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第127話 天使の差し出す掌

本日6話め。










 廃工場内部を走り、残りの連中が居ると言う区画へ、走って向かう。

 向かいながら高畠さんへ連絡を取り、この廃工場入り口に来てもらうよう手配を済ませた。二人が安否を伝えると電話の向こうで安堵からか泣き出してしまった高畠さんが印象的だった。それだけ友達が心配だったのだろう。良い友達を持ったものだ。


 先導する斉藤さんと真澄は迷う事無く進んでいく。


「残りの人数は男が六、七人くらい! それに松井と取り巻き連中!」


「了解。二人はさっきみたいに離れててくれ。俺が片付ける」


「だ、だけど……」


「俺は大丈夫。さっきもそうだったろ?」


「それは……」


「宗君……」


 俺は二人に今から向かう場所の状況を聞いていた。俺を一人残して逃げろと言う言葉を、先程の立ち回りを見ていたからか二人も強く否定は出来ないようだった。


「俺なんかより二人はする事があるんじゃないか?」


「……うん」


「そう、ね」


 そうだ。

 今、向かっているのは松井の状況を知る為なのだ。


 二人が言うには、松井は突然二人の味方をしてくれたと言う。今までの経緯やあの女を思い出すと、どうも信じられない所ではあるのだが。もし、それが本当ならば、正面を切ってその他連中に楯突いた訳だ。

 無事で居るとは、中々想像出来ない。むしろその反対。報復を受けているだろう事は想像するに難しく無い。


「もし、松井がケガでもしているようであれば、助けるのは二人だ。俺はその逃げる時間をいくらでも稼いでやろう。わかったな?」


「「うんっ」」


 力強く頷く二人に、俺も頷き返すのだった。







「松井さんっ!!!」


 辿り着いた目的地。目の前の光景に斉藤さんが堪らず声を上げた。


 目の前では松井美里が地面に這いつくばり、白いスウェット姿の男に嬲られていた。

 男は卑しい笑みを貼り付けたまま、松井の頭を踏みつけている。


 松井の様子を伺えば、服の汚れ具合や顔の腫れ具合から想像にそう違いない扱いを受けていたようだ。


 斉藤さんの声に、視線が一斉にこちらへと向いた。


「誰だ────」


 連中の内、誰かが声を上げた。


 が、そのセリフも終わらぬ間に俺はもう動いていた。


 駆け出した俺は一直線に、松井を踏みつける男へと肉薄する。

 瞬く間に距離を詰めた俺は、勢いそのままに拳を振るう。

 敢えて、大振りに。威力はそこそこ上げて。


「なっ!?」


 咄嗟に腕で防御を取る男を、俺は構わずそのまま殴り付けた。

 ガードを吹き飛ばし解かしつつ、男は大きく後退した。たたらを踏みながらも転倒を辛うじて防いだ男は3メートル以上後退していた。

 それなりの強さで殴り付けた為、男の表情はそれ相応に痛みに歪んでいる。


「へぇ……」


 俺は関心し息を漏らす。


 他の連中であれば、今の一撃で大体がノックアウトだったろうに。それが、ガードを解かれたとしても、転がらず耐えた。


 まあ、後退させる為の大振りであったため、避けられる前提ではあったのだけれども。命中した段階でたかが知れている。他の連中より多少強くとも俺には意味無いさ。


「いっつう、クソっ、誰だテメェ!!!」


「二人共、急いげ!」


 喚く男を無視して、俺は後ろに控える少女達に合図する。


「「うんっ!」」


 後ろ手に地面に横たわる松井へと駆け寄る音を聞きながらも、周囲に目を配る。


 恐らく状況や雰囲気から、この白いスウェット男はリーダー格と思われる。こんな集団を引き連れる男なのだから腕もそれなりに立つのだろう。それなり、に。


 そんな男が狼狽える状況は、周りの男達にとっても想定外の出来事なのだろう。状況を把握出来ず困惑するばかりで動こうとする奴は居なかった。


「松井さん、遅くなってごめんね」


「ほら、立てる?」


「……あ、あなた達……な、んで……? わ、私、は……」


「そんな事より離れるのが先だよ! 松井さん、酷い傷……早く手当てしないと!」


「そうよ、後で徹底的に聞かせてもらうわよ、色々とね。だから今は早く逃げるわよ」


「……わ、私っ、わたし……今まで、さい、とうさんに、斉藤さんにっ!!! ……う、ひっく、う、うぅ……っく、うぅあぁぁん……っ! ごめんっ、ごめん、なさい……!」


「うん、うん……泣かないで、松井さん……うぅ……」


「こらっ、まだ気抜かないで! 何で斉藤さんまでべそかいてんよの! ほら行くわよ!」


「二人共、もうひと踏ん張りだ」


「うん、宗君も気をつけて」


「沢良木君、無事でいてね……?」


 二人は松井に手を貸し、出口へと向かい始めた。

 そんな潤んだ瞳でお願いされたんじゃ、お兄さん張り切っちゃうぞー。


 しかし、二人を邪魔する様に声を上げる者が居る。


「おいっ!!! 逃がすんじゃねぇぞテメェら!? 殺されてぇのか!?」


 リーダーにそう言われれば動かざるを得ない。はっ、と気付いた様に行動を開始しようとする取り巻き連中だったが、俺が許す筈もない。


「止めといた方が身の為だぞ? 俺は彼女達を護るためにここに居るんだからな。考えてみたらどうだ? 彼女達がここに居る訳を。彼女達を追ってた連中はどうしたんだろうなぁ?」


 威圧感を振り撒く様に周囲のチンピラを睥睨する。

 追っ手の事に気付いていない様子だった為、追加情報もサービスだ。


「……なっ!?」


「お、おい、そういやアイツらは……?」


「ご、五人は向かったよな?」


「嘘だろ……?」


 ざわめくチンピラ共。その姿にリーダーは声を荒げた。


「何やってんだ! 相手は一人だぞ!? さっさと行けよ!!!」


 リーダーの言葉と、俺の威圧感。天秤にかけたチンピラ共は中々動けない。


「ぅ……う、うおぉぉお!」


 そんな中半狂乱で飛び出す男が一人。がたいが良く、背は俺並み、筋肉質な男だ。


「だから───」


 ──ドガッ──ガシャアァンッ──


「止めとけって言ったろ?」


「け、ケンジさんっ!?」


 飛び出した男は俺の蹴りをその身に受け、廃材の山へ派手に突っ込んだ。簡単に意識を手放した様子の男は、そのままピクリとも動かなくなる。


 ちらり、と後ろの少女達に視線を向ければ、多少驚いてはいたようだが、順調に出口へ向かっているようだった。それに安心した俺は正面に視線を戻し、笑みを浮かべた。


「ははっ、人間って結構飛ぶんだなぁ? さあ、次にぶちのめされたいヤツは居るか?」


 リーダーの男以外の顔が、面白い様に青ざめていくのが印象的だった。




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