな様に可愛がってやるんだろうが?」
ニヤニヤと語るリーダーの言葉に、連中の後ろに控える女達が青ざめていた。状況を見るにアレが松井の取り巻きとやら、なのだろう。明日は我が身、とでも思ったのだろうか。
どうでも良いが。
「へえ? その予定ついでにウチの子達は巻き込まれたわけ?」
「ついで? ああ、ついで。その通りだな! 美里に不信感を持たせないように役立った訳だ。元々は斉藤とか言うチビガキに関係無く美里をヤる予定だったんだがよ、そこに都合良く美里が話を持って来てなぁ。これなら信じた矢先に裏切られる顔が見れるか、てな? チビガキを嵌めるっていう計画がその実、自分を嵌める為に動いていたって訳だ」
「……」
「だちいち、あんなチビガキ誰が要るってんだ。子分共は喜んでたみたいだがよ? あんなんじゃ勃ちもしねぇだろ。もう片方はマシみたいだったがなぁ?」
まあ今から死ぬテメェには関係無いがな、とリーダーは口を歪めながら語った。
「さっさとテメェを片付けてアイツらを追───」
「ふっ、ふふふ……あははっ」
リーダーの物言いに、俺は思わず吹き出してしまう。
「あん? 何がおかしいんだテメェ?」
「良いぞ。凄く良い。ああ、久々に見るグズだなぁ。ふふっ」
うんうん、と俺は頷く。
ああ。傑作だ。この男は無意識に俺の大切なモノを踏みにじっていく。
たぶん、これ、キレてるなぁ、おれ。
胸が疼く感覚に酔いしれる。久しく感じていなかった情感に、胸は次第に高揚する。脳髄の痺れる様な感覚は俺を突き動かす。
早く、やりたいなぁ。
「は? だから何粋がってんだてめぇ? この数がわかんねえのか?」
「良いね良いね、小物感漂うそのセリフ! 俺大好きだよ、あははっ」
聞くのは二回目のセリフ。頭が足りなければ語彙力も皆無のようだ。
「ぁんだとっ!?」
「さぁて、ウチの天使とアイドルに手ぇ出した落とし前つけて貰おうじゃないか」
「は? テメェ何言って……」
笑う俺の姿に、幾分か持ち直したのかチンピラの一人が前に出てきた。そして覗き込む様に俺の顔を見てきた。
「ちっ……。なんだコイツ、イカれてんのか? ケンジのバカ野郎は油断してっからあっさりとやられちまったんだろうが。……竜司さんいいですかいっ!? おいっ、てめぇらやるっ……ぶぼれっ!?」
「んなっ!?」
「坂田さんっ!?」
「やりやがったな!!」
ノコノコと俺の目の前までやって来た痩せぎすの男。そのセリフが終わる前にヤツの右頬に俺の拳が刺さった。
先程、リーダーに放ったユルい拳では無く、割と本気で。
「準備整うまで待つバカが何処にいるんだよ。ほれ、まずは1人、一発で沈んじまったぞ? どうする? どうする? くははっ」
俺は挑発する様に周りを見渡す。
む、いかんな。斉藤さん達が離れてからテンションが可笑しい。
「お、おいっ、幹部二人が真っ先に!?」
幹部(笑)とか。悪の組織かよ。
「く、くそおっ!!」
「つか、そんなんで狼狽えるなよな! まだ、一発だけだろう? あははっ」
仕方ないじゃんね? 久しぶりのケンカで、しかも大義名分があると来たもんだ。
天使達に危害が及んだと言う事実が、俺の箍を外す。
俺の口角は上がり、三日月形を描く。
その表情を見たチンピラは一様に悲鳴を上げた。
「「……ひっ!?」」
失礼な。
「お、おいっ、どうするんだよっ!」
「ど、どうって……ま、まだこんだけ数がいるんだ! 囲めばいけるだろ! 多分! きっと! おらぁっ、いくぞ!!」
その声に残りのチンピラが一斉に俺へと駆け出した。最後尾にリーダーの姿があることも俺の目はしっかりと捉えた。
「そうこなくっちゃな! 久々の喧嘩……いや、復讐か? まあ、どっちにしろ手加減は期待するなよ? ほら、ちんたらしてるとこっちから行くぞ?」
地面を蹴ると先頭の男に肉薄する。
「うごっ!?」
「ぶべっ!?」
「うぎゃっ!?」
「ひっ、や、まて、た、たす……ぎゃぁっ!?」
殴打、蹴り、投げ。俺の振るう一撃一撃が各人に吸い込まれ、沈めていく。
「あはははははははっ」
俺の高笑いが廃工場に響いていた。
数分経つ頃には、俺の目前は死屍累々の様相を呈していた。
あちらこちらから呻き声が聞こえてくる。辛うじて意識を保ち痛みにもがく者、早々に意識を手放し地面に転がる者。当然、後者の方が賢いだろう。
「ううむ……」
やり過ぎた、てへっ☆
「まあ、良いか……さーて」
俺はおもむろに地面にひれ伏す一人の前にしゃがみこんだ。
そして、髪を鷲掴みすると持ち上げ視線を合わせる。
地面から俺の視線まで引き上げるので、男はかなりエビ反り状態だ。
「ぅぐあっ……や、やめ……っ」
「お前が竜司?」
「そ、そ、そうだよ、なんだよ!?」
最初のオラオラ系で、悪辣非道な雰囲気は霧散していた。特に他の連中より丁寧に痛め付けてやったので素直になったのかもしれない。
気を失わない様に、加減して、じっくりと。
現状、お天道様の許に出すには、少々憚られるナリである。白いスウェットはどろどろに汚れきり、あちこちが破けている。見える素肌は一様に痣が覗き、顔にいたっては元の顔が分からない。
それでも喋れるだけ凄いと思う。根性あるね。チンピラを束ねてただけあるってか?
「いや、ただの確認だけど。松井がけしかけたヤツってのがお前でオーケー?」
「だ、だったら、なんだよ……?」
「え? だから確認って言ってるだろ? まあ、特に意味は無いさ。しかし元気だなぁ。もっとやるか? あ?」
「いっ……ぃぇ、大丈夫、です……」
竜司と言う男は俺の言葉に早々に視線を外した。
まあ、リーダーを張るぐらいだ。やはりそれなりの根性と腕があったのだろう。
俺にとってはどっちもどっちだったがな!
「……ん?」
ふと、俺はそこで微かな違和感を覚えた。
この男の顔に。
俺は男の顔を見ながら首を捻る。そして、疑問を口にした。
「お前……どっかで会ったことねえか?」
「だ、誰がアンタみたいなイカれたヤツと……」
「竜司、だっけ。名字は?」
「な、なんで、教えなきゃならねぇ……」
「あ?」
「ほ、本多です! 本多竜司です!」
慌てた様に答える竜司。その名を頭の中で反芻する。
「ほんだ、りゅうじ、ねえ。…………………本多竜司?」
そこで、頭の片隅で何かがヒットした。
するとどうだろう、鈴なりに記憶が引き出された。
俺は目前の男を見て、目を見開く。
「は? だからそう言って……」
「中央高の?」
「……それがなんだよ?」
「入学初日に呼び出した俺にボロクソに負けた本多竜司クン? その後はクラスの連中から噛ませ噛ませ呼ばれてた本多竜司クン? 登校初日でカースト転落をやってのけた本多竜司クン?」
「っ!? て、てめっ、なんでそれ、を!? ………………へ? 俺に……って?」
「ははっ、いやぁ、懐かしい! あの後クラスのパシり役を拝命してたよなお前! 結構変わってたから気付かなかったぞ! 俺は直ぐ中退しちまったしな! こんなに立派になって!」
「さ、ささささ、さわ、らぎっ……!?」
「ささささささわらぎです」
「ぎ、ぎゃあああああぁぁぁぁ……ぐべっ!?」
俺の名を聞いた途端、突然奇声を上げ始める本多に、その顔を思わず殴る。
人の名前で悲鳴上げるとか、失礼だろうが。
「うるせぇよ! なんでいきなり悲鳴あげんだよ?」
「な、なんでアンタがここに居るんだよ!?」
「居ちゃ悪いか?」
「あ、いえ、そんなこと、は……」
「何だよ?」
「い、いえ……あ、あは、ははは。か、彼女達の、お、お知り合いだったん、ですね……?」
「ああ、そうだよ。お前らが手を出そうとしたのは、俺の大切なお友達。お分かり?」
激しく首を上下に振る本多。
「どう、落とし前つけて貰おうかねぇ?」
今度は必死に左右に首を振る本多。
髪を鷲掴んだままなので、プチプチと髪が抜けているが痛くないのだろうか。どうでも良いけど。
「まあ、さっき沈めた連中にも言ったんだが、とっても優しい彼女達や俺としては、金輪際彼女達や周りの人の前に現れず、危害を加えないと約束するのであれば、お前達に関しちゃどうだって良い」
「え、ええっ! もちろん! 喜んで約束させて頂きます!」
再び激しく頷く本多。ブチブチと髪は抜け続ける。
「ただ……」
「ただ……?」
「約束が守られなかった場合は……分かってる、よな?」
俺が満面の笑みを本多に向けると、再びブンブンと首を激しく振った。
さらに髪が抜けて、俺の手が髪だらけになってきた。汚い。
「子分達にもちゃんと言い聞かせろよ? もし何かあれば、手ぇ出した子分は揃って……お前も一緒に……」
「わ、分かってます……!」
「おーし、そんならもう用事は無い。俺の鬱憤も晴らせたからな。気絶してるヤツにも絶対伝えろ。そして、二度と視界に入るんじゃねぇ」
俺は本多を解放するとそう言い放った。
あーそれと、と一言付け足す。
「人数揃えようが、無駄、だからな? もし、万が一、次の機会があれば……本気でいくから、な?」
俺に見下ろされる本多は腫れ上がった顔を懸命に上下に振り続けるのであった。
俺は、逃げるもままならず気を失ったままのチンピラ共を横目に、廃工場を後にした。
ご覧頂きありがとうございました。
沢良木君、ちょっぴりはしゃいじゃったんですお。