110話 お昼の作戦会議!中編
「でも、結局は松井が斉藤さんを目の敵にする因縁は分からず仕舞いかぁ」
「そうだね。……でも、いろんな人から松井さんの事を聞けて、わたしは良かったかな。前までのわたしじゃこんなこと出来っこなかったもの。結局理由までは分からなかったけれど、松井さんの人となりが少しは分かったかな。松井さんとは今までまともに話したことも無かったし。あ、まだ喋って居なかったね、えへへ」
「あー……何て言うか、前向きね?」
「……そうかな?」
「そうよ。ってか、なんで松井の事さん付けで呼ぶの? あんな酷いこと斉藤さんにしたってのに」
「ん、なんでかな?」
「いや、あたしが聞いてるんだけど……」
「うーん……よく分かんないや!」
「そ、そうなの……」
確かに菅野さんの言う通りかもしれません。松井さんには酷いことをされて、それでもわたしは松井さんを松井さんと呼び続けています。
実際の所、呼び捨てと言うものにわたしが慣れていない事があると思いますが、それ以上に松井さんを呼び捨てにする気が不思議とわたしには湧きません。
何故だろう、と考えても結局は分からないのです。
何ででしょうね?
松井さんを嫌いになれない事も関係しているのかな。
「んー、でもこれからどうしようか?」
「そうだね。何が一番なんだろう」
菅野さんが唸るので、わたしも首を傾げます。
一番良い方法は一体何なのか。
着地地点の見えない対処ほど難しいモノは無い、と痛感するばかりで。
「まだ情報が足りないかー」
「情報、かぁ……」
意気込んで挑んだ作戦会議ではありましたが、結局は良案が出ることはありませんでした。
「おーい、愛奈ちゃんに菅野ちゃん!」
「あ、唯ちゃん?」
「高畠さんね?」
作戦会議も行き詰まり、おしゃべりを始めたわたし達の元へやって来たのは、昼休みにバスケ部の集まりに行っていた唯ちゃんでした。
菅野さんと二人、こちらへ向かって来る唯ちゃんへ手を振ります。
「二人とも今日はここでお昼だったんだね? 廊下から少しだけ見えてね。気になって降りてきたんだ」
やはり、この席では校舎から見えるのですね。見えにくい事に変わりは無いのでしょうけど。
しかし、そう考えるとあのベンチの防御はさいきょーですね。周りの視線を完全遮断です! さいきょーのぼっち仕様です。
宗君と一緒ならぼっちじゃありませんけどね!
むしろ最近はぼっちでいる事が殆どありませんね!
入学式当初のわたしが知ったらきっと驚くことでしょう!
「うん、そうなんだよー。唯ちゃんはバスケ部の集まりは終わり?」
「ああ、思いの外早く終わってね。昼食も早々に食べ終えてしまって、帰っている途中で二人を見つけたわけさ。……ところで、これって何の集まりなんだい? 教室では部の集まりで急いでいたから聞く暇も無かったからさ」
「ん……斉藤さん、どうする?」
唯ちゃんの言葉に菅野さんが伺う視線をわたしに向けました。
この話をしても良いのか、と言う確認でしょうね。
わたしはそんな菅野さんに頷きながら、自ら口を開きます。
「うん、唯ちゃんなら大丈夫。……その、わたしがイジメられていた事も知っているから」
なるべく悲壮感を感じさせないよう、自然な笑顔で。既に過去形になったそれを口にします。
「愛奈ちゃん、それって……」
わたしの言葉に、唯ちゃんは驚いた顔に苦渋に滲ませた表情を見せました。その表情にわたしを心配する様子が見て取れて、不謹慎ながらも嬉しくなってしまうのです。
「……そう」
菅野さんは笑うわたしと、渋い顔の唯ちゃんを見比べるとそれだけ言って頷きました。
「……まさか、また何か?」
「うん。実は、この間松井さんに会ったの。その時にちょっと絡まれちゃって……」
「えぇっ!?」
わたしの言葉に驚いた様子の唯ちゃん。直ぐ様、唯ちゃんはわたしの安否を確認するように近寄って来ます。そのままペタペタとわたしの身体を触りだしました。
「だ、大丈夫なのかい!? ケガとかは!?」
「ひゃっ、ゆ、唯ちゃんくすぐったいよぉ。大丈夫、何ともないよ」
オーバーな反応をする唯ちゃんを安心させるように、わたしは笑いかけます。
その反応を見て、やっぱり心配してくれる事に感謝と、嬉しさが込み上げて。自分が友人に恵まれていることを自覚するのです。
そんな唯ちゃんを見て、菅野さんも唯ちゃんの気持ちを理解したのか、肩の力を抜いているようでした。
「そ、そっか……。私はとんだ早とちりを。恥ずかしいな」
「ううん。心配してくれて本当にありがと」
しかし、会っただけでケガを疑われる松井さんって……。
それもそれで何とも言えない気持ちになりました。
「それで、どういう状況なんだい? あっ、自分で聞いておいてなんだけど、聞いても大丈夫かい……?」
「うん。大丈夫だよ。唯ちゃんが心配してくれているのは分かるし、凄く嬉しいよ。むしろ聞いて欲しいかな。まだ良い案も出なくて……」
「案?」
「ええ。この間斉藤さんが松井と会ったのは聞いての通りなんだけど、斉藤さんが松井達に絡まれている所にあたしが偶然現場に居合わせたのよ。あたしが止めに入ったら直ぐに立ち去ったんだけど、去り際に松井が、こんなもので済むと思うなってね」
唯ちゃんの疑問に言葉を繋いだのは菅野さん。あの日の状況を説明してくれます。
「そんなことが……。最近は学校に来ていなかったからな。まさか外で鉢合わせるとはね」
「まあ、そんな訳で、松井の言葉が捨て台詞と楽観視することも出来るけど、万が一を考えると何かしらの対策が必要じゃないかって話していたのよ」
色々と調べてもそもそも松井が絡んでくる理由も分からなかったんだけどね、と菅野さん言葉を続けると肩を竦めました。
「なるほど。それで、案って訳だ。しかし、残念ながら松井が愛奈ちゃんに難癖付ける理由は私にも分からないな。中学も私は別だったしな。力になれず申し訳ない」
そう言って頭を下げる唯ちゃんに、わたしは慌てて首を振ります。
「ううん! 唯ちゃんが謝る事無いよ!」
「でも…………そうだ。なら、せめて一緒に考えさせて欲しい。友達の一大事だ。私も力になりたい」
「ぇ?」
「ダメかな?」
唯ちゃんはわたしの隣に腰掛けると、真剣な表情でそう言ってくれます。わたしを見つめるその瞳は微塵も嘘を含まない瞳で。
「……」
そんな唯ちゃんにわたしは不意に泣いてしまいそうになりました。泣き虫な自分がなんだか恥ずかしくて、必死に我慢して。
「ぁ、ありがとぉ、唯ちゃぁん!」
涙ぐむ目をごまかす様に、わたしは唯ちゃんの胸に飛び込み抱き締めます。
普段ならこんな事出来ませんけれど、感極まってしまって。こうでもしないと泣いてしまいそうで。
「ま、愛奈ちゃん!? ……ふふ、よしよし」
わたしが突然抱き付いた事に驚いた様子の唯ちゃんでしたが、終いには笑いながら頭を撫でてくれました。
宗君とはまた違う、その手が優しくて更に泣いてしまいそうで。
それに、泣きそうなのは多分バレバレですね。
「ごほんっ。……まあ、一緒に考えてくれる人が多いのは良いことよね! これで三人になったわ。早く解決して平穏な生活を取り戻しましょう。不安を抱えたままの生活なんて辛いもの」
咳払いをする菅野さんはそっぽを向いてそんなことを言います。それもわたしを心配しての言葉だと言うのが分かって、とても嬉しくて。
「菅野さんもありがとぉ……!」
思わずわたしは菅野さんにも抱き付いてしまいます。
「きゃっ、わっ、ち、ちょっと、斉藤さんっ!?」
「ありがとぉー!」
「ちょ、あ、うー………………もぅ」
「はははっ。愛奈ちゃんは甘えん坊だな」
諦めた様な優しげな菅野さんの声と、優しく笑う唯ちゃんの声。
「頑張りましょ」
その言葉と共にポンポンと頭に乗せられた菅野さんの手の感触に、ついには堪えきれず涙が出てしまったけれど。
「……ぅん。えへへ」
泣き虫なわたしでも良いかな、なんて思えたりしました。
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