第119話 教室の作戦会議
長らくお待たせしました。
よろしくお願いいたします。
「……さ、斉藤さん?」
その声にハッとして、隣の宗君へ顔を向けます。
も、もしかして、コレ見られた……?
わたしは咄嗟に紙切れをスカートのポケットに突っ込み隠します。
「ど、どどうしたのかな、沢良木君っ?」
シドロモドロになりながらも、わたしはなんとか取り繕います。
以前、中庭の作戦会議でも決めた事ですが、この件については宗君には内緒なのです。
宗君は優しいから、きっと助けてくれるから。
「ゃ、やっぱりラ……あっ、いや、その。下駄箱の前で立ち尽くしてたから……」
「う、ううん? なんでも無いよ! ほら、教室行こう!」
「お、おう……」
大分怪しまれていますが、中身までは見られて居なかったようですね。言い張るわたしに宗君が折れてくれました。
危ない危ない。
宗君には心配かけたく無いですからね。
わたしは首を捻る宗君を先導する様に、足早に教室へ向かったのでした。
「おはよう斉藤さん」
「あっ、おはよう菅野さん!」
「お、来たみたいだね」
朝のホームルーム前の少しの時間。今日の菅野さんは少し遅い登校なのかホームルームまでは間もなくです。
わたしは既に登校していた唯ちゃんと教室の隅で菅野さんの登校を待っていました。
話したい内容は、当然手紙の事。
わたしと唯ちゃんは、二人揃って菅野さんを手招きします。
「……?」
首を傾げながらも、カバンを自席に置くとこちらへやって来てくれました。
「どうしたの? 二人揃って?」
「実は……」
わたしは早速、と下駄箱に入っていた紙切れを見せながら菅野さんに伝えるのです。
「ついに、ね……」
「うん」
「そうだな」
三人で顔を突き合わせ、揃って頷きます。
「ねえ、念のためだけど、告白……てことは無いわよね?」
「こ、ここ、告白っ……!?」
菅野さんの言葉に驚きました。
その発想は無かったです!
思わず宗君を見てしまったのは内緒です。
「これで告白なら情緒無さ過ぎだろうね。紙切れ一枚に、命令文て」
「ほんとにね」
確かにその通りですよね。と言うか、だから松井さんの件じゃないかと自ずと察せれた訳ですし? 結果オーライ?
「それならまずは作戦会議よね!」
菅野さんが拳を握りしめ意気込みます。頷く唯ちゃんが続きます。
「そうだな! とりあえず休み時間毎に話し合って見ようか」
「二人とも、ありがとう……」
二人には揃って気にするな、とでも言う様に笑顔で頷かれ、わたしはもう一度ありがとう、と繰り返しました。
「よし、斉藤さんの長年の不安の種、解消と行きましょうか!」
「学校生活を楽しめるように、ね!」
「うんっ」
チャイムが鳴り、席に着きだすクラスメイト達。わたし達も今一度頷き合うと自分の席へ向かいました。
「……」
「ん? 沢良木君?」
ふと、視線を感じて振り向くと隣の宗君が、わたしを見ていました。
パチリと視線が合います。が、直ぐに逸らされてしまいました。
何かあったのでしょうか?
「……いや、なんでも無いよ」
「……そう?」
少し気になりますけど、高橋先生が教室に入って来た事でわたしの意識は教壇へ向かいます。
「……っ」
あれ?
とある違和感に、わたしは自身の手を見下ろします。
それは、ホームルームを始める高橋先生の話を聞きながらも、知らず知らずのうちに膝に置いた手が微かに震えていたのです。
それを自覚すれば、胸に広がるのは暗く重い気持ち。
わたしは今更の様に恐怖を思い出していました。
気丈に振る舞おうとも、怖いものは怖いです。これから起こるであろう事を思えば、わたしの弱い心は挫けそうになってしまうのです。
けど。
机の下で、ぐっと拳を握りしめて、隙有らば首をもたげようとする不安を誤魔化します。
大丈夫。うん。きっと大丈夫。
わたしには頼もしい友達がいるんだから……!
「……よし、作戦会議よ」
一時限目が終わり休み時間。朝と同じ様に教室の隅に集まるわたし達三人。
声を潜めた菅野さんの言葉にわたしと唯ちゃんは頷きます。
「まずは……放課後の呼び出しに応じるか、ていう所だけど?」
「うん、大前提にそれがあるよな」
「え?」
二人の言葉に思わず気の抜けた返事が出てしまいます。
まさか、行かないなんて。その発想はありませんでしたよ……。本日二回目です。
「……まあ、斉藤さんの事だからそんなことだろうと思ったわよ」
「あはは、愛奈ちゃんらしいな! 素直で良い娘だなぁ」
「あ、え? え?」
少し呆れた様な菅野さんの声と視線、笑う唯ちゃんにわたしは戸惑います。
だって呼び出しされたら行かない訳には、ええ?
「正直に行ってやる必要も無い、ってことよ。勝手に呼び出したのはあっちだもの。絶対従う必要なんてないんじゃない?」
「それは……」
確かにそうかもしれませんが。
「でも、余計に拗れるのは目に見えてるよなぁ」
唯ちゃんの言うこともごもっとも。そうですよねえ。
「そうよねー。まあ、ちょっとした反抗心と言うか、ね」
ペロリと舌を出しておどける菅野さんに二人で苦笑いします。
「じゃあ、行くとしてどうする? 愛奈ちゃん一人でか?」
「んー、紙切れには『一人で』とは無いのよね」
「うん、書いて無いね」
わたしは紙切れに視線を落としながら頷きます。
「よし、ならあたしも一緒に行く」
「菅野さん!?」
「なら私もだな!」
「唯ちゃんまで!?」
揃って頷く二人に驚かずにはいきません。
「だ、だって、何があるか分からないし、二人に危ない事とか……!」
「だから尚更じゃない!」
わたしの言葉に被せるように菅野さんは顔をこちらに近付け言います。菅野さんの整った顔が、ずいっと間近まで寄せられ驚きます。
「そうだぞ愛奈ちゃん。友達を何が起きるか分からない危険な場所に送り込んでおいて、自分は安全な場所で傍観なんて。そんなの無しだぞ?」
「斉藤さんが今あたし達を心配してくれたように、あたし達もあなたが心配なのよ。ううん、寧ろ斉藤さんを一人にした方が危なっかしいわよ!」
二人が心配してくれているのは凄く伝わってきて、嬉しいのですが。
「最後の酷くないっ!?」
わたしだって子供じゃありません! ちゃんと出来ますよ!
「まあまあ、それだけ心配ってことでさ」
「うー」
釈然とはしませんが、心配してくれているのは分かるので、引き下がります。
「ふふ、ごめんごめん。じゃあ、そう言う訳で体育館裏には一緒に行くわよ」
「ん、でも良いのかなぁ?」
「大丈夫大丈夫! むしろ指定しなかったそっちが悪いんだからね! 分かった?」
「……うん、お願いします」
屁理屈を捏ねながらも自信満々で指を突き付けてする菅野さんに、わたしは苦笑いしながら頷くのでした。
そこで手を上げるもう一人。
「私もだぞ!」
「あ、高畠さんはストップ」
「え、なんでっ!? この流れで私は仲間外れ!?」
菅野さんの言葉に大きく仰け反るオーバーリアクションを見せる唯ちゃん。最近、何かと唯ちゃんのとる挙動が大げさな気がします。
真面目にしたいのに、正直なところ思わず笑っちゃいそうになるのでやめて欲しいです。
「どうどうー。落ち着いて」
「私は牛馬か!」
ぷぷっ。
危ない。吹き出す所でした。
菅野さんの真面目な表情を見てわたしも気を引き締めます。
「別にのけ者にするつもりは無いわよ。高畠さんには別ポジションをお願いしたいのよ」
「別ポジション?」
首を捻る唯ちゃんに並んで、わたしも首を傾げます。
「ええ。現場からは離れてフォローする係に就いて欲しいのよね。万が一、本当に何かあった時に全員巻き込まれたんじゃどうしようもないわ。外に連絡を取れなくなる、とかね」
「……なるほど。それじゃ有事の際には私が二人を助ける為に待機するわけだ。直ぐに先生を呼べるようにとかかな?」
「そうなるかしら? 最悪の事態は考えたく無いんだけどね……」
「まあ、学生の喧嘩みたいなもんだからな。そこまでになるかどうか」
「慎重なくらいが丁度良いのよ。何事もね」
苦笑いする菅野さん。
その物言いには、何だか実感が篭っているようにも聞こえました。
ちゃんと考えてくれていて、驚くと同時に頼もしくもあります。
でも、まず、そのためには。
「そうならない様に、わたし頑張るよ!」
気合いを入れるわたしに、笑って頷く二人でした。
お読み頂きありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
今週にはもう一話あげたいです。




