第114話 モールへ行こう ③
続いて訪れたのは本屋だった。
本屋に来るのは久しぶりだ。多分高校の参考書を買いに行ったのが最後だと思う。
たまにハードカバーを読んだりするが、本は買うとどうしても高くなるし嵩張ってしまうので、本を読む場合は基本的に図書館で読むか借りる事になる。
雑誌の類いは自分では殆ど読まない。
「料理本見たいなー」
「あ、わたしもっ!」
二人の行き先は決まった様だ。いつも二人には昼の食生活を豊かにして頂いているので、俺も二人について行くことにした。
早速、料理関係の書籍が並ぶエリアへと足を運ぶ。
真澄は早々に見たい物が見つかったのか、手に取り眺め始めた。
俺は本の陳列棚をニコニコと楽しそうに眺める斉藤さんに話しかけた。
「料理本なんてあまり見たこと無かったけど、いっぱい種類あるんだな」
「そうだねー。新しいのもどんどん出てくるから飽きないし、読めば色々と料理の勉強になって楽しいんだよ。あ、これと……これも今月発売だね。前回の本は結構参考になったんだー!」
嬉しそうに一つの料理本を手に取りながら、俺に教えてくれる斉藤さん。ページを捲り楽しそうに本を見る姿に、本当に料理が好きなんだな、と改めて感じた。
好きな事があってそれを目一杯楽しんでいる姿はとても魅力的だと思う。自分にそう思える物が無いから余計にそう感じるのかも知れない。
要は羨ましいのだろう。俺には一生懸命になれるモノが無いから。
「菅野さんは何見てたの?」
「あたしはコレだよ。お弁当の本! 最近はお弁当が結構流行ってるからか本のレパートリーが多いよねー」
「あ、確かにそうかも! 最近は弁当の本買ってなかったなー」
斉藤さんは真澄の言葉に賛同すると、自身も弁当関連の本を探し始めた。
「ふふふっ、宗君待っててね、コレで更にお弁当の腕を上げちゃうよ!」
真澄はニコニコとしながら肘で俺の脇腹をつついてきた。
「今でも十分美味しいけどな。俺には十分過ぎるよ」
「ホント? だったら嬉しいなー! でももっと頑張るよ!」
気合いを入れる真澄が微笑ましく、笑ってしまう。
「ははは、楽しみにしてるよ」
「わ、わたしのお弁当はどうかな沢良木君?」
広げた本で顔を隠しその上から目だけを覗かせながら、斉藤さんも聞いてきた。その仕草グッドです。男なら皆イチコロさ。
「もちろん美味しいに決まってるよ。一学期からずっとご馳走になってるじゃない? 家で自分で料理してもさ、物足りなくて斉藤さんの料理が恋しくなるよ」
「わ、ぁわっ、えっと……ありがとう……」
俯き広げた本で顔が全部隠れてしまったが、伝えた事は本当だ。
ご存知の通り、俺の料理は微妙なので家では落胆する毎日を送っている。俺は絶妙に不器用なのだろうか、と今思った。
「いや、お礼を言うのは俺の方だよ。真澄もだけど、二人共いつも弁当ありがとうな。おかげで良いお昼を過ごせているよ。今ではお昼が凄く楽しみだよ」
真澄の転校当初は辛かったけど、と言う言葉は内心苦笑して飲み込んだ。
「「…………」」
「何かお返しでも出来たら良いんだけど……あ、そうだ」
お返し、と考えて今思い付いたが、ここで本をプレゼントしたらどうだろうか。
財布に余裕が有るわけでは無いが、二人に本をプレゼントするのも良いのではないだろうか。巡りめぐって俺に返って来そうな気もするが、決して自分為じゃないぞ?
結果的にそうなるかも知れないが、プレゼントしたいのは本心だ。二人が楽しそうに料理本を見ている姿をみたら買ってあげたくなった。
うん、良いかも知れない。
「二人に料理本をプレゼントしたいんだけど……って、どした?」
プレゼントの提案をしようとしたら、二人からの返事が無い事に気付いた。二人の顔を見たら揃ってニマニマしてた。嬉しそうと言うか恥ずかしそうというか。
あんまり、人様に見せる表情では無いと思います。可愛いけど。
まあ、喜んでくれるなら是非買おう。
「わたしコレが良い!」
「あたしはコレにする!」
二人は手に持っていた本を抱き締めるとそう言った。
「ははは、分かったよ。是非プレゼントさせてくれ」
「「ありがとう!」」
だから、お礼を言うのは俺だってのになあ。
嬉しそうに笑い合う二人に、俺も笑みが溢れた。
「お預かり致します」
もう見る物は無いと言うことで、会計をするために本をレジに持って来た。
若い女性店員に二人は本を出す。
ニコニコと嬉しそうにしている二人に俺も嬉しくなる。娘とか孫に何でも買ってあげたくなる気持ちが分かる気がする。そんな歳じゃねぇけど。なら、これは女性に貢ぐ気持ちだろうか……。
……考えるのやめよ。
ちらっ、ちらっ。
そこでふと気付くとレジの店員から視線が度々寄越されている事に気付いた。
俺の顔に何かついてる?
この店員と面識も無いし、心当たりも無くよく分からない。何か気になる事でもあるのだろうか。
ちらっ、ちらっ。
「……?」
尚も視線を向けられる。そこで更に一つ気付いた。
その視線は俺の両隣で嬉しそうにニコニコしている少女達にも向かっている事に。
あ、俺のポケットに手入れてイタズラするな真澄。何も入ってねえよ。
……斉藤さん、袖離してくれないと財布出せない。可愛いから困った。
「お、お会計は2488円になります!」
「ああ、はい」
店員の態度に首を捻りつつも、まとわりつく二人をあしらい、俺は財布からお金を出して会計を済ませた。
「ありがとうございましたー!」
生暖かい視線と笑みを店員から頂戴した俺らは、店を後にした。
何故だ……。
店を出て歩きながら俺は二人に問いかけた。
「結局どんな料理本を買ったんだ?」
買う前に確認しない俺もあれだが、気になったので聞いてみた。店では二人共胸に抱いていたので見ることが出来なかったのだ。
まあ、見ても違いが分からないかも知れないが。
俺の問いかけに一瞬きょとんとした二人だったが、なんだか恥ずかしそうにしながらも袋から出して見せてくれた。
斉藤さんは大分挙動不審になりながら渋っていたようだけど、見ても良かったのだろうか。まあ、出してくれたから良いんだろうけど。
しかし、二人共顔赤いな。
どうした?
「これだよー。えへへー」
「こ、これです……ぁぅぅ」
「どれどれ?」
俺は出された本のタイトルを確認した。
真澄が手にする本は『旦那が喜ぶ愛情弁当』。
斉藤さんが手にする本は『夫想いの愛妻弁当レシピ』。
「……」
お、おおう……。
こいつは何とコメントしたらいいのだ。
旦那? 夫? 愛妻? どゆこと?
頭の中でなんて言えば良いのか分からず、とりとめの無い思考がぐるぐると回る。
あ、これパニックだわ。
えーと、その、なんだ、えーと、ええと……。
「……旦那さん居たのか」
「「居ないよっ!!!」」
二人の声が重なった。
うん、知ってた。
「……じゃあ何で?」
「あ…………の、えっと、ほら、こ、これなら男の人にあげる弁当の参考になるかなって!!! そう! 宗君のお弁当の!」
「あっ、うん! そうなのっ! 男の人のお弁当の参考だよ、参考! それにわたしこの辺りとか気に入っちゃって!」
二人は捲し立てる様に言い募る。斉藤さんはなにやらページを捲り見せてくれる。確かに写真は綺麗で見易いし、文字のレイアウトも読みやすいけども。
俺は斉藤さんが指差す部分に注目した。
「何々……忙しい夫の為に、妻が考える愛情たっぷりバランスメニュー……ここ?」
「ふ、ふぇぃっ!?」
「ちょっと何自爆してんのよ斉藤さぁんっ!!」
「あうあうあうー」
変な声を上げる斉藤さんに、その斉藤さんをガクガク揺さぶる真澄と言うカオスな現場になってしまった。
「……っ!」
しかし、俺はそこでようやく気付く。
なるほど。
「そう言う事だったか……」
あの店員の視線の理由は!
確かにおかしいよな。制服を着ている見るからに学生である女の子達が、愛妻だの旦那だのとタイトルを冠している本を買っているんだもの。ましてやそれを侍らせているのは、この俺!
一体どんな状況だよ……。
二人の美少女女子高生若妻を侍らす男。一人は元人気アイドルの美少女で一人は天然金髪美少女。そんな二人に自分の弁当の料理本を買い与えている。
本当にどんな状況だよっ!? 俺がひたすら下衆じゃねぇか!!! 全部間違いだよ店員さん!!!
未だにじゃれ合う二人を横目に、俺はため息を吐き一人納得していたのだった。
あの本屋もう行けねぇよ。
二股クソ野郎沢良木君( ´∀`)
ご覧頂きありがとうございました。
キリ良く切っていたら長くなってきました……。




