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第115話 モールへ行こう ④

 


 休憩をしようと言うことで、以前理沙と二人で入った激安パスタのファミレスへ向かうことにした。

 つうか俺が疲れた。精神的に。言わずもがな料理本のせいだよ。いや、買った事は後悔してないけどさ。もうちょいチョイスがね……まあ良いや。


「ここだよ。前に理沙と来たんだけど、メニューが安くて味も良かったんだよ」


「へぇー、あたし初めて入るなー。都市部には店舗見たこと無いなあ。こっちだけなのかな?」


「わたしも初めてだよ! ……と言うか、こう言うお店が初めて、かも……」


「え、そうなの!?」


 少し恥ずかしそうな斉藤さんの発言に、真澄が驚きの声を上げる。


 そうだったのか。

 まあ、かく言う俺も両親が健在で両親と仲の良かった頃を最後に、先日まで来ていなかったのだけれど。

 最早殆ど覚えていないな。


 斉藤さんの場合は家が自営業をしている関係なのかもな。


「う、うん。わたしの家定食屋なんだけど、そのせいか外食ってあんまりしたこと無くてね」


「斉藤さんの家定食屋なの!? それも驚きだけど!」


「あれ? 話して無かったっけ?」


「ええ、商店街ってことは前に聞いたけど、何の商売かまではね」


「あはは、そっか。ごめんね?」


「ほら、入り口で止まってないで入ろうぜ? 斉藤さんはファミレスデビューって訳だ」


「うん! えへへー、ちょっと緊張するよー」


「緊張って、ぷぷっ」


「わ、笑わないでよぉ!」


「ほーら行くぞー」


 俺は一つ笑みを溢すと、入り口の前で喋る二人を促し入店した。




 四人掛けのテーブルに案内された俺達。俺は特に何も考えず席についた。

 ところが二人はテーブルの前で立ちお互いに顔を突き合わせていた。

 こそこそと何か話しているのが聞こえてくる。会話の内容までは聞き取れ無かったが。


「どうした? 座らないのか?」


 不思議に思い声をかけて、俺は向かいの席を指差した。


「な、なんでも無いよ宗君」


「あ、う、うん。座るよー?」


 何故か浮かない顔でため息を吐き、並んで席に着く二人に俺は首を捻った。


「なんかしたか?」


「いや、気にしないで!」


「あはは……」


「そっか?」


 まあ、二人がそう言うならそうなんだろう。

 俺は気を取り直しメニューを開いた。


「ほら、結構安いだろ? 値段も安いからか前に来たときは学生も多かったんだよ」


「ホントだ。安いねー」


「わ、パスタが300円で食べれるの! すごーい!」


「はははっ、俺も前に来たとき思ったよ。それにそのパスタを実際に頼んだしな。結構旨かったぞ?」


「へえ! う、でも今食べたら夕飯入らないかも……」


 お腹を押さえ、うーと唸る斉藤さんに俺は笑みを溢す。


「そうだな。まあ、ドリンクバーとフライドポテトとかで良いんじゃないか? 皆夕飯あるだろ?」


「確かにそうよね。それ良いかも!」


「わたしも良いよ!」


「オッケー。決まりだな」


 俺は店員を呼ぶと注文を告げた。大きめのフライドポテトを頼んだので量も問題無いだろう。

 ドリンクバーは自分でカウンターにあるグラスに注ぐようで、三人で取りに行った。ホットも充実しているようで俺はその中のコーヒーを、斉藤さんは大好きなミルクティーをホットで、真澄は悩んでいたようだが紅茶をホットで選んだようだった。


 席に戻り、ポテトが来るまでお喋りをして時間を潰す。


「この安さなら、わたしのお小遣いでも大丈夫だよ!」


 メニューの安さ、と言う話題の続きだ。斉藤さんがそんなことを言った。ちなみに今頼んだメニューは一人頭でいえば300円で済む。


 それに、斉藤さんのお小遣い。

 ちょっと気になる。

 俊夫さんがやってるんだろ? いや、あの家の実権を握ってるのはアイシャさんか。

 聞いても良いだろうか?


「斉藤さんはアイシャさんに、月にいくらお小遣い貰えるの?」


「高校生なってからは2000円に増えたよー。えへへ」


「に、2000円か……」


 思ってたより少ないな。

 いや、と言うか俺には高校生の相場って分からないわ。2000円って多いのか、少ないのか? 俺は自分で全部管理しなくちゃいけないから、小遣い=全財産とも言える。いや、そんなことしたら破産するけど。

 まあ、とにかくこの歳には親居なかったしな。


「中学生の時は?」


 真澄が俺の質問を引き継ぎ問いかけた。


「500円だったよー」


 なんとも可愛らしいお小遣いだった。ワンコインお小遣いだ。


「まあ、何も買う物無かったんだけどねー」


 そう言って笑う斉藤さんだった。

 しかし、買う物が無いって言うのも寂しいな。いつも家の手伝いをしていると言う斉藤さんだか、こう言う風に友人と出かける事もあまり無かったのだろう。

 最初に斉藤さんからカミングアウトされた、自分には友達が居ない、と言う発言からもそう思う。


「そっか。それじゃ真澄は?」


「あたしはその都度、かなー。そもそも今まで自分で管理してた部分があるから、厳密にはお小遣いじゃないかも知れないかな。まあ、あたしはのんびり買い物する暇もなかったんだけどね」


 自嘲するように笑う真澄だったが、確かにアイドルをする前は分からないが、今までの真澄の忙しさではそこまでの余裕は無かったのかも知れない。

 そこでようやくアイドルを引退して、こう言った機会が出来た訳か。不謹慎たが、引退して良かった点もあったのかもな。


 斉藤さんと真澄は共に、今日の様に遊ぶ機会は今まであまり無かったと言う訳か。


 二人共とても楽しんでくれていると思う。楽しそうにしている二人を見ると俺も楽しくなれる。だから、こんな機会を再び作りたい、そう思う。


「なるほどな」


「宗君は?」


「俺?」


「そうそう! ほら女の子が二人教えたんだから、教えてくれないと不公平だよ?」


 イタズラっぽい笑顔を浮かべる真澄が、ほらほらーと促す。


「そう言われてもなぁ。俺も真澄みたいに自分で管理と言うか。まあ、自由に使える額って言うのは月に1万も無いな。バイトも限度があるから、使い切ったらその月はカツカツだし。それも出来るだけ急な出費に備えないといけないからな。急に病院に行かなきゃならない時とか、アパートの更新費用とか意外と馬鹿にならないからさ」


「うわー、随分と現実的な話だねー」


「しょうがないだろ、一人暮らしなんだから。頼れる人と言えば理沙くらいだけど、迷惑もかけたく無いからな。生きて行くには俺自身がしっかりしないと」


「へ?」


「え?」


「ん?」


 俺の言葉に二人がぽかんとした表情で疑問符を浮かべた。俺はその様子に疑問を浮かべる。


 なんか変な事言ったか?


「さ、沢良木君って、一人暮らしなの?」


「ああ、そうだよ?」


 恐る恐ると言った様子の斉藤さんの質問に答える。

 言って無かったか?


「そ、その、宗君のご両親は?」


「4年前に亡くなってる」


「「……」」


 真澄の質問に答えると二人の表情が固まった。

 てことは、やっぱり……。


「言って無かったっけ?」


「「聞いて無いよっ!?」」


 おおう。

 すまん。


 息ピッタリに俺に詰め寄る二人につい気圧される。

 この二人普段から案外息合ってるよなあ。


「宗君全然自分の事教えてくれないんだもの!」


「そうだよ! 友達の事なんだからもっと知りたいのに!」


「ご、ごめん! 隠してるつもりは無かったんだけどさ。……その、あんまり明るい話でも無いだろ? だから無意識に話題を避けていたのかもしれない。不快に感じたのなら申し訳無かった」


 俺は捲し立てる二人に頭を下げた。確かに友達が隠し事のように黙っていることがあれば不快に思うかも知れない。

 俺自身はもう過去の事と割り切れたつもりでいても、心の奥では無意識に話題に上がる事を拒否していたのかも知れないな。


「あっ……その……わたし、は……」


「宗君……」


 俺が下げていた頭を上げると、二人は実に決まりの悪そうな表情をしていた。

 それはなんだか罪悪感を覚えてもいるようで。


「「ごめんなさいっ」」


 今度は逆に頭を下げられた。

 俺が驚く番だった。


「沢良木君は悪くないのに、本当に無神経な事を言ってごめんなさい」


「あたしも自分の事ばかりで、宗君の気持ち考えずに責める様なこと、ホントごめん」


 自分の発言を悔いているのか、そう謝る二人。

 俺は慌てて二人を宥める。


「いや、大丈夫だから! 全然気にしてないし、もう昔の事だからさ! 無意識に俺もこの話題から逃げてたのかも知れないんだ。二人を責める気持ちなんてこれっぽっちも無いから。謝られると逆に困るわ!」


「だけど……」


「ごめん……」


 二人はまだ気まずそうにしているが、俺が気にしていないのは本当だ。


「はいっ、この話は終わり! 二人とも気にしないで、な?」


「「うん……」」


 俺がそう言うも気まずげな様子の変わらない二人に俺は頭を掻いた。


 どうしたもんかね……。


「お待たせしましたー」


 そこへタイミング良くやって来たプライドポテト。

 俺はここぞとばかりに使わせてもらう。


 いつまでも辛気臭い空気なんて真っ平ごめんだ。この二人には笑顔が似合うんだから。


「ほら、ポテトも来たぞ! さ、食べようぜ? む……よし、食べないなら俺が食べさせてやるぞ?」


「え? そこは、俺が全部食べるとかじゃないの?」


 丁寧にツッコミをくれる真澄を無視して俺はフォークでポテトを刺した。


「ほら、斉藤さん。あーん」


 俺はフォークに刺したポテトを斉藤さんの口元へ差し出す。

 ポカンとしていた斉藤さんだったが、差し出されているポテトに気付くと跳び跳ねた。


「ふぇっ!? あっ、あのっ、えっと……あ……あーん」


 斉藤さんはあたふたとしながらも、小さな口でポテトを食べてくれた。

 可愛らしい姿に思わずほころぶ。


「美味しい?」


「ふ、ふぇい……ぉぃしぃ、ですぅ」


 真っ赤な顔で頷く斉藤さん。次第に小さくなって俯いてしまった。

 ちょっと可哀想なくらい赤くなっているが、可愛いのが悪い。


「ず、ずるいよー! あたしもあたしもー! 宗君! あーん!」


 ポテトを食べさせられている斉藤さんを横で見ていた真澄が、自分にも寄越せとせがんで来た。俺は真澄のおねだりに一つ笑みを溢して、ポテトを真澄に差し出す。


「わかったから。ほら、あーん」


「あむっ。んーおいひー! 宗君にあーんしてもらうと格別だねー!」


「ふふ、そりゃ良かった」


「ふふふー」


「斉藤さん、おかわりは?」


「ぁ……ひゃいっ、そのっ、いっ……………………いただきます」


 真っ赤な顔のまま口を開く斉藤さんに再びポテトを食べさせる。

 その次は物欲しそうな顔をしている真澄にもポテトを食べさせる。


 俺は美少女二人に餌付けするのをしばらく楽しんだ。


 しかし、美少女に餌付けって何とも如何わしい響きだよなぁ。


 癖になりそう!


 ここでも注目を集めていたことに、俺達は気付いていなかった。


 知るか。








 斉藤さんが無くなったドリンクを取りに席を立った。


 恥ずかしさを紛らわしたかったのか、ミルクティーの減るペースが早かった。可愛い。


 席には俺と真澄、二人きりになった。そこで真澄が口を開く。


「宗君と二人っきりになるのって凄く久しぶりな気がするなー」


 そう言って相好を崩す真澄。

 言われて気付いたが、確かにそうかもしれない。


「夏休みはあんなに一緒だったのにな?」


「ホントホントー」


 笑いながら紅茶に口をつける真澄。合わせるように俺もコーヒーに口をつける。


「……ねえ、宗君。聞いても良いかな?」


「ん?」


 一瞬、逡巡するような素振りを見せた真澄だったが、直ぐに俺を見据えた。


「転校してきた時から思っていたんだけどさ……。その、宗君ってあたしより年上なのに、なんで同級生なのかな、って……。あっ、えっと、言いたくなければ言わ無くても、そのっ」


「あー」


 真澄の言葉に俺は唸った。

 不味くて、と言う訳では無く、何と言ったら良いのか、と言う方向で。それに、真澄の転校以来バタバタとしていて真澄に対する説明も失念していた。

 聞かれなかったから、と言うのは言い訳だろう。


「ご、ごめんね、変な事聞いちゃって!」


 先程の事があるからか、俺のプライベートに関する質問に躊躇があるのかもしれない。

 俺はそんな様子の真澄に笑いかけた。


「いや、大丈夫だぞ。こっちこそごめんな、ろくに説明もしないで」 


「あ……」


 俺の言葉に真澄の顔に笑顔が浮かんだ。


「まあ、特に大した理由では無いんだけどな……。実はさ俺、家の都合で一度高校を中退してるんだよ。御崎校では無かったんだけど、まあ、親が死んだのが一番のきっかけかな。本当は高校なんて通うつもりは無かったんだけどさ……。まあ、通える環境にはなったから卒業だけはしておくかな、って」


「……さっきから新情報ばかりでパンクしそうなんだけど。どこが全然大した理由じゃない、なの?」


 真澄のジト目が俺に刺さる。俺は苦笑いを返すしかない。


「でも、今までよく話題に上げなかったな? 気になってただろ?」


「それはそうだけどさ、宗君が言わないなら意図して言わないのかなって。だから無理には聞かなかったんだよ?」


「そっか……確かに口にはしたこと無かったな。俺そんなに友達が居るわけでは無いけどさ、同級生が年上だなんて浮くだろ? ちょっとみっともないと思ってしまっていたかもな。自分から積極的に話題に上げるのもアレだから意識しないようにしていたと思う。……ありがとうな、真澄」


 真澄の気遣いに俺は素直に感謝した。


「ぅぐ……。そ、それじゃあ、この事を知っているのは他に学校には居ないの?」


「んーそうだな。自分から話したことはないからそうだろうな。知ってるとしても先生くらいだな」


「そっか! それならあたしと宗君だけの秘密だね! うふふっ」


 そう言って嬉しそうに笑う真澄だった。


「でも、本当にビックリしたんだから! 転校先に宗君がいるんだもん! 夢でも見てるのかと思ったんだよ?」


「ははっ、俺だって驚いたさ。半月もしないで再開するとはな」


「……丁度宗君の事考えてたし、本当にビックリしたんだからね」


 不意に顔を逸らし、ぼそぼそと呟く真澄に俺は首を傾げる。


「ん?」


「なんでもないっ!」


「そ、そうか?」


「そうなのー!」


 訳がわからなかったが、少しむきになった真澄に思わず笑ってしまう。


 そこに斉藤さんが戻ってきた。

 カップをもってニコニコとしている。嬉しい事でもあったのだろうか。


「茶葉がいっぱいあって迷っちゃったよー。あれ、なんの話してたのー?」


「秘密!」


 突然斉藤さんの質問を突っぱねる真澄に驚いたが、その顔にイタズラっぽい笑顔が浮かんでいるので、おふざけだと分かった。

 斉藤さんも分かっているのか、その顔に笑みが浮かんでいた。


「え、なんで! さ、沢良木くーん!」


「秘密らしい」


「ひどい!」


「ごめんごめん! ほらポテトあげるから。あーん!」


「ええっ!? か、菅野さん? あ、あーん……」


「うふふっ、斉藤さん可愛いー!」


「可愛い可愛い」


「えっ、ふぇっ!? え、何急に!? 沢良木君までぇ!?」


「宗君! あたしは!?」


「可愛い可愛い」


「やったー!」


「……あれっ、誤魔化された!?」


「バレたか!」


「バレたな」


「ひどい!」


 騒がしくも楽しい時間はあっという間に過ぎていった。













「ん、先生……? てことは高橋先生も知ってるって事だよね……。先生は22歳で宗君と歳が近い……はっ!? あの視線はそう言うことかっ!?」




「……へくちっ! んー、誰か噂してるのかなー?」


「桜子ちゃんどうしたのぉ? 風邪なら薬あるわよぉ?」


「……なんであなたがここに居るの?」


「それはぁ、可愛い桜子ちゃんを見る為よぉ!」


「仕事しろ養護教諭!」



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