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第113話 モールへ行こう ②



「なんか混んでるな」


「ホントだ。いつもはもうちょっと空いてるよね」


「そうなんだ?」


「まあ、立って乗るしかないけど、しゃあない。行こうか」


「「はーい」」


 二人のポニテ美少女の返事を聞きながら先導する。


 ……何コレ凄く可愛い。


 なんだかお兄ちゃんになった気分である。ついついデレそうになる。なんでも買ってあげたくなる。金無いけど。気を付けねば。


 モールの併設されている駅へ向かう為、俺達三人は電車に乗り込んだ。

 毎日通学で使っているが、いつもの様相とは違い車内は大分混雑していた。程無くしてドアの前にスペースを見つけたのでそこへ陣取る。


 一駅だけの短い列車の旅の始まりだ。10分もかからないから本当に短い旅だけど。


 結局、電車の出発まで人の動きは止まらず、結構な乗客の数となったようだった。


 俺は二人を窓側に移動させた。俺は乗客側に自身の背を向ける形にして二人と向かい合い、二人を乗客の波からガードする配置だ。

 真澄からボディーガード等と言われていたので、それっぽく動いてやろうじゃないか、と言ったところ。まあ、俺にとっては二人は守りたくなる対象なので、何も無くともこうしていただろうけどさ。


 何と言ってもこの二人、とにかく視線を集めるのだ。さもありなん。

 学校からここまで来るのにも、大分視線が集中していた。そりゃ、こんな美少女が揃って歩いていたら俺だって見てしまう。

 ご想像通り、野郎の視線は俺に行き着き険しくなっていたけどな! 羨ましいだろ! ふはは! 両手に花とは正にこの事だね!


「宗君、ありがとー」


「えへへ」


 俺の動きに気付いたのか真澄がお礼を言ってきた。斉藤さんも真澄に続き笑顔を見せてくれた。

 それだけで報われるってもんですね。俺も笑みを返す。


「俺は二人のボディーガードだからな。任せろ」


「「……はぅ」」


 二人は揃って俯いてしまった。ポニテにしたことでよく見える様になった耳が赤い。

 さすがに痛い発言だったろうか。自分の発言が頭の中でリピートされ、ちょっと恥ずかしくなってきた。


「ごほん……まあ、10分もかからないから直ぐに降りれるけどな」


 俺は気恥ずかしさを誤魔化す様に、いまいち脈絡の無い言葉を口にしていた。

 だからなんだ、と自分に言いたい。


「お、動いたな。気を付けてな」


「「うんっ」」


 追及せず頷き返してくれた二人に一安心の俺だった。






「あー、この先少しきついカーブあるんだよな」


「うん。そうだねー」


 電車が出発して間も無く。俺は先にあるカーブを思い出して口にした。

 電車通学組は毎日乗ってる訳で、道のりについても詳しい。この先に少しきつめのカーブが来ることも当然分かる。

 つり革を持ちながら身体が少し持っていかれるくらいのカーブだ。通学で使っていると、気を抜いていた乗客が慌てて近場のポールに掴まる光景をよく目にするポイントでもある。


「掴まる所あるか?」


 俺は二人に問いかけるが、今居るのがドアの目の前で両隣には他の乗客が乗っていると言うこともあり、間近にはそれらしき物が無かった。


 ちなみに斉藤さん。安定のちみっ子ポテンシャルを遺憾なく発揮してこの位置のつり革は使えなかった。届くには届くのだが爪先立ちになり、ぷるぷるしてた。

 斉藤さん150無いらしいからな。つり革に一生懸命手を伸ばす姿に思わず抱っこしてあげたくなった。ぐう可愛い。


 真澄は届くみたいだけど、ちょっとばかし凶悪だった。何が? 何がだよ。今は斉藤さんと並んで手は下ろしてる。別に残念じゃねえよ。ええ。本当に。


「え、え? どこ掴めば……」


「……た、確かに」


 俺が呑気に癒し小動物系斉藤さんを思い出していると、斉藤さんがオロオロし始めていた。真澄も斉藤さんの背丈的な事実に狼狽え始める。


 しかし、無情にもカーブはやって来る。


「きゃっ」


「わっ」


「少し我慢しろよ?」


 仕方ない。俺は一つ断りを入れると、つり革を掴む手とは逆の腕で、カーブでよろめく二人の小さな身体を胸に抱き寄せ庇った。


「「あっ……」」


 小柄な二人に比べ、俺は立端があるので二人を抱き締めるくらい訳無い。二人の頭が揃ってすっぽりと胸に収まった。

 女の子の柔らかい感触から努めて意識を外し、二人を支える。


 隣の見知らぬ男性等に二人を触れさせるよりよっぽどマシだろう。俺的に。なんかチラチラとウチの子見てるんだもの。ほら、今も見た。あ、なんか視線逸らされた?


「急にごめんな。大丈夫か?」


 カーブの横Gから解放されると同時に、二人も解放する。


「……おい?」


 が、一向に返事をしない二人に再び声をかけた。それに気になるのは返事が無い事に加え。


「……これはしょうがないんだよ、うん」


「……そ、そうだよね! 揺れる電車が悪いんだよね!」


「そうよ、そうよ」


「うん、うん」


 顔を突き合わせコソコソと何やら頷き合っている事と。


「……いつまでくっついてるんだ?」


 カーブは疾うに過ぎているにも関わらず、俺の身体から離れようとしない二人だった。

 二人揃って俺の胸へぴったりとくっついていた。

 もうね、最初に抱き寄せた時もそうだったけど、女の子の身体って柔らかいのなんのって。

 溜まってんかな俺。


「宗君!」


「な、何だ?」


「これはしょうがないんだよ!」


「うん、しょうがないと思う!」


「そ、そうねー……」


 俺の胸に抱き付き、上目遣いを下さりやがるポニテ美少女二人。

 何故か強気の二人に俺は頷く事しか選択出来なかった。


 しかし、まあ……。




「「えへへー」」




 コレなんて楽園?





 ちなみに。


 周りで事の一部始終に気付いていた男達が、怨嗟の眼差しを向けていた事には、俺を含め二人も全く気付いて居なかった。


 知るか。







 ちょっとした騒動はあったが無事ショッピングモールに到着した。


 毎日の様にバイト通勤のために駅は来ているが、モール側に行くとすれば食料品を取り扱っているスーパーくらいなもんだ。


「さぁ、行くわよー!」


「どこから行くの?」


「とにかく全部回るわよ!」


「ぜ、全部……わ、分かったよ! 頑張る!」


 張り切る真澄に翻弄されつつも拳を握る斉藤さん。

 全部って言っても時間的にも難しいだろうに、とは楽しそうに笑う二人には言えない。


「宗君も気合い入れて行くよー!」


「おう、気合い入れてついて行くぞ」


「気合いの入れる所違ーう! ほら行くよ!」


 どないせーちゅうねん。俺は苦笑を一つ漏らすと二人の後をついて行った。

 

 早速と目につく雑貨屋へと突入する女子二人。俺は黙ってついて行く。


 店内を見回し取り扱っている商品を見ると、生活雑貨を主に取り揃えているようだった。

 リビング、キッチン、バスルームなど、家の各スペースにちなんだ商品が分けて陳列されていた。


「あ、これ可愛いー」


「ホントだー。菅野さんはこう言うの好きなの?」


「うん、気に入ったのがあるとつい買っちゃうかな。斉藤さんは結構買ったりするの?」


「自分の部屋広くないし置ける物も多くないから、あんまり買って無いの。どうしても欲しいのだけかな?」


 リビングコーナーで早速楽しそうに語らう二人。ぼんやりと眺めていると、早くも次に進んでいた。


 各棚の雑貨を冷やかしつつ、目についた物を手に取ってアレコレとお喋りしている二人。

 てっきり何か買うのかと思っていたが、そう言う訳では無いようだ。


 前に一度、真澄と来た時もそうだったと思い出す。あの時は時間が少なかったと言うのもあったが、色々見たけれど何も買わなかった筈だ。

 俺自身の場合は必要があって買いに来る事が基本なので、ウィンドウショッピングと言うものをしない。

 今までは理沙も俺を連れてウィンドウショッピングに興じる様な事は無かったので、ちょっぴり新鮮かもしれない。


 キッチンのコーナーまでやって来た。


 二人共料理をするので、色々と盛り上がっているようだ。かくいう俺もロンリーライフを送っているので自炊ボーイだ。如何にコストをかけず、栄養を損なわない食事が出来るか。それが永遠のテーマである。


 まあ、味は旨く無いので自慢は全く出来ないが。延々と作っている筈なのに上達している気がしないのだ。

 何故だろう。謎だ。例外はハンバーグだけである。あれは分量を暗記してるだけなんだけどね。家にある食材だけで適当に作るのがいけないのだろうか。いや、それでも上手い人のはウマイ筈だ。分からない。


「お、カッコいい……」


 俺はキッチンコーナーの一角で足を止めた。

 俺の目を引くのはフライ返しやお玉、泡立て器、トングなどの調理器具、それとカトラリーが陳列されているコーナー。


 そこに、同じシリーズだろうか、チタン材で統一された食器が並んでいた。海外製品の様で日本とは違う造形の美しさとチタン独特の色合いに惹かれるモノがある。販売品は鈍色で目立たない色合いだが、見本品は熱処理により青や赤、黄色に変わるグラデーション部分が特に目を引く。自分で使ううちにこんな感じになるってか。車やバイクのチタンマフラーを彷彿させる色合いにテンションが少し上がった。チタンさんマジカッコいい。


 男の子ってこう言うの好きだよね! え、そうでもない? あ、はい。そうですか。


 ちなみに理沙は好きじゃないみたい。カッコいいのに。


「ちょっと欲しくなってきた……って高っ!?」


 手に取ったフライ返しのあまりの高額さに、思わず声に出してしまった。恥ずかしいわ。


 しっかし、本当に驚いた。同じフライ返しでも、我が家のフライ返しが150本買えちまうぜ。最早笑えるわ。チタンさんマジぱねぇっすわ。

 ちなみにウチのフライ返しちゃんを含む食器ちゃん達は皆大好き100円ショップ出身よ! やったね安いよ!


「ぷっ、ぷぷぷ……」


「ふふっ、沢良木君ってば……」


「おぅ?」


 笑い声に振り向くと先に行ってたと思っていた二人が、フライ返しを手に驚き固まる俺を見て笑っていた。

 見られていた事に気付き恥ずかしくなってしまう。


「い、いやー良い品物は良い値段するねーうん、ははは」


 俺はそそくさと高級フライ返しを棚に戻した。


「ふふっ、普段は見れない宗君の姿を見れて嬉しいなー」


「沢良木君可愛いー。何見てたの?」


「あ、確かに可愛いー」


「あ、いや、食器を見ていたんだけど、値段にビックリしてさ……」


 二人に揃って笑われ顔が熱い。

 こんな姿見なくて良いってば。

 初めて二人に可愛いって言われた。これって喜べば良いの? ねえ?


「わ、ホントだー。高級品だー」


「色が凄い綺麗だね! なんでこんなにするのかな?」


「海外メーカーってのもあるだろうけど、やっぱり素材だろうね。チタンは加工が難しいからその分値段が高くなりがちだからな」


「へぇ、宗君詳しいね!」


「チタン聞いた事はあるけど……。沢良木君凄いね! 物知りだね!」


 二人に煽てられて調子に乗りそうになる俺。危ない危ない、男を調子に乗らせる天才か。

 恥ずかしくなる内心を隠し俺は誤魔化す。


「ほ、ほら、次に行こうぜ」


「あ、宗君照れてる? かわいー!」


「ふふっ、もっと聞きたかったなー?」


 バレバレかよ。

 ああ、もうっ。ほら行きますよー。


「あ、待ってよー」


「沢良木くーん!」


 俺は二人の言葉に取り合わず先に進んだ。

 年下の二人に俺がからかわれる日が来ようとは。


 女の子って怖いっ!




 ……100円ショップのステンレス食器をバーナーで炙ったら、なんちゃってチタン風にならないかなあ。


 俺の心を掴んでやまないチタン食器達だった。



 









ご覧頂きありがとうございました。

長くなったので分割。

土日には上げます。

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