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第11話 感謝の言葉

引き続き11話目です

昼休みも半ばを過ぎただろうか。

思いの外スムーズな会話をすることができた。

俺は二個のおにぎりを食べ終え、まだ食べ続ける斉藤さんを横目に見ていた。

ふと暫しの沈黙が訪れた。

俺は気になっていた事を斉藤さんが箸を止めたタイミングで聞いてみた。


「……ん、そういえば、今日はなんで俺のこと誘ってくれたの?」


「……え?」


ピシリ、と斉藤さんが完全停止した。

なにか聞いてはいけない事だったのだろうか。


「ぁ、あ、えっと……その……」


明らかに狼狽え始めてしまった。

目線があっち行ったりこっち行ったり。

俺が悪いことしているみたいだ。


「お昼誘ってくれたのは嬉しいけどね。何か話でもあるのかなって」


斉藤さんは何か言おうとして、止めてを繰り返し、自分の中で何か整理しているようだった。 

やがて斉藤さんは決心したのか顔を上げ言葉を口にした。


「……沢良木君にどうしても伝えたい事があって今日はお昼を誘ったんです」


身体をこちらに向けると斉藤さんは俺の目を見つめた。


「……」


斉藤さんの言葉に俺は黙って頷く。

そんな俺の様子に自分の胸に手を当てて斉藤さんは小さく深呼吸をした。


「……急にこんな話迷惑かもしれないですが、少しだけ、わたしの事を話しても良いですか?」


再び不安気な表情を覗かせた斉藤さんに、俺は微笑みながら頷いた。


「……ああ。聞かせて欲しい、斉藤さんのこと」


ありがとう、と小さく呟くと斉藤さんは語りだした。



「……一学期も2ヶ月が過ぎたので、分かっちゃってると思いますが、わたしお友達が居ないんです。高校生になれば少しは変わるかもなんて思ったりしたけれど、別に何も変わらなくて。今までと一緒。友達と呼べる人も出来なくて」


「……」


それは気付いている。

クラスの生徒に興味が無くたって内情くらいはわかる。桜子ちゃんにも言われた通りだ。

思い返しても斉藤さんが誰かと話すところを見たことが無い。

授業中、斉藤さんが当てられた時の雰囲気だってアレだ。


「えへへ、こんな髪の毛だからですかね?いつも、ちょっと避けられたり、して。それで皆の顔色伺ったり、だけどやっぱり溶け込めなくて。……変な噂されたり」


髪の毛を弄り斉藤さんは自嘲気味に笑っていた。


「それに、わたし自身、引っ込み思案で人に声をかけるのが苦手なので……。それで、尚更……」


「そっか……」


「恥ずかしいですけど、わたし頭もあまり良くなくて、いつも授業で当てられるとこの前みたいになっちゃう事もあって。それでいつも笑われたり……」


膝の上で握る拳に視線を落とすと、下唇を噛んだ。

言葉を詰まらせながらも斉藤さんは話続ける。


「ずるっこだったけど、最初のあの日の授業で沢良木君に助けてもらったこと、嬉しかったんです。その後も勉強を教えてくれるって、言ってくれたり」


先ほどとは変わって恥ずかしそうな笑みを浮かべた。


「それに、昨日の授業では、沢良木君が、わ、わたしをか、庇って、くれたのが、ホントに、本当に嬉しかったんですっ」


俯く斉藤さんの頬が赤く色付く。


「だ、だから……だから、えっと」


「だから、沢良木君にお礼したくて、ありがとうって言いたくて……言いたかったの」


その瞳には涙が滲んでいるようだった。


「さ、沢良木、君、ありがとぅ……ぅっ」


やがてその感謝の言葉を述べる彼女の頬を一筋の涙が伝った。

それからは堰を切ったように、涙が次から次へと溢れ出した。


「……」


この子がどれだけ辛い思いをしてきたのか俺には想像出来ない。

性格が違えば境遇だって違う。

ついこの間まで話したことも無い他人にこんな話するだろうか。

授業中少し助けられただけの事で。

なけなしの勇気を振り絞って、声を掛けて。

ありがとう、その一言を伝えるために。


この子が一体何をしたと言うのだろうか。

今日まで少しの付き合いだが、この子が純粋で心優しい子だって事を俺は十分には知った。

そんな子がそこまで追い詰められていたのかと思うとなんだかやるせない気持ちに胸を締め付けられた。


さめざめと泣くさまを見ていたら無性にこの子の頭を撫でてやりたくなった。

その美しい金色の髪が溢れる頭へ手を置くと、少しだけ乱暴に撫でた。

さらさらとした絹糸の様な髪が気持ちいい。

段々と優しく、髪をすくように撫でていく。


「あっ……。ぇ、と……」


戸惑いにこちらを見上げる瞳が揺れる。


「……何となく、な」


「……そう、ですか」


そう言うと斉藤さんは恥ずかしそうに微笑んだ


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