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第111話 お昼の作戦会議! 後編

「なるほど。そう言う状況なんだね……。愛奈ちゃんついて無いなぁ」


「あ、あはは……。菅野さんにも言われたよ」


 先日の松井さんとの一件で起きた事について、二人で唯ちゃんへ説明したところ、苦笑いをされちゃいました。

 確かにわたしだってあそこで松井さんに会うとは思っていませんでしたよ。それに最初見たときは誰かも分からなかったのもビックリでしたよ。


「対策かぁ。……やっぱり愛奈ちゃんが一人にならないのが一番じゃないか?」


「ふむん……対症療法でしかないけれど、確かにその通りよねー。複数なら狙われ辛いかしらね」


「だと思うけどね。まあ相手が大人数だとかでは、女子が数人集まった所でどうしようもないけどな」


「見も蓋もないね……」


「自明の理ね。……ま、無いよりはマシでしょ。だから、あたしが学校の外では一緒に居てあげる! 今のところ部活もやってないし、放課後は暇してるからね」


 どん、と自分の大きな胸を叩き菅野さんがそんな事を言い出しました。突然の自信満々な様子にわたしは一瞬きょとんとしてしまいます。


「ええっ!? わ、悪いよ!」


「それなら私も加わろう!」


 菅野さんに倣うように今度は唯ちゃんまでもが自分の胸を叩きました。


「え、ふぇっ!? ゆ、唯ちゃんは部活あるでしょ!? ダメだよぉ!」


「なに、友達の為だ! 部活の一つや二つ何のそのだ!」


「き、気持ちは嬉しいけど、やっぱりそれはダメだよっ! あんなに一生懸命やってるバスケなのに……!」


「いや、愛奈ちゃんの為なら大丈夫だ!」


「わたしが困るよぉ!」


「う、でもなぁ……」


 押し問答を始めたわたしと唯ちゃんの会話に待ったがかかりました。


「……なら、男の子に頼みましょうよ」


「「男の子?」」


 わたしと唯ちゃん二人の声が重なります。

 でも男の子って……。あ、もしかして。


「宗君よ。彼なら二つ返事で了承してくれる……」


 やっぱりそう言う事ですか! 確かに宗君なら……。

 菅野さんの言葉にわたしの頭にも同じ考えが過りますが、それを遮ったのが。


「だ、ダメだ!!!」


 唯ちゃんの声。


「わっ!? 何よ!?」


「ひゃっ!? ゆ、唯ちゃんどうしたの急に大きな声出して……」


 突然大声を上げ、菅野さんの宗君へお願いをするという案を否定しました。

 突然過ぎる唯ちゃんの様子に二人して面食らってしまいます。


「あ、いや、そのな……?」


 明らかに挙動不審になる唯ちゃん。そんな友人の姿にわたしは首を捻ります。


「……あなた、もしかして……っ!」


 はっとした顔で唯ちゃんを睨む菅野さん。唯ちゃんの様子から何か分かったのでしょうか?

 と言うかなんで睨んでいるんですか!?


「な、なんだい?」


「さては宗君を……!」


「ふぇっ!? だ、ダメだよ唯ちゃん!」


 わたしも菅野さんの言わんとしていることに気付きます。

 例え唯ちゃんでもそれはダメなのです! そもそも藤島君と言う彼氏が居るじゃないですか!


「違うわっ!!! 私はダーリン一筋だ!!!」


「そう、なら良いんだけど」


「変わり身早いよ菅野さん……。でも、それなら唯ちゃんは何で反対するの?」


 まあ、確かにそうですよね。唯ちゃんと藤島君は羨ましいくらいラブラブですもんね。

 では、なんで……?


「それはだな………………正直言うと怒った時の沢良木君が怖い!」


「「へっ?」」


 少々勿体をつけて白状した唯ちゃんに、菅野さんと二人して間抜けな声がでてしまいました。


「あれは一学期……確かテスト前だったな。その……授業中に愛奈ちゃんが松井に妨害されたときの話だ」


 唐突に唯ちゃんは語り始めます。


「そんな事もあったね」


「ああ、公園で斉藤さんに聞いた話よね?」


 そんな事もありました。宗君と一緒に勉強をするきっかけとなり、尚且つ宗君との距離も縮まりましたので結果的には幸せでしたけどね!

 菅野さんにも公園でじっくり話したので、分かっています。ちょっと苦笑いが入っているのはきっと気のせいでしょう!


「うん。でもそれが沢良木君と何か関係あるの?」


「それが大有りなんだよ! その時の沢良木君がどうだったか知ってるかい?」


「沢良木君? え、えっと……この中庭に、その……わたしを探しに来てくれて、それで……わたしの……えへっ」


 唯ちゃんに言われたので、恥ずかしいですが素直に思い出してみます。

 えへへ、直ぐに幸せになれますよ。


「あー! あー! そう言うノロケの話じゃない!」


「の、ノロケ……あぅ」


「その愛奈ちゃんを探しに行く前の段階だな。愛奈ちゃんの様子がおかしいから沢良木君が私達に何か知ってるか聞いてきたんだ。私も丁度その時話を知った頃でね、知ってる事を健太と沢良木君に教えたんだよ」


「あ、うん。確かに沢良木君が唯ちゃん達に聞いてきたって」


「そう、問題はその後だ。事の顛末を聞いた途端に沢良木君が、まあ簡単に言えばキレてね。愛奈ちゃんを陥れたのが松井だって知るや否や、主犯格の松井をとっちめに行くんだって聞かなくてね。それで私と健太で必死に宥めたんだよ。いやぁ、今だから言えるけど、あの時の沢良木君は本当に怖かった!」


 そう言って笑う唯ちゃん。過ぎた事だからか笑う余裕があるみたいですね。

 確かにあの時、唯ちゃんから宗君が怒っていたと聞かされて、自分の為に怒ってくれたんだ、と不謹慎ながらも嬉しくなった事を思い出しました。

 でも、あの時はまだ宗君を好きだって気付いて無かったんだよね……。


「宗君がそんなに……」


 不意に聞こえたそんな呟きに視線を向けると、少しつまらなそうに口を尖らす菅野さんの横顔がありました。

 その表情にチクリと胸に刺さる痛みが走ります。舞い上がっていた気持ちはむしろ沈んでいって。


 前までのわたしならここで優越感の一つでも抱いていたのかも知れませんが、今では到底そんな気持ちにはなれませんでした。

 菅野さんの人となりを知った今では、彼女を傷付けてしまう事にわたし自身も心を締め付けられるのです。


 なんだか、辛いな……。


「でもさ。逆に言えば沢良木君は、凄く優しい人なんだと思うんだ。彼は彼自身が友人と認めた人にはひたすら親身になり、その人の為にあろうとしてくれる。だから愛奈ちゃんを貶す事許さないし、本気で怒ってくれるんだ。愛奈ちゃんもよく分かってるだろ? 例えば、授業中に助けてくれる所、とかな」


「あ……」


 イタズラっぽい笑みを浮かべこちらに視線を投げ掛ける唯ちゃんにわたしも気付きます。


 授業内容の事でわたしが分からず悩んでいる時は、いつも宗君が助けてくれました。


 そもそもの始まり。宗君がわたしにノートの切れ端をくれた事から始まったのです。まだお互いにちゃんと話した事も無く、只の隣席のクラスメイトであった時。

 今思えば、あの時わたしは宗君の優しさの一端に触れたのでしょう。


 ……実を言えば、通学路でぶつかった事が始まりですけどね。その時だって宗君の優しさですもん。


「よく隣で見ている私と健太の意見だよ」


 そう、笑みを浮かべながらわたし達を見る唯ちゃん。


「菅野ちゃんだってそうだ」


「あたし……?」


「ああ。もちろん沢良木君は菅野ちゃんの事だって大事な友人だと思ってる筈だよ」


「そう、かな……」


 どこか自信無さげに視線を落とし、髪を弄る菅野さん。


「まあ、いつも三人を側で見ている私達が言うんだ。間違いないと思うけどな。菅野ちゃんが沢良木君とどういった経緯で知り合ったのか友人になったのか、それは詳しくは分からないけれどさ。今までの沢良木君を間近で見ている菅野ちゃんなら気付いているんじゃないか? 転校当初、菅野ちゃんが沢良木君に助けて貰ったのがきっかけだって言ってただろ?」


「……」


「彼が菅野ちゃんを見る目は優しいもの」


 唯ちゃんの言葉を噛み締めるように瞳を閉じた菅野さんは、思い出した様に。


「……うん」


 可憐な笑みを浮かべました。それは同性のわたしでもドキリとしてしまう様な笑みで。


「……ごめん焚き付けてしまって、でも愛奈ちゃん負けるなよっ」


「が、がんばるっ」


 こっそりとわたしにエールを送ってくれた唯ちゃんに頷くのでした。






「結局宗君には言わない、って事でいいの?」


「あー、まぁ、強制をするわけでは無いんだけどね。言った後の反応が読めないと言うか……教えたら最後、勝手に終わらせて来そうだしな、ははは……」


 そう力無く笑う唯ちゃん。そこまではいささかオーバーな気もするのですが。


「でも、それを抜きにしても、沢良木君に心配をかけるような事は言いたくない気持ちもあるよ」


「うーん……そうかぁ」


「唯ちゃんが言ってた通り、わたしの為に何かしようとしてくれるかもしれないけれど。でもやっぱり沢良木君に迷惑はかけたくないな」


「宗君なら、迷惑でも何でもないぞ? とか言いそうだけどね」


 少し声真似をしているのでしょうか。菅野さんが宗君の言いそうなセリフを口にします。


「沢良木君ならありそうだな?」


「そ、そうだけど……」


「ホントにね……」


 宗君のその姿、言葉を想像して恥ずかしくなってしまいます。菅野さんもそうなんじゃ無いでしょうか。心なしか顔も赤くなっているようです。


 だけど、そんな宗君だからこそ、心配をかけたくないと思うのです。


「でも斉藤さん、本当に大変な時は遠慮無く宗君に頼った方が良いわよ。そう言う時の宗君は凄く頼りになるんだから! 経験談ってヤツね」


「うん、もしもの時はそうするね。わたしも助けられた事が何回かあるから……その、分かるよ……」


 モールでの一件やデートの待ち合わせの時、いつも助けて欲しい時に宗君は駆けつけてくれました。その記憶は薄れる事無く鮮明で、今でも脳裏に描くことができます。


「そっか! ホント、宗君カッコいいよねーっ!!!」


「……うんっ! カッコいいっ!!!」


「宗君が来てくれた瞬間に安心感というかさ、もう大丈夫なんだ、って思えるもん!」


「うん、そうなのっ! それに、自分の為に来てくれたんだって気付くと、もうドキドキが止まらなくて……」


 自分の元へ駆けつけてくれて、そして助けてくれる宗君。思い出すだけで胸が高鳴ります。


「分かるっ! もうそれだけで、あぁ自分はこの人が好きなんだな……って自覚して」


「「ねーっ!」」


 菅野さんの言葉にも真っ直ぐに同意してしまうくらいで。

 思わず二人で盛り上がってしまいます。


 ああ、宗君カッコいいです! ホント大好きです!



「や、やめてくれぇ!!! こっちまで恥ずかしくなるんだがっ!?」


 一人置いてきぼりになった唯ちゃんの悲痛な叫びが中庭に響き渡りました。








「所で大前提なんだけど、この件は先生には伝えたのかい?」


 テンションの上がったわたし達が落ち着いた頃、唯ちゃんがそんな言葉を口にしました。

 予鈴が鳴り、中庭をわたし達はあとにします。


 校舎に入り廊下を歩きながら話を続けます。


「えっと……」


 唯ちゃんに言われて気付きました。そうですね。先生への相談は全くしていませんでした。


 だけど、この一件、学校に伝えた所でどうにかなるのかな? と言う思いもあります。

 高橋先生などはきっと真摯に話を聞いてくれると思いますが、学校の外での騒動に学校が介入してくると言うのが難しい様に思えます。

 向こうの親に伝わって、と言うのも正直後々が怖いです。


「その様子だと言って無いんだね?」


「うん」


 唯ちゃんの問いかけに、わたしは正直に頷きます。


「でも、学校に言った所で、学校が何かしてくれるとか考え辛いのだけれど?」


 菅野さんもわたしと同じ様な考えだったのか、難しそうな顔をしています。


「それはそうかも知れないが……」


「もし、何かしてくれるとしても、それは何か、が起こった後よ。今あたし達が必要としているのは、何か、が起きる前の対策だもの」


「正論過ぎて何にも言えないな」


 菅野さんの言葉に苦笑いを溢す唯ちゃん。でも、唯ちゃんの言うことも最もです。


「でも、ありがとう唯ちゃん。一応高橋先生には言っておく事にするね」


「ああ」



 程無く教室へと辿り着き、第一回目の作戦会議は幕を下ろしました。


 











今回もお読み頂きありがとうございました。

次回も一週間程を予定しております。よろしくお願いいたします。

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