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第105話 共同戦線

昨日は投稿出来ませんでした…

本日もよろしくお願いいたします。







「思いっきり脱線してたわね」


「あぅ、ごめんなさい」


 二人で本来の話題へと戻ります。

 やはり宗君が絡むと平静ではいられませんよね。お互いに。

 そのお陰か、松井さんとのいざこざがあったと言うのに、落ち着きを取り戻す事が出来ました。

 宗君は偉大です。


「まあ、今の話を聞けば宗君の存在が大きかったんだろうって分かるからね。それに斉藤さんが宗君を好きな事も。宗君の話になってしまったのも仕方ないんじゃない?」


「……ぁぅ」


 ニヤニヤと頷く菅野さんに恥ずかしくなり言葉に詰まります。


 テストを頑張るきっかけとなったお話まで菅野さんに話しました。今まで教室ではどんな仕打ちを受けて来たのかを。宗君に出会い、そして彼のお陰で奮起しテストに取り組んだこと。デートだとかは恥ずかしいので伝えていない事もあるけれど、今までのことを。


 ……確かに半分から先は宗君の話ばかりでしたけどね。


 唯ちゃんにも言われた事がありますが、バレバレなんでしょうね、きっと。


 もう、潔く認めますよ。ええ、大好きです!


 でも、肝心の宗君には伝わっているのでしょうか……?


「結果して、さっきの斉藤さんに絡んでいた女性が松井って訳だ」


「うん、中学から一緒なの。その頃から何かとわたしに文句をつけてくるようになって。わたしは引っ込み思案だから全然何も言えなくて。わたしが松井さんに何かしたことは一度も無いんだけど……。でも、さっきみたいに直接的な行動は無かったかな」


 菅野さんが先程トラブルのあった路地へ視線を向けたので、わたしも習い視線を向けます。


「なるほど、ね。理由は分からないけど、あなたを目の敵にするわけだ」


「うん……」


 二人の間にしばしの沈黙が訪れます。


 不意に視線を戻した菅野さんが口を開きました。


「今後の問題だけれど、あの松井って女がどう動くかよね。……捨て台詞のことも考えると、何かしらあってもおかしくは無いかも。こちらもどう行動するか明確にしておかないと。あ、でも、あたしは松井を学校で見たこと無いし、人となりが分からないから何とも言えないわね」


 菅野さんは腕を組むと、うーんと唸り出しました。


「アイツが学校に来なければ問題無いかも知れないけれど、今日みたいに外で遭遇する確率だってあるわけだし、そもそもの解決にはなってないわよね。そう考えると、かえって外の方が危険じゃない。うーん、どうしたら良いのかしら」


「ぁ、あの、菅野さん……?」


「ちょっと待って、今考えてるから。……まず、原因が分からないのが一番の問題よね。それを知るためには……」


「か、菅野さんってば!」


「……何よ? 今考えてたんだけど?」


 呼び掛けるわたしをとても邪魔そうに睨み付けてくる菅野さん。


 え、なんでわたし睨まれてるんですか?

 なんだか凄い理不尽を感じます。


「か、考えてくれるのは凄くありがたいんだけど! ……でも、なんで? なんでわたしなんかの事をそんなに考えてくれるの? わたしは菅野さんと同じ人が好きで……」


「それはさっきも言ったじゃない」


「そ、それはそうだけど、それにしたってこんな面倒な事を……」


「あのね、あたしはああいうヤツが大っ嫌いなの! 集団で寄って集って弱いもの苛めして威張り散らしているヤツが! 一人じゃ何にも出来ない癖に、リーダー気取っていい気になってるのよ?」


「そ、そうなんだ……?」


「それに、あなたさっきから勘違いしているみたいだけど、別に同じ人を好きになったからって、その人を嫌う理由にならないでしょ?」


「ぁ……」


 菅野さんの言う通りですよね。宗君が好きでも菅野さんを嫌う理由はありません。

 確かにもやもやする部分はあると思います。でも、それだけでその人を全否定するのは勿体無いですよね。


 わたしも菅野さんは嫌いじゃないです!

 もっと仲良くなりたいです!


 まあ最初は反発しあっちゃって宗君には迷惑かけたけどね、と恥ずかしそうに笑う菅野さんにわたしも笑い返します。


「それと!」


「は、はいっ」


 ずいっとわたしに近付き顔に指を突き付けてくる菅野さん。

 その迫力に思わずわたしの背筋がぴーんと伸びます。


「十中八九間違いは無いんだろうけど……万が一あなたの非である可能性があるかも知れないじゃない?」


「……っ」


 その言葉に唖然としました。


 今の今までその考えには至りませんでした。


 いつも自分が被害者である、と頑なに信じ込んでいたのです。

 立場が変われば当然、受ける印象や解釈は変わっていきます。そこにわたしの非が無いと何故断言出来るのでしょうか。


 菅野さんの言葉に、自分が如何に閉塞的で穿った見方をしようとしていなかったのかと思い至りました。


「それを知らないとはっきりとは言えないでしょ? まあ、ほぼ松井個人のやっかみだろうけどねー」


 相好を崩すと菅野さんはそう言いました。だけどわたしはそれに首を振って否定します。


「……ううん。菅野さんの言う通りだよ。その可能性をわたしは考えていなかった。一方的に被害者だと思っていたの。でも、確かに殻に閉じ籠ったままで周りを見ようと、知ろうとしなければ分からないよね」


「え? あ、うん……」


 菅野さんが気付かせてくれた事に感謝をしながらわたしは伝えます。

 ふふ、菅野さんはなんだか困惑しているけれど。


「菅野さん、改めてありがとう!」


「ど、どういたしまして?」


 腑に落ちない、と言った表情をしている菅野さんに今一度心の中で感謝するのでした。






「それで菅野さん、一つお願いがあるんだけれど……」


「なに?」


 わたしは菅野さんへ一つのお願いをします。先程は菅野さんが自分で協力すると言ってくれたけれど、本当はわたしから言わなくちゃいけないから。


「もし迷惑じゃなければ、協力して欲しいの。松井さんがわたしを嫌う理由と、どうしたら解決出来るか、を一緒に探して欲しいの……」


「……」


「ダメ、かな?」


 ぽかんとした表情でわたしを見つめる菅野さんに、少し不安になってしまいます。

 わたしの話を聞いて嫌になっていたらどうしよう、心変わりしてしまっていたらどうしよう。そんな不安が胸中を渦巻きます。


「……はぁぁ」


 わたしの思考は菅野さんのわざとらしいため息一つに遮られました。

 そのため息に不安になり彼女を見ますが、その表情は笑っていて。

 そう、ちょっと意地悪な感じに。


「だから最初から言ってるでしょ? さっきみたいな現場を見てしまったら気になって仕方ないもの。ましてやあなたはあたしのライバルなんだから。あなたが嫌と言っても最後まで構ってやるんだから! 覚悟しなさいよね!」


「あ……。菅野さんありがとう! えへへ!」


 変わらずにそう言ってくれる菅野さんが嬉しくて、わたしはもう一度お礼を言います。

 菅野さんはまた困った様に視線をさ迷わせました。その姿にまた笑いがこみ上げてきます。


「ぅぐ……。ああ、もう! ほらスマホ出して!」


「スマホ?」


「RINEよ! RINE! 連絡先交換しましょ? 今後は連絡とれた方が便利でじゃない」


「うん! そうだね! えへへー」


 RINEですって!

 RINE友がまた増えます!

 やったぁ!

 あれ、でもこれは友逹とは違う?

 まあ、細かい事は気にしません!


 早速、わたしと菅野さんはRINEの連絡先を交換しました。

 増えた友達欄に思わずにやけてしまいます。


「えへへ……」


「なんでそんなに嬉しそうかなぁ……。それじゃ、そろそろ帰りましょうか? ずいぶんと暗くなったわ」


「うん、そうだね」


 わたしと菅野さんは揃ってベンチから立ち上がります。

菅野さんの言う通り、夕闇は随分と迫り、空には夜の帳が降りようとしていました。


「そういえば菅野さんの家はこっちなの?」


 さっきは一蹴されてしまいましたが、菅野さんがこの公園を通った理由です。

 お陰で助かりましたが、菅野さんはこの近くなのでしょうか? だとしたらご近所さんです。


「いいえ、一駅隣よ? なんで?」


「あれ、そうなんだ? この公園に居たからこっちなのかなぁって」


「ああ、そういうこと。この公園に来たのはただ単に寄り道よ。この辺りは何も分からないから何となくね」


「そっかぁ。わたしは直ぐそこなんだよー」


「……あとちょっとの所で捕まったのね。ついてないわね」


「あ、あはは……そうだね。ホントに」


 松井さんと遭遇した道はもう通りたくないので、迂回します。

 結局、菅野さんと一緒に表まで向かうことにしたのでした。



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