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第12話 友達

「急に頭撫でてごめんね?」


「う、ううん。大丈夫、です」


「……ほら、涙拭いて」


泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しだ。

俺はハンカチを取り出すと斉藤さんへ手渡した。


「ありがと、う………?」


ハンカチを受け取った斉藤さんはハンカチに視線を落としたまま固まった。

その不自然な動きを見ていると、斉藤さんの視線がハンカチと俺の間で何回か行き来した。

斉藤さんは恐る恐ると言った様子で俺に問いかけた。


「さ、沢良木君、この、ハンカチなんですが……」


「そのハンカチがどうかした?」


いまいち斉藤さんの反応が理解出来ない。

百均かどこかで買った安物だ。


「あっ、いえ、あの、その……」


「?」


尚も言い淀む斉藤さん。


「実は、この前通学路で転んでしまって……その時傷をキレイにしてもらったんですが……」


「ああ、あの時ね」


何日か前の通学中の出来事だな。

無意識に俺がやらかしちまったヤツ。

俺の言葉に斉藤さんは再び固まった。


ぼんっ

とでも効果音の付きそうな勢いで、斉藤さんの顔が真っ赤になった。

この子よく赤面するな。

うん、可愛い。


「……顔赤いよ?」


「あっ、あああああ、あのっ、あの時はありがとうございましたっ!!」


それと、ぶつかってすいませんっ! と勢い良く頭を下げた。

おおう。

この様子だと、この子もしかして……。


「……俺だって気付いて無かった?」


「は、はぃ……」


なるほど、そう言うことだったのか。

この子の性格的にあの後何もアクションが無いのは不思議だと思ってはいたんだが。


「そ、その、恥ずかし過ぎて、顔とか全然見てなかったんです……」


「その節は申し訳無かった。急にあんなことされたら驚いたよね。と言うか怖いよな」


「い、いえっ、そんなことありませんっ!!」


ブンブンと首を振ると、こちらの顔を見て力強く否定した。

その勢いに俺の方が押されてしまう。


「そ、そうか?」


「はいっ!優しくしてもらって、とても嬉しかったです。……それに」


そこで区切るとふいっと顔を逸らされた。

髪から覗かせる耳まで赤い。


「さ、沢良木君だったと思ったら、その……」


……おおう。

なんなんだこの可愛い子。

こんな反応されたら男は勘違いすること請け合いだ。この先悪い男に騙されるんじゃないかと心配だ。

もしくは騙すのか。魔性の女や。


「あ、改めて、ありがとうございました」


「ああ、どういたしまして」


二人でニコリと微笑み合う。

二人の間を穏やかな時間が流れていた。




ひょいっ。

斉藤さんの弁当箱から卵焼きを一つ摘まみ、口に入れる。

お腹が一杯だと言う斉藤さんにまだ手をつけていない卵焼きを頂くことになった。

見た目はかなり良い。


「どう、ですか……?」


「…んぐ、…ん。うん、この卵焼き凄く美味しいよ」


なんだこれ本当にむちゃくちゃ旨い。


「はぁ……良かったぁ」


安堵したようにほっと息を吐き出す。


「家族以外に食べて貰うの初めてなので、緊張しました」


「冗談抜きで、今まで食べた卵焼きでは一番旨かった。その弁当だって自分で作ってるんでしょ?斉藤さん良い奥さんになるよ。うん」


本当に旨かった。

母親の卵焼きは旨いとは言えなかったからな。


「そ、そんな相手居ないですけど……」


少し恥ずかしそうに否定する斉藤さんだったが。


「でも、ありがとうございます」


ふにゃっとした、嬉しそうな微笑み湛えた。


「……」


何も言えず、思わずその笑顔に魅入ってしまった。

天使だ。癒される。

改めてこの子の可愛さを再確認した。

せっかくの可愛い顔が長い前髪で隠れていて勿体無いと思う。


「さ、沢良木君?どうかしました?」


「あ、…いや。うん、なんでもないよ」


「?」


可愛くて見とれてたなんて言える訳がない。

俺にだって恥ずかしい事はあるんだ。

でも、そのうち天使だとかなんとかポロっと言ってしまいそうで怖い。

でも、そう言われた斉藤さんの反応も見てみたい。

……俺、大丈夫だろうか?


「……」


暫しの沈黙の後、俺は切り出した。


「あー、斉藤さん」


「うん?」


「斉藤さんの作った卵焼き凄く美味しかったよ」


「あ、ありがとうございます。でも恥ずかしいので何回も言わないでください……」


「はは、ごめんごめん」


俺はそこで一呼吸置く。


「それでさ、友達ならお弁当のおかずの交換とかってするだろ?」


「それは、するかもしれませんね」


頷く斉藤さんを見て言葉を繋げる。

しかし、この先の言葉は恥ずかしく、斉藤さんの顔を直視しては言えなかった。

俺は少し顔を背けて。


「それでさ、俺は今日だけじゃなくて、また今度も斉藤さんのお弁当食べてみたいな、って」


「……え?」


俺の言葉が徐々に浸透していくかのように表情が変わっていく。


「そ、それは、その、えっと……あわ、わ!」


俺は恐らく人生で初めてかの言葉を彼女へ伝える。


「俺と友達になってくれませんか?」


この高校生活、友人を作る気なんてなかった。

ただの足掛かり。せめて高卒、そんな肩書きが欲しかったから入った様なものだ。

学校で勉学以外に労力を割くなど、無駄でしかないと思っていた。


それが自分で敷いたレールを変えようとしている。


気が弱く、

引っ込み思案で、

寂しがりやで、

だけど心優しく純粋な

金髪の少女の顔を見る。


こんな寄り道なら、良いかもね。


「よろしくお願いします!」


俺は彼女の満面の笑みを目に焼きつけた。



書留めた分をひとまず出しました。

出来るだけ早く更新していきたいと思いますので、引き続き読んでいただければと思います。

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