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第108話 変化に戸惑う

「あ、菅野さんおはよー!」


「うん、おはよう! 今日は斉藤さんの方が早かったね?」


「家近くだからねー」


「ふふ、それもそうだねー。あ、そういえば昨日の数学の宿題って終わってる?」


「うん、終わってるよ? 宿題がどうかしたの?」


「一つだけちょっと分からない問題があったの。良かったら教えてくれない?」


「良いよー? ……ん、と。どの問題かな?」


「ありがと! えっとねー……あ、ここなんだけど」


「あー、ここだね。確かに少し難しいよねー。でも、ここをこっちから計算すれば……」


「あ、ホントだ……。ありがとう斉藤さん!」


「……」


 こ、これは一体?

 斉藤さんと真澄がにこやかに会話している……だと?


 俺の目の前では、斉藤さんの机で真澄がノートを広げ顔を突き合わせている、と言うにわかに信じられない光景が繰り広げられていた。

 いや、確かに前の様ないがみ合う姿は見られなくなったのだが、それでもここまで積極的に語らう程では無かった筈だ。況してやこんなにこやかに。


 それが一体何故……。


「ん? あ、おはよー宗君! どうしたの、そんな間抜けな顔して? あ、そんな顔でもカッコいいぞ!」


「お、おう?」


 二人の様子を唖然として見ていると、こちらに気付いた真澄になんとも反応しづらいお言葉を頂戴した。貶しているのか誉めているのか分からんわ。


「さ、沢良木君おはよう! か、か、カッコいいよ!?」


「い、いや、無理に乗らなくても……」


「あぅ……」


 赤面しながら真澄の発言に乗る斉藤さん。恥ずかしいなら言わなくて良いのに、と思いながらもちょっと嬉しい俺は単純なんでしょうか。


 まあ、仲良くしてくれる事に越したことはないからな。無粋な事は言うまい。


 うん、仲が良いのは素晴らしいね、うんうん。


 理由は分からないが、仲良くしてくれる二人に俺は心安らかに授業の準備をするのだった。






 昼休み。

 4時限目が終了し、教室は昼休みに突入したことで喧騒に包まれていた。各々が弁当を取り出すか、若しくは学食へ昼食をとりに席を立つ。

 俺もいつもの様に、斉藤さん達と昼食をとろうと席を動かそうとした。


「あ、宗君! ごめん、今日は一緒にお昼取れないんだ。悪いんだけど、抜けるね?」


「ん? そうなのか。了解。と、それじゃ斉藤さん俺は購買に行くけど……」


「あ、斉藤さんもあたしと一緒だよ。んじゃ、そう言うだからー!」


「ま、待ってよ菅野さん! 沢良木君ごめんね!」


 言うが早いか真澄は教室を出ていってしまった。斉藤さんも真澄の後を追うように教室を出ていった。


 しかし、珍しい事もあるもんだ。確かに今朝から二人で居る所をよく見かけていたが、二人の間に何かあったのだろうか。

 まあ、考えたところで俺にはよく分からないので気にしないことにする。仲が良いのは素晴らしいね。よきかなよきかな。


 俺は気を取り直して、近くに居た藤島へと声を掛けた。


「んじゃ藤島、俺購買に行ってくるけど……」


「あ、悪ぃ。俺達もバスケ部の集まりで昼休み体育館なんだわ。そっちで飯食うから今日はパスな」


「お、おう、そうか。いってら」


「悪いな沢良木君! でも、愛奈ちゃん達二人でどこに行くんだ……? っと、ダーリン待ってくれよー」


 手を振り教室を後にするバスケ部カップルを、ぽつんと一人残された俺は見送った。


「……さーて。購買でおにぎり買うかー。何残ってるかなー?」


 わざとらしく声に出してみる。

 が、当然ながら誰からも返事は返ってこず。


「うむ、鮭や明太子が残っていれば僥倖。ないし梅干しか…………………………」

 

 さ、寂しくなんて無いんだからねっ!? 勘違いしないでよねっ!? ふんっ!!


「……購買いこ」


 俺は一人すごすごと購買へ向かったのであった。


 因みに、購買では高菜おにぎり2個しか残っていなかった。締めて140円なり。なんで今日はこんなに売れるんだよこんちくしょう。

 いや、高菜旨いよ? 旨いけどさ、なんか味気ないと言うか。はぁ。


 教室に戻り、自席に着くとおにぎりを広げた。

 小さく、いただきますと呟きおにぎりにかぶり付く。


「……うん、高菜だな」


 高菜を買ったので、当然具は高菜である。摂理である。因みに俺は無宗教。宗なのに!


「……はぁ」


 クソ下らない独白にため息が出る。


 久しぶり過ぎる一人の昼食に、味気ない高菜おにぎり。侘しい思いが胸を吹き抜ける。

 いや、おにぎり関係無いけど。


「……」


 そこで、ふと思った事が一つあった。


 ずっと一人で居るつもりだった一学期の頃と比べると、今の自分の心境の変化に改めて驚いたな、と。

 最近の騒がしくも楽しい状況がごく自然に俺の生活に溶け込んでいた。


 こんな風に感じる様になるなんて思いもしなかった。とりあえず卒業することだけ、なんて意気がっていた事が笑えてくる。


 ま、悪い事では無いのかね。


 一番最初。

 最初のきっかけ。それを思い出す。


 斉藤さんへノートの切れ端を渡した時を思い出したりして……あ。


 ……いや、その前の日か通学路で斉藤さんにぶつかったんだな。すると最初は通学路か。それまでは一言も喋った事も無くてな。

 学校に只一人の金髪の少女。ひどく目立つ彼女であったが、その外見とは裏腹に本人はひどく消極的で目立たない少女。クラスでも話している姿を見たことは無かった。


 そんな斉藤さんと通学路で偶然ぶつかり、俺たちの関係は始まったのだろう。

 逃げるように立ち去ろうとした彼女が転んでしまって、それで俺が傷口を拭いてやって……って、中々大胆な事やってたのな俺。

 今思うとクソ恥ずかしいわ。


 何故そんなことをしたのかと言えば、妹の面倒を見てた時の癖が自然と出てしまったのだろう、と思う。ウチの妹はよく転ぶ子だったから……。中学生になってもしょっちゅう転ぶってどんなドジっ子だ。危なっかしくて目も離せなかったんだよ。


 まあ、今となっては良い思いでと言うか……ね。


 そう、本来ならこの場に居た筈だったヤツは……。

 

「……あむ」


 おにぎりを一口頬張り、少しセンチになりかけた胸中を斉藤さんとのファーストコンタクトに引き戻す。


 しかし、斉藤さんと初めて接点を持った時の事を思い出すと無性に恥ずかしくなってくる。まあ、斉藤さんの方がよっぽど恥ずかしかっただろうけどさ。


 ……あぁ、そういや通学路の生徒が俺だって気付いて無かったんだっけなぁ。中庭で気が付いた時の慌てようと言ったら……。


 あの可愛らしい赤面天使を思い出し、ニヤケそうになる口元を必死に抑え、胸の内でなんとか消費する。


 ふへへ。あー、今の俺キモいわー。

 周りに気付かれないように気を付けないとな……。


「高菜旨いな……」


 高校に入ってからの出来事を色々と思い出しながら、久しぶりのたった一人の昼休みはのんびりと過ぎていった。






―――――




 1年2組の教室。昼休みの教室は喧騒に包まれている。昼食をとり、談笑する生徒がそこかしこで見受けられる。

 これは、そのうちの一組の女子生徒の会話。


「ねぇねぇ、沢良木君今日は一人なんだね?」


「あ、ホントだ。いつものメンバーとは別なのかな?」


「お昼誘っちゃう?」


「って言っても、もう大分食べちゃったしねぇ」


「それもそっか」


「……あ」


「ん、どうかした?」


「いや、沢良木君おにぎり食べてるんだけどさ」


「うん? ああ、うん。おにぎり食べてるね。それが?」


「なんか少し嬉しそうに食べてるからさ、そんなに美味しいのかなって。……なんだか可愛い、かも?」


「……あー、うん。確かに? 普段はカッコいいのにそのギャップが良い? みたいな」


「うんうんっ、なんだかずっと見ていたくなるような感じだよね」


「そうだね。まあ、私達には遠くから拝むくらいがちょうど良いのかもよ?」


「あー、まあ、ねぇ……。普段から美少女二人に挟まれて付け入る隙なんて有りはしないもんねー」


「周りも何かそんな空気じゃない? ほら、チラチラ見はするけど声は掛けないもの。沢良木君がイメチェンしてきた時は皆はしゃいでたけどさ、蓋を開けてみればその隣は既に二人が取り合ってる、と。しかも話題の元アイドルと、最近可愛いと話題の金髪美少女と来たもんだ。分相応が大事だよ、分相応。外野に回って面白おかしく観戦するのが美味しいと思うよ私は」


「そ、そんなに突然卑屈になくても……あはは」


「まあ、見るだけならタダだからね。たっぷりとイケメンを拝んでおくことにするよ。ありがたやーありがたやー」


「卑屈なのか図太いのかよく分からないよ……」


 一つ苦笑を漏らすと、宗に動きがあったので再び観察に戻る。


「あ、ノートと教科書開いた。予習かな? うんうん、勉強姿も様になるねー」


「ありがたやーありがたやー。拝めば学年一位のご利益があるかも。頭良くなりますように。あとイケメンの彼氏下さいお願いします」


「……頑張れや」



 ―――とある女子生徒達の昼休みの会話より。


 1年2組は今日も平和だった。












久々の投稿です。

いつもお待たせして申し訳ありません。

次回からは週一投稿がんばります。

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