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第112話 モールへ行こう ①


「ねえ、モールに行ってみない?」


「モール?」


「駅のかい?」


 昼休み、弁当も食べ終え俺の隣で女子がお喋りをしている中で、真澄がそんなことを言っているのが聞こえた。

 俺は特に話に参加していなかったが、隣にいたので耳に入ってきた。


 モールと言えば夏休み、真澄と買い物に行った日を最後にテナント側には行ってなかった。会社の雑品購入も俺以外が行っていたようで、ホームセンター側も無かった。あるとすれば食料品売り場に仕事帰りに寄るくらいか。

 真澄と行く前には、斉藤さんとの一件もある思い出深い場所である。


「そうそう! あたし買い物では何回か行ってるけど、転校してきてから友達と行った事なくてさ! 良かったらどうかなーって」


「わたしも友達と買い物に行った事無いから、行きたいかも。でも……」


「……だよなあ」


「でもさ、だからと言ってずっと籠っているようじゃ息苦しいじゃない? 適度な息抜きは必要よ?」


「それはそうかもしれないが……」


「うん……」


 なにやらお隣に重い空気が漂っているのを感じる。

 何事かと気になりそちらに目線を向けると、真澄とバッチリ目が合った。


「にしし」


 と笑う真澄に俺は首を捻る。

 なんぞ?


「そこで宗君の登場だ!」


「「「はい?」」」


 俺、斉藤さん、高畠さん三人の疑問が重なった。


「ねねっ、宗君も一緒にモール行かない? 遊びにさ!」


「「なるほど!」」


 なんで斉藤さんと高畠さんが納得してんだ。ワケわからん。

 しかし、特に断る理由も無い。


「まあ、良いけど」


「やった! 今日のバイトはお休み?」


「ああ。今日はオフだな」


「おおーラッキー! タイミングばっちしだね! てことでどうかな、二人とも?」


「うん、わたしは良いよ! えへっ、楽しみ!」


「ぐおぉ、私はタイミングが最悪だよ! 今日は次の大会の選考会なんだよぉ! 何で今日なんだよ! 悔しい!!」


 高畠さんがかなりオーバーリアクションで頭を抱えて振り回している。

 そんなに行きたいのか。それにちょっと怖い。なんとかしろ藤島。


「なら今日じゃなくても……」


 高畠さんの反応に苦笑いの斉藤さんがそう言うが。


「いや、せっかく沢良木君とも予定が合ったんだ。行って来たら良いよ! なに、今日が最後では無いんだ。また誘ってくれ」


 打って変わって笑顔で言い切る高畠さんに斉藤さんは折れたようだ。三人は次の機会は是非にと楽しそうに語っていた。


「それじゃ宗君ボディーガードよろしくー!」


「ちょっ、菅野さん!」


「いつからそんなに物騒な世の中になったんだよ」


「この間?」


 コテンと首を傾げる真澄。確かに可愛いが真澄が言うと洒落にならない。勘弁して欲しい。

 夏休みの一件、と言う事なら確かに物騒な世の中だな。まだ懸案事項があったのだろうか。


「だ、大丈夫だよ沢良木君、気にしないで!」


「何言ってんのよ、こんなに可愛い女の子が二人居るのよ? 不埒な輩が寄って来ない訳無いじゃない!」


「なるほど一理あるな」


「えっ、一理あるの!?」


「あるな!」


「唯ちゃんまで!?」


 斉藤さんがツッコミ役を勤める、と言う珍しい光景を笑いながら眺め昼休みは過ぎていった。


 ちなみに藤島は他の連中と喋ってたみたいだぞ! 仲間外れでは無いからな!





そして放課後。


「じゃーん!」


「菅野さん可愛いよ!」


 真澄は、パステルカラーのだて眼鏡にシュシュで上の方に結った後ろ髪、ポニーテールと言う夏休みとは少しだけ違う変装をしていた。夏休みはポニーテールはポニーテールでも下に纏めていたので、大分印象が変わっていた。

 結い方にもアレンジが加えられているのか、編み込みがあったりボリュームが出ている。

 正直、俺はこの手の事には疎い為詳しくは分からない。分からないけれど、可愛いのは分かる。うん。印象が変わると新鮮だね。


 クルリと回りポーズをとっている姿に斉藤さんがパチパチと拍手を送っていた。


「ホントだ菅野さん可愛いー!」


「イメージ変わるけど、めっちゃ可愛いねー!」


 近くに居た二人の女子生徒も真澄のイメチェンに反応していた。内一人は絵里ちゃんと斉藤さんが呼んでいた気がする。もう一人は……ごめん。


 女子が騒ぐ中、俺は久しぶりに見る真澄の眼鏡姿をぼんやりと眺めていた。


「ふふん、どうよ宗君」


 不意に俺の方へ振り向くと、くいっと眼鏡を上げた真澄が俺にドヤ顔を見せてくる。

 どう、と言われても。


「久しぶりだな、その眼鏡。髪型も似合ってる。可愛いぞ」


 それ以外には特に無いので正直に答えた。


「ぁ……ぇへへっ、ありがとー宗君」


 俺の感想を聞いた真澄は、嬉しそうにはにかんだ。

 その様子を見ていた周りの女子が何故かキャーキャー騒いでいたが、何か騒ぐ事があっただろうか。


 真澄は鼻歌を歌いながらご機嫌で、机に置いたコンパクトミラーで眼鏡の位置や髪の毛を再び弄り出した。

 周りの女子はきゃいきゃい良いながら真澄とじゃれていた。



「……んー、んんー。……こほん。……ふーんふーんふふふーん」


 周りの反応に俺が首を捻っているとお隣から何やら咳払いが聞こえてきた。あと変な鼻歌も。


 お隣は見なくとも斉藤さんである。


 どうした斉藤さん。


「……斉藤さん?」


「うん! 何かな沢良木君! なにかな!」


 振り向くと当たり前だが、斉藤さんが居た。当然だ。


 だけど、その頭がさっきまでとは違ってた。


「えーと……」


 斉藤さんはキラキラした目でこっちを見てい……あ、目を逸らされた。


「……」


 まあ、簡単に言えばイメチェンでかわゆくなってた。


 真澄と同じ様に後ろの上部で一つに結って、毛先を指で弄んでいた。店の手伝いの時や始業式で見た時は後ろの下で纏めただけだったので、こちらもまた大分印象が変わっていた。ぷりちーポニテ天使である。初ポニテ万歳。


 チラチラを俺を見ているのは、そう言う事だろうか。金色しっぽもフリフリと俺に訴えかける。


 俺に感想を言えと。


「斉藤さんも髪結んだんだ? その髪型は初めて見るけど、凄く可愛いね」


「えへへ、ホント? ありがとう!」


「……あ、これ」


「え?」


 嬉しそうに笑う斉藤さんの髪留めに目が留まり、俺は手を伸ばしていた。

 指先でシュシュに付いた真鍮製のイルカのオーナメントを軽く弾く。


「うん、似合ってる」


「……はうぅっ」


 それは水族館デートの際、買ったシュシュだった。イルカが好きだと言うし、色合いも斉藤さんに似合うと思い、俺が選んだ物なのだ。白と青のシュシュが斉藤さんの金髪をより際立たせ、可愛さ3割り増しである。始業式で見た以来だったので、久しぶりに見た。ちょっと嬉しい。


 俺の言葉がストレート過ぎたのか斉藤さんは赤面して俯いてしまった。

 でもしょうがないじゃんね。可愛いんだもの。


 外野が再び騒いでいたが気にしない。可愛いんだもの。


「あー、斉藤さんもポニテにしてる!」


「か、菅野さんのが可愛かったから、つい……その……」


「ふふっ、お揃いだねー!」


 斉藤さんの髪を見た真澄がそう言って笑う。


「あ……うん! お揃いだね!」


「んー、でも、ちょっと失礼! ここをね、こうすると、ほら! もっと可愛いよー」


「え? あ、わ! ぁう……」


 真澄はすかさず斉藤さんの背後に立つと、そのヘアスタイルを弄り始めた。斉藤さんも最初は驚いた様子だったが、後は大人しく弄られていた。そこへ絵里さん達も加わり騒がしくなったのは言うまでもない。


 恥ずかしそうだが、ちょっと嬉しそうに斉藤さんの表情はほころんでいた。


 こう言うやり取りも彼女にとってはあまり無かった経験なのかもしれない。同性の友達が増えて、こんな風にじゃれ合うような間柄を築いている事に、俺も嬉しくなった。






―――――






「いやぁ、絵里ちゃん。中々の展開だったねぇ」


「そだねー。沢良木君の恐ろしさをまざまざと見せられたねー」


 宗達の立ち去った教室では、先ほどの出来事に対する話題が二人の女子生徒の間で盛り上がっていた。愛奈とも親しい絵里と、亜希と言う生徒である。


「まあ一言で言えば、沢良木君はマジで女たらし、じゃない?」


「本当にねー。あれは卑怯だよねー。あんな笑顔で、可愛いよなんて言われたら、そりゃあねー。誰でもイチコロでしょー」


「でも、ああいう振る舞いが自然と言うか、違和感を感じないのは、あのルックス故か、人柄なのか。すごいよねぇ。女慣れしてる感じがするよ」


「確かにー。そうだ、他の男子に当てはめて考えてみようよ? ほら、クラスの男子達」


「……」


「……」


「「ないわー」」


 二人の声が見事にシンクロした。被害を被ったのは謂れの無い誹謗中傷を受けたクラスの男子達である。


「あれを見た後じゃねぇ」


「どうしても見劣りするよねー」


「イケメン、背が高い、成績優秀、優しい……」


「なんか、とんでもないクラスメイトだなおいっ」


「対抗するなら、せめてサッカー部キャプテンの石堂先輩くらいでないとねぇ」


「ハードル高過ぎでしょー。あのふんわり系イケメンではね。見た目の割には肉食系だとか? ギャップが良いって話だったよー」


「噂は結構聞くよねぇ。まあ、それでも私的には沢良木君派かなぁ」


「ほー、その心は?」


「身近ってのもあるけど、実際彼優しいし分け隔て無く気遣いしてくれるし。……何よりあの三人のラブコメを間近で見れる」


「それだっ」


「参戦なんて無謀な夢は抱かないけどさ、観戦するなら最高の娯楽だよ」


「娯楽って言い切ったよコイツ。まあ、かく言う私も毎日楽しんでる一派ですけどー。私は愛奈ちゃん応援派」


「ほぅほぅ、絵里ちゃんは愛奈ちゃん派かぁ。私は真澄ちゃん派だなぁ。やっぱりアイドルと言う肩書きにラブコメ臭がたまらない」


「ラブコメ臭て……。まあ、どっちにしろ二人には頑張って欲しいねー。二人共すごく可愛いし」


「さっきもそうだしねぇ。見てるこっちがキュンキュンしちゃう」


「今後に期待だねー」


「そうだねぇ、もっと楽しませてもらわないとねぇ」


 1年2組女子の間では、三人のラブコメを娯楽として捉える風潮が出来つつあった。愛奈応援派、真澄応援派の勢力は半々と見られている。若干愛奈寄りかも知れない、そんな所。

 愛奈と真澄の和解と言う流れの変わる動きに、今後の展開予想図は様々な方向に向かっていたのだった。


 ちなみに、男子からの反応はと言うと、羨望と哀れみという両極端な感情を持たれていた宗だった。


 1年2組は今日も平和だった。

















おなじみ、女たらし沢良木君登場。

今週はもう一本上げますのでよろしくお願いします。


ちなみに亜希ちゃん、もう出ないと思います。

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