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第123話 真打ち登場

本日2話め。










「追えっ!!!」


 リーダーらしき白いスウェットの怖い人が、わたし達を指差しながら叫びます。わたしと菅野さんは、走りながら振り返りそれを確認します。


 リーダー格の人の声に、5人の男の人達が応じます。


 急いで逃げないとっ!!!



 ……でも、松井さん、なんで?


 なんで、助けてくれたの……?


 なんで……。


 頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、わたしと菅野さんはがむしゃらに廃工場の中を走ります。目指すのは、わたし達が入った入り口。


 今一度、後ろを振り返り追っ手を見ます。その差はやはりと言うべきか、徐々に詰められています。

 男の人と少女のわたし達、その体力差は如実に現れているのです。


「はあっ、はっ、はっ……」


「はっ、あ、くっ……な、なんで、こんなに広いのよっ!」


 隣で悪態を付く菅野さんに同調するように頷きます。


 この工場、ホントに広いです!

 でも……あっ!


「見えた!」


 その扉は希望の様に見えます。


 あと少し、あと少し。着実にその距離は縮まり、わたしはそのドアノブに手を。



ーーガチャ、ガチャガチャッーー



「なんで!? あ、開かないっ」


「なっ!? 貸して!」


 菅野さんに場所を譲り、変わりますが菅野さんも開けられなかったのか、その表情は絶望の色を濃くしていきます。

 木製のドアではありますが、わたし達少女の力ではどうにもなりません。


「ふへへっ、逃げ場は無いぜー?」


「良かったぜー、ソコの鍵しめておいて!」


「くっ……」


 追い付かれてしまったわたし達は、後退り遂には壁際に追いやられました。

 ドアノブを見れば、内側にも鍵穴がついていました。両側から鍵のかけられるタイプなのでしょう。自分達の運の無さに嫌気が差します。

 なんでこの人達が鍵を持ってるとか、わたし達はなんでこのドアに向かってしまったのか、とか。思う事は尽きませんが、何よりも目の前の男の人達です。


 卑しい笑みを貼り付けた表情を一様にこちらへ向けています。


 違う出口へ、と駆け出し扉を離れますが、直ぐに行く手を阻む様に男の人達が回り込みます。


 わたしと菅野さんは手を取り合いますが、強く押し寄せる恐怖と絶望にお互い足に力が入らず、その場にへたり込んでしまいました。


「なぁ、ここで味見しねえ? 少し遅くなったって大丈夫だろ?」


「お、いいねぇ。アイツらに先越されるのも癪だもんな」


「ケンジ達か?」


「ああ、ちょっと年上だからって威張りやがってよ」


「ははっ、聞かれたらしばかれるぞー?」


「はっ、どうせ聞こえやしねぇよ! ……それより、今は目の前のご馳走だろ?」


「ああ、そうだった」


 ニヤニヤと頷き合う男の人達はジリジリとその輪を縮めにじり寄って来ます。


 迫り来る男の人達を見て、わたしは不意に、いつかのショッピングモールの出来事を思い出していました。フラッシュバック、とでも言うのでしょうか。


 あの時もそう。


 こうやって、男の人達に囲まれていました。頭の中が真っ白になって、絶望に包まれて。


 何より、自分の感情に、初めての恋心に振り回されて、逃げる自分の情けなさが辛かったです。


 だけど。


 大好きな、大好きなんだと気付いた彼が、助けに来てくれました。


 それはまるで、夢のようでした。物語の様な出来事でした。それからも、彼には何度助けて貰ったのでしょうか。


 彼はわたしのピンチには颯爽と駆け付けてくれる、まるで王子様。


 子供っぽいですか?


 でも、しょうがないじゃないですか。


 カッコいいんだもん。


 優しいんだもん。


 大好き、なんだもん。






 これは、諦め……なのでしょうか?


 だから、こんな風に大好きな人の事ばかり、頭に浮かぶんでしょうか。


 ぎゅっと瞑ったわたしの眦から、一つ涙が零れ落ちました。


「……宗くん」


 涙と共に零れたのは、一つの名前。


 大好きな、男の子の名前。


 一番会いたい大好きな人。


 もしわたしが素直に宗君に伝えていれば、助けてくれたでしょうか。彼はここに居てくれたでしょうか。

 ううん。疑問に思うのもおかしいぐらい。絶対に助けてくれた。


 そう分かるから、彼に心配を、負担をかけたくなくて。頼りっぱなしな自分が嫌で。


 だけど、それでも結局、わたしは宗君を求めてしまうのです。

 仕方ないな、と困った笑顔が見たいのです。


 身を寄せる菅野さんも、わたしの呟きに気付いたのか、それに合わせて握る手に力が入りました。


 開けた瞳がぶつかり合います。


「宗、くん……」


 菅野さんの口が微かに動き、その名前を呼びます。


 「「宗くん……」」


 その名前は、口にするだけで勇気が湧くようでした。





「「宗くんっ!!!」」



 二人の声が重なりました。










──バッガァンッ──






「ぅぎゃっ……!?」



 わたし達を追って来た一人が吹き飛びました。


 ドアと一緒に。



 物凄い勢いで飛んだドアは、かなり痛そうな角度で男の人に当たると、そのまま2メートル程吹き飛びました。

 巻き込まれた男の人は起き上がらず、ピクリともしません。


 一様に呆然としている中、廃工場に足を踏み入れる人物が一人。


「……悪い二人共。遅くなった」


 息を整えながらわたし達に駆け寄り、安心したように口元を緩めるのは、一人の男の子。


 その男の子を見ただけで、わたしは安堵して、視界はあっという間にぼやけてしまって。隣の菅野さんも同じみたいで。


「うぅっ、宗君っ……ふえぇっ」


「し、宗君っ、怖かったよぉ……ひっく……」


 わたし達二人は、しゃがんで目線を合わせてくれる宗君に抱き着くと、お構い無しに泣いてしまったのです。


 抱き着くわたし達の頭を、優しく撫でてくれる宗君。大きくて温かい手は大きな安心をわたしにくれます。


「頑張ったな二人共。もう大丈夫だからな」


 宗君はそう言って立ち上がると、わたし達を庇う様に男の人達に向き合います。


 あ……。


 宗君の温もりが離れてしまい、不安になってしまったのは内緒です。


「だ、誰だてめぇっ!?」


「邪魔する気か!?」


「俺達を誰だと思っていやがる!」


 突然の乱入者に驚きつつも気を取り直したのか、宗君を囲み出す4人。標的を宗君に変えたようです。


「……さて」


 取り囲まれた宗君でしたが、慌てる様子は微塵も無く、何気無く気負い無く呟きます。


 わたし達に向けている背中はとても大きくて、頼もしくて。


「へ……?」


「っ!?」


「ひっ!?」


「うぐっ……」


「覚悟は、済んでるよな?」


 宗君の笑みを見た瞬間、男の人達の表情は一斉に固まったのでした。















ザ・テンプレ( ゜д゜)

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